Sクラス
気がついたらベットの上で寝ていた。どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。
「えっと、たしか……」
寝起きの働かない頭を無理やり働かせて、寝る前の事を思い出す。
俺は、ハクアの部屋に呼ばれて、いろいろあった後に新しくスキルを創っていた。スキルを創るにあたって一番大事な事は、創るもののイメージだ。もともとスキルという概念がない分アニメやゲーム等の空想上のものをイメージし作り出すことは可能だ。しかしそこで問題になってくるのが、どこまでイメージが行き届くかどうかだ。実際構造が単純なものは苦労することなく創り出すことが出来る。ただ、構造が複雑なもの、例えばパソコンやスマホ等の機械的なものや銃等の細かい部品がいくつも必要な物は創り出すのは困難を極める。そうなると実体がないものや現実に存在ないもの、つまり空想のもの例えばスキルともなれば難易度も跳ね上がってくる。
初めて創ったスキルである【五感超越】と【身体掌握】は、元から把握している自分の肉体能力や感覚の強化だったからかそこまで苦労せずに創ることが出来た。【幻影】は実はイメージしていたものと出来上がったスキルの能力が少し違っていたのだ。
俺は、自分の視界に写ったものに対してリアルな幻つまり強制的に相手に幻覚を見せるスキルを創るはずだった。しかし出来上がったスキルは、視界に写ったものや触れたものに幻を見せたり影を操ることの出来るスキルとなっていた。何故、影を操るという効果が追加されたのかは憶測だが、もしかしたら記憶にあるアニメやゲーム、ラノベの情報が影響したのかもしれない。もしくはスキルを創った時の違い、いつの間にか獲得していたユニークスキル【異端者】があるかないかの違いだ。この謎のスキルのせいで創ったスキルに変化があったとするなら今後は、慎重に創るしかない。
しかし、今回はイメージ通りの効果を持ったスキル【万象操作】というスキルだ。その効果は、直接または、魔力などで繋いだり触れたものを自分の意思によって自在に操ることが出来るというもの。ただし対象に意志がある場合は、同意を得なければ勝手に操作することはできない、という制限はあるがそれでも十分に強力なスキルには違いない。
ただし、その代償も大きかったようだ。思ったよりも作成に時間とSPを大量に使って何とか完成させたのはいいが、その後一気にSPを失ったためか強烈な脱力感と疲労感で意識を保つのが難しく結局、そのままハクアの部屋で寝落ちしてしまったらしい。そして、今ちょうど目が覚めたところだ。寝起きのせいか、妙に体が重く感じる。いや、というよりは何やら胸の上に物理的な重さを感じる気がする。
「なん……だ?これ?」
温かくそれでいて僅かだが規則的に上下に動く謎の物体の正体を確かめるために掛け布団を持ち上げる。
「……ん……みゅぅ……」
何故かハクアが器用に俺の胸の上にいた。つまり、二人でベッドで寝ていたということになる。いや勝手に寝落ちしてベッドを使ったのは俺が悪い。だが初めてキスした男とその日の夜に一緒に寝ようと普通思うか?しかも俺の体に覆い被さるような超密着する体勢で。
(こっこれは……)
胸に感じる柔らかく、それでいて押し返してくる程の弾力性を兼ね備えた2つのたわわな果実。ハクアは身長のわりには、そこそこの大きさを持っていて趣味のイラストを描いている俺の目から見たら少なくともC……いや、なんでもない。
ライトノベルやそれが原作のアニメとかでは割りとよくあるが、生まれて初めて朝チュンというものを体験し、ラノベを書いている人なら一度でも体験してみたいランキング上位に入る貴重な体験に感動すら覚えてしまう。
「しっかし、いつまでもこのままって訳にはいかないか」
いつまでも見ていたいがそうにもいかない。時計を見ると、もうすぐ8時を回ろうとしていた。そろそろ起きて登校の準備をしなければならないからだ。ハクアを起こそうと手を頭に伸ばそうとしてふと思う。
(そう言えば俺は、ハクアと付き合ってるって言えんのか?)
