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花の乙女は平穏を愛する  作者: 如月雨水
route:リズウェルト
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1

route:リズウェルト始まります。頭を悩ませる日々がまた始まった・・・。よろよろと執筆中。


努力の天才で、何事にも手を抜かずに打ち込む君。

王族と言う高い身分を持ちながらも気さくで、懐にいれた人間が困っていたら親身になって相談し、手を貸す君はアルトとは別のヒーローだったよ。

二人に比べれば私に対する扱いは丁寧で、優しかったよね。でも他の人に比べれば雑だったけど・・・比較して複雑な気持ちになったのは秘密。

だから実は私に一目惚れしていて、今なお想い続けていると知った時は驚いたよ。それが嬉しくて、同時に苦しかった。だって君は王族で、私は子爵令嬢。神に愛された者である私は、立場も地位も関係なく君と結ばれることが出来る。

でも・・・だからこそ、ね。


――私は君と一緒になっちゃいけないんだって、考えちゃうんだ――








よくよく考えてみたら、この時間帯でリズに逢うのは無理だ。

だってリズは王族!

私はただの子爵令嬢。

幼馴染と言う関係性だけで、夜も深まる時間帯に王城に行けるはずがない!見て!真ん丸お月様が綺麗な夜の七時だよ。・・・今日は満月かぁ。

なんか、ギネアが「満月の日に告白って、ロマンチックですね!」と私の手をがっしりと掴みながら熱弁してた記憶が蘇ってきたよ。まぁ、確かにロマンチックだろうけど・・・・・・。溜息をついて、周囲を見渡す。

うん、人っ子一人いない。

猫すらいない。

何で私、人気のない教会にいるんだろう・・・?

月明かりで神秘的だけど、幻想的でロマンチックだけど、一人で来たらただの可哀そうな子じゃない?!不審者として連行されないよね?

「・・・あ。ここ、リズと小さい時に来た教会だ」

こじんまりとした、森に囲われた小さな教会。

古びて汚いだけだと言う人もいるが、季節の花が周囲を彩る様に咲き誇って、月明かりが柔らかく照らすその姿を見れば神秘的だと、幻想的だと印象を覆すだろう。

――程に、存在感がある教会を前に私は足を止めた。

リズと知り合ってすぐ、護衛もなしに我が家へやって来たリズに引っ張られる形で来たこの教会は、小さい頃の記憶と何一つ変わっていなかった。そのことが嬉しいと思うと同時に、胸がむず痒くなる。なんでだろう?

そう言えばと、ふとしたことに気づいた。

気づかないふりをしてたけど私、リズといる時が一番――心臓が煩かった。

それってつまり、無意識に恋をしていたってことなのかな?いや、でも顔はカルナードが好みだし、一番に頼るのはアルトで・・・私、リズのどこが好きなんだろう?

私、本当にリズが好きなんだろうか・・・?

確かに恋情は胸にあるのに、もやもやが感情を覆ってしまう。そんな錯覚を抱いて不安を覚えた。息を吐き出し、ゆるりと首を横に振った。

「・・・。・・・・・・中、入ってもいいかな?」

こそこそと、別に悪いことをしている訳ではないのに足音を立てずに扉に近づいて、きょろきょろと泥棒のように周囲を確認してしまった。

教会に入って、気持ちがはっきりすればいい。

そんな思いで、ゆっくりとドアノブに手を伸ばした。

「鍵開いてるし、いいよね?」

「良い訳ないからね、フィリア」

「!?」

勝手に扉が開いたと思ったら、リズが出てきて驚いた。

無意識に体が後退し・・・たのがいけなかった。

「わっ!あ・・・ぶないなぁ」

「ご、ごめん」

「ううん、僕が声をかけたせいだからね。謝るのは僕のほうだよ」

僅かな段差に体制を崩し、転倒しそうになった私の右腕を掴んで引っ張り、腕の中に閉じ込めたリズはその、何と言うか・・・・・・素直に格好いいです。

けど、抱きしめる必要はないと思う。

うん。私の心臓を殺す気なのかな?もうね、顔も熱いし手をどこに置けばいいのかわからなくて挙動不審なんだけど。視線、ずっと斜め下を向いてるんですけどね。うぅぅ、このまでいたい気もするけどそれだと私が持たない。

何よりリズの息遣いが耳元で感じて居心地が悪い!

