スタートライン
夢にはその内容によって意味があるという。例えば、誰かに、何かに追いかけられる夢の場合は、現実で何かから追いかけられている事を指していたり、金縛りにあっている夢であれば人生が上手くいっていない事を指していたりする。そして、落下する事についてや死に関する夢にも、もちろん意味が存在する。
俺は何かに追いかけられている。何かなのかわ分からないがとても恐ろしく振り向いてその存在を確認することすら出来ないほど恐怖を感じる何かから。
「はあ……はあ……っ!?」
逃げるのに夢中で自分が今いる場所を把握出来ていなかった。目の前にはいつの間にか底が見えないほど深く暗い谷があり向こう岸まではかなりの距離がある。ジャンプをしても届くかどうかというところだ。
しかもいつの間にか、後ろには何かが目と鼻の先まで迫ってきていた。
「くっ……そおお!」
自棄糞になり、覚悟を決めて、思いっきり崖から飛び出す。空中を落下する感覚を感じながら、もしも飛距離が足りずに墜ちたらという考えが頭をよぎる。そんな恐ろしい想像はすぐに頭から追い出し、無意識に下を見そうになりつつ、ギリギリで向こう岸に着き逃げ切れたそう思った瞬間。
ガラッ!
「なっ……!」
足場が崩れてしまい目下に広がる深い深い闇の底へ落ちていく。長い長い落下する感覚を助からないという絶望に俺は無感情になりながら感じて……
グシャ……
原型を留めないほどに潰れた自分とその瞬間に響いた音を少し上からのアングルで見たのを最後に意識が暗闇に包まれた。
『……ください』
『起きてください』
聞いたことのない女性の声で意識が浮上する。寝ている間に悪い夢でも見たのか多少の頭痛と寝起きだからか上手く思考がまとまらない。
「にゃ……にゃんですか……?」
ぼーとしていて呂律が回らないまま答えると少女はくすくすと柔らかく笑った。笑われた事に少し恥ずかしさを感じ気を紛らわすために周りを見回し違和感に気づく。
さっきまで自分の部屋で寝ていたはずだが気がつくと、周りを白一色で染められた部屋に、目の前には見ず知らずの人物が一人が。聖女のような服を着た金色の髪と赤い瞳、少し幼く見える童顔が特徴的な少女が目の前に向き合う形で椅子に座っている。
「えっと……ここは?」
この異常な状況を少しだけ回復してきた思考でとりあえず何かを知っているであろう少女に聞いてみる。まだ自分が夢を見ている可能性もあるが、多分それはないだろう。視覚が聴覚が五感が伝える情報の多さから考えても、感覚的な直感もこれが現実であること答えているのだから。
「う~ん……難しい質問ですね」
少女は、少しの間考える様に目を閉じて右手を自分の頬に付け「う~ん」と唸ったかと思うと、次の瞬間には、「あっ!」と良い考えを思い付いたように両手を叩き答える。
「ゲームで言う初期設定の場所ってところですかね?」
「いや……ね?……と言われましても……」
少し自信がなかったのか疑問形で答えられても答えれる訳もなくとりあえずわからないということしかわからなかった。すると少女は付け足すように続けた。
「あなたは、さっきまでいた場所と別の次元へ渡るための手続きをする場所と思ってくれればいいですよ」
「てことは……つまり……」
「はい」
思い当たる節が一つだけある。だがそれが本当なのか、現実なのか、もしも違ったら死にたくなるような答えを言葉にする。
「異世界転生というやつですか?」
「異世界転生というやつです」
自分でも転生ものの小説などを書いたこともあるし好きで読んだこともあるが、実際に体験するとは夢にも思っていなかった。趣味とはいえ、物語を書いている事もあってこういうシチュエーションには心踊るというかテンションが上がるというか、一度は夢見る事が起きているのはなんとも興奮してしまう。しかし、何故か妙にテンションの高い女性とは逆に俺は少しだけ何か引っ掛かる物を感じていた。
(……あいつらは、どうしてるかな)
その事を思うと、さっきまで高鳴った思いが急に冷めていく。まぁ今その事をこの少女に言ったところで自分は元の生活に戻りたいかと言われれば即答で「NO!」と言う自信がある。
「本当です。あなた達には、この空間で学園生活をおくってもらいます。その学園でですね、あなた達"転生者"を鍛えます」
「学園生活?」
「はい。そのためにはまず、スタートラインに立つための力を手に入れるところから始めましょう」
すると少女は、スマホに似た端末と古そうな本を渡してくれる。達というワードに引っ掛かりつつも少女の指示に従う。
「まずその"ディバイス"は、学園で、必要になるので肌身離さず持っていて下さい。そして、この本はあなたが能力に目覚めるための切っ掛け《トリガー》になります」
そこまで聞くと古く分厚い本を読み始める。表紙をめくるが最初のページは白紙だ。はてと思いながらもう一度めくるがやはり何も書かれておらず白紙のページが続いている。何かの間違いかと思い少女に問いかけようとしたとき、白紙のページの中央に文字が浮かび上がってくる。
"キミは、何を望むんだい?"
