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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:リズウェルト
22/30

4

「・・・は」

フィリアが消えた。

「・・・はは」

僕の眼の前から。

「ははは」

手を伸ばしても届かない場所へ。

「ははは・・・」

伸ばした手は空を切り、乾いた笑みが口からこぼれる。


――あの女、僕からフィリアを奪っていった。


口元に浮かべるのは失笑か苦笑か、はたまた嘲笑の形か。・・・ああ、そんなのはどうでもいい。顔を俯かせ、両手を強く握りしめた。爪が皮膚を割き、じくじくとした鈍い痛みを僕に与える。・・・いや、痛くなんてない。

沸騰するように身体の奥底から怒りがこみあげ、痛覚を麻痺させる。

ああ本当、あの女が僕は嫌いだ。

「ああ、まったく」

初めて逢った時から、気に食わない存在だったけど殺したい程の憎悪を、殺意を抱くことはなかった。ただ、僕の神経を逆なでする憎い奴――ぐらいだったのにな。

くつりと、喉から声が出た。

「・・・どうしてやろうかなぁ」

無意識に、口角が吊り上がった。

あの女は僕にとって、唯一である存在を奪った。

特別である幼馴染を奪ったとしても、こんなにも憤慨しなかっただろう。ただ報復として何かしらの行動はしただろうけど・・・。右手で顔を覆い、前髪をかき上げた。

「僕から奪ったこと、後悔させてあげるよ」

それにはまず、父上に話をしないと。

僕の怒りで国際問題に発展、なんて迷惑はかけられない。それ以前に、父上を怒らせるようなことはしたくないからね。父上の逆鱗に触れて、寿命を縮めたくないし。

ああ、それから母上にも。

聖国に行くなら、是非とも母上の力を借りないと。

「・・・?」

廊下を歩く僕を、見回りの騎士や仕事中の従者達が怯えた眼で見ている。まるで憤怒した父上と遭遇したような態度に、足を止めずに窓を見た。

「はは」

笑えてしまった。

窓に映った僕の顔は、怒り狂った父上とそっくりだ。

成程、これは怯えるのも仕方がない。自分でも怖いと思う顔に苦笑した。ああでもこれじゃあ、フィリアを怖がらせてしまう。それは駄目だ、元の顔に戻らないと。

両手で頬をマッサージしながら、父上と母上がいるであろう父上の執務室に向かう。・・・父上、本当に母上が傍にいないと仕事しないからなぁ。今日も今日とて、父上に仕事をさせようと奮起し、結局、母上に頼み込んだであろう宰相に心の中で謝罪した。

ツヴァイン翁、胃潰瘍にならなきゃいいけど。敬老の日にでも胃によく効く薬をあげようかな。

「・・・・・・どうした、随分と不機嫌だな」

「父上」

タイミングよく、尋ね人が前から現れた。

不敵に笑っているその表情から、僕が何故ここにいるのか把握し、面白がっているんだろう。そんな父親に腹が立つ、なんて一度も思ったことはなく、ただ純粋に流石だなと今回もまた思った。

「お願いがあります、父上」

「王太女のことなら自分で何とかしろ」

「ええ、それは勿論」

言われなくてもするつもりだと、父上に向かってしかりと頷いた。

「覚悟があるなら、リィンの力で聖国まで飛ばしてやろう」

やはり、僕の願いなんて口にしなくても父上は知っていた。

空の乙女である母上の力を使えば、人間が王国から聖国まで飛んでいくことは可能だ。けど、それは重力と風圧に耐えられれば――と、言う前提がついての話であって。

父上の言う覚悟、と言うのが死ぬ覚悟だと言うのならば僕は。

「国を敵に回す覚悟、家族の縁を切る覚悟、死なない覚悟、フィリアと生きる覚悟ならありますけど、生憎、死ぬ覚悟はありませんね」

「っは、上等だ」にたりと、意地悪く父上が哂う。

「国も世界も敵に回す覚悟で、惚れた女を奪い返してこい。俺はそうした」

すでに実行したとは。

まったくもって、父上には敵いそうにない。








現実逃避をしたいが、眼の前にいる存在のせいでそれも禄に出来ない。

なんだ、この無駄に意識を奪ってやまない美声は。魔性すぎて怖いんだけど。頬を引きつらせながら、眼の前をふよふよと浮く水色の半透明な・・・人魚、と呼ぶにはいささかごつい顔の精霊にどうしようかと本気で頭を抱えたい。

