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告部〜I want to go out with you.〜  作者: 歌うポケモントレーナー
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第五章〜心中〜

告部始動!


会議から2日後の水曜日。部活も終わり、バンドメンバーと話しながら歩いている。優喜はバスケ部なので俺よりも帰る時間は遅い。亘は部活に入ってないのでおそらくすでに帰っている。柿沼は学祭の委員会があるらしく、まだ学校だろう。俺はこれからバンド内勉強会。割と頻繁にやってるので、何回目かは覚えてない。バンドを結成した去年の6月から練習後の恒例で、勉強とゆうより雑談会に近いかもしれない。なので、こんなに緊張する練習後の帰り道は初めてだった。告部としての初ミッションとゆうプレッシャーに加え、柿沼からの圧力も凄かったのである。実は今朝登校してすぐ、柿沼が俺の席にやってきて、漫画の原稿を入れるような茶封筒を渡してきた。それにも驚いたのだが、柿沼の顔が極度の寝不足のような顔をしていて更に驚いた。

そして、「・・頼んだよ。」と一言小さな声で残し自分の席に戻っていった。樋口が自分のことをどう思っているのかが余程気になるらしく、徹夜でプリントを作り上げたのだろう。柿沼は授業が始まるまで席で仮眠を取っていた。真面目故にチャイムと同時に起きて、しっかり授業を受けていたのは流石としか言えなかった。そうゆうわけで、バッグの中の大量の対策プリントと柿沼からの圧力で、心身共に重苦しく感じた。

「田中ぁ〜、難しい顔してるけど大丈夫かぁ〜?田中ぁ〜?」

ドラムの豪が冷やかしてきた。岩永ビブラートの傷跡は想像以上に深い。

「はい、田中大丈夫です!」

6代目に就任した時と同じように返事をしたら、メンバー全員笑っていた。こんな他愛ないやりとりでも笑いあえるのが、とても楽しい。それは多分樋口もそう思っているようで、クラスではあまり見れない笑顔を見せていた。


「俊兄さん!拙者、英語が壊滅的でござる!」

ベースの大悟がふざけている。いつも勉強会をしているお店の中は、学生がほとんどを占めていた。席にコンセントもあり、高校生にも優しい価格なので、テストが近い学生はよくこの店を利用する。

「いや、俺もそんなできるわけじゃないからな?」

ここで柿沼のプリントを出しても良かったが、勿体ぶったほうが豪と大悟は大げさなリアクションをする為まだ出さない。

「殿、そう仰らずに哀れな我らにお恵みを!」

豪も悪ノリをする。もう兄さんなのか殿なのかわからない。

「ふふふ、ならばこの書物をとくと見よ!」

俺も悪ノリをしながら、鞄から大きな茶封筒を取り出した。

「おぉ!それは一体?」

「これは、試験対策の書!」

「おぉ!さすが殿!」

男子三人が悪ノリをする様子を、ツボに入りつつも笑いを堪える樋口が見守るとゆうのがこのメンバーでのお決まり。何故侍口調なのかとゆうと、バンドの名前が「豪大悟天皇陛下」だからである。歴史上の人物、「後醍醐天皇」と掛けていて、豪と大悟が後醍醐で樋口が天皇、俺が陛下を担当している。なのでこのメンバーだと俺は陛下扱いで、一応リーダーも務めている。樋口は天皇なのでいるだけで神とゆう設定にしてある。実際、樋口は幼稚園からピアノを弾き続けているので実力も本物であり、ライブでは樋口のソロパート目当てで来る輩もいる。容姿も黒髪サラサラロングヘアーでお淑やか、顔は化粧水のCMに出てる女優のように整っている。結成当時はバンド内恋愛を心配してたが、一緒に過ごす時間を重ねるにつれて、俺と豪と大悟は樋口を娘のように見守っていた。みんなで話しているときは「娘に悪い虫がつかないように!」なんてふざけているが、4人でいる時間を壊したくないと思っているんじゃないかと俺は思う。バンドとゆう家族の絆を壊すなんて、ありえない。少なくとも俺はそう考えている。