ちょっとした疑問は、最初こそは小さかったが頭の中で放って置けば大きくなりやがて手に終えなくなるガン細胞の様に急激に大きな不安となり、なかなか頭から離れなくなっていた。確かめようにも何と質問すればいいのかわからない。付き合うというのはまず、男女のどちらかが告白をして、更にされた方がそれを受諾つまりOKを出して初めてカップルになるわけだ。
しかしこの場合、俺とハクアはどちらも告白わしたわけでもないのに、いきなりキスをしてしまった。つまりまだ恋人同士とは言えないのではないだろうか?
「んー?あっ……おはよぉ……」
「ああ、おはよ」
ハクアが上体を起こして「ふぁっ」と可愛らしく欠伸を漏らす。今ハクアにこの疑問をそのまま質問すれば解決するだろう。しかしその疑問は、心の中に押し込んだ。確かめたいと思う気持ちよりも、もしもと考えた可能性が答えを聞くことを恐れる気持ちの方が強かった。
時間も時間なので、この気持ちを今は心の奥底に閉じ込めて鍵をした。学園に登校する前にまずは、朝食を取るために学食へと向かう。
寮と学園の間に、学食という名のレストランのような規模の建物に足を運ぶ。学食は一年の寮と他の学年の寮や、学園からも距離的に中間の位置にあり多くの学生で賑わっていた。全体的に中央のテーブルや四組の席がいくつかある人気の席にバルコニーのようになっている日当たりの良いところは、人で埋め尽くされている。
入り口のところに、今日のメニューが見れる液晶画面が台にはめ込まれており、そこで料理を選ぶと引換券が出てくる。それを取り、トレイを持っていて長い列を並び引換券を受付のおばちゃんに渡して料理を受けとる。人混みが嫌いな俺とハクアは、人気が無い壁際のテーブル席を確保する。
俺はコーヒーとトーストにサラダ、ハクアはミルクにフレンチトーストを選んだ。ここのは、飲み物と一品セットで500ポイント。おかわりは飲み物がドリンクバーの様に無料で料理が300ポイントだ。
毎朝10秒飯が普通になっていたのでしっかりとした朝食は、久しぶりだ。カリカリに焼かれたトーストにマーガリンを塗って、その上にイチゴジャムをつける。ハクアは、フレンチトーストにたっぷりというよりは皿の上に零れるほど蜂蜜をかけて、それをナイフとホークでもそもそと食べている。
特に話もしないままゆっくりトーストにかじりつく。トーストにイチゴジャムの甘さとほどよい酸味が口に広がる。それをブラックの苦いコーヒーが甘くなった口の中を、リセットしてくれる。コーヒーのお陰でやっと眠気が引いて思考がクリアになっていく。もう一口トーストに、噛りつこうとしたときに聞き覚えのある声で呼ばれその方向に顔を向ける。
「ツキトーおはよー」
「あれ?もしかしてお邪魔だった?」
ヒビキとタツヤがトレイを持ってやって来た。どちらもニヤニヤした顔をしているのを見るとどうしてもイラッときてしまう。
「おう。一緒に食うか?」
とりあえず、タツヤを軽くどついて一緒に朝食をとる。いつの間にかハクアは、俺の隣に移動していたのをみて、しまったと自分の配慮が行き届かなかったことに申し訳なく思う。ハクアが重度の人見知りだということを忘れていた。
「あっ……大丈夫か?」
「うん……だいじょーぶ。ツキトの友達ならへーきだよ?」
「そうか……今度から気を付けるな」
「うん……ありがと」
「朝から熱々だなー見せつけてくれちゃってー」
「ひゅーひゅー」
「お前らなぁ……!」
テーブルの下から二人の脛に軽めに蹴りを入れる。
「いでぇ!」
「いっ!蹴らなくてもいいだろ!」
タツヤとヒビキから、文句が飛ぶが俺がハクアの方に目線を向けると二人とも、俺が何について怒っていたかを察したようだ。ハクアは、耳まで真っ赤にしてうつむいてしまっている。
「あっ……えっとそのーごめんなさい」
「もーしわけない。悪ふざけが過ぎた」
「だっ……だい……じょうぶ……です……」
