■がMaxになる
クリスマス前にかけた!
次は・・・・・・・・・三が日中にかけたらいいな。
昨日も散々だった。
ルキの所に愚痴りに行けば、逆に旦那さんと喧嘩したことを泣きながら語られ、こちらの話には「もういっそ、カンストさせて恋人にでもなりなさいよ」と、素っ気なく言われる始末。ちなみに人の膝をさんざん涙で濡らしたルキだけど、旦那さんが帰宅した途端に「私はケチャップだけど、目玉焼きにはソースでもいいと思うわ!」なんて言い出した。くだらないことで喧嘩してたのか。
醤油一択な私でも目玉焼き論争が起きるので黙っておこう。
あ、夫婦喧嘩はものの三分で終了し、いつも通りの二人に戻りました。
終わり。
で・・・なんとも言えない気持ちで家に帰れば、母親が玄関で待っていた。何かあったのだろうかと首を傾げつつ帰宅を告げた私に母親は一言。「候補だけど、婚約者が見つかったわ!」と言い出した。しかも「とりあえず三人よ、よかったわね!」・・・とりあえずって何?!愕然とし、固まった私の手を掴み、五十路とは思えない程に可愛い顔をしてまさに「気分はルンルン♪」で歩く母親。
・・・婚約者って嘘だよね、冗談だよね!なんて言えない。
肯定されたらショックで気を失う。
むしろショック死する。
あ、そうそう。母親と言っても私と彼女に血の繋がりはない。何故ならば義理だから。
彼女は後妻としてエルゥル家に嫁いできた、カルナードの実母で私の育ての親。私の生みの親は産後の肥立ちが悪かったらしく、私を生んで一年も経たずに死んでしまったらしい。顔も知らない母親だが父親曰く、眼元と思考回路が私とよく似ているそうだ。ちなみに生みの母とは親友で、父親と母親を取り合った仲だとか・・・。何故、取り合う。
閑話休題――。
質素倹約な父親の趣味らしい、簡素な調度品でまとめられた広間に連れてこられた私の視界に、ソファに座って複雑な表情をして腕を組んでいる父親が映った。その視線の先にあるのは三つの・・・三つの、見合い写真。
後ろを見た。母親がにこやかに立っている。・・・・・・逃げ道は、ない。
私に気づいた父親が渋い顔で手招きし、見せてくれた見合い写真には・・・わ、見覚えのある顔が三人。――どう言うことだと頭を抱えて膝をついた私に、父親がそっと肩を叩いて慰める。そして「一人、選びなさい」と・・・。
やめて、現実を直視させないで!泣くよ?!
ああもう!見合い写真に幼馴染と片親違いとは言え、弟の顔なんてみたくなかったよ!
衝動的に見合い写真を奪い、火事場の馬鹿力で破った私を母親が叱りつけた。だって、だってぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇええぇぇええええぇぇ。こんなの予想もしたくなかったよ!畜生、好感度が九になったせいか!!ショックが大きすぎて気も失えない!
父親が何か言っていたらしいけど耳に入らず、母親が呆れながらも「まで選びなさいね」とか言っていたが、いつまでなのか私の耳には届かなかった。
・・・届かなかったんだよ、本当に。
その後はまぁ、何と言うか・・・うん、全てに恐怖を覚えました。
廊下を照らす明かりの影を怖がり、指先まで冷えて満足に動かせない身体で部屋まで戻ったのは覚えている。部屋の隅の影に幼子のように震え、外から聞こえる風の音にすら身体を奮わせる程に恐れを覚えてしまった。
ああ、情けない。
でも怖いモノは怖い。
布団を頭まで被り、その夜は震えながら就寝した・・・と言うより、恐怖に耐え切れずに気絶した。眼が覚めたら雀が鳴いて、朝日が窓から差し込んでいたからそうだと思う。
・・・昨日の出来事が質の悪い夢だったら良いな。
億劫に服を着替え、深呼吸をして震える手で扉を開けて部屋の外に出た。――扉を開けたら無表情のカルナードと眼が合い、悲鳴をあげてしまった。恥ずかしい。
何でここにいる!?反射的に開けた扉をまた閉めた私は悪くない。
動揺から鍵をかけ、椅子とか本やら持てる物すべてを扉の前に置き、逃げ道を探そうと周囲を見渡す程に吃驚した。あまりに驚きすぎて、窓から脱走してしまった。・・・そう、私は悪くない。驚かせたカルナードが悪いんだっ。華麗に着地し、そのまま逃走。
この時点で私、冷静さは取り戻した。
けど、今更戻ることなんてできない!戻るなんてそんな、恥ずかしいっ!
