洗脳
休憩時間が終わり、ツキト、ヒビキ、サキ、リリィ、ショウタの勝ち残り組と、タツヤとハクアなどの観戦組の二組がステージ側と観戦席側に別れて集まった。そして何故かミニスカートのメイド服姿のアユナがショウタの後ろに控えている。まるで本物のメイドにでもなったかのようだ。
『それでは二回戦を始めます。対戦カードを見て行動をしてください』
実況室がある所の下に設置されている大型のスクリーンに組み合わせが発表される。二回戦第一試合は、ヒビキと第一試合でタイガを瞬殺にしていたポニーテールのサキ。そして脳筋スタイルの戦い方が目立った小柄のリリィと一人だけ異様な勝ち方をしたショウタだ。そして俺はというと幸運なことにシードだ。
というか初戦も不戦勝だったのでまだろくに戦っていない。
(正直ひまなんだよなぁ)
SPもほぼ回復したのでできれば、早く試してみたいし使用しなければ解らないこともあるはずだ。ぶっつけ本番になってしまうからこそ、不安を感じずにはいられない。そうしているうちに、二回戦第一試合サキとヒビキの試合が始まった。
「はぁ!」
今度は刀を隠さず腰に装備したサキは、開始と同時に一気に距離を詰め高速の居合いが放たれる。やはり何かしらのスキルによる効果によるものなのだろう、もしもサキが剣道などの武術の達人だとしても普通の人間に出せるスピードではない。弓を具現化して戦うヒビキにとってはロングレンジから戦えるヒビキに分があるように思われるが、接近してしまえば話は別だ。高速の攻撃が至近距離からヒビキを襲う。
「よっと」
しかし、ヒビキは、上半身を反らし紙一重で避ける。すかさず、サキとの距離を後ろに飛びながら取りその間にも、青い矢を無数に放ち反撃を加える。
『サキ選手の高速かつ高威力の一撃をヒビキ選手は、紙一重でその攻撃を避けすかさず反撃に転じる!これがスキルを手に入れてまもない者達の戦いだというのか!』
「やあああ!」
無数の矢の壁を物ともせず正面から切り捨てて、間合いを詰めるサキ。対して当たれば致命傷レベルの攻撃をギリギリのところで躱しながら、距離を取りつつ反撃をするヒビキ。まだ力を得てからそれほど時間がたっていないはずなのだが、二人の戦闘は、それを疑ってしまうほどに激戦なのだ。
しかし、よく観察してみれば直線的な動きが両方とも多く、直感と才能でここまでの戦いを繰り広げているのだ。
(サキの方はよく知らないけど、ヒビキは戦闘にしろスキルにしろ完全に素人だったはずだ……元から初めてやるスポーツでも、コツをすぐに掴んで高いレベルのプレーを無意識にやってのけるような天才肌だ。戦いになってもすぐに、自分のスキルを上手く使っている……やっぱり凄いな……!)
悔しいが、今まででゲームぐらいでしかヒビキとの勝負に勝ったことがない俺は、戦いでは互角に戦えるように、いや勝てるぐらい強くなりたいと自然と思った。
ヒビキとサキの試合もそろそろ終盤のようだ。お互いに致命傷を与えれていないまま、どちらも残りHPがあと僅かにまで減っていた。さらにこれだけの戦闘だどちらもかなりひへいしているだろう。
「はあはあ……しぶといわね……あなた」
「そっちこそ、剣道でも習ってたのかな?」
互角の攻防戦を繰り広げていた二人だが、最初から飛ばしていたせいか疲労が目に見えて出てきた。しかし、二人の顔には笑みの表情が現れていた。
「次で仕留めてあげる」
「なら、こっちも受けて立とうじゃないか」
サキは、抜刀の構えをとり姿勢を低くする。対してヒビキは、弓の弦を引き絞る。共に刀と弓を構えて沈黙が走る。長い沈黙の時間がその場を支配する。今までで実況していた人までもが言葉を発することなく、二人の決着がつく瞬間を今か今かと静かに見守っている。
「はあああ!」
先に動いたのは、サキだった。低い姿勢のまま一瞬で間合いを詰めに行く。
武器の間合いでは圧倒的にヒビキに負けているので必殺の一撃が届く間合いに入れれば勝てる自信がある。
(正面から来る矢を最小の動きで避ける。矢の操作にはかなりの集中力がいるはず……ならその隙を突く!)
「それならっ!」
しかしヒビキは、圧倒的な間合いのアドバンテージを捨てて突っ込んで来たサキに対して自らもも突っ込んでいく。
(馬鹿なの!?……それでもこの勝負貰った!)
サキの半径一メートル程の間合いにヒビキが足を踏み入れた瞬間必殺の居合いが放たれヒビキを襲う。
「ふっ!」
しかし、ヒビキは弓で刀を受け流しそのまま踏み込まれた足を引っ掻け、サキを転ばした。
「はい、俺の勝ち」
転倒したサキの喉元に矢を突き付ける。
「ふっ……降参よ」
『勝者……ヒビキ選手!』
こうしてヒビキの準決勝進出が決まった。
(あの動き、身体能力上昇系のスキルでも隠してやがったな)
ヒビキの動きからして、ただの弓を具現化するだけの能力ではないようだ。少なくとも、身体能力上昇系の能力も持っているのは確定だが、他の能力も持っているかもしれない。感心しながら、ディバイスのヒビキの欄にメモをする。
次の試合は、馬鹿みたいな攻撃力のリリィと謎のスキルを使うショウタのカードだ。
「ショウタって不思議なスキル使うよね?どんなスキルなの~?」
試合が始まって直ぐに、リリィがショウタに問いかけた。
「別にどうでもいいだろ?取り敢えずそのままリタイアしてほしいんだけど?」
(またか)
さっきアユナとの試合の中で『負けてくんね?』と言ってからアユナがおかしくなったのだ。だが、
「何いってるの?そんなのするわけないじゃん!」
(……は?)
リリィは、キョトンとしており特に問題は無いようだ。
「やっぱり無理か、レベル?いや…………か?それとも他の条件でもあるのか?洗脳も万能じゃないか」
(洗脳……なるほどな、精神攻撃系のスキルだったのか。初見殺しにもほどがあるだろ。レベル的なものかそれとも耐性によるものなのか?アユナって子に比べてリリィの方が精神的に強そうではあるが……それなら!)
俺は、ショウタの呟きを聞き、とある仮説を立てる。もしそれが正しければ……。急いでその場から離れる。誰にも見られない場所へ移動する。
(この仮説が合ってれば、アユナって子も正気に戻せるかもしれないし、何より対抗できる!)
ツキトが居なくなった直ぐ後にステージでは、とてつもない爆発音が、響き渡った。
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