「たく……あまりからかうなよ。ハクアも俺と一緒で対人恐怖症なんだから」
その後、先程のような事故もなく、軽くハクアにタツヤとヒビキの事を紹介する。少しは馴れてくれたのか普通に喋れるくらいにはなったみたいだ。食べ終わった後に四人で教室に向かう。その間に予想はしていたが、タツヤとヒビキがハクアのことについて言及される。
「それで?ツキト君、どうなの?ハクアさんとは付き合ったの?」
「え?どっちから?ねえねえ~」
それはそうだろう。ヒビキは、察しが良すぎて俺がハクアに一目惚れしたことを見抜いており、今日の朝から一緒に居たのだから知りたがるのは仕方がないだろう。しかし、その事については俺自身でも良く分かっていないのだから。
「どうだろう。仲良くはなった、と思う」
「なんだよ。まだ付き合ってなかったのか」
「あっまだなの?」
タツヤは察しが悪くて助かるがヒビキは、小さい頃から勘が鋭かったから油断はできない。
「な~んだ。てことはキスもまだなんだ」
タツヤの何気ない発現にドキッと心臓が跳び跳ねた。何とか顔には出さなかったが背中に冷たい汗が流れる。
「当たり前だ!なにいってんだよ」
「ふーん。まぁ頑張れ」
ヒビキの何かを含めた言葉に何か怖いものを感じた。
そのあとはとくに何もなく朝飯を食べてていたが、再び胸の奥で燻っているもやっとしたものが不安を掻き立てるが、苦味の強いブラックコーヒーと一緒に流し込んだ。
朝食も済ませて教室に移動する。自分の席に座り、しばらくして教師が教室にきてSHLが始まる。
「これから事前にディバイスで連絡していた通りクラス決めをするから全員体育館に移動する。付いてきてくれ」
はて?連絡なんて来てたっけな、と思ったが昨日はそれどころじゃなかったのを思い出す。
教師のひとに着いていき体育館に入っていく。そこには、50人以上の人がすでに集まっていた。どうやらクラス別で並んでいるようで俺たちのクラスもそれにならって整列する。しばらくしてから、ステージの所に赤いストレートの美女というよりはまだ少女の幼さを持った、モデル顔負けのスタイルを持った女性が現れた。
「では、クラス分けを始めます。クラスは、先日行った新入生大会での成績等から順位付けをした上でクラス分けをします。1-CからB、AとありSといった『特殊技能』のスキルを持っていると思われる生徒を集めます。ただしこれはあくまでも初期のクラス決めであるのでランクが上がったり下がったりするとクラスも変わります。では、1-Cから名前を呼びます呼ばれたらステージにてバッチを受け取ってください。受け取ったら教師の誘導にしたがって教室に移動してください」
そしてどんどん名前を呼ばれていくが1-Bが終わっても俺、ハクア、タツヤ、
ヒビキは、呼ばれず他にもサキやリリィも残っている。
しかしそれ以外の同じ大会を受けた人はもう呼ばれてこの場には、残っていない。アユナや、ダイキといった新人戦で結果の出せなかった生徒は、1-Cの時点で呼ばれている。しかし、ショウタの名前は呼ばれておらず、またその姿も決勝戦以来見ていない。
「では、いまから1-Aの生徒を呼びます……」
ここまできても呼ばれないのでSクラスなのは確定だろう。
「1-S。今ここに残っているのは、この学園で規格外のスキルを持っていると思われる生徒です。Sクラスは、他のクラスよりも色々と特典がつきますので後で確認してください。ただし、Sクラスと己を過信し過ぎず、頑張ってくださいね」
こうしてツキト、ハクア、ヒビキ、タツヤ、リリィ、サキとその他に6人の生徒が合計12人が1-Sクラスとなった。
遅くなり誠に申し訳ありません。
言い訳をするとクラスをどのように分けるかや今後
のストーリーをどう組み合わせるかでなかなか
決められませんでした。
でも何とか形になったかなと思います。
これからも異端者の転生をよろしくお願いします!




