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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:カルナード
7/30

1

乙女ゲーム風を意識するより、乙女ゲームを確かめながら書いた方がいい気がしてきた今日この頃。

route:カルナードが始まります。



ある日を境に貪欲に知識を求めて、博識になろうとした君。

判らないことがあったら、すぐに頼るのはいつも君だった。

私が知らないことを呆れた顔をしても丁寧に教えてくれて、私が覚えなきゃいけないことに根気よく付き合ってくれたよね。・・・なのに、植物関係はまったく覚えなかったね。それが不思議だったんだ。

でも、想いを自覚した今なら解る。

隣り合って、互いに教え合う時間が宝物だったんだ。少しでも長く一緒にいたくて、領分をわけていたんだって・・・わかっちゃったんだ。

でも、でもね・・・。


――私が傍にいていいのか、判らなくて凄く怖いよ――








「・・・胃が痛くなってきた」

自宅まであと少し、と言う距離で私は足を止め、胃を押さえるように腹部に触れた。うぅ・・・キリキリする。

赤点を取った一週間後、追試で七十点取らないと一か月、自由時間なし!・・・と母親に言われた時よりも痛い。

あ、冷や汗も出て来た。

「はきそう」

右手で口を覆い、その場にしゃがみこむ。

そしたら眩暈がして、頭まで痛くなってきた。・・・精神的にまいってるのかな。いや、まいるようなことは何もない、はず。うん、ないない。

不安で体調不良になるって、どれだけ繊細なんだって話だよね。

こんな所、カルナードに見られたらどうしよう。

心配して、変に過保護になるんじゃないかな。家族偏愛Maxだったし。あ、余計に胃が痛くなってきた。捻じれるように痛いんだけど、穴、開かないよね?

うぅぅ、だ、誰か胃薬頂戴。

「姉さん?」幻聴まで聞こえるとか、私もう駄目かもしれない。

「どうしたんですか、姉さん!真っ青な顔をして、具合でも悪いんですか?!」

っふ・・・幻聴が、よかったなぁ。

現実を認めたくなかったのに何故、肩を掴んで顔を無理矢理に上げさせるのかな。カルナード。勢い良すぎて首、変な音がしたんだけど。

首が痛いよ。

「そんなに汗をかいて・・・体調が悪いならどうして私に言わないんですか!!」

怒られた。

「傍にいないのに、言うも何もないと思うんだけど」

「いつからですか」

「あれ、スルー?」

「いつから体調が悪くなったんですか、姉さん」

「・・・・・・・・・・・・ほんの、数分前」

嘘はついてない、嘘は。

そっと視線をカルナードからそらし、空を見上げる。

わぁお、今日は満月だ。

雲一つないからお月見にぴったりな日だなぁ。きっと、恋人達はロマンティックな夜を・・・・・・・・・今、なんだか小さい頃にカルナードとお月見をした記憶が蘇って・・・しかも、私がカルナードのほ、ほほほほほっぺにちゅーしてた光景が現れたんだけどっ!!

お、落ち着こう私、深呼吸で落ち着こう。

あれはそう、小さい頃だから深い意味はない。どう言う状況でそんなことをしたのか、まったく思い出せないけど、深い意味はないはずだから問題はな・・・・・・あ。

「姉さん、顔が赤いですよ?まさか、熱があるんじゃ・・・」

「健康!いたって健康優良児だから大丈夫!!」

カルナードがその日の昼に私の知らない子に頬にキスされたと話して、なんだか胸がモヤモヤして思わずしちゃったんだ。で、その後に「消毒だよ」と言った覚えがあります。

ああ、なんて破廉恥な!

恥ずかしい、恥ずかしいよ過去の私!

過去に戻れるなら正座をさせて説教したい気分だよ!もう、恥ずかしいっ。

しかもそれ、嫉妬だし!

