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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
選択肢の恐怖
6/30

√に心がざわつく

短いです。

この話の後、ルート分岐します。まるで乙女ゲームのように!・・・頑張って書きます。


放課後を告げる学園の鐘が、遠くから聞こえる。

学園の裏手にある森に、隠れるようにひっそりと存在する学園長の秘密の花園。・・・なんか変な感じに聞こえるけど、別に他意はない。本当に秘密の花園だから、問題ない。

歴代の学園長がコツコツと土を整え、植物を植え、育てて造り出した王城の庭園にも負けず劣らず――は、言い過ぎだけどそこらへんにある植物園や貴族の庭園に見劣りしない美しさを持つこの場所を、今代の学園長がこっそりと私に教えてくれた憩いの場でもある。

『花の乙女様には、特別ですよ』

皺だらけの顔が子供のように無邪気な笑顔となり、茶目っ気たっぷりにそう告げた御年七九歳の学園長があの時、私にはとても可愛い男性に見えた。

若い頃はさぞかしモテただろうな。

たまにこの場所に訪れる学園長夫人に若かりし頃を聞けば、妙に迫力のある笑顔を向けられて・・・・・・・・・真相を知ることは出来ませんでした。

で、そんな場所に私はる訳だけど、そのいる理由は――――逃避ですよ、逃避。

眼の前に消えることなく、かと言って選ぶまで時間が止まると言う今までの経験とは違って現れた選択肢に、混乱の末に逃走を選んだ結果ですよ。・・・逃げても意味なかったけど。

木製のベンチにだらしなく座り、空を見つめていた眼をそっと閉じる。・・・あほー、あほー、と鳴く鴉にしょっぱい気持ちになってしまった。


▽√カルナード

 √アルト

 √リズウェルト

 √??


ついでにこの選択肢のせいで、しょっぱい水が眼から出てきそう。意地でも泣くもんか。

しかし・・・√ってどういう意味なのかな?

数字・・・じゃないから、道筋とか経路の意味な√なのかな?――とすれば、選ぶ人によって道筋が違う。ってことだよね。・・・胃が痛い。

√??の??が正体不明の好感度の主だとして・・・私、この中から誰か一人を選ばないといけないの?

絶対?

冗談抜きで?

「・・・つらい」

誰を選ぶか悩むことではなく、選ばなければならないことが辛い。

「そもそも私、この中で好きな人っているのかな?」

幼馴染と弟に抱く感情は確かに愛だけど、異性に対する愛ではない。と思う。

たぶん。

なら√??には・・・・・・誰だとしても、三人同様に異性愛ではない。と思う。

たぶん。

「いや、たぶんじゃ意味ないんだって」

でもはっきりと断言できないから、曖昧な「たぶん」でしか答えがでない。

誰であっても私は、「たぶん」としか答えられない。確信なんてないから。

「でも選ばないと・・・駄目、なんだよね」

この選択肢、選ぶまで消えないのかな。

・・・消えないよねぇ。

どーしよう。本気で困った。

「・・・私が選ばなかった二人、いや、三人か。三人ってどうなるんだろう」

ふとした疑問。

一人選んだとして、残りの人達はどうなる?

やっぱり普通に私ではない、誰か別の人と付き合って、結婚して、子供が・・・・・・・・・なんか、モヤッとした。

うん?

う゛う゛ん゛?

なんでモヤ?

モヤっとする意味ないよね?祝福する気持ちになるはずだよね。あれ?

「なんで?」

胸に手を当ててみても、モヤモヤは薄れるどころか蟠ってしこりを残す。あっれ~?

あの三人は私じゃなくて、別の女性と結ばれた方が絶対に幸せだと思う。思うのに・・・・・・こ、これはアレだね!大切なモノが誰かに取られた時に似た感情だよ、絶対。そうに決まってる。

だから平気!

三人の隣に私以外の女性がいても問題ない!

私、子供じゃないからね!嫌だなぁとか、寂しいなぁとか、そんなことは思ったりしない!

「でもなんかやだ!」

ずっと傍にいたのに、知らない女に取られるのがすっごく嫌!

せめて見知った相手なら・・・そう、ギネアとかなら許せるけど、知らない相手は絶対に嫌!

「・・・ん?」

あれ?

これって・・・あれ?

もしかして、アレかな。

自覚してなかっただけで、私、三人に好意を持っていた?――――いやいやいやいやいやそんな馬鹿な!