誰にともなく言い訳をしながら外に逃げた私を待っていたのは、悲しいかな。ある意味予想できたアルトとリズだった。やっぱりいたか!
二人の姿を目視した途端、見つかる前に力を使って素早く回避!
そして逃走!
ふはははははははっ今の私を捕まえられる者なぞ誰もおらん!捕まえられるものなら捕まえてみろ!すいません、嘘です。現実を認めたくなくて逃げてるだけです。
心の中で悲鳴をあげながら街まで逃げ、荒れた息を整えてこれからどうするかを考える。・・・よし、学園をサボタージュしよう。
何気に初めてのサボり。
罪悪感と興奮で胸がドキドキハラハラして痛い。ああ、でもこれで私も不良デビュー。サボりとは、年相応の反抗期は楽しめることだ!とか言っていた友人の言葉を実体験できる日が来ようとは・・・!そう思うだけで楽しくなってきた。よし、サボろう!
決意を胸に一歩、足を踏み出した。
――はずが、眼の前に馬車が止まって踏み出せなかった。
その馬車に乗っているギネアが私に気づき、声をかけて・・・うん、まぁ、結論から言えばサボれませんでした。
ギネアの巧みな話術から逃れることが出来ず、回避する術もはぐらかす話術もない私には策士系演技派なギネアを騙すことは出来なかった。・・・頭が回って、演技で周りを味方につける相手にどう勝てばいいの。
少なくとも私には無理。
不可能。
案の定、ギネアはその頭脳を使って私の状況を正しく理解し、嘘泣きを始めた。しかも大袈裟に。嘘泣きと解っているのに、迫真すぎて本当に泣いてる?と不安になってしまう。っく、これだから演技派は!
そして場所も悪い。
人通りの多い中央噴水広場で「そんな!わたくしはフィリアと過ごす学園生活を楽しみにして・・・っ。なのに、どうしてですかっ!」と舞台女優も真っ青な演技で泣かれては、私に分が悪い。
ギネアが周りを味方につけたから逃げるに逃げられなかった。周りからの叱咤するような眼差しと、「サボるのは駄目だろ」と言う至極まっとうな言葉が理由でもあるけど。
渋々、登校することを告げればたちまち笑顔になるギネア。・・・これだから演技派は!でも嫌いになれない、むしろ好きだよ!普通学科二年の仲間は大好きだ!
でもまぁ、これで今日も散々な一日になること決定だね。・・・畜生。
気分は市場に売られる仔馬。
げんなりとした気持ちは心の奥底に隠し、表面上はにこやかにギネアと会話をしている途中でヴェルナンドを遭遇し、一緒に馬車で登校することに。何でこうなる。
ギネアの説明で私の状況を理解したヴェルナンドは一瞬、憐れんだ眼を向けたけれど私を助けてくれることはなかった。
お前もか、ヴェルナンド・・・!
死んだ魚の眼をしているであろう私に、二人が温かい眼差しを向ける。慈悲をくれるなら逃がして。・・・ああ、駄目ですか。はいはい、解ってますよ。っけ。
不貞腐れていても学園には到着し、二人に挟まれる形で正門を潜って昇降口に向かう。その途中、風のように早い何かが私を二人から遠ざけ、攫って行った。これは神の救いか!?
そう思った十分前の自分を殴りたい。
「――――なんで、校舎裏?」
疑問に首を傾げながら私を囲む三人を見た。あれ?この人達、どっかで見たことがあるような・・・。ううん、どこだっけ。あ、思い出した。
眼の前にいる金髪碧眼の綺麗系、可愛い系、儚い系と言った、系統の違う美しさを持つ、見た目だけは良いと有名な三姉妹だ。うん、確かそう。
で、そんな三姉妹が私に用事?校舎裏で?