「え?それさ、俊の自作?」

豪の口調が現代に帰ってきた。

「いや、うちの学級委員に直談判してもらったやつ!」

「え?柿沼!?そんな仲良かったっけ?」

「機材買う為に手段選んでられなくてさ。」

と言いつつ、ちらっと樋口を見た。さっきまでの笑顔が、少し暗くなった気がした。やはり、亘の言う通り柿沼への恐怖がまだ残っているらしい。

「へー、でも俊って深澤と仲良くなかったっけ?あいつも勉強できるだろ?」

大悟が聞いてくる。

「頼んだら断られたんだよ。なんか忙しいみたいで。」

「レジェンドノート最新版でも作ってるのか?」

「あ、そういえばB組から可愛い子ランキングノートの依頼来てるとか言ってたかも。」

「マジで!?完成したら絶対読むわ!」

「俺も!」

豪と大悟が盛り上がっている。

「とりあえず柿沼大先生のプリントでも見るか。英語欲しい人!」

俺がそう言うと、俺を含めた全員が手を挙げた。樋口も手を挙げたので、まずは最初にして最大の関門をクリアした。樋口の一番苦手な科目は英語なのは前から知っていた。心を開いているメンバーとの勉強会、苦手科目の対策プリント、この条件でプリントに興味を示さない場合、柿沼の恋はここで終わると亘は言っていた。良かったな柿沼、やっとスタートラインに立てそうだぞ。

さっきの要領で聞いていった結果、全員全教科のプリントが欲しいらしく、プリントをコピーする事にした。1人分だけでも枚数が多いので、くじで当たった2人が近くのコンビニでコピーしに行く事になった。俺は用意していた自作のくじをテーブルの上に出した。結果、豪と大悟がコンビニに行く事になった。ここまでは予定通り。くじに細工はしてなかったが、亘からくじの置く位置を指示されていたのでその通りに置いた。もう亘はメンタリストの域まで達してる気がする。

樋口と2人きりになり、ここから自然に会話するのが本番である。変に緊張してたが俺は口を開いた。

「それにしても、柿沼すごいなあいつ。基礎的な内容から応用問題の解き方まで詳しく書いてるよ。」

「本当にすごいよ。まだ少しだけしか見てないけど、いらないところは省いて本当に必要なところだけまとめてある。授業で先生が言ってたポイントもしっかり書いてるし、マメって柿沼君みたいな人のこと言うんだろうね。」

樋口がやっと口を開いた。いや、実際はところどころ話してたのだが、男子組がうるさくてかき消されていたのである。しかし、それもいつも通りなので樋口も俺たちも気にしない。

「柿沼かぁ、パンケーキ思い出すなぁ。」

「あの時は大変お世話になりました。」

樋口は軽くお辞儀している。

「それなー。いきなり来た時はびっくりした。」

「だって、あの時は本当にびっくりし過ぎて田中君しか頼れそうになかったんだもん。女子じゃ佐藤君の面倒見れるかわからなかったし。」

蛇口に引っ付いて離れなかった佐藤を移動させられるかわからないとゆう意味もあるだろうが、佐藤に苦手意識がある女子も少なくない。多方面に気配りをした樋口の良い采配だったのかもしれない。

「とりあえず何にもなくて良かったよな。ちょうど先生もいない時だったし、佐藤も先生が戻る前には回復してたし。」

「そうだね。」

「多分この話するのも4回目くらいだと思うけど。」

「そういえばそんな気もするね。」

笑いながら樋口は話す。そして、俺は本題に入った。

「あんまり聞いたことなかったけど、柿沼のこと怖かったりする?」

「え?なんで?」

「なんか、柿沼の名前聞いた時に笑顔が消えてたような気がして。」

さて、どんな返事が来るか。

「そんな風に見えてたの!?誤解だよ!」

珍しく樋口が慌てている。

「むしろ、柿沼君にありがとうって言いたいくらいなの。あの時、佐藤君がずぅぅっと隣にいてね。ケーキ作る時も焼けるの待ってる時も。だから、困ってたんだ。」

聞いてはいたが、佐藤の粘着質な部分には呆れるばかりである。

「私、はっきり言えないからどうしたらいいかわからなくて。そしたら柿沼君が出来上がったケーキをパイ投げみたいに口に入れたの。びっくりしたけど、助けてくれた柿沼君に感謝してるんだ。でも、あの時佐藤君が悶えてたのもあったし、柿沼君も気が動転してたみたいだから何にも言えなくて。それ以来会話もできなくなっちゃった。」

予想に反して、樋口の評価が高いので驚いた。柿沼、自分で気づいてなかっただけでお前はとっくにスタートしてたのかもしれないぞ?

