約束の答え
「…………」
何分経っただろうか?
今俺は、1025室つまりハクアの部屋の前に居る訳だが、なにもしないわけにはいかないのだが、かれこれ五分ほどたっていた。
「よし……!」
意を決して扉を叩く。
少し待つとゆっくりと扉が開き、ハクアが顔を見せる。
「……どうぞ?」
「何で疑問系?」
それから部屋に入り、座る椅子やソファーがないので仕方なくベッドの上にならんで座った。この部屋は最上階だからか、少し広い作りになっている。
(何だろうこの空気……)
さっきから、一言もお互いに話さず沈黙が流れているが、ツキトは緊張感と共に謎の安心感と何をすれば良いかわからずに落ち着かない気持ちをを感じていた。
陰キャはどちらかというと一人の時間や静かな時間を楽しみたいという謎の特性があり、気まずそうに見えるかもしれないがこれはこれで居心地が良いものだ。
しかしそれは自分の好きな人と同じ空間でもかと言われるとその限りではない。
それでも、ハクアも同じなようでツキトとの物理的な距離が縮んでいる。そして今では、手先が当たるか当たらないかギリギリのところだ。
「「…………」」
それから喋る事もなく、もうハクアとツキトは肩を密着させるほど近づいている。
(はぁ~幸せだ……)
ツキトは、この瞬間の幸せを噛みしめながら、目的を思いだし恐る恐る話し出す。
「なぁ、何で俺の事を月猫て呼んだんだ?」
少なくともスキルによるものだろうが、なぜそれを口にしたのかが分からなかった。相手の過去を見る能力や記憶を読む能力なら、相手が知られたくない情報を奪うことで脅しでもなんでもして負けさせればいいはずだ。
月猫という名前は、ペンネームでありゲームやSNSの名前でもあるが人に知られたとしても特になんともないのだから。現にタツヤやヒビキは知っているし。
だから分からないハクアが何を考えて俺を呼び出したのかが。
するとハクアは、体を密着させたまま答えた。
「……私のスキル【解析昇華】ってスキルの中で相手の記憶を読める効果があって知った……それに月猫さんが書いた小説……好きで……それ以来ずっと読んでる」
驚いた。どんな偶然かハクアは、ツキトの小説もといラノベの読者だったのだ。
「そっそうなのか」
考えもしなかった答えに、頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
「……だからね?」
そう言いながら今度は、ツキトの膝の上に股がり顔を近付け……
「ツキトのこと……もっと知りたい……」
至近距離で感じる少女特有の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
さぁ整理しよう。目の前には、一目惚れした美少女が居る。
そして、その子が顔を赤くしながらお願いしている。
……断る理由はあるか?
無いだろう?
「良いけど……」
パァァっと聞こえそうなどんな人でも魅了してしまいそうな笑顔をして、
「ツキトっ……はぁむ……」
「んん!?」
いきなりの事で思考が停止する。
柔らかな唇が自分のと重なり合う。
だってキスだよ?俺今では、保育園からの親友としかまともに喋れないコミュ障だよ?
「ぷはぁ……これからよろしくね?」
離れた唇は離れることを拒むかのように銀色の糸を引いていた。
ぺろりと艶かしく唇を舐めるハクアの姿にすっかりと魅了されてしまっていた。
「あっあぁよろしく……」
漫画も顔負けの急展開にハクアに振り回されっぱなしになっていたが、さすがに男としてやられっぱなしも格好がつかないということで、それから落ち着くために飯を一緒に食べて風呂に入った。
いやもちろん別々だよ?
ファーストキスを奪われたからってその場のノリで一線を越えることはしたくない。男の意地として。
風呂に入るとき、ハクアが顔を真っ赤にしながらチラチラ覗いていたのはあれだったが、念押ししたので大丈夫だった。
見た目によらず大胆というか勢いで突き抜けていくタイプなのだろうか。
理性が持つかどうかこの先が心配で不安だ。
それからまたハクアの部屋にて。
気になることがありハクアのスキルについて質問してみることにした。
相手の記憶を読む、確かに強力な能力だがそれだけではユニークスキルではなくEXスキルだろう。ユニークスキルならば、それだけの能力ではないはずだと思ったのだ。
「なぁ【解析昇華】ってスキルて具体的には、どんな能力なんだ?」
「えっと……いろんな物の詳しいことが解ってそれを力として昇華させられる」
まぁ要約するとこんな感じらしい。
・あらゆるものの名前、特徴、効果など知りたいことが知れる。
・解析した結果を自身の力として昇華することができる。
記憶を読むのは記憶までも解析対象に入るからだろう。
「ちなみに……さっきキスしたからかツキトのスキルも解析中。成功すればツキトのスキルも使えるようになる」
「まじか……」
つまりこのスキルの本当の恐ろしさはスキルのコピーが出来るという所にあるわけだ。
まさかのカミングアウトに自分の愚かさに泣けてくる。
ハクア本人も知らなかったようだが、キス等のアクションがスキルや魔法の発動条件になる可能性もある事が分かった。
幸いハクアだったからいいが今後こういう事が起こらないようにしなければ。
「ツキトさっきからなにをしてるの?」
今ハクアの隣ではツキトが一言もしゃべらずに目を閉じて座ったまま動いていない。それを不思議に思ったのだろう。
「ん?あぁ新しいスキルを創ってんだ」
「……すごい……どんなスキル?」
さっきお互いをよく知るために色々と話して知ったことだがハクアは、言わゆる引きこもりゲーマーらしい。
引きこもった理由は聞かないでおくがツキトと同種の存在だ。引きこるということは、何かしらの理由で周りから孤立して居場所が無くなってしまったという事だから。
「自分の想像道理に操作するっていう能力のスキルだ」
ハクアは、首をかしげて頭にクエスチョンマークをだしている。
「要するに体とか魔力とかを自在に操れるようになるためのスキルだ」
ハクアはしばらく考えてから気づいたのか、無表情な顔を驚かせている。
「……自在にって…」
ツキトは、悪戯な笑みを浮かべながら、自慢気に答える。
「そう!魔法が簡単に使えたりオリジナルだって余裕で使えるようになる!」
さらには、【身体掌握】や【五感超越】のスキルをより上手く使いこなすことができるかもしれない。
それから意気込んでスキルを創造していくが、かなりの集中力と明確なイメージが必要で話ほど簡単なものではない。結局スキルが完成するまでに二時間ほどかかった。
「やっと……でき……た」
ずっと集中していたからか一気に疲労感に襲われ抵抗する間もなく眠りについた。




