プロローグ
「はぁ……」
暗い部屋の中では、パソコンのファンの音と無意識に溢したため息が微かに響く。
目の前には、3つのPCのディスプレイが並んでいてそのどれもが別々の映像を写し出している。
真ん中のディスプレイには、書きかけのライトノベルの原稿があり、左側にはその資料とストーリーが大まかに書かれたページ、そして右側には今季のアニメが流れている。
ディスプレイの右下に表示されたデジタル時計は、日付が変わったことを静かに告げていた。
学校から帰るなりすぐに風呂を済ませて、パソコンを起動しウェブ小説の原稿の続きを書き始めた。これまでもいくつかの作品を完結まで書き上げていて、この中には実際に本になったのもある。
しかし、話の中盤に差し掛かったところでなかなか良いアイデアが浮かばずに時間だけが過ぎていく。新しいアイデアが浮かばず、しばらく画面を見ながら唸っていた。イメージが途中で浮かばなくなることなんて良くあることだが、このまま画面を睨み続けていても仕方がないと考え直し、気分転換にゲームでもすることにした。
狙撃銃を手に戦場の舞台である廃墟を駆け回り視界に入った敵兵の頭を片っ端から打ち抜いていく。
ソロで狙撃銃を使う場合は位置取りや立ち回りが肝心なので一ヶ所に止まらず狙撃ポイントを変える。移動のために今いるビルから次の狙撃ポイントへ移動するために、落ちてもダメージを食らわない二階まで降りて窓から飛び降りる。
それから半壊した二階建ての家に入り、割れている窓から路地裏の方へ出ようとした瞬間に、物陰から足音もなく急に現れた二丁拳銃を持ったプレイヤーと遭遇してしまう。
「うお!?」
このルートは敵が集まりやすく激戦地帯の中央から遠く離れており、あまりプレイヤーが通ることがない。ミニマップもしっかりと見ていたが敵の反応や足音などしなかった。しかしこのタイミングで遭遇したということと足音がしなかったのを見ると、この敵プレイヤーは俺がこのルートを通ることを僅かな時間で予測して先回りをしたのだろう。
ただし、こんな超至近距離ではわざわざスコアのためにヘッドショットを狙わなくても、体の何処でも打ってしまえば銃の中でも高い攻撃力を持つ狙撃銃の一撃ならば倒すことができる。
スコープを覗かず、慌てず冷静にエイムを合わし腰打ちで狙い打つ。しかし、相手の行動はそれよりも速く滑り込みによる回避で一瞬で射線上から逃れたのだ。
打ち出された弾丸は敵を撃ち抜くことができずに、むなしく地面に着弾する。撃った後に次弾を装填するための致命的な無防備の瞬間を相手は逃さず二丁拳銃の連射による反撃をまともに食らい倒される。二丁拳銃の強みである機動力と発射レートの高さを生かしたスーパープレイだ。
「やってくれるじゃねぇか……!」
それから、お互いに他のプレイヤーをキルしながらも二丁拳銃を持つプレイヤーと遭遇する度に互角の勝負を繰り広げていった。そうしている内に、五分もかからずにキル数が条件にまで達しゲーム終了となった。
そして、最終スコアを見ると二位のあのプレイヤーとは接戦していたが僅差で勝利することが出来た。久しぶりに熱い勝負ができて自然と笑みがこぼれる。
しかし、その他のプレイヤーのスコアは悲惨としか言いようがないほどに圧倒していた。送られるコメントを見ると、『芋り野郎消えろ』『芋ることしか出来ないゴミ』等々見るに耐えない誹謗中傷の嵐だった。
ただし二位のプレイヤーだけは、『次は負けない』となんとも嬉しいコメントを送ってくれていた。普段は絶対にコメントなんて送らないがこんなコメントを送られたら応じないわけにはいかないだろう。
『受けてたとう』
今度は、同じルームで狙撃銃よりも得意なナイフを手に戦場を走る。敵の後ろから、屋根の上から降りた瞬間、物陰からとナイフという他の武器と比べて圧倒的なリーチによる不利をものともせず当たればどんな敵でも一撃で倒せる武器中最強の攻撃力と最速のスピードを生かしほとんどデスすることなく一位を取る。