だって私、好感度って文字が見えた時に・・・あれ、どんな反応したっけ?

あれ、どう思ったっけ?!

ちょ、ちょっと過去を振り返ってみようかなっ!よし、そうと決まれた頭の中で回想を――――■があがることに、恐怖()してた。

ん?

あ・・・あれ?

私、■があがることになんで!?って気持ちになって、好感度そのものはあんまり気にしてない?ああうん、気にした覚えがないや。まったくない。気持ちいくらいにない。

あれぇ?

これってどう言う・・・いや、どう言うってアレだ!そう、アレに決まってる。

好感度イコール好意と受け取ったんだね、きっと!

だってほら!人間だれしも行為を寄せられて嫌がる人はいないし、そりゃ、嫌いな相手からなら別だけどそこは長い付き合い。幼馴染の私達には関係ないよね!正体不明の好感度の主が誰か判らないけどたぶん、きっと、おそらく、私が好意的な人だと思うし!

だからえっと、その・・・つまりは、ううんっと。

「頭を抱えて考え事か、花の乙女サマ」

「!?ら、ラインハルト様っ?」

何故ここに王弟が?!

一瞬で思考が真っ白になり、突然空から現れた王弟に視線ごと意識が集中する。え、本当になんで?

・・・仕事をさぼって来たとか?

「本来、俺がしている仕事は全部、容量と効率の悪い王様(馬鹿)がやる仕事なんだよ。俺がやる仕事は第三師団関係だけだってのに・・・・・・暗殺されろ」

物騒・・・!

いや、私、喋ってないよね?なんで疑問に答えてるんだろう?王弟だから?

「そんな訳あるか」

「!こ、心でも読めるんですかっ!?

「そんな訳あるか」

最初は呆れたように、次は馬鹿にしたように言われた。

「普通に口に出してたんだが、気づいてないのか」

「え゛」

「小声で耳が良くなきゃ聞こえないだろうが、聞かれたくない内容ならしっかり口を閉ざしておけ」

両手で口を押え、無言で何度も頭を縦に動かした。

し、知らなかった事実に心臓が口から飛び出て爆発しそうな気分だよ。うわぁ、恥ずかしい。真っ赤な顔を隠すように俯いた。

「それでこんな所で何を――――ああ、告白でもされるのか。愚息に」

「は・・・はぁ?!」

確かにここは告白するにはうってつけの場所だけど、場所だけどもぉ!!

「そんなことは絶対にありえない!」思わず顔を上げ、力一杯に叫んでしまった。

「・・・はぁ」

な、なんで可哀そうなモノを見る眼で見られてるんだろう。

私、別に間違ったことは言ってないし。・・・言ってないよね?

「アイツらも可哀そうに。ガキの頃から惚れてた相手に力一杯否定されるなんてなぁ」

「う・・・や、でも。わ、私の扱い雑でしたからそんな」

「雑でも酷くはなかっただろう」

確かに、そうだけども。

納得がいかない私は、でも、何も言えなくて王弟を黙って見上げた。・・・溜息つかれた。

「好意はあるんだろう、あの三人に」

「っ!?」

「判りやすいな、本当」

「そ、そんにゃご・・・っ」

噛んだ、舌痛い。

口を両手で覆い、プルプルと痛みに震える私を王弟が憐れんだ眼で見つめる。やめて、そんな眼で見ないで。

なんか・・・・・・惨めな気持ちになる。

「好意がなきゃ、長い付き合いなんて無理だろう。腐れ縁なんて、腐る前に俺なら切る」

そう言う、もの・・・なのかな?

「そもそも、好意がなきゃ花の乙女サマ、幼馴染だとか弟だからとか、そう言う理由がなくても傍にいさせないだろう」

え゛?

そんなことは――。

「顔の良い男、苦手だろ。花の乙女サマ」

――ありますね、はい。

「鑑賞する分にはよくても、傍にいられるのは嫌。だから俺やラズとかが傍にいると逃げたくなるだろう。今だってほら、距離とってるしな」

まったくもってその通り。

知らない間に私、王弟から離れてたよ。僅かな距離とは言え、無意識でしていた行動に吃驚。

しかし・・・美形すぎて眼が潰れる!とか、美形は遠くから鑑賞!とか、そう言う意識が心のどこかにあったことは認めよう。でも私、それを表に出さないよう努めてたんだけどな。

どうして判ったんだろう。

王弟だから?