私、その頃にはすでに恋心の片鱗があったんじゃ・・・それに今まで気づかないようにしていたなんて、我ながら呆れてしまう。

これじゃあ、愛想をつかされても文句は言えないよ。

「・・・・・・・・・?カルナード、何、してるの?」

「見て判りませんか?」

「背中向けてるね。そこに何かある・・・訳ないね。ごめん」

「いえ、こちらこそすいません。姉さんには言わないと理解して貰えないほどに馬鹿だと言うことを忘れていました。背中に乗ってください、家まで背負います」

「ば、馬鹿・・・」

「なにか不満でも?」

「いえ、何も」

笑顔が怖いんだってば。

素知らぬ顔で横を向きながら、普段通りを意識して声を出す。

恥ずかしくて変な声が出そうな訳じゃないからね!って、誰に言い訳してるんだろう。

「背負わなくても大丈夫。私、一人で歩けるから」

あ、ちょっと緊張した声だ。

「だから気にしなくていいよ。気持ちだけで十分」

「姉さん」

あれ・・・声が随分と硬くて、なんか、怖い。

そっと、視線をカルナードに向けて――後悔した。

「ここで大人しく背負われるか、強引に横抱きにされるか――どちらがいいですか」

「背中に乗ったよ、これでいい?」

暗い炎を宿した瞳に見下ろされた上に、圧のある笑顔の脅しを仮にも惚れた相手に向けるモノじゃないよ。

怖くて屈しちゃったよ、馬鹿!・・・うう、良い匂いがする。香水かな?

カルナードは素直に背中に抱き着いた私にちょっと不満そうだけど、背負いやすいように直して歩き出した。うう・・・恥ずかしい。恥ずかしすぎて誰にも見られたくない。

ああ、このまま誰とも遭遇しませんように!

ふと、カルナードが思い出すように空を見上げた。ん?何かある?

「今日のことですが」

今日、と言われて判り易いほどに身体がはねてしまった。

そして心臓もはねた。うう、動悸が激しくて眩暈がする。

「何度考えても、私の気持ちは変わりません」

はっきりとした言葉に、心臓が痛いほど激しくなって苦しい。

心音、聞こえてたらどうしよう。落ち着け、私の鼓動よ!・・・って、意思で止まるなら苦労はしないよ。こうなったらもう、物理的に止めるしか・・・っ。

「私は姉さん、貴女が好きだと言う気持ちに嘘偽りはありません」

空を見ていたカルナードの視線が、私に向いたその瞬間、優しいのに、熱情が宿る眼差しに息を忘れかけた。と言うか、止まった。

今まで見たことのない色に、ただでさえ激しい鼓動がより一層酷くなって苦しくなる。ああもう、呼吸困難と心臓発作で死んじゃうよ!

思い出したように息を吸い込んで、気持ちを落ち着かせるように吐き出す。

ついでにぎゅっと眼を瞑った。

カルナードが苦笑した声がする。

「私が六歳の時にあった事件、覚えてますか?」

「え?あ、うん・・・覚えてるよ。おばあちゃんと一緒に買い物に行って、二人で逸れて路地裏に迷い込んじゃった時でしょ。忘れるはずがないよ」

「あの時、人攫いが現れて私達を攫おうとしたじゃないですか。私は怯えて、ただ泣くだけだったのに、姉さんは自分だって怖いのに私を護ろうとしてくれました」

護ろうとした、と言うか・・・足がもつれて前に出ただけなんだよね。

両腕を広げてたのは態勢を整えるためであって、けっして、護ろうと思った訳ではなく。・・・なんて、今更言えないので黙っておこう。

「花の乙女の力を使ってまで私を、片親しか血の繋がりのない私を助けてくれたことに正直言って、驚いたんです。私は姉さんから嫌われていると思ってたので」

初耳すぎて、瞠目しちゃった。

あれは物事の判断が十分に出来ない五歳児に、「お前の母はお前を生んですぐに死んだ。今の妻はお前と血の繋がりがない、けれどお前の母だ」なんて言われて受け止められるとでも?普通に考えて無理だから。

だからまぁ、その・・・うん。

知識のない五歳児でも、母親が違うってことだけは理解できたからどう接すればいいのか判らなくて、結果、距離をとって遠くから眺める日々を送っていた訳で・・・。

ううん、正直に言おう。

私が異物のような気がして、近づいたらいけないと思っちゃったんだ。今思うとあれ、疎外感だね。

もっとも抱いた疎外感は、二か月で消えちゃったけど。血が繋がっていなくとも、私を実の子のように可愛がってくれる母親のおかげで。

あと、ついでに言えばあの時、花の乙女の力を使っても制御が未熟で、三分も持たなかったんだから助けたことにはならないよ。捕まって袋に詰められそうになったの忘れた?

結局、助けてくれたのは近くを通りかかった・・・今思うとあれ、ルキの旦那さんだったかもしれない。

今度、それとなーく確かめてみよう。

「あの時、思ったんです。私が姉さんを・・・フィリアを護りたい――と」

今、私のこと名前で呼んだ・・・?

え?なんで?