「・・・」

そして何より、その精霊の後ろに控える海のような髪色をした美しい、それはもう、王太女なんて眼ではないくらいに整った美しさを持ち、妖艶で見る者を魅了してやまない美貌の持ち主がいる。

珊瑚の瞳が愉快そうに私を見る。

ふらふらと右手を振られ、へらりと、いびつな笑みを返した。

こんな人外染みた美貌の持ち主が、人であるはずがない!むしろあってたまるか!

女としての劣等感を抱きつつ、見えるステータスに絶望した。


Name:蒼水帝(アクア・ティアマト)

備考:深海を支配する龍神。普段は聖域の幻想世界に存在しており、滅多に姿を見せない

その他:水に関わる全ての魔物の王にして神


・・・嘘だろうと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

視線だけを上げ、蒼水帝と表示されている人外を見る。

・・・姿形はどう見ても人、なんだよね。あはは・・・人外だと理解していても、龍神だとは予想していなかった。でもよくよく見れば瞳孔が龍のそれだし、爪も異様に長い。胸だって・・・服と髪で隠れているがなかった。それでもあの儚げ雰囲気で、女性らしい肉体の曲線美って・・・嫉妬するレベルを超えてもはや溜息しかでないよ。

深緑帝も人化したらこんな感じなんだろうか。今度、頼んでみようかな。はは・・・はぁ。

「あの・・・私に何か用ですか?」

心に多大なダメージを負いながら、蒼水帝に尋ねた。

「いや、笑ってないで答えてくれません?」

「無理ですよ」

にこやかに笑うだけで何も答えない蒼水帝にむっとしながら、強く言葉を紡げば後ろから否定の声が出た。ひぃ!びっくりした・・・。

王太女はお盆を持ったままこちらに近づき、さっきまでなかったはずの白いテーブルにお盆を置いた。あの・・・なんで紅茶とティカップ?それにお菓子があるんですか?美味しそうだけど、そして凄く甘そうなマフィンとケーキって。

状況、解ってますかこの誘拐犯。

じっと王太女を睨みつけるも、花が舞うような・・・いや、舞ってる笑みを向けられてつい、笑い返しちゃう。もうやだこの美少女。ペース壊される。

両手で顔を覆い、嘆く私の頭を誰かが撫でる。

「・・・喋らないのに、慰めるんだ」

恨みがましく呟けば、蒼水帝が困ったような顔をした。

すいません、八つ当たりです。

「蒼水帝は神々の王と交わした契約により、声を封じられたのです。ですから、喋りたくても話せない。何かを伝えたくても、教えられない。全てを知っているのに、何もできない状態にされてしまったんですよ」

「どんな契約か知らないけど、私ならそんな条件嫌だよ」

「仕方ありませんよ。蒼水帝が愛した方と共に生きたいと願った代償ですから」

「・・・いま、さらっと爆弾落とした?」

「爆弾なんて物騒なモノ、持っていませんよ」

解っているくせに笑顔ではぐらかしおった。

答える気がないならいいよ、聞かないから。こう言う話は、聞いたらとんでもないって解ってるんだよ。物語だとそんなオチだもんね。・・・と言うより、知ったらいけないと不思議なことに本能が警鐘を鳴らしていてさ。

