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転生学園  作者: Kuroto
第一章
21/25

乙女の心と二丁拳銃《デュアルバレット》

学園内にある一年生の学生寮その1005号室のバスルーム。熱めのシャワーを頭から浴びているのは、水に濡れて一層神々しくなった銀髪とタンザナイトのように見るものを魅了する青色の瞳の少女ハクアだ。


シャワーを浴びながら、今日一日の事を思い出す。生まれて初めての体験だった。こんなに誰かといて楽しいと幸せだと感じたのは。


周りと見た目が違うだけでいじめられ、生きていても楽しいことなんてこれまでなかった。自分のこの髪や瞳を何度忌々しく思ったことか。どれ程嫌いだっか。


そんな私でも、好きになってくれた人がいたのだ。


「……はぁ」


熱を含んだ吐息が湯気で白く曇った浴室に小さく反響した。


お風呂から上がり下着を身に付けその上から大きめのぶかぶかのシャツを着る。どうにも体を締め付ける下着はあまり好きではない。部屋にいるときは大体パンツとシャツだけだ。


それから、髪を乾かしベットに向かう。それから、何をするでもなくぼーとベットに座っていると。


「ハクア」


後ろから大好きな人がハクアの名前を呼ぶ声がする。一緒に部屋に居ただろうかとも思ったが特に気にすることでもないので声のする方を向く。


「ツキト……?」


振り替えるとそこに立っていたのは一糸纏わぬツキトの姿だった。


「きゃっ……!どっどうしてはっ裸なの……!?」


反射で両手で顔を隠してしまうが、指の隙間からしっかりとツキトの裸体を凝視している。細身ではあるものの、しっかりとした筋肉はありその白い肌も女の子のハクアとしてもうらやましい物だ。


さらに、どうしたことか自分も何故かその小さな体は先程まで着ていたはずの衣服の一つも身に付けていない、ツキトと同じく素っ裸になっていた。


「どうしてって……!?」


何が起きているのか、この謎の状況に思考が追い付かないが好きな人に裸を見られている羞恥心とこの後の予想される展開に年頃の少女の脳内は、ピンク色で染め上がっている。


「俺……もう我慢できない……!」


ハクアの両肩をツキトは捕まえるとそう言い放った。その言葉に、ハクアの中で何かが弾けた気がした。


もう我慢しなくても……いいんだよね……♪


「ハクアも……きて」


年頃の男女の二人の唇が触れあおうとしたその瞬間……


ピピピッピピピッ!


設定したアラームによって甘い夢はあっさりと終わりを告げた。


重いまぶたを持ち上げると最近になってようやく慣れ始めた寮の天井が見える。太陽の光があまり好きではないので大きく開けた窓には黒色の遮光カーテンがかけられておりその隙間から朝日の光が入り込んで暗い部屋を照らしている。


昨日シャワーを浴びた後すぐに寝てしまったのだろうか、着替えた後の記憶が無い。寝起きで重たい体をむくりと起こす。


「……良いとこ……だったのにな」


先程の夢を朧気に思い出して顔を赤らめながら布団にしがみつく。元々恋という感情を知らなかったハクアは、スキルの効果で視たツキトという少年が自分と似た境遇であり、自分の好きなライトノベルを書いている人だと知った瞬間恋に落ちてしまったのだ完全に一目惚れだった。


あの日、夕焼けの下でツキトと溶ろけ合うようなキスをした後から一杯だった恋心は限界を突破して止まることを知らなかった。キスの快感を思い出しては、溢れ出る"愛"を自分で慰めた。


この夢のような夢は、いつか現実になってくれるのだろうか?


「うぅ~…………あ……学校行かなきゃ」


今までは大嫌いで行ってなかった学校も、この世界では楽しく過ごせて苦しまずに行ける。それもこれも愛するツキトが出来たおかげなのだろう。


「…………」


今ハクアはとても不機嫌だった。何故なら……


「全く……今度から気おつけてくださいね!」


「はい……」


ツキトと一緒に食堂で朝ごはんを食べようと待っていたのにいつまでたっても来なかった。


今ツキトは、遅刻ギリギリに教室に着てリリナ先生に起こられている。リリナ先生は、先生にもかかわらず同い年ということで赤く鮮やかな紅い髪、少し幼さを残した整った顔そしてモデルのような抜群のスタイルについている二つの"たわわな果実"。

ただの説教、なのだがツキトが他の女の人と喋っているという光景が気にくわないのだ。


(コレの気持ちが、嫉妬・・・)