「と、ところで!」思ったより近い距離にリズの顔があって吃驚したよ。

「なんでリズがここにいるの?護衛は?」

「護衛は鬱陶しいから撒いてきたんだ」

「鬱陶しい・・・」

そんなことで、撒かれた護衛って。

いや、それよりもリズに護衛っているのかな?王弟ぐらいの強さがないとリズを倒すなんて夢のまた夢だもんね。アルトがそう言ってたし、間違いないはず。

「で、ここにいる理由だけど・・・僕も聞いていい?」

「な・・・何?」

「フィリアはどうしてここにいるの?」

どうして、と言われると・・・・・・。ぼっと治まったはずの熱が顔に集まり、脳が沸騰する錯覚を覚えた。

「わ!わ、私はその、何と言うかそう!自然と足が動いて」

「はい、嘘」

あっさり看破された。

しかも顎をつかまれて、くいっと上に動かされた。なにこれどう言う状況?ぱちくりと瞬きをし、ボンっ!と言う破裂音が頭の中でした・・・気がする。

距離が!

近い!

「か、かかかかかかかか顔が近いんだけど?!」

「近づけてるからね」

にこりと笑って、また距離が近くなる。ひぃ!

「――――ま、それよりもこっちにおいで」

おいでって・・・。

「勝手に入っていいの?」

「僕は、許可を得てるからね。問題はないよ」

「でも、何か用があったんでしょ?私は帰るから、用事をすませてぅわあ!?」

リズの姿が消えたと思ったら、膝裏に手を入れられて身体を持ち上げられた。え、これって噂のお姫様だっこ?!まさか私が体験することになるとは・・・。うわぁ、ルキが「したい、して欲しい!」って騒いでたやつを私が先にしちゃうなんて。

すっごく、妙な気分。

そして恥ずかしい。

「あ、ああああああああの・・・リズ?」

思っていたよりも不安定な体勢に両手を意味なく動かし、そろそろとリズの首に腕をまわせば砂糖と蜂蜜を煮詰めて作ったデザートに、メープルシロップをかけたような、そう!胸やけと胃もたれを起こすような甘くて蕩けるような眼差しを私に向けていた。

双眸に宿るモノはどろりとした、独占欲に似た依存の感情。

そこに混じる恋情や愛慕を見つけ、私の胸が騒がしく動く。ううぅ、沈まれ心臓!

「て!ちょっとまってお願い待って!何事もなかったように歩かないで!!」

「却下」

「即答!」

「フィリアが本当のことを話してくれたら、お願い、聞いてあげるよ?まぁ、僕としてはずっとこのままでもいいんだけど」

やめて、本当にやめて。

心臓が破裂して死ぬから。

「リズは!・・・・・・・・・いつから、私のことが好きだったの?」

「最初に逢った時から」

「っ・・・!こ、心変わりとか、愛想をつかしたりしなかったの?」

「まったく」

さらりと即答するリズに、本当のことを話せずに違うことばかりを尋ねて・・・うぅ。

素直になれたらいいのに。

「それで――ここに来た理由は?」

あ、これ素直に言わないとヤバいやつだ。

笑顔に威圧され、本能的な恐れに息が止まりかけた。ちょっとリズ、王弟に似すぎてない?将来が怖いよ私!

「リズに逢いに王城へ行こうと思ったけど時間が時間だしどうしようかなって思ってたらここに来てました!」

だからひっこめ、その笑顔!!