白い椅子に座り、優雅に紅茶を飲む王太女を胡乱に見つめる。

「――――で、精霊王はどこに?」

私に精霊の祝福を受けさせるために連れてきたくせに、肝心の精霊王がいないじゃないか。

「あら、もう逢っていますよ?」

「・・・」

背後にいる蒼水帝と精霊を見る。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

申し訳ないけど、私にはこの精霊が精霊王だとは思えない。

威厳も何もないコレが精霊王だなんて、信じられる訳がない。と言う気持ちで王太女に視線を戻せば、にこりと笑って小首を傾げられた。

だから答え。

しっかり、はっきり、馬鹿にも解る様な返答してよ。

「うふふ、怖い顔」

話す気ないな、この女。

「リズウェルトは貴女のどこに惚れたのかしら」

「知らないよ、本人に聞けば」

「あら、冷たい。気にならないの?」

確かに、私のどこに惚れたのか知りたい気持ちはある。園芸が趣味の泥臭いガキのどこに一目惚れする要素があったのかとかね!でも。

「どうでもいいよ、そんなこと」

リズは私がいいと、後悔しないって言ったから。

「王太女、私は早く帰りたいの。貴女の暇つぶしに付き合う義理はないから、要件を手早くすませてくれない?」

「・・・ふぅ」

憂鬱そうに息をつき、王太女がゆっくりと視線を紅茶から私へと動かす。

何の色もない、感情を殺したような双眸が私を射抜く。ぞっとした。

「わたくし、ここに連れてくることは出来ても帰すことは出来ませんの」

「あ゛?」

「あら、ガラが悪い」

「いや、今なんて言った?」

「帰せません、悪しからず」

にこりと、それはもう美しい微笑みで告げた王太女を――――殴りたい。

必死に衝動を抑え、震える右手を左手で制する。あ、駄目だ。怒りで身体が震えて意識しないと足が動き出しちゃう。・・・殴りてぇ。

にこやかな王太女を見て、どうしても衝動が抑えきれない。

いっそ、殴ってしまおうか。

グーパンチではなく、平手なら大差問題はないだろう。たぶん。きっと。おそらく。何か問題が発生したら、神に愛された者としての権力を行使してやる!・・・ふ、ふふ。初めて使うことになるから緊張するなぁ。

「わたくしを殴ってもどうにもならないので、少し落ち着きましょう?ほら、お茶会セットがありますし・・・ね?」

「ね、じゃないから。ね、じゃ」

やっぱり一発殴ろう。

「――――っな?!」

拳を握りしめて一歩、前に出れば水の中に閉じ込められた。

突然のことに息を止め、両手で口を塞ぐ・・・・・・けど、これって。唖然と、いつの間にか私に近づいていた王太女を見つめる。

「大丈夫ですよ」穏やかに、歌うように言葉を紡ぐ。

「息は、出来ますから・・・ね」

だからね、じゃない!ね、じゃ!

水の中なのに息が出来ることは、早々に気づいてるんだよ。私が知りたいのはそう言うことじゃなくて・・・・・・はぁ。

どうせ、何を聞いても笑顔ではぐらかされるんだろうね。判ってるよ、解ってるとも!

私、この王太女、嫌い。

「う~ん、何か言っているみたいですけど残念ながら、声は届かないんですよね」

解っててやってるんだよ!

「一方通行ですけどわたくし、読唇術を会得していましてね。だから何を言っているのか、聞かなくても唇を読めば解るんです。すごいでしょう?」

リズだって出来るよ、それ。

あと、アルトとカルナードも。ついでに言えば普通学科二年は私を除いて全員。

・・・ふ、私だけが凡人だ。

「さぁさぁさぁ!」

ちょっと意識を遠くへ飛ばしていたら、王太女のテンションが上がっていた。

むしろ・・・天上突破?何があったと聞きたいレベルで頬を紅潮させ、弾んだ声で叫んでいる。踊る様に身体を動かし、天に向けていた指先が私に向く。

「精霊の!祝福を!受ける時です!」

動作が大げさすぎる。

声が煩い。

輝かんばかりの笑顔が鬱陶しい。

私は無言で、何の感情も宿していない冷めた眼を王太女に向けた。・・・美少女だとしても、イラっとする行動だよ。

「水の精霊王よ、花の乙女に祝福を・・・!」

・・・やっぱりか。

やっぱり、あの精霊がそうなのか!認めたくない、認めたくなかったのにっ!!