いやいやいやいやいやいや、そんないくら王弟でも・・・ねぇ。

「それをふまえてもう一度聞くぞ。好きの意味合いはともかく、アイツらに好意はあるんだろう」

す、好きの意味合い・・・?

家族に対する愛とか、異性に対する愛とか、そう言う違いかな?わかんない。

「あるんだろう」

考える時間すら与えてくれない!

「あ・る・ん・だ・ろ?」

「そうだと思います!」

「うるせぇ、もっと小さい声で喋ろ」

「す、すいません」

睨まれた。

思いっきり睨まれた。心臓が委縮するような睨みにうわ、身体が震えてるよ。

「んじゃ」あれ、どうして隣に座るんですか?

「眼ぇ閉じろ」

殴られるの、私?

「殴って欲しいのか?」

「ほ、欲しくないです・・・」

だから拳を眼の前にかざさないで。ひぃ、怖い!

怯える私の視界に「っく」と笑いを堪える声が聞こえて・・・・・・もしかしなくても、遊ばれた?弄られた?そんな、酷い!

私は弄られるような、そんなキャラじゃない!――と、憤慨したいが怖いので睨むだけにしておく。

「おお、怖い怖い。そんな眼で睨むなよ」

絶対に嘘だ。

だって顔、笑ってるし。

「いいから、ちょっと眼ぇ閉じてみろ。何もしねぇから」

本当だろうか・・・。

疑いながらも言われた通りに眼を閉じ、ついでにぎゅっと口も閉じた。うう、何をされるんだろう。デコピン?デコピンなの?

王弟のデコピンは攻撃性が高いってリズが言ってたけど、それを私が実体験するの?嫌だなぁ。すっごく嫌だなぁ。

あ、でも何もしないって言ってたからそれはないか。

「いきなり震えが止まったな。理由は後で聞くとして」

え゛・・・。

「何も考えず、頭を空っぽにしろよ」

「・・・」

「――――眼を開けた時、隣にいる惚れた奴は誰だ」

眼を、開けた時に・・・?

「っ?!」

う、嘘でしょ。

今、私は誰を・・・と言うか、どうして隣にいることを想像して。・・・や、どうしてじゃないか。っく、誘導尋問された!意識を誘導された!酷い、卑怯、ずるい!

ああ、もうっ。

もう、もう、もうっ!

顔どころか全身があっついなぁ!!

眼を開けて、必死に両手で顔をあおぐけどまったく冷めてくれないよ。うぅぅ・・・ちらりと横目で王弟を見たら、ニマニマと意地の悪い顔でこっちを見てるし。

うぅぅぅ。

うぅぅぅぅぅぅっ!

この場から蒸発してしまいたいっ!

「だぁれを想像したんだ?花の乙女サマ」

「知りません!」

「ま、誰だろうと選択するのは花の乙女サマ、お前だ。神じゃない」

・・・え?

「神々の王が決める訳じゃないんだから、好きに選べばいいだろう」

「な、んで・・・」

どうして、王弟が。

「神々の王のことを、知って・・・?」

「地母神と呼ばれるモノとはまぁ、ちょっとした知り合いだからな」

「ちょっとした・・・?え゛?神様がちょっとした知り合い?」

「そいつから神々の王に気に入られた奴がいるから、気にかけてやって欲しいって言われてな。まさかそれが花の乙女サマだったとは、最近まで気づかなかったけどな」

さ、最近・・・?

それって、いや、まさか・・・。

「見えてるんだろう。人には見えないはずのモノが」

「!」

「それが何か知らないが、まぁ、碌なもんじゃねえだろう」

「あの・・・」

「安心しろ、言うつもりはない」

はっきりとした断言に、安堵から身体の力が抜けた。

力なくベンチに座る私を、王弟が苦笑しながら見つめる。・・・リズと同じ色の瞳だけど、宿る感情はやっぱり違うなぁ。

あ、でも眼の形はそっくり。流石は親子。

「選択するのは花の乙女サマであって、神々の王じゃない。だからまぁ、なんだ」

がりがりと頭を掻き、王弟が空を見上げる。

つられて見れば雀が四羽、楽しそうに踊りながら飛んでいる。自由だなぁ。

「後悔のない道を選べ」

・・・その台詞、どこかで言われたような。

「個人的に、リィンが喜ぶから愚息を選んでくれると嬉しいがな」

「うぇ?!」

「将来有望だし、経済力もある。選んで損はないぜ?」

さ、さっきの台詞が台無しですよ!