な、なんでいきなり名前呼び?!顔が熱くなっちゃうっ。

「そ・・・それで私に恋をしたと?」

「恋、と言うにはまだ未熟で、弟として姉を護れる存在になりたいと、そう思ったんです」

「・・・ちなみに聞くけど、未熟な恋は錯覚だったって落ちはない?」

「ありません。今では立派な愛です」

あ、そうですか。

「でも私はアルトさんのように武術に秀でていないし、リズさんのように魔法に優れている訳でもない。だから知識を、頭脳を武器にしようと思ったんです。優れた知恵は時に凶器になりますから」

まぁ・・・うん、そうだね。

敵と判断した者を容赦なく排除しているらしいカルナードの話は、ギネアからよく聞いてたから知ってるけど。・・・笑顔で言うことじゃないと思うんだよね。

凄いとは思うけど。

でも、あんまり敵を作るのはどうかと思うよ?

そのうち刺されたり・・・・・・・・・は、ないな。そんな隙を見せるなんてしないだろうし。心配するだけ無駄かもしれない。

息をついて、口を開――こうとしたら眼の前に現れた。


▽「カルナードは、不安に思わないの」 ↑

 「私は姉弟でいたい」 ×


はい、ここで選択肢!

なんだろう、この奇妙な安心感。下手なことを言って恐怖体験をする必要がないからかな?とりあえず×は除外。

想いを自覚した今、ただの姉弟でいるなんて・・・いる、なんて。

あ、駄目だ。

恥ずかしくて身体が沸騰して蒸発しそう。

心頭滅却すれば火もまた涼し!な精神で落ち着かせよう。・・・・・・心臓がまだ痛いよ。

「カルナードは、不安に思わないの?」

私が傍に、隣に立ちたいと思っていいのか、怖くて仕方がないんだ。

きっと、ううん。

絶対に私よりも相応しい相手がカルナードにはいる。そう思ってしまうけど、譲りたくなくて、でも怖くて不安で・・・ああ、なんて我儘な心なんだろう。

眼を伏せて、小さく息を吐きだした。

私の臆病者。


その他:一途純粋 Max、不安支配欲 Max、家族偏愛 Max


・・・ん?

その他全てが、Maxした?

ん˝ん˝ん˝?

え、ちょ、ちょっとまって!

不安支配欲って、なに?なんなのそれ!?知らない言葉で諸々の感情が吹っ飛んだんですけど!!え・・・本当に何?こわ。

怖すぎなんですけど。

・・・・・・カルナード、君、変な性癖とかないよね?

「私だって不安ですよ、姉さん」

「え?」

「姉さんが私を愛してくれるか、私を男として見てくれるか不安で、意識を私に向けるために、視線を私だけが支配できるように・・・その、姉さんが言うような雑な扱いもしました。けど!・・・姉さんが」

あ、そう言う意味の不安支配欲なんだ・・・。

よかった、変な性癖とかじゃなくて。

「フィリアが好きなことは本当です!」

「声が大きいよ!」

羞恥で殺す気だとしか思えない。

誰もいなくてよかったけど、よかったけどさぁ!

もうやだ、穴に埋まってしまいたい。顔を両手で覆い、小さく唸った。

絶対私、耳どころか首まで真っ赤だよ。

全身真っ赤だって、断言してあげるよ!もう!もう!もうっ!

「すいません。けど、そうですね。姉さんにああ言う態度で接したのは理由があるんです」

「理由?」嫌な予感しかしない。

「あの態度なら、恋情や愛慕を上手く隠して普通の姉弟のように接せたんです。アルトさんやリズさんのこともおおよその見当は尽きますが、私も含めて三人、あのように接すれば牽制も出来るし抜け駆けをすることもない。と思ったんでしょう」

「へ、へぇ、そうなんだ・・・」

「ですが、あの日にそんな態度をとっていたことを後悔したんです」

あの日・・・って、あの日かな?

「フィリアが階段から落ちたと聞いて、もう二度と私を見てくれないんじゃないか。私に話しかけてくれないんじゃないかと不安になって、それで・・・素直に接したんですが、嫌でしたか」

「あれは正直、気味が悪かったよ」

「気味・・・・・・」

落ち込まれた。

でも嘘は言ってない。

「戸惑ったし、罰ゲームなんじゃないかって本気で思ってた」

「罰、ゲーム・・・」

声から覇気がなくなった。

でも事実だしなぁ。

「でも時々扱いが前みたいに雑な時もあるから、よく判らなくて混乱したし。好きとか惚れてるとか言い出すし、なんの嫌がらせだ!って」

「・・・それは、すいませんでした」

「止めとばかりにラインハルト様に騙されて好きな人が誰か気づかされたし」

「・・・へ?」

なんて間抜けな顔。

それでもイケメンなんだから羨ましいわぁ。

「好きな人が誰か、気づかされた・・・?」

「あ」失言した!