今までに感じたことのない感覚にあまり好きな感覚ではないがこの嫉妬心もツキトが好きだからこそと考えると・・・悪くないと思うハクアだったのだ。


しかし、それを置いてもあの教師のおっぱいは大きい。自分の胸は自分の体型にしては大きい方なのだが、自分よりも大きいのを見ると色々と複雑な気持ちになる。


「今日……何で遅かったの?」


「ふぁ~……実は、昨日眠てなくて気づいたらこの時間だったんだよ」


あはははと苦笑いするツキトを見て昨日のキスを思い出してしまう。


「どうした?顔赤いぞ?」


「……大丈夫……なんでもない」


朝からドキドキしてしまった。これもツキトのせいだと、自分の中で言い訳をする。そんなことを考えているとHRも終わり授業が始まった。


それから午前中の授業が終わる。魔法の授業は、ゲーマーの血が疼き眠気なんて来ないが、この世界の歴史の授業は興味がなく寝てしまった。 


お昼休みは、いつものようにツキトと学食でご飯を食べる。最近では、ツキトと同じものを一緒に食べることがハクアの中での密かな幸せだったりする。


そもそもスキル【解析昇華】を使いツキトの記憶を視たことがあるので好きな食べ物や趣味、特技等々知りたい情報は全て知っていたりもする。


そう、ツキトの普通ではない過去の経験まで。ハクア自信も見た目による差別的ないじめといった過酷な人生を送ってきた結果引きこもりになってしまってしまったが、そんなものも"些細な事"と思ってしまうぐらいにツキトの過去は悲惨だったのだ。


(それでも……だからこそ……ツキトの事が好きになれたのかな)


似た境遇にある者同士だったからこそハクアはツキトに恋をしたのかもしれない。


「ハクア、俺とコンビ組んでくれるか?」


中間戦の事なのだろう。中間戦では、二人一組でダンジョンを攻略するためにコンビを組まなければならない。もちろん元々ツキトと組むつもりだったので断る理由はない。


「もちのロン」


「そっか、サンキュー」


それから、特に話すこともなく沈黙が二人を包む。しかし同じ空間にいるだけでも幸せを感じられる。もはやこの二人の間に言葉は不要になりつつあるのだ。


「ハクア」


「うん?」


またもやツキトに呼ばれ返事をする。何事かと思い一度ツキトの目を見る。


「授業が終わった後俺の部屋に来てくれないか?」


そう続いたツキトの言葉に自分でも驚くほどに顔が真っ赤になる。


「どっどうした?熱でもあるのか?」


「……(ふるふる)」


もう自分達は、何度かキスもした。一緒の布団で寝たことだってある。それなら次のステップに移るのも早くはない筈だ。


「体調が悪いなら別の日にでも……」


顔が赤いのを心配したのかすぐにハクアの体調を気遣ってくれる。うん、好き。大好き、愛してる。


(ああ……こんな早くに夢がかなうなんて……!)


「絶対に……何があっても……いく……!」


そうと決まれば今のうちに出来る準備をしなければならない。


すぐに食器をまとめて部屋へ急いで向かう。呆気にとられるツキトを背にハクアはその場を後にする。


そして一日の授業も終わり。


「なぁハク……」


「準備してからいくから……ツキトは部屋で待ってて」


「おっおう……了解……」


走らない程度に急いで部屋に戻る。そこには、小さくも戦に臨む女戦士の様な覇気をまとったハクアの姿があった。


「ツキト何?どうかしたの?」


「まさか……喧嘩?」


「いやぁ俺にもさっぱりなんだが……」


タツヤとショウも変に思ったのか知らないがここぞとばかりに茶化してくる。確かに昼頃からハクアの様子が変だとは感じていた。


(一体どうしたんだ?)


そう思いながらハクアが出ていった教室のドアを見つめていた。


部屋に戻ったハクアは部屋に入ると共に服を脱ぎ捨て、お風呂に入り隅々まで念入りに洗る。


(なんだろうな……♪)


下着はいつも白色の紐パンやフリルのついた物しか履かないが、今日だけは黒色の多少いやかなりセクシーな物を身につける。鏡を見ると自分の姿に顔を赤くしてしまう。


「もっ……もしものためだから……期待しる訳じゃ……」


体をくねくねさせながら口では誰に対してか言い訳をしつつも、色々な妄想でいやんいやんしている。思春期真っ最中の乙女の妄想を止めるものは誰もいないのだ。


そんなことをしていると、時計を見れば約束の時間まであとわずかまで迫っていた。支度を整えてツキトの部屋へと急ぐ。


「いらっしゃい。早かったな」


「そう……かな?」


「そういえば、この部屋に人を上げるの何気にハクアが最初だな」


ツキトにうながされて部屋に入る。そういえばそうだとハクアも今更ながらに思う。最初にどちらかの部屋に入ったときはハクアの部屋だったため二人っきりになるときは必然的にハクアの部屋と決まっていた。


そうやって密かにツキトの初めてが自分だったことに嬉しさを隠せずにわくわくしてしまうのは仕方がないことだろう。


寮の部屋は、全て同じ作りで、玄関から入ってすぐ右側にトイレがあり左側は八畳程の空き部屋がある。その隣の部屋も同じ広さの部屋がありトイレの隣は浴室になっている。さらに浴室の隣はキッチンスペースになっていて玄関から真っ直ぐいったところにはちょっとしたリビングになっている。