「僕に・・・」

驚かれた。

「そっか、僕に」

そして嬉しそうに笑われた。

「ねぇ、フィリア」

私の身体を長椅子に下ろし、跪くように前にあるリズの、見上げる柔らかな視線に肩がびくりとはねた。さっきとはまた別の、熱を帯びたその瞳に魅入られて眼がそらせない。

そっと、持ち上げたリズの右手が私の頬に触れる。

指先が遊ぶように頬から額、耳の輪郭をなぞり、顎を伝って唇に触れた。

「カルナに家族偏愛があるって知ってた?」

唐突な台詞に首を傾げながらも、首を横に振った。

だってステータスを見るまで知らなかったしね。・・・知りたくもなかったよ。

「だろうね。フィリアは鈍いから」

「・・・ぅ、そ、そんなこと」

「なかったら僕達の気持ち、今まで気づかないなんてことないよね」

綺麗な笑顔から顔をそらした。

逃げじゃないよ。

笑顔の圧に負けただけだよ!・・・普通の笑顔ならそうでもないのに。いや、心拍数が急上昇して死にかけることはあるね。さっきがそれだったし。

「カルナの話に戻るけど、カルナが家族に偏愛的なのは家族なら腹違いの姉に抱く好意を家族愛と誤魔化せるからだよ」

「・・・え?」

「僕達が一目惚れした、って話・・・信じてなかったよね」

「だ、だって扱いが雑だったし」

「信じてなかったはずなのに、今は僕達を・・・いや、僕を意識してくれている。それはどうして?」

・・・ああ、ずるいよな。

確信を持っているのに、わざわざ私に聞くなんて。本当、ずるい。

顔を俯かせたいのに、顎を掴まれているせいでそれも出来ない。視線を彷徨わせれば、それすら許さないと両手で頬を掴まれて額を重ね、そらすなとばかりに双眸を覗き込まれる。

・・・リズは、ずるい。

「答えてくれないなら、僕は都合の良い方に勘違いするよ?」

「・・・ぁ、ぅ」

身体全体が熱くて仕方がない。

「勘違いしても、自惚れてもいい?」


▽嘘をつく ×

 「リズは・・・・・・私で、いいの?」 ↑


思考が熱で侵された私の視界に現れた選択肢によって、瞬間冷凍された。

「リズは・・・・・・私で、いいの」

けれど想いに嘘をつくのは嫌で、気が付けば口にしていた言葉。

「私で、後悔しない?」

我ならが吃驚するぐらい素直に言えて・・・恥ずかしくなった。

後悔ってなんだ、後悔って。言った後に恥ずかしくなる台詞、さらりと出てきたあたり私の思考回路はまだ熱で侵されてるんだ。そうに違いない。間違いない。

「僕がすると思う?」


その他:幼馴染依存 Max、庇護欲 Max、純粋溺愛 Max


リズが穏やかに答えた――直後に、何か見えた。

いや、庇護欲が庇護欲のままなのはいいんだけど、純粋溺愛って何?純粋に溺愛するの?なんか変じゃない?私の気のせい?考えすぎ?

言われた台詞よりも、見えるモノの方が気になって意識がリズからそれる。

「フィリア」

頬を掴まれ、強制的に視線がリズと合う。

「僕はフィリアが好きだよ」

穏やかに告げられた言葉に、首が痛いと文句を言えなくなった。

なんて眼で私を見てるんだろう。・・・恋とか愛とか欲とかをごちゃ混ぜにしたような、熱がこもって甘く胸やけがしそうな眼差しに眩暈がした。

「フィリア以外の女性に興味なんてないし、恋だの愛だのはた面倒な感情を抱くのはフィリアだけ。だから心変わりなんてしないし、愛想もつかない」

額から、鼻先、右眼、左眼と順に唇を落としながらリズが言う。

「どんな女性が僕の前に現れたとしても」

唇が重なった。

「僕はフィリアと結ばれたい」

「・・・それ、は」

「フィリア以外と結婚する気はない、ってことだよ」

楽し気に笑って、リズが私から離れた。

唇を右手で覆う。ほんの少ししか触れていないのに、まだ、リズの熱があるような気がして身体が熱くなった。うう・・・。

「アルトとカルナには僕から伝えておくね。――フィリアと婚約したって」

「う゛!そ・・・そうしてくれるとありがたいけど、その、大丈夫?」

「何が?幼馴染絆が壊れないか、とか考えてるなら問題ないよ。僕()、壊させるはずないだろ?」

笑顔が・・・怖い。

威圧されてる訳じゃないのに、輝かんばかりに美しい微笑みなのに、背筋が震えて仕方がない。てか、僕が・・・なんだ。

これってあれだよね。

幼馴染依存が原因だよね。

依存してるから絆を壊すようなことはしない、ってこと・・・なのかな?だったら私のことを。

「アルトやカルナを選んだら潔く身を引くけど、僕を選んだのはフィリアだよ?手に入れた宝を僕が手放すと思う?いくら幼馴染でも手渡すと?譲ってあげるような優しい人間に見える?」