ゆっくりと、身体をくねらせながら近づいてくる精霊王に頬が引きつる。逃げ場、どこかに逃げ場はないだろうか。辺りを見渡すが、水の中に閉じ込められている現状じゃあどうしようもない!

畜生!

先手を打たれてた!

とりあえず逃げられる所まで後退し、花の乙女の力を奮おうと構える。

「・・・?」

構えるんだけど。

「・・・」

この精霊王、何がしたいんだろう?

途中で歩みを止めたと思えばくねくねくねくねと、妖しく身体を動かすばかりで一向に近づいてこない。よもや、その変な踊りが祝福・・・?

呪いの間違いじゃない?

脱力し、構えがとける。

「あら、水の精霊王ったら他の精霊王を呼び忘れたのですか?」

くねりが激しくなった。

「では急いで呼ばないといけませんね。怒られてしまいます」

腰の動きがさらに激しくなる。

何だろう。見てて気持ち悪い。吐き気がして、勢いよく視線を下に向けた。口を押え、見た者を消すように頭を振る。・・・新手の精神攻撃か、あれは。

「ああでも」

のんびりとした、どこかつまらなそうな声で王太女が言う。

時間切れ(タイムオーバー)ですね」

足元が震え、地面にひび割れが発生して立っていることがままならない。

空間がゆがみ、聖域を包む結界の姿が視認で来た。

「・・・!」

頭上からハラハラと瓦礫が落ち、聖域を包んでいた結界が壊れたのか硝子が割れる音が聞こえた。――そして現れた人物に、安堵の息をつく。

「フィリアに」

息をついた瞬間、凍える空気に息を飲んだ。

「何をしてるのかな・・・?」

お、お怒りだぁぁぁぁぁ!!

背中を向けるリズの、滅多に見ない本気の激怒に震えあがる。ひぃ、背中でこれだけの威圧感と殺意を出してるのに、向けられてる王太女(張本人)は知らぬ顔って・・・神経、図太いんだな。

おかげで平常心が戻って来たよ。

「大丈夫、フィリア?怪我は?何ともない?」

あっさりと私を包む水を人差し指一本で破壊し、肩を掴んで訪ねてくるリズに頷いておく。

・・・そんな簡単に壊れるものだっけ?水溜まりを見下ろし、王太女達に隠れて必死に水を壊そうとしていた自分が情けなくなってきた。いや、違う。リズがおかしいんだ。

だってあれ、風船みたいな弾力があって頑丈だったんだよ。

普通、壊れないから。

壊せても一撃じゃ無理だから。

「流石はリズ、規格外」

「嫌だな、規格外なのは父上だよ」

いや、リズにも素質は十分あるよ。だって現に・・・いや、やめておこう。

「蒼水帝が作り出した結界を壊すなんて、親子そろって非常識ですね」

「まだまだだよ。僕は結界にヒビをいれることしか出来なかったからね」

「・・・僕、は?」

「父上が最終的に壊してくれた。未熟者って怒られたよ」

・・・王弟と比べられても困るよね。

水の精霊王も、蒼水帝も、王太女ですら複雑な顔をしている。

「成長したら、リズウェルトもああなるのかしら」

ぽつりと何かを呟いた王太女の言葉に、隣にいた水の精霊王が震えあがって逃げるようにこの場から消えた。・・・えっと。

ぱちくりと眼を瞬き、水の精霊王が消えた場所と王太女を交互に見る。ついでに蒼水帝を見れば、呆れたように額に手を当てていた。・・・えーと?


▽「帰っていいよね」

 「要件は・・・?」 ×

 黙っている ×


よし、迷いなく「帰っていいよね」だ。

それ以外は認めない。

例え×がついてても、私は「帰っていいよね」を選択する・・・!