「そうなのか、柿沼プリントで嫌な思いさせたかなって思ってたから安心したよ。」

「全然そんなことないよ!調理実習もこのプリントもありがとうって言いたいくらいだし。」

「明日にでも言えば?」

「そ、それは無理かも。」

なんとなく照れてる様に見えなくもない樋口。これを柿沼が見たらあいつ死ぬんじゃないだろうか。

「それに、他にもありがとうって言いたいことあるんだ。」

「え?それって・・」

「ただいまーー!」

ちょうど良いところで豪と大悟が帰ってきた。樋口も話してくれそうになかったので、俺も聞くのをやめた。予想以上の収穫を得たので、初ミッションにしては大成功だったのではないだろうか。


勉強会も終わって、俺だけみんなと帰り道が逆方向なので一人帰り道を歩いていた。バンド結成当初はなんとなく寂しかったが、すっかり慣れた。それに今はLINEで報告しなきゃいけない。勉強会で柿沼のプリントは大活躍で、豪と大悟がプリントのわかりやすさに敬意を示したのか「Yes,we can!Yes,we can!」と騒いでいた。相当な手応えを感じたらしい。樋口もすごく感心していた。そういえば、部活に行く前に亘からLINEの通知を切っておけと言われてその通りにしていたが、あれはなんだったのだろうか。気になったので、告部のグループLINEを見てみるとすぐに意味がわかった。勉強会の真っ最中に柿沼からLINEが来てた。


柿沼 正生

「ねえ?勉強会どう?」

柿沼 正生

「樋口さんなんて言ってる?」

柿沼 正生

「僕はもう諦めめたほうがいいかな?」

柿沼 正生

「ぷりんとのできはだいじょうぶ?」

柿沼 正生

「田中くーん!田中くーん!」

深澤 亘

「うるさい」


こいつはメンヘラか!?亘が止めなかったら永遠にLINE来てたんじゃないか?ところどころ誤字や変換ミスがあるし。優喜はまだ部活なのか、特にコメントが無かった。とりあえず、柿沼がLINEでも面倒臭そうなので、まず亘に個人LINEで報告することにした。


「勉強会終わった。多少柿沼のことは大丈夫になってるみたい。ありがとうって言いたいって言ってた。」


とりあえずこれで送信してみた。すぐに既読が付いて返信が来た。


深澤 亘

「樋口さんの発した言葉と一言一句同じに報告しろと言いましたよね?笑」


こいつも面倒くさいな!とりあえず樋口が多少怖がってた感じがあったことと、塩の乱ともプリントとも違う柿沼との繋がりがあるかもしれない。とLINEで伝えた。


深澤 亘

「ほーほー。とりあえずお疲れ。あとは俺からグループでLINEする。」


OKとだけ送って帰り道を歩いた。5分くらい歩いていると告部グループLINEに亘から連絡が入った。


深澤 亘

「優秀な諜報員の活躍で、依頼人の柿沼様に希望があることがわかりました。とりあえず、しばらくはこの作戦でいきます。俊と浜谷さんは樋口さんと違和感無く、いつも通りに接してください。新しい作戦考えとくから、まとまったらまた連絡します!」


諜報員ってなんだよ。まあ、とりあえず無難に作戦を遂行できたようなので内心ホッとした。亘のLINEから10秒もしないうちに、柿沼のLINEが来た。


柿沼 正生

「やった!やった!やった!やった!」

柿沼 正生

「ありがとう!ありがとう!ありがとう!ありがとう!」


同じ言葉を繰り返し過ぎな気もするが、喜んでるのは伝わった。LINEで初めて知ったが、柿沼の下の名前は正生まさきというらしい。正しく生きる、もしくは正直に生きる、名前の通りの人生を送ってるんだろうなと、知った時に思った。そんなことを思ってるとまたLINEが来た。


柿沼 正生

「僕は次どうすればいい?」

柿沼 正生

「何でもするよ!」

柿沼 正生

「あ、でもやり過ぎるとまた迷惑かけちゃうか。」

柿沼 正生

「だけど、僕だけ何もしないのはやっぱり悪いよね。」

柿沼 正生

「何でもするから、できることがあれば言ってね!」


なぜこいつは一人で会話してるのだろうか。とりあえずやかましいので黙らせることにした。


「うるさい」


とLINEを送ると、


深澤 亘

「黙れ」

優喜

「もうLINE送ってこないで」


と辛辣な言葉が続いた。何度見ても、優喜の一言は余計である。そしてその日、柿沼からLINEが返ってくることはなかった。


第六章に続く

柿沼が好きってコメントをいただきました。彼の名前は、小説書き始める前から決まっていたのですが、LINEグループができるまで下の名前を知らなかったとゆう、親交度の問題を表現する為にここまで伏せてました。


名前の通りに生きる彼の恋の行方、宜しければ最後まで見届けてあげてください



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