プロローグ-1
世界というものはいつの時代も気まぐれなものである。
しかもそれには絶対的な拘束力が働き、内容もまた複雑怪奇であることが多いためなお性質が悪い。
だけど、流石にこれは意味が分からない。複雑というか普通にありえない。
気まぐれとは世界の法則も捻じ曲げるほどの力を持っていただろうか、目の前で発生した出来事は明らかに常軌を逸していた。
簡潔に言うならば、空間に吸い込まれたのだ。いやこれには語弊があるだろう。空間が喰われたというのが正しい表現だろうか。
目の前にそれが開かれた瞬間、世界から青空が消えた。代わりに出現したのは真っ白な画用紙に真っ黒な絵の具を垂らしたような光景。
一瞬にして別世界のようになったそこに次に襲い掛かるのは嵐である。人間を吹き飛ばすのには十分な威力の風が体に襲い掛かる。もちろん立っていることなど出来るはずもなく、足が浮く。要因は風だけではない。重力も消え失せていた。床も無く、自分の体を押さえてくれる重力も無いというのはここまで気持ちの悪いものだったのか。ただでさえ、状況把握に手一杯で忙しい脳みその思考容量を削っている。
そして今もこの世界の中。あれからそこそこの時間が立っているが出口などは見える気配がない。もうこのまま一生ここで過ごすのかとなると、思わず涙が出てきそうになる。
きっとこれは夢だと、朝起きたらふかふかなベッドの上にいるのだと、明後日の方向へと思わず思考を飛ばしたくなる。
もう先ほどから頭の中がパンク状態だ。最初のパニック状態などいざ知らず、かえってこの謎の状況が脳を満たし余計な思考をさせないようにしている。いやそれだけでは無い。現実味の無いのもそうだし、何よりこの乱気流が体内の血を一箇所に集中させているせいで頭にあまり血がいってないからだ。
この謎の空間に終わりは無いのだろうか?
ああ、そろそろ意識が飛ぶ。もう俺に出来るのは、死なないように祈ることだけだ。
起きた時には、こんな暴風が吹いてなくて重力のある場所でありますように、と。