「―――――やっぱり世界が憎い」

「いきなり来て、またその台詞?今度は何があったのよ」

王弟に弄られ、憔悴した私は家に帰るのも嫌でルキの元へと足を向けた。

いきなり尋ねた私にルキは驚きながらも家に招き、一言も喋らない私を気遣って甲斐甲斐しく世話・・・と言う名の、新薬の実験台にしようとしてくれた。後で覚えてろ。

で、ようやく口を開いた私の第一声がアレである。

「世界と言うより神の王が憎い」

「・・・いい薬あるわよ?」

「何の」

「頭の」

「いらないし、必要ないから」

だから薬袋を懐から取り出さないでくれる。

てか、いつも持ち歩いてるの?・・・ちょっと、力を使ってまで治そうとしなくていいから。頭は正常だから!だから力一杯に頭を掴むな!

「ちょ・・・!暴れないでくれる?私が怪我するじゃないの!」

「怪我したら旦那さんが心配して、仕事や済んで甲斐甲斐しく世話してくれるんじゃない」

あ、動きが止まった。

考えてる、考えてる。

自分の美貌を護るか、それとも旦那さんとの甘美なる日々を過ごすか。すっごく考えてる。私からしたらどっちでもいいから、手、放してくれないかな。

「ねぇ・・・現実で充実してるであろう、ルキに聞きたいんだけど」

「してるであろう、じゃなくてしてるのよ!・・・アタシに聞きたいことって何よ」

「・・・・・・私」

視線が下を向く。

膝の上に乗せた両手が震え、酷く緊張しているんだってことがよく解る。

「私、は」


眼を開けた時、隣にいる誰か――。


その誰かと私は、ルキ達みたいに幸せになれるかな?

ずっと、互いを想いあえる仲でいられるかな?

「私は好きになった人と、ルキ達みたいな仲になれると思う?」

「思うわ」即答だった。

驚いて顔を上げれば、優しい、慈愛に満ちた笑みで私を見つめるルキの瞳。

ルキの両手がそっと私の頬に触れ、端正な顔が近づいてくる。こつり、と額が重なり合う。そ、そんな距離を詰めなくても・・・。

動転する私に気づかず、ルキは穏やかに告げた。

普段と違いすぎて、動揺が治まらないんだけど。

「気持ちをしっかり伝えあえば、大丈夫。怖がらずに、想う相手の所に行ってきなさいよ」

え、今・・・?

「そう、今よ!」

心を読んだ!

「さぁ、行きなさい!思うがまま、心のままに、愛する者の元へとひた走るのよ!」

い、いきなり腕を引っ張るのはやめてくれない?!

「る、ルキ・・・?」

「それで相手は誰なの。王弟の次男?総帥の次男?それとも腹違いの弟?――――まさかアタシの知らない男なの?!」

「いや、誰って・・・ちょっ、ルキ!」

「あ、もしかして全員?・・・流石のアタシも一夫多妻(いっぷたさい)ならぬ一妻多夫(いっさいたふ)は推奨しないわ。駄目よ、恋は一途でなきゃ」

「どこから来たのその発想?!」

「でも神に愛された者はそれを許されてるのよね。アタシは嫌だけど、フィリアが望むならいいんじゃないかしら」

ルキの思考について行けないよ、私。

「――――さ、フィリア」

気が付けば玄関前。

開けられた扉の前に立ち、背を軽く押された。いきなりは転ぶよ!

「恋は戦争」

なにそれ。

「惚れた方が負けだから、先に負かしてきなさい。だーいじょうぶ。すでに敵は負けてるもの」

意味が判らないよ。

閉じられた扉の前で力なく項垂れ、息を吐き出した。軽く扉を叩いてみるけど、開く気配はない。・・・追い出された。

ゆっくりと空を仰ぐ。

暗闇に染まる茜色の空に月が浮かんでいるから、もう六時か。・・・・・・なら、大丈夫だよね。

「・・・女は度胸!」

両頬を叩いたせいで、ぱちんといい音がした。

ついでに痛い。

でも、心は決まった。

「すー、はー・・・・・・っよし」

深呼吸して、いざ出陣!

向かう先は、眼を開けた時に隣にいることを想像したただ一人のもと。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・だ、大丈夫だよね?


▽√カルナード

 √アルト

 √リズウェルト

 √??


不安になりながらも、私は――――選択した。


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