デートイベント
約束の日の朝、誰もいない学園の校門前にツキトはあくびを噛み締めながら立っていた。
初めてのデートということもあり、緊張していたせいなのか約束の時間一時間前に起きる筈が三時間前に眼が覚めてしまったのだ。
いつもなら迷わずに二度寝に入るのだが、ハクアとの約束もとい初デートに万が一遅れる様なことがあったら眼も当てられないので、ベッドに戻そうとする睡魔の誘惑を断ち切り、なんとかして起きたのだ。
ツキトが着ているのは、学園から支給された制服で紺色のブレザーに白色のYシャツに黒色のズボンといつもの格好だ。
デートなのだから少しはお洒落をしたかったのだが、急いで買っても自分のセンスだと事故しそうなので諦めた。
自動販売機から買ったブラックのコーヒーを飲みながら待つこと五分、寮の方からハクアが小走りでやってくる。
「はぁっはぁっ……まった?」
「いや、俺が早かっただけでまだ、約束の25分前だから気にするな」
「そっか……うん、そうなんだ……」
顔を赤らめるハクアに思わずツキトも恥かしくなってしまう。
本当なら、待ち合わせなんてせずにハクアの部屋に迎えに行こうかと言ったのだが。
「待ち合わせ……してみたい」
というハクアの提案で待ち合わせをしたものの照れくさくてなかなか話が進まない。前の俺なら「リア充なんて死ね」と心のなかで悪態をついているだろう。
「あー朝飯まだだろ?」
「……うん、食べてない」
「それじゃどこか食べに行こうぜ」
「うん……お腹……空いた」
そういっていつの間にか空になっていたコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てて街の方に歩きだす。
ツキトとハクアどちらも色恋沙汰には縁の無かった、社会不適合者の二人。少しだけでも手を伸ばせば手を繋げる程近い距離なのに初な二人はどちらからも手を繋げないままデートイベントは始まった。
前にタツヤとヒビキの二人と来たカフェに来ていた。
扉を開けると鈴の音が静かな店内に響く。この店いつ来ても人が居ないと思うのは気のせいだろうか。
「マスターおはよーす」
「いらっしゃい。おや?今日は可愛らしいお嬢さんをお連れのようだね」
「(ぺこり)」
ハクアはやはり人見知りのようで少し後ろに隠れながら挨拶をする。
ここにはあの日以来、通いつめていてすでに常連のようになっていた。そのお陰でマスターさんとも仲良くなれたのだ。
いつものテーブル席に座りメニューを見る。ハクアは、最初こそ緊張していたがメニューを見ながら眼をキラキラさせていた。ツキトは、何を頼むかすでに決まっているのでハクアが決めるまでその様子を眺めていた。
「これにする」
ハクアは、オムレツに決めたそうで注文をする。ツキトは、ライ麦パンのサンドイッチを頼む。
「お待たせしました」
注文をしてから少しして、サンドイッチとオムレツが出される。サンドイッチは、ライ麦パン特有の歯応えに濃厚なチーズとハムのちょうど良い塩加減でとても美味しい。朝はあまり食べない方だがこれなら重くなく食べる。
ふとハクアの方を見ると、じっとこっちを見ていた。目が合うと慌てて視線を剃らしてオムレツを食べ始めた。何かと思ったが数秒して気がつく。
「食べるか?」
「いいの?」
サンドイッチを渡すと、ハクアは顔を赤くしながらモソモソと食べ始める。
「……美味しい♪」
「だろ?」
しばらくしてから朝食を食べ終え店を出る。
「どこか行きたい所とかあるか?」
あまりここの街には詳しくないのでハクアに聞いてみる。
「一緒なら……どこでも良い♪」
「そうか」
それから、街を歩き気になった店に入ったり、美味しそうなものを見つけると買って食べ歩いたりと目的もなく二人で街を歩いた。
誰かと一緒に居る事がこんなにも楽しかったのは、タツヤやヒビキ達と違ったいうならば幸せに感じたのは初めてだった。いつの間にか日がくれて空が赤く染まっていた。
夕焼けに染まった空を見ながら公園のベンチで座る。
「ありがとな」
「うん?」
ハクア、きょとんとしながらツキトを見る。最近は、部屋で武器を創ることしか頭になくてハクアと話すことがなかったのを今更ながらに申し訳なく思った。
「俺、ハクアのこと一緒に居るてもりでいたけど、自分のことばっかで恋人らしいこと何もしてあげれてなかったな。寂しい思いさせてて……ごめん」
「……」
ハクアは、下げたツキトの頭を両手で上げると、いきなりその柔らかい唇をツキトのと重ねる。
「……許さない」
ハクアは、普段から口数が少ないのでその感情をあまり言葉で発しない。濡れたような瞳は輝くような白髪と相まって妖艶な魅力を放っている。
「だから……もっと……証明してほしい……」
「ああ……わかった証明する」
再び二人の唇が触れ合う。しかしさっきのようなキスではなく、お互いの愛を確かめ会うように甘く濃厚なキスだ。
「はむ……へろ……うんっ……」
「ぷはっ……」
唇が離れた後も銀色の糸が引く。今更ながらに恥ずかしさが込み上げてきたのか二人とも夕焼けよりも赤く顔を染める。
「そろそろ戻るか」
「うん……」
帰路につくツキトとハクア。何の躊躇も恥ずかしさもなく、自然と手を繋ぐ。こうして初めて同士のデートは終わりを迎えた。