・・・とすれば、可能性としてはアレかな。
一つの確信を抱きながら、三姉妹の名前を思い出す。
確か名前は・・・・・・右からスレンダーな体型をした、悲しい程に胸のないきつい顔立ちをした綺麗系美人のクロトー先輩。寄せて上げてもAにもならない貧乳、まな板ではなく「悲しき絶壁美女」と影で男子から哀れまれているリズと同じ学科の人。
たしか。
次にくりんとした大きな眼にふんわりとした髪質を持つ、華奢で可憐な姿で姉とは違う魅力を持つラーシス同級生。怪我をしたことがないであろう、細くしなやかな指先と身体をしているこの同級生、驚くことに学科はこの容姿でアルトと同じ。
たしか。
最後に眼を放せば泡沫のように消えてしまうのでは、と錯覚させるほどに儚く、淡い微笑みはまるで聖女のようだと年下好きが熱弁する小柄で病弱なアトース後輩。病弱で単位も満足に取れず、成績もあまりよくなく癖にカルナードと同じ学科。
たしか。
・・・・・・と言う、三姉妹共に不確かな情報なのには訳がある。
その他:神に最も嫌われた存在
三姉妹のステータスにはそれしか現れないんだから、仕方がないんだよ。
しかし困った。
今までだったら名前や年齢なんかが表れたりしたのに、その他だけ。しかも神に最も嫌われた存在って・・・・・・・・・彼女達、なにしたんだろう?
神様に嫌われてるから、名前も年齢も出ないの?そんな馬鹿な。
名前が解らないと、迂闊に話せないじゃない!せめて名前、名前だけでも表示されてよ!
「アナタ、いい加減にしてくれないかしら?アタクシ達の邪魔をするなんて、神に逆らう愚か者と一緒よ」
傲慢な口調で、何を言ってるんだろうこの人。
クロトー先輩の言葉に意味が判らず首を傾げれば、苛立ったように長く美しい髪を乱暴にかきあげた。今のどこに苛立つ要素があったんだろう。逆に聞きたいよ。
あ、カルシウム不足?ルキの店で良い薬があるから、買う事をお勧めするよ。
「そうネ。神に愛される者であろうと、私達に逆らっていいはずがないノ。だって私達こそが神様にもっとも愛されている、一番、神様に近い存在なのヨ」
おっとりとした口調と、独特の語尾で話すラーシス同級生。その話し方はゆったりすぎて、聞いてるこっちがイラっとくる。
「だから私、逆らう貴女を楽に死なせてあげようと思ったノ。でも貴女は今、こうして生きているのよネ。オトモダチにお願いして、階段から突き落としてもらったのに、どうして貴女は生きているノ?不思議ネ」
ああ・・・今、よくよく思い出してみたら確かに背中を押されてた。
あの時確か、背後にいたのは化粧の臭いがきつい、を通り越して悪臭を放っていた父親やカルナードに色目を使う、仕事に手抜きが多い駄メイド。
常日頃から私や母親に憎悪の眼を向けて、とてもメイドらしからぬ態度をとってきた彼女が実行犯か。
スキル擬きのショックが大きかったのも原因だけど、翌日には姿を見なかったから存在自体を忘れてたよ。でも、なんで翌日に消えたんだろ。罪悪感から?良心の呵責?
ないな、絶対にない。
「ねぇ・・・なんでぇ、昨日は食堂を利用しなかったのぉ?折角ぅ、特別な料理を食べさせようと思ったのにぃ」
アトース後輩が瞳を伏せ、悲しそうに語る姿は庇護欲を誘うが・・・私、まったくそんな気持ちが沸いてこない。むしろむかつく。喋り方にイラっとする。
しかし・・・特別な料理、ね。
食堂は基本、生徒が入ってはいけない規則から考えるに、厨房の誰かを使って何か混入させたのか。毒か?毒なのか?