気づくとさっきまで女性がいた場所に顔は見えないが、自分に似た青年がどこか聞き覚えのある声で訪ねてくる。
"何が欲しい?"
彼は、心に直接語りかけるように問いかける。俺は、考えることなくすぐに答えを口にする。
「俺は、自由が欲しい」
"自由?じゃあキミの言う自由とは、何を指すのかな?"
「現実はさ、自分が思っているよりも上手く行かない物だったんだ」
そう子供の時は、自分が想像することは通りにいくと思っていた。目標に向かってがむしゃらに頑張れば、努力すれば上手くいくと根拠なんてなかったが、そう思っていた。しかしそんなことなどあり得ないと、現実を知る事になるのはそんなに遅くは無かった。
「だからさ、もしも想像を現実にすることができれば……それは、誰にも縛れることがない本当の自由が手にはいると思うんだ」
これはただの望みだ。学校や社会、親等の息苦しく自分の心を、押し潰し押さえ込んできた鎖。そんな何重にも縛り付けられた重い鎖を、引きちぎり自由になりたい。想像したことを現実にしたいそんな叶うはずの無い願望だ。だから、その思いを小説として書き描いてきた。
"想像を現実にか……面白い!キミがキミであることをその想像で証明してみせよ!創造の力で全ての縛り付ける鎖をこの力で引き裂いてみろ!"
彼がそういうと本が光を放ち俺の体に浸透していく。その光はとても熱く全身に広がっていく。そこで俺の意識は、途切れた。
目を開けたらさっきの空間に戻っていて目の前にはさっきの青年の姿は無く先ほどいた聖女風の少女がいた。
「無事に力を手に入れたみたいですね」
女性は、ほっとした感じでいた。先ほど感じた熱さは夢だったかのように全く感じない。しかし、何か大きな力が宿ったような不思議な感覚がある。
「え?無事にって?」
「あっ言いませんでしたっけ?この本は、力を手にする代わりに、もし失敗すると本に魂ごと食べられちゃうんですよ」
なぜだろう背中がすごい冷たい。この少女はどこか抜けているとそう思ってしまった。
「まぁ、何はともあれこれでスタートラインに立てましたね」
女性は手をぱんと叩き、立ち上がる。それに続くように俺も椅子から立ち上がる。立ってみると少女は俺よりも少し小さく童顔も合わさって中学生位に見える。
「さて、今から入学式になります。死なないよう学園生活を頑張ってくださいね」
「えっ?ちょっ死ぬってな……」
不気味なワードについて慌てて聞こうとしたが、光に包まれて最後まで話すことが出来なかった。
「今回の人達は、なかなか面白い人達が多いいですね。しかし……親友と一緒になんて……」
少女の悲しそうに呟いたのをいつの間にか女性の後ろに一人の男が聞いていた。
「いつもいつもすまないな」
「あら、貴方がこの空間に来るのなんて珍しいですね」
女性は振り向く動作すらせずに初めから知っていたかのように答える。
「いやはや手厳しいな。ただそう易々と女神様に会いに行くなんて流石に私でも出来ないよ」
女性の皮肉に対して男の方も冗談を含めて言葉を返す。
「もうっ!あんまりからかうと拗ねますよ!」
ぷんぷんと音が聞こえてくるように分かりやすく怒る女性に男は「すまないな。ついつい虐めたくなるんだよ。だからすねないでくれ」と軽く返す。
「で、どうだった。今回の転生者達は」
急に真面目なトーンで話始める男に女性も真面目に答える。
「一人……いや三人ほど異常な力を発現した人がいますね」
「君が異常と言うとなると……それほど危険なのか?」
「そうですね……どっかの誰かさんみたいに世界規模で変革させる程と言ったらわかりますよね♪」
といたずらに笑いながら話す。
「いや~世界規模か……そんな人物が三人ほども、か……」
特にきにした様子もない男の態度に女性はジト目を向けながら見つめていた。
手違いで、最初に書いた文章が、全部消えて
新しく書き直したものです。
本とに凹みました。
でも最初のより良いのが書けたと思うので、
結果オーライですかね。