「帰っていいよね」

「当然だよ」

リズが返答しても・・・えー。

ちらりと蒼水帝を見れば、困ったように笑っていた。・・・なんとなーく、「もうちょっとだけ」と言っている気がする。相変わらず何も喋らないし、語らないけど。

視線を王太女に移す。

「空の乙女に続いて、二人目ですね。祝福は絶対にすると息巻いていたと言うのに・・・まぁ、仕方ありませんね。空の乙女の伴侶は魔王と呼ばれる人物ですし、花の乙女の伴侶も魔王の子。・・・祝福と言う名の寵愛は授けられませんよね」

「いろいろ言いたいけど、その前に一つ。寵愛って何?」

「そのままの意味です」

もうね、頬が引きつりすぎて痛い。

「精霊の寵愛は凄いですよ。もう、鬱陶しぐらい」

ほっぺをマッサージしながら、王太女の話を聞く。

「何をするにも、何をしても、何があっても、精霊が手を貸すんですよ。自分で何も完成させられない、終わらせられない状態・・・うふふ。ただの精霊でこれなんですから、その王の寵愛となったら――どうなると思います?」

「ありがとう、リズ!助かった!さぁ、ここからすぐに帰ろう!今すぐ帰ろう!私は家に帰ってお風呂に入って、そのままベッドに潜って寝てしまいたい気分だよ!」

ぞっとした。

想像するのを頭が拒否して、寒気と怖気に身体が支配された。やばい、鳥肌がやばい!

ひぃ・・・!私をなんてモノの前に連れてきたんだ!

「神々の王が面白いからと・・・神の下僕は逆らえませんので」

「心読まないでくれる!?」

そして神々の王、遭ったら覚えておけよ!

何があろうと一発、お見舞いしてやる!私の渾身の一撃をその身で受けると良い・・・。

「さて、蒼水帝」

ぱちんと、王太女が手を叩いた。

リズが警戒し、私を腕の中に閉じ込める。いや、あの・・・普通に恥ずかしいんでやめてくれませんか。

「空の乙女がここから出た時と同じことを、彼らに再現してもらいましょうか」

「再現・・・?」

王弟と王弟妃はいったい、ここで何を・・・?

「・・・父上は何も言ってなかったけど」

リズも知らない、のになんで王太女は知ってるんだろう?

結構昔のことだよね?たぶん。

「さぁ!」

王太女が演技かかった動作で両腕を動かした。

「蒼水帝の前で」

くるりと回転し。

「キスしてください!」

爆弾を投下した。

「あ、ちなみに蒼水帝が愛した方はわたくしの先祖ですの」

「いや、どうでもいいからそれ」

「蒼水帝はここでわたくしの先祖と誓いの口づけをし、その愛が永遠であることを神々の王へと約束しました」

「いや、どうでもいいから」

「その結果――蒼水帝はわたくしの先祖の魂と今なお、共にあり続けているのです!」

「いや、どうでも・・・すいません」

蒼水帝にすっごい顔で睨まれた。

でも本当、どうでもいい。なぜここで、キスしなきゃいけないのかまったく理解できないよ。てか、したくない。馬鹿じゃないの?馬鹿でしょ。好き好んで誰が恥をさらすか!普通に恥ずかしいから嫌だよ、私!

「――――したら、ここから帰ってもいいんだよね」

「ええ、帰っても大丈夫です」

「強制されてやるのは好きじゃないけど」

「え゛?ちょ、ちょっとリズ?!」

リズの顔が迫ってきて、焦りから胸板を押し返すけど・・・力の差が、男女の力の差にあっさりと負けた・・・!

「惚れた女がこんなに近くにいて、何もしないのは男として駄目だよね」

色っぽい眼でリズが私を見つめる。それだけで身体が石化したように動かなくなって、合わせるように眼を閉じてしまう。うう・・・恥ずかしくて死ねるぅ。

「そうそう、ディープでお願いしますね」

あの王太女、嫌い!

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