・・・そこまでしてこの三姉妹、私を亡き者にしたいのかな?ふつふつと胸に憎悪が膨らんでいく。ああ・・・理性が切れて怒りのままに暴走しそう。
落ち着け、落ち着くんだ、私。ここで怒りに任せても良いことはない。
はい、深呼吸。
「あらアトース、アナタそんなことしてたのね。それじゃアタクシ、余計なことをしたのね。そうと知っていたら、嗾けて襲わせたりなんてしなかったわよ」
昨日のアレも、三姉妹が関わってたのかぁ。
「ごめんなさぁい、姉様ぁ」
「別にいいわよ。アイツら、結局役に立たなかったんだもの。他のことだってそうよ」
どうやら他でも私、危機に陥りかけていたようだ。
知らぬ間に回避していた私、凄いな。
「だから今度は、アタクシ達の手でやるのよ」
その言葉に、堪らず嘲笑した。
馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたけど、これは救いようがない。こんな奴相手になんで我慢していたんだろう、と馬鹿らしくさえ思えた。
「私を排除すれば、あの三人が手に入るとでも思った?」
いくら恋した相手と結ばれたいからって、それで心が手に入るならば誰もが苦労はしないでしょうに。馬鹿だよねぇ。
恋情も愛慕も、行き過ぎれば迷惑でしかない。
邪魔な存在を排除するのはまぁ、恋愛小説とかでもよくあるけれど、それで恋が成就した例は小説でもない。大抵が軽蔑され、嫌われる。悪役になりたいのかな、三姉妹は。
消極的でも実らない恋はあるけれど、積極的すぎても駄目。本当、恋って面倒だよね。
「恋を成就させるためだからって、とても特進学科の生徒がしたとは思えない行動だね。騎士学科にしてもそう。騎士道精神は女子にも学ばせているはずなのに、それがない。あ、女子はただ騎士学科に在籍する男子狙いの色狂いが多いんだったね。それじゃあ仕方がないか。ごめん、ごめん」
「戯言を。普通学科がほざかないでくれるかしら?」
「事実でしょ?特進学科が二人もいるんだから、もうちょっと頭を使って行動しなよ?・・・あ、頭を使ってないからこんなことをしたんだよね。よくもまぁ、特進学科に在籍できてるね。裏ワザでも使った?」
「そんなぁ、裏ワザなんてぇ・・・酷いぃ」
ギネアと比べるのも烏滸がましい程、下手な嘘泣きをするアトース後輩に冷めた眼を向ける。あのさ、目薬じゃなくて自力で涙を流せるようになってから嘘泣きすれば?
ギネアを見習え、ギネアを。無理だろうけどね。
「あら嫌だワ。幼馴染や弟君にべったりの貴女に色狂いと言われるなんて私、とっても心外ヨ」
常日頃、騎士学科の見目が良い男を侍らせようとしているラーシスが言うな。
「普通学科に在籍するため、教師相手に媚びを売ってる人にアタクシを馬鹿にする権利はないのよ」
教師相手に身体で単位を稼いでるって噂のクロトー先輩が、適当なこと言わないでくれるかな?
「こんな酷い人がぁ、カルナード君の姉なんてぇ、彼が可哀そうぉ」
どう可哀そうなのか明確に言え、アトース後輩。
「いやいや、引くレベルで醜すぎデスね。これ」
「わたくし、醜すぎて直視できません」
「ギネア、ヴェルナンド・・・。意外と早かったね」
ところで――わざと草を踏んでのご登場には、いったいどう言う意味があるのかな?
・・・ああ、うん、いいや。三姉妹の驚いた顔を見ればある程度わかったよ。どうやらこの場所がバレるとは本気で思ってなかったみたい。考えが浅いなぁ、本当。
そしてあえて、気づかせた二人の優しさに私、笑みを堪えるので必死だよ。ぷくく。
「ご丁寧に行き先を教えてくれたんスから、早くて当然デスよ」
肩を竦めたヴェルナンドが私の前に立ち、にやりと不敵に笑う。挑発的だねぇ。
「水魔法で認識を歪め、風魔法で追跡を妨害、土魔法で結界を張って隔離する――って言うのは良い考えだと思うよ。普通じゃどうにもできねぇスからね!でも――俺達相手にソレは無意味だ」
あ、普通学科二年が全員集合してる。隠密度があがったね、君達。私も気づかなかったよ。
「俺達から逃げられると思うなよ・・・?」
「っ・・・!」
「仲間を害する奴に、俺達は容赦しないんっスよ」
いやー本当、良い仲間だよ。普通学科二年は。
仲間のためなら火の中水の中、築いた縁によって敵を排除する。私も君達に何かあったらがっつり手は出すけど・・・だすけどさ、殺気は弱めない?ちりちりと肌が痛いんだ。
「ふ、普通学科が何を言っているノ!」
「他の奴らと」静かに、ヴェルナンドが歌うように言う。
「普通学科二年を一緒にすんじゃねぇスよ」
まぁ、確かにそうだ。
一緒にされたくはないよね。だって普通学科二年は一癖も二癖もある、一つの能力に特化した個性的な学友だからね。私は普通だけど。
好感度:■■■■■■■■
うげぇ、誰かの好感度があがった。
何もしてないのにどうして・・・?