「だ、誰ですかその人は?!アルトさん?リズさん?まさかヴェルナンドさん?それともあの変人ですか?!」

素早く私を背中から下ろし、両肩を掴んで揺さぶってくるカルナードの顔が必死すぎて瞬いた。必死を通り越して顔色が悪いよ。

死人もびっくりな顔色だよ、大丈夫?

おかげで冷静になれたけど、心配になるぐらいの顔色だよ?

「全員違うと言うなら・・・」

かと思えば、揺さぶるのを止めたのに手を肩に置いたまま真っ赤になって・・・なんだか可愛いな、とか思っちゃった。

もう私、重症だね。

うん、手遅れだ。

「姉さん、私は・・・期待してもいいんですか?」

さっきから呼び方が統一しないなぁ。

動揺、してるの?そう思ったら口元がにやけそうになった。

駄目ダメ、にやけちゃ駄目だって!

への字、口をへの字にしないと!でもでも口元が緩んじゃうっ。

だってだって!あのカルナードが動揺したり、焦ったり、赤くなったりなんて珍しすぎて、しかもそれが私がさせていると思うと・・・こう、言い知れないほどに嬉しい気持ちになっちゃう。口は両手で、喜色を浮かべる顔は俯いて隠す。

恋は盲目っていうけど、本当にそれだなぁ。

ああ・・・私、本当にカルナードのこと――。

「姉さんが好きな人は私だと、そう、自惚れてもいいんですか?」

不安に怯える眼に宿るのは、矛盾した期待の色。その眼差しは一時も私からそらされず、瞬きするのすら惜しいとばかりに注視する。その視線に囚われ、眼が離せない。

声音は震え、弱気に聞こえてカルナードらしくない。それが無性に庇護欲をかきたて、今すぐに甘えさせたいと思ってしまう。

ずるい、本当にずるい。

「そうだよ」

「え」

「――って言ったら、どうするの」

赤くなった顔を伏せたまま尋ねたけど、答えは一向に返ってこない。

あれ・・・?も、もしかして言い方がまずかったのかな。不安になって顔を上げれば、藍銅鉱の双眸からきらきらと輝くモノが流れて・・・い、て。

「な、なんで泣いてるの?!」

やっぱり私の台詞が悪かったのかな!?

でも泣くほどのことだっけ?!

動転しながら両手でカルナードの涙を必死に拭うけどまったく止まらず、逆に手を握られて抱きしめられた。え?え?

瞠目した。

いきなり抱きしめられたことに、ではなくて、カルナードの身体が震えていることに驚いてしまって。

わ、私のせいなのかな・・・?

幼い頃によくしていたように背中を優しく撫で、大丈夫だと言うように抱きしめ返す。そうすれば震えは治まり、肩口を濡らす涙も止まったみたい。っほ。

「あの・・・ごめんね、カルナード」

「・・・どうして謝るんですか」

「泣いてるから、私が泣かせたのかなって」

「そうですね。フィリアのせいで泣いてます」

やっぱり私のせいなんだ・・・。

「でもこれは嬉し泣きです」

するりと頬を撫でられ、顎を掴んで上を向かされた。

ん?

「ねぇ、フィリア。私は自惚れていいんですよね」

額と額が重なり、顎を掴む手と逆の手が頭の後ろに回った。

んん?

「無言は肯定ととりますよ、フィリア」

「ねぇ、なんで顔を近・・・っ?!」

視界一杯にカルナードが映って、僅かな隙間から夜空が見えた。

突然の出来事に頭がついていかず、無防備に開いた唇を柔らかい何かがこじ開ける。え、まってまってまって!何するつもり?!

「――――――駄目ですね、どうしても理性が負けてしまいそうです」

カルナードの舌が私の唇を舐め、こつりと額を合わせた。

「・・・な、な」

「でも安心してください。フィリアに許可なく襲うことはしませんから」

「キスは襲ったことにならないの!?」

「キスは挨拶ですよ」

え、そう・・・なの?