「こ、心でも読んだの?」

「顔に書いてたよ」

優しくデコピンされた。

「まぁ、それについては後々、認識を変えさせればいいだけだよね。父上も言ってたし」

王弟は何を言ったんだろう。

不敵に笑うリズが格好いいなんて、もう私、末期。

「あ、そうだ」

ふいに呟いて、リズが私の右手を掴んだ。

痛い程ではないけれど、振り払えない強さで腕を引かれるがまま腰を上げ、足を動かす。祭壇の前で立ち止まったリズが、ふわりと華やかに微笑んだ。――本当に心臓が止まったかと思った。

月明かりに照らされた、地母神が描かれたステンドグラス。様々な場面のかの方が描かれている。特に眼を引いたのは正面にある大きなステンドグラスで、世界樹を抱きしめる姿が描かれていた。

よくよく見れば、地母神の後ろに魂の管理者と名乗った彼がいる。

そんなステンドグラスを背に立つリズは正直、どんな名画よりも絵になって、どんな神よりも神秘的な存在に見えた。・・・即座に知っている神を思い出して思考を捨てる。

あっちの方が上だ、上。

けど、地母神や魂の管理者に逢わなければそう思ってしまう程に、リズの姿は儚く美しく、そして輝いて見えた。

・・・いや、ただの惚れた欲目かもしれない。

「――――って!え、あ、え?!り、リズ・・・?何して」

「フィリア」

視界からリズが消えたと思ったら、私の右手を握って片膝をついている。

うわ、これ物語の挿絵でみたことがある。

囚われの姫を救い出した勇者とか、見眼麗しい男性単品がこちらに向かって手を差し伸べてるやつだ。それとそっくりなことをリズがしている。・・・なんで?

「僕と一緒に生きて」

掴まれている右手の掌に唇が触れた。

「ずっと僕の手を握ってて」

その台詞は、遠い昔に聞いた・・・・・・・・・気がする。

あれはいつだっただろうかと、リズを見下ろしながら過去を思い出していれば手を握ったままリズが立ち上がり、私を抱きしめた。額に触れる柔らかな感触。ついで頭の天辺で感じた何か。

「覚えてないかもしれないけど、昔ここで、僕は今と同じ台詞を言ったんだよ」

「・・・ぁ、出逢った次の日」

「そう。護衛をつけずにフィリアの家に行って、フィリアを連れてこの教会まで来たんだ。・・・なんでか解る?」

首を横に振った。

「この教会でね、父上が母上にプロポーズしたんだ。・・・結婚前に、だけど」

ん?

「決意証明みたいものかな?父上の真意は判らないけど、母上はそう受け取ったんだって聞いて、僕も好きな・・・愛する人が出来たらここでしようって決めてたんだ」

「・・・ませた子供だね」

「まさか僕も、聞いて三日後にやるとは思わなかったよ」

ぐりぐりとリズが頭を肩に押し付けてくる。地味に痛い。

「ねぇ、フィリア。あの時、自分がなんて言ったか覚えてる?」

覚えてるはずがない。

漠然とした記憶だし、かすかに思い出しただけの過去で自分の台詞まで覚えてるはずがない。三日前の朝ごはんが何かも思い出せないのに、無理言わないでよ。・・・記憶力の良いリズは別だろうけど。

「酷いなぁ、フィリアは」

まったくそう思っていないくせに、何を言うのか。

「ま、あの時もそうだったけど」

溜息をつかれるようなこと、言ったのかな?