「それより、フィリアを害していたのは貴女方で間違いはないんですね」
今まで黙っていたギネアが、淑女のように微笑み、しな垂れかかるように身体に寄り添った。あの、腕に胸が当たって・・・これはどういう状況?仲間の方から黄色い悲鳴が聞こえるんだけど・・・。
ちょ、ちょっと、誰?キスコールしたのは誰!?
「間違いがないならわたくし、貴女方を敵とみなし――再起不能にします」
あれ、本気だったんだ。
「ああ、ついでに言っておきますけど貴女方は本日をもって退学ですから、教師に泣きついても無駄ですよ。さらに言えば家を頼っても無駄ですから。ノルニ貿易商は風前の灯火。明日を無事に送れるかも判らない状態ですからね」
くすくすと、鈴を転がしたような声で軽く告げるギネアは実に楽しそうだ。
ところで、その件についてリズやアルト、カルナードは関わってないよね?ねぇ?・・・なんで視線をそらすのかな?ギネア?
「ア、アタクシ達に暴行するつもり」
「しませんよ」さらりとギネアが否定した。
「身体の傷はいずれ癒えますが、精神の傷は治りにくいモノですよね?」
「っ」
「あらやだ。わたくし、ただ微笑んだだけなのにどうして怖がるんですか?」
私に体重を預けるの、重いからやめて。
「大丈夫ですよ。ただ・・・・・・ええ、そう、二度とわたくし達に近づかないように、逆らえないように、関わらないように、トラウマを作るだけですから」
どこも大丈夫じゃないよ、ソレ。とは言わず、私は哀れんだ眼を三姉妹に向けた。
気丈に振る舞っているけど顔は真っ青だし、身体は恐怖で震えている。アトース後輩なんて本気で泣き出してしまった。・・・いい気味だ、と思う私は性格悪いなぁ。
「さぁ――わたくし達を敵に回したこと、後悔してくださいね?」
優しい声音なのに、台詞が物騒。
「それからフィリア。簡単に攫われた件について、話し合いませんか」
「話し合う事なんて何も」
「フィ・リ・ア」
「・・・はい」
「それじゃあ、座って話し合いましょう。さ、こっちですよ」
――――笑顔に屈し、私はこの後に何があるか解っていながらもギネアに手招かれるまま、校舎裏から離れた。うぅぅ、涙で前が見えない。
普通学科二年の仲間よ。
苦笑し、同情の視線を送るぐらいなら助けて!見捨てないで!
「心配させた罰っスよ。素直に怒られろ」
「ヴェルナンド・・・」
心配させるようなこと、した覚えがないんだけど。
がくりと項垂れた私に、さらなる追い打ちが待っていた。
好感度:■■■■■■■■■
わたしはなにかしただろうか・・・?
誰かの好感度がまたあがって、三人と同じ九に・・・え゛、嘘でしょ。嘘だって言って!
「フィリア・・・?どうしたんデスか?」
どうしよう。
三人の好感度は×を選べばさがるけど、誰か解らない好感度が関係ない。そもそも誰かのか解らないんだから対処のしようがない!真面目にどうしたら・・・!
「顔、真っ青っスよ?!具合でも悪いんデスか・・・?」
「フィリア、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない――それを告げる前に、私の意識は急に遠ざかった。
これは・・・現実逃避による気絶か!
「・・・・・・この木なんの木、不思議な木?」
ぱちり、と眼を開ければ大きな樹が視界に飛び込んできた。でか!でかすぎて一瞬、何か解らなかったよ。樹ってこんなに大きくなるんだ・・・へぇ。
天を突き破るように伸びた樹木の果ては見えず、空を隠す葉は青々として眼に優しい。・・・が、太い根は駄目だ。動揺して後退したらうっかり躓き、ころんと転がって水の中に落ちちゃった。根っこよ、いるならいると言って欲しい。
てか、根がでかすぎて頭を強打した。
頭と背中が痛い。
「・・・散々だ」
泉から這い上がり、太い根に腰を下ろす。
うう、下着がびちゃびちゃして気持ち悪い。よし、脱いじゃえ。
「最近の子って、大胆すぎて年寄りには理解できそうにないな」
「!?」服に手をかけたまま、身体が硬直した。
「初めまして。哀れな被害者」
もやしか針金のように細い体格をした、一切の感情が表情に現れないが見目麗しい、見知らぬ青年が隣に座っていた。いつの間に?!と驚くよりも、哀れまれた意味が解らなくて首を傾げる。
服から手を放し、きょとりと瞬く。
「君も可哀そうに。本当なら関わるはずのない存在に絡まれ、害を受けるなんて」
灰色の髪を何故か、左側だけヘアピンで留めた独特のヘアスタイル。長い指が前髪を弄り、流し目で私を見る。はぅあ!こ、これは・・・っ。
落ち着いた、と言うよりは物事に達観した老人のような雰囲気を纏うこの人は一体・・・?