「って、真面目な顔したら流されると思う?馬鹿にしないでよね!」

「馬鹿になんてしてませんし、大丈夫ですよ」

カルナードが綺麗に微笑み、両手が頬を撫で、私の双眸をのぞき込む。

ぞくっと背筋に寒気が・・・。

「慣れるまでやりますから」

「大丈夫じゃな・・・って、ちょ?!」

軽いリップ音をたて、離れる唇を護るように掌で隠した。

寒気の正体はこれか!

「ほ、本気で言ってるの?」

「本気で言ってます。何か問題でもありますか?」

「問題って・・・あるでしょ、色々と」

「いろいろ・・・?」

本気で解らないのか、演技なのか、判断に困るがカルナードが首を傾げた。

「私とフィリアは両想いなのに、何か問題でもありますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない、です」

両想いとか、真顔で言わないで。

恥ずかしい。

顔に熱が集まって、もう、本当・・・脳みそが溶けちゃいそう。心臓がバクバクしすぎて痛いよ。心臓破裂しない・・・よね?

「大丈夫ですよ、フィリア」

「・・・うぅぅ、ね、姉さん呼びはやめたの?」

「姉ではなく、一人の女性として・・・好きな人の名前は呼びたいんです。けど、動転したりすると癖で姉さん呼びしてしまうんですよね。直さないと」

ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、耳元で言わないでぇ・・・。

恥ずかしくて、恥ずかしくて、八つ当たり気味にカルナードの肩に頭を摺り寄せた。うぅぅ・・・こんなの私じゃないぃぃぃぃいぃぃいいぃぃ。

やばい、泣きそう。

というか、泣く。

「フィリア」甘く、名前を呼ばないで。「愛してます」

「私を選んでくれて、ありがとう」

思考が溶けてしまいそうで、怖くて唇をかみしめた。血の味がして気持ち悪い。

もう、もう、もう!

私の心臓が持たないからやめて!恋愛経験皆無なんだから、手加減してよ!・・・うう、カルナードだって恋愛経験ないはずなのに、どうしてそうも余裕な態度を――――。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・恋愛経験、ないはずなのに余裕っておかしくない?

実は、私が知らないだけで誰かと付き合って、そこそこの経験値を得てたり・・・・・・あれ、さっきと違う意味で胸が痛いしムカムカする。

「言っておきますが、私はフィリア一筋ですよ」

「な、なんのことかな・・・?」

「判り易いくらい、顔に出てますよ」

うう・・・頭を軽くチョップしないでほしい。

でも、そっか。

ふへへ・・・そっかぁ、私一筋かー。

あーそうだよね、その他に一途純粋なんて文字があったぐらいだし、疑うなんて失礼だよね。ふへへ・・・。駄目だ、顔がだらしなくにやけちゃう。

う~~~本当、こんなの私じゃないよ。

もみもみと両手で頬を揉み、緩む表情筋に喝をいれる。

「嫉妬してくれるのは嬉しいですが、私の気持ちを疑うのは止めてくださいね」

「嫉妬じゃないからね!」

「はいはい、そう言うことにしておきます」

ぐ・・・ぬぅ。

穏やかな表情で笑うカルナードに悔しい思いを抱き、けれど、何か言葉が出る訳もなく、心の中で唸るだけ。・・・私の方が一歳年上なのに。

「フィリアはよそ見せず、私だけを愛してくださいね。私も当然、フィリアだけを愛してますから」

下を向いていた顔を強引に上げられ、優しい口調と真逆の情欲が混じった双眸に身体が委縮した。脳裏に「男は狼だから気をつけなさいよ!」と言うルキが現れたけど、いやいやいやいや!何に、何から、気をつければいいの?そこを詳しくっ!

脳内に現れたルキに言っても仕方がないし、あの時、詳しく聞かないで鼻で笑った過去の自分を殴りたい。

貞操の危機をヒシヒシと感じます!

落ち着こう、落ち着くんだカルナード!理性を取り戻してっ!!!

「フィリアを階段から突き落とした犯人には制裁を加えましたし、害を与えそうな存在にはきつく釘をさしているので、フィリアは何も怖がることはありませんよ。だから、安心して私に愛されてください」

セカンドキスは無事に好きな相手(カルナード)に奪われました。

・・・両親になんて報告しよう。

あと、アルトとリズに。

気恥ずかしさと照れ、多少の憂鬱さを抱きながら私は身体をカルナードに委ねた。――とは言っても、キス以上は許しません。

私はまだ、清いままでいたいからね!

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・覚悟が出来るまで、待っててくれると嬉しいな。


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