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・むぅ。

駄目だ、全然思い出せない。

「それはともかく」

教えてくれないのか。

困惑の眼をリズに向けたら、宥めるように頭を撫でられた。拗ねてないよ。

「フィリアは僕が護るよ。僕が持てる全てにかけて、傷一つ負わせない。不安にもさせない。身体も心も、僕が護る」

一歩、リズが後ろに下がる。

「だから僕だけのモノでいて」

リズの右手がゆっくりと首元に近づき、指先が首をなぞる。

「僕から離れないで」

左手も首元に近づき、まるで首を絞めるように回された。

「僕と一緒に」

それでも抵抗しないのは、リズがそんなことをしないと解っているから。

「最後は死のう・・・?」

「まさか教会で心中宣言されたよ」

予想外の言葉に、いやこれも依存によるせいなのかな?と思いながら苦笑した。

私は首にまわされたリズの手に触れ、困ったように眉を下げる。なんでそう、今にも泣きそうな顔をしてるんだろう。しっかりしてよ。王族なら、ポーカーフェイスは必須でしょ?アルカイックスマイルはどうしたのさ。

「仕方ないから、一緒に死んであげる」

でも、と言葉を続ける。

「それはお互い、ヨボヨボのシワだらけになったらだよ。それまでは、私と一緒に人生を歩こう?一緒に、生きて行こうよ――リズ」

私は確かにリズが好きだ。

幼馴染にだけ見せるふとした表情とか、私にだけ向ける瞳の色。触れる手の優しさに、想いを自覚した今だから解る嘘偽りのない言葉の数々。雑だった態度ですら愛おしいと思えるくらいに、私はリズを愛している。・・・なんて、恥ずかしくて言いたくないけど。

でもまぁ。一緒に死んでと言われて、いいよと頷けるのだから末期かもしれない。

恋って恐ろしい。

「・・・?」

リズが首から手を離した直後、肩に重みを感じて首元に触れた。

冷たい金属の感触がする。これは・・・?

「これ・・・ネックレス?」

リズが身に着けていたはずのネックレスが何故、私の首に?

「ネックレスってさ・・・首輪みたいだよね」

「・・・ん?」

物凄くいい笑顔で、何を言ってるんだろう?

首輪?

私は犬猫になった覚えはないけど。

「コレを僕がつけていたことは知られてるから、フィリアは僕のモノだって言うのは周知の事実になるよね」

えーと・・・それはつまり。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・リズのファンに、目の敵にされて悲惨な眼に会うってことかな!

「・・・か、返す!」

慌てて首に下げられた、上品でいて見て解るほど高そうな紅玉(ルビー)の宝石がついたネックレスを外そうとするけど・・・その前に何故か、口を塞がれた。

リズの唇で。

さっきよりも長い口づけに息が出来ず、堪らず口を開ければにゅるりとした何かが口内を荒らす。うわ、なにこれ!?

「ふっ、んぁ・・・」

「・・・ん。駄目だよ、外しちゃ」

ゆっくりと顔を離し、こつんと額が重なった。

近い距離とキスのせいで視界がぼやけてるけど、間違いなく、リズは楽しそうに笑っている。意地悪な顔をしているに違いない!

「僕の許可なく勝手に外したら、人前でキスしよっか」

「!?」

「それか」つつっと、鎖骨を撫でられて身体がはねた。「見えるところに痕を残した方がいい?」

疑問符がついているけど、「つけるぞ」と言う脅しに聞こえて仕方がない。

いや、実際にそうなのかもしれない。ひぃとおののく私の首筋を舐める舌が、徐々に下に向かって・・・いや、いつの間に舐めてるの?!やめて!

「解った!解ったからやめて!本当にやめて!」

変な感覚に背中がぞわぞわする!

妙な気分になってくるからやめてください、後生ですから!

泣きそうな気持ちでそう言い、リズの肩を押せばあっさりと離れてくれた。そのことに安堵し、涙が溜まった眼でリズを睨む。

「変態」

「フィリア限定だよ」

良い笑顔で何をいうのさ、馬鹿。

・・・いや、一番の馬鹿はそんなこと言われて胸が高鳴った私かもしれない。

心臓、持つかな?

「それじゃあ、フィリア。――行こうか」

穏やかに微笑むリズが差した手に、手を重ねた。


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