・・・誰か解らないけれど、あの三人にはない大人の余裕と色気に胸がドキドキしてきた。流し目に私は心臓を射貫かれたよ。ときめいちゃったよっ。
ああ、心臓が痛い。
ときめきで心臓麻痺しそうっ。
「ただでさえ、神々の王に愛されて、他の神に愛された者よりもいらぬ苦労を背負ってるのにね」
見知らぬ青年の金の眼が私を映し出す。
凪いだ綺麗な双眸は、人ならざる輝きを放っている。ぞくりと背が震えた。
「神々の王はまさに混沌。僕達じゃ、君を助けることも出来ない。ごめんね?」
「助ける・・・?あの・・・もしかして、神様?」
「もしかしなくても、そう」
簡単に肯定された・・・!
「僕は生と死を司る者、魂の管理者、死神、刈り取る者・・・色々と呼び名はあるけど、好きなように呼んで」
「は、はぁ・・・」
「好きなように呼んで、じゃ、困るでしょう。花の乙女。こいつのことは魂の管理者って呼んでいいわよ」
静かな、落ち着いた女性の声に身体がはねた。心臓が口から出るっ。
今度は誰・・・?!破裂しそうな程に煩くなる心臓を宥め、後ろを振り返って絶句した。
呼吸を忘れ、魂を奪われるような、美しい存在がそこにいた。
ただそこにいるだけで、何もしていないのに圧倒される。凛とした存在感と澄んだ金色の双眸。魂の管理者よりも星の輝きに似た瞳に魅入られ、知らず熱い息がこぼれた。
「ようこそ、花の乙女」
儚さを見せる華奢で線が細い、色白な身体。
魂の管理者がゆっくりと立ち上がり、女性の元へ歩いていく。彼も細いけれど、それより一層に細い見知らぬ女性は瞬きをした瞬間、消えてしまいそうな――泡沫の夢のような存在だと感じた。
「ここは世界樹の泉。君が座ってる根は世界樹だから、傷つけると大変だよ?」
「うえ゛!?」
「冗談だよ。そんなことじゃ、傷つかないから。・・・ねぇ、上をよく見て。・・・見えるかな、枝に支えられた硝子の球体が」
「綺麗・・・あれは?」
「あれは世界。君が住む世界もあれば、まったく別の世界もある。ここはね、九つの世界を支える場所で、私はそれを護る存在」
「護る・・・。貴女は・・・誰、なんですか?」
ゆっくりと、見知らぬ女性が微笑んだ。
「世界樹の管理者、白銀の光、白銀の乙女、地母神・・・」
喉を震わせ、音を発す。
ただそれだけなのに風が吹き、心を揺らして解かす――錯覚を抱いた。
「神々の王から、花の乙女に言伝を預かったんだ。だから本来、干渉することがない私達が人を、君を、夢と言う形でこの場に呼んだんだよ。・・・フィリア・エルゥル」
なんだろう。
嫌な予感しかしない。ひ、冷や汗が滝のように流れてとまらないよっ。
「神々の王曰く、選択の時が来た――だって」
「選択の、時・・・?」
「理不尽に思うだろうけど、逃げることは出来ない。君はただ、選ぶしかないんだ。・・・君は、神々の王に気に入られた、神々の王を楽しませる存在だからね」
「どう、して・・・」
「さぁ、どうしてだろうね」
魂の管理者が肩を竦めた。
「その理由は神々の王じゃないと答えられない。僕達はただ――見ていることしか出来ない。何も出来ないんだよ」
緩慢な動きで私に近づき、右手を眼前にかざす。
瞳を覆われ、何も見えない。
ひんやりとした、冷たい体温に身体が震えた。
「さて、そろそろ起きようか」
くらり、くらりと回る。
視界が回る。――眩暈が酷く、吐きそうだ。
世界が回る。――脳が揺さぶられたように気持ち悪い。
思考に靄がかかって、頭が真っ白になった。気持ち悪い。立っていられず、地面に座り込んだ。はずなのに、そのまま私は落ちていく。落ちて、落ちて、落ちて、どこまでも果てのない底へ落下して・・・。不思議と、死の恐怖は感じなかった。どうしてかな、眠い。