「お茶淹れてくるから少し待ってて」


そういうとツキトはキッチンの方へ行ってしまう。今いる部屋は玄関側から数えて二番目の部屋だ。内装は、白と黒のモノクロトーンで統一されていて落ち着いた感じだ。しかし部屋の中には備え付けのクローゼット以外は、ベッドと作業用ディスク、イスだけしかなく片付いているというよりかは、かかなり殺風景だ。


ベットに座り軽く横になってみる。ベットからは、微かにツキトの匂いがする。


(クンクン……はぁ~ツキトの香り……)


しばらくシーツに染み付いた残り香を堪能すると次に枕の方に顔を突っ伏する。


(ツキトに包まれてるみたい……)


恋人の香りに包まれてほうけていると、ツキトがティーセットを持って戻ってくる。急いで座り直す。


「どうかしたか?」


「……なんでもない」


どうにかばれなかったと胸を撫で下ろす。そして淹れたての紅茶を貰う。何時もはジュースばかりなので初めて飲んだ紅茶がこんなに美味しいとは思わなかった。


「おいしい♪」


「よかった。こっちの紅茶の方が以外と美味しいんだよ。多分方法が違うだけで文明レベルでは日本なんかよりも進んでるのかもな」


異世界といって想像するのは、中世ヨーロッパ程の文明レベルに魔法等の要素を合わせた幻想的なイメージだろう。しかし、実際に見て見れば文明レベルをとっても元の世界とも勝るとも劣らない。しかもそこに魔法やスキルといった空想の中の物でしかなかった要素が組み込まれているのだ。


雑談を踏まえながら紅茶を楽しむ。こんな何でもないことが楽しいと感じるのが、たまらなく幸せなのだ。ティーカップ一杯分の紅茶を飲み干し本題に入る。実際は我慢の限界だったのは内緒だ。


「ねぇ……部屋に来てほしいってどうしたの……?」


「ああ……それはな……」


ドキドキと高鳴る鼓動が部屋に響くのではと思うほど刻一刻と速くなっていく。


両肩にツキトの両手が添えられる。目をつぶりキスをするために唇を重ねようとして。


「出来たんだ……!」


「…………?」


閉じた目を開きぱちくりと瞬きをする。一瞬何の事なのか解らず頭の中が真っ白になる。


「ちょっと待つ待ててくれ!」


と言い残し部屋を飛び出していくツキトの後をハクアは、ただ呆然と眺める事しかできなかった。


戻ってきたツキトが持ってきたのはハクアもよく知ってはいるが実物は初めて見る物。黒色に青いラインの入った二つの大型のハンドガン。それを見て思い出す。ハクアはツキトがスキル【創造】を使い武器を作り始めたときに自分のも作って欲しいとお願いしていたのだ。


「こっ……これ」


その時作っていたのは刀だったのでてっきり作ってくれるのも刀剣の類いかと思っていたのだ。だが実際はどうだ。ツキトはスキルを使い近代兵器の一つである銃を作り上げたのだ。


しかし、ハクアが一番驚いたのはそこではない。【解析昇華】で知ったハクアではないと気づかないこと。そう元の世界の最後の記憶、ツキトはFPSゲームで戦い合った狙撃銃やナイフを使いハクアを負かしたあのプレイヤーだという事だ。


あのときハクアが使っていた武器が二丁拳銃だったのだがそれをツキトが知るすべは無いはずだ。二つ作るよりも一つだけの方が楽だったはずなのに。


「どうして……」


ツキトは照れくさそうにしながら答えた。


「ハクアに何の武器が似合うのか、どんなのが使いやすくて相性が良いのか考えたときに真っ先にこれだって考え付いたのが二丁拳銃だったんだ」


つまりツキトは感覚と直感だけでこの奇跡的な偶然を産み出したのだ。


「ほら。受け取ってくれ」


渡された二つの銃を手に持つ。銃は金属でできているため一つだけでも約二キロほどの重量があり、素人が持つと重くて扱えなかったりするのだがこの銃はオリハルコンやアダマンタイトといった鉄以上の強度と軽さを持っていて、さらに両方とも持っても重さをあまり感じない。


形はデザートイーグル等の大型ハンドガンであり細部の作り込みを見てもツキトのこだわりが見てとれる。


「ありがと……♪」


普段は表情の変化があまり無いハクアが嬉しさからか、あまり見せない笑顔にツキトはつい見とれてしまう。少し前までは、コミュ症の対人恐怖症で他人を信じることが出来ないほどだった。にもかかわらずハクアに出会ってから一目惚れや恋愛などあの頃の自分では考えられない事ばかりで日に日に自分にとってのハクアの大切さが増している気がする。


「どういたしまして」


ツキトはそう言ってハクアに抱きつかれたままベットに倒れ込み久々の徹夜の疲れから襲い来る睡魔に身を委ねた。






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