意識が薄れて、まぶたが重くなった。
遠ざかる音の中で、優しい声が鼓膜を震わせる。地母神の声だ。
「どれを選んでも、後悔はしないように・・・ね」
そう言うなら、神々の王を止めて欲しい。
私は娯楽の道具じゃないんだよ。文句を言ったところで、意味はないんだろうけど。はぁ。
ぱちり、眼を開ければ白い天井が視界に飛び込んだ。消毒液の匂いから察するに、ここは保健室・・・だね。うん、やっぱりそうだ。見覚えのあるカーテンがあるし。
私はゆっくりと身体を起こし、息を吐き出した。
頭が酷く痛い。
吐き気もする。
気分がすこぶる悪い。
口元を手で覆い、こみあげてくる嘔気を堪える。・・・はぁ。つらい、しんどい。
「姉さん、大丈夫ですか?」
声がした方へ、虚ろな眼を向ければ不安そうに私を見る弟の姿。
「具合は、どう?フィリア、半日も意識を失ってたんだよ?」
その隣には心配そうな顔をしたリズが丸椅子に座っていた。
「体調が悪いなら、大人しく家で寝てればよかっただろーが」
視線を前に動かせば、アルトが難しい表情をして立っている。
顔を伏せ、眼を閉じ、口元から手を放す。ああ・・・・・・見える文字が嘘だったらどれだけ幸せか。自嘲し、ゆるりと首を横に振る。
具合が悪い訳じゃないし、体調不良の訳でもない。原因なんて、解ってるよ。
「大丈夫じゃないけど、大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないだろ。それ」
アルトの呆れた声に、力なく笑った。
まったくその通りだよねぇ。・・・ふぅ。
「あのさ・・・昨日、私に婚約者候補が出来たんだけど、知ってるよね」
返事はないが、驚いた空気もでもない。
ちらりと双眸で三人を見れば・・・・・・見なきゃよかった。
「なんで笑顔なの。意味が解んないよ」
「教えてやろうか?」
「いらない・・・って言っても、勝手に言うんでしょアルト」
「その通り。フィリア、俺達は小さい頃からお前が好きなんだよ」
・・・へぇ、小さい頃から。
「どうやら私達、そろって姉さんに惚れてしまったようで」
カルナード、私にそんな魅力はない。
しかも子供の頃に惚れただぁ?乳臭くて植物にかまけてばかりの、泥だらけな子供時代の私のどこに惚れる要素があるの?ねぇ、どこに?
眼と精神、おかしいんじゃない?
「眼も精神もいたって正常だからね?」
心を読まないで、リズ。
「僕達がフィリアのどこに惚れたか、知りたい?聞きたい?」
「遠慮します」
私の精神安定のために。
これ以上、負担をかけないで!
「それより、私の質問に答えてないよ」
「答えただろうーが」
「・・・・・・つまり、候補なのは確かってことね。なんで私なんかを、って言うのは愚問だよね」
笑顔なのが憎い。
本当、どうして私なんかに惚れちゃったのかなぁ。三人とも、より取り見取りのくせによりによって私とか・・・見る眼ないなぁ。
まったく、やんなっちゃうよ。
「私達が姉さんを好きなこと、迷惑ですか?」
「困る」
幼馴染として、弟として、接していた時期が長いから困惑しかないんだよ。
「困るだけで嫌じゃねぇんだな」
「・・・」
「沈黙は肯定ととるけど、いいのか?」
いいのか、と聞かれても、自分でもよく解らないんだから答えようがない。
確かに三人が婚約者候補になって困っているし、動転もした。スキル擬きで好感度があがった果てがこれなのか!?と軽く絶望し、鬱になって、全てに恐怖する程に。
でも・・・よくよく考えて嫌じゃないんだよねぇ。三人に好意を寄せられて。
知らぬ仲じゃないからかな?それとも別の要因?
うう、解んない。
判んないから、すごく困る。
「・・・あのさ、やっぱり錯覚だよ。私に惚れてるとかありえないって」
だって君達、最近まで私の扱い雑だったよね?
それを良く思い出してよ?私、あの転落事件以降から優しくされたんだよ?甘い!キャラが違う!って混乱したんだよ?・・・これは罰ゲームか何かだと考えるのが自然な気がしてきた。
私を落としたら罰ゲーム終了、とかそう言う・・・・・・やつだったら嫌だなぁ。
「姉さんは私達の気持ちを疑うんですか?」
「疑うも何も・・・最近までの私の扱い、思い出してから言ってくれる?」
ほら、黙った。
やっぱり罰ゲームなんだ。
酷い!私を弄んだのね・・・って、泣き真似した方がいいかな?それとも普通学科二年を呼ぶ?――あ。
「ヴェルナンドは?ギネアは?二人はどこにいるの?」
おいこら、居場所を聞いただけで嫌そうな顔をするの!
「私が気を失った時、二人と一緒だったよね?二人はどうしたの?ねぇ、ちょっと」
「わたくし達ならここにいますよ、フィリア」
「ギネア!・・・・・・・・・なんで、縄に拘束されてるの?」
よかった、傍にいたんだ!と、思ったのもつかの間。
声がした方を見ればおかしなことに二人は縄で縛られていた。しかも、抜け出せないような難しい縛り方。あれ、騎士学科で習ったの?それとも特進学科?
「まったく、酷いのよ。倒れたフィリアを保健室に連れて行ったら、問答無用でこうなんだもの。わたくし達、何もしてないのに。可哀そうだと思わない?」
「いやいや、何嘘言ってんっスか。ギネアは寝てるフィリアに襲い掛かろうとしたんだから、自業自得デスよ。可哀そうなのは巻き込まれた俺っスよ、俺!」
「わたくし達、一蓮托生じゃないですか」
「初耳なんスけど!?」
突きつけられた現実と、認めたくない事実と、訳の解らない状況で頭が痛くなってきたよ。
私は痛む頭を押さえ、ぽすりとベッドに倒れた。あー・・・・・・これが悪夢だったらどれだけマシか。息を吐き出し、視線だけで三人を見た。
「さっき言ったことも踏まえて、もう一度よく考えてよ。その想いは本物なの?」
絶対、ぜぇぇぇぇったいに、神々の王が抱かせた仮初だから。間違いない。
「疑うのか?」
「姉さん、信じてください」
「本当だよ」
嘘くさい。
表情を消した私に、何を思ったのか解放されたギリアが近づいて両頬を包んだ。何?
「フィリア、よく言うじゃないですか。好きな子ほど虐めたい、って」
「・・・・・・・・・それはそれで嫌」
私、虐められるより優しくされたいよ。
「それで、フィリアはどうするんデスか?三人の中から今、選ぶ?そうすると俺達、証人になっちゃうんスね・・・」
ヴェルナンドの何故か、そう、何故か悲観的な声に首を傾げた。どうした?
「フィリア、そうなの?」
「違うから。だからリズ、期待のこもった眼を向けないでくれる?」
「えー」
不満そうな顔しても、期待には応えないからね。
ちらりとカルナードとアルトを見れば、リズと似た表情をしている。お前たちもかよ。呆れた顔をし、勝手に溜息がでた。
私の幸福値がただ下がりな気がするよ。・・・神々の王のせいで!
▽「私もよく考えるから」 all
選択肢のはずなのに、選ぶモノがないって・・・。理不尽だ。神々の王のせいだって言ったからかな?だとしたらなんて心が狭い。狭すぎるっ!
うぅぅ・・・頭の中で誰かが高笑いしているのが聞こえる。
くそぉ、とうとう幻聴まで聞こえちゃったよ。精神薬でも飲むべきかな?それとも別の薬?
今度ルキに相談しよう。
「私もよく考えるから」
曖昧に切って、息を吐き出す。
「だから、もう一度ちゃんと考えてよ。本当に私のこと、好きなの?」
好感度:Max
好感度がMaxイコール好意と考えられない私って、夢のない乙女だなぁ。
・・・まぁ、ああ言った手前、ちゃんと考えるけどさ。逃げるのは無理そうだし。