FPSというゲームジャンルにおいてナイフとは、移動速度と相手を一撃で倒せる攻撃力が持ち味の武器だ。しかし突撃銃や短機関銃といった銃がメインのゲームではいくら速く移動できたとしても攻撃しようと近づこうとするだけで無数に発射される弾丸の前にはほぼ無力と行っていい。
そんな武器でも立ち回りや敵の行動の裏を読み待ち伏せ、先回りをすることができればリーチの不利等は些細な問題にすぎないのだ。
これなら文句のコメントも来るまいと、意気揚々と送られてきたコメントを見ると、『チーター乙』『チートとかやるとかあり得ない』『ヤメロ』『通報しました』と先程よりも酷くなっていた。
「あーあ……何ですぐチーター扱いするのかねぇ」
着けていたヘッドホンを首に掛け椅子に深く座り込む。慣れたとは言え、このようなコメントを見ると好きな筈のゲームなのに胸の奥がチクリと痛む。あのプレイヤーからは、何もコメントは送られてこなかったが代わりにフレンド申請が来ていた。それを承諾した後にゲームを閉じる。
それから原稿の続きを書きだすが、やはりなかなか良いアイディアが浮かばない。頭の中では大体のストーリーが出来ているのだが、それを上手く文章に起こせないもやもやした感じがして、またもやため息をつく。
「ふぁ~あ……寝るか」
結局は、眠気には勝てずにパソコンの電源を落とし、アラームの設定をして布団に入る。何時ものように代わり映えしない日々を睡眠という数少ない幸せに身を任せ重い瞼を静かに閉じた。
「ふぁ……」
少女はパソコンでとある小説投稿サイトを見ていた。髪は幻想的な白銀色で瞳は美しく輝くラピスラズリを思わせる青色。下着の上には大きめのYシャツだけを着ており病的なまでに白い肌を申し訳程度にしか隠していない。
「更新日……また来週なんだ……」
今まで読んでいた『無彩色な記憶』という作品の最新話を読み終わり小さなあくびを一つする。その後FPSゲームを立ち上げるといつも愛用している狙撃銃を持ち廃墟を舞う。開始早々順調にキルしていくが、とある狙撃銃をもったプレイヤーにあっさりとキルされてしまう。
「…………」
FPSゲームにおいてチームバトルならいざ知らずソロでの戦闘で狙撃銃を使うのは狙撃銃好きの初心者か本当の上級者のどちらかだ。
それからというもの狙撃銃を使うプレイヤー、《tukineko》を探しては、狙撃ポイントを割り出し、一番得意な銃である二丁拳銃に持ち変えて、敵の行動を先回りしてキルしていく。しかし、それでもなお相手の方が一手二手先を行かれてしまう。その後も激しい勝負を繰り広げていくが、最終スコアで負けてしまった。
「……勝ち逃げは……させない……!」
使ったことの無いチャット機能で狙撃銃を使っていたプレイヤーに『次は負けない』とコメントを送ると『受けてたとう』と返信が来た。少女は、小さく笑うと本気で勝ちをとるために戦場を駆ける。
しかし、あのプレイヤーは先ほど使っていた狙撃銃ではなくナイフを使っていた。
最初は馬鹿にしているのか?と頭にきたが、すぐに気づかされることになる。神出鬼没、予測したとしても検討違いの場所から攻撃される。ほぼ互角の戦いができていたさっきまでとは明らかに違いキルが出来なくなっていた。
(これが……本気……!?)
ナイフの強みである機動力の高さと隠密性そして当てれば一撃必殺の攻撃。その機動力は銃の中では上位に当たる二丁拳銃をも上回り射程での不利すらも感じさせずまたもや負けてしまった。
まだ後一回と思ったが、三日連続徹夜していたためか、眠気が限界に達し半目だったのが瞼がほとんど落ちてしまい頭もこくこくと船を漕いでいた。気力で何とかフレンド申請を送り画面の電源を落とす。
(さっきの人……《tukineko》って名前……こんな偶然ってあるんだ♪)
大好きな小説家であり自分にとって"特別"な人でありそんな人と戦えた事は少女にとってこれまでの人生で一番の幸せだった。少女はベッドに這いずりこむと幸せそうに頬を緩ましながら小さな寝息をたてだした。
「いや、遅くなってすまないな。ちなみにこれで一体何人居なくなった?」
薄暗い部屋に入ると一人の男が部屋の中央で何かをしている。今部屋に入ったに白い服を着た男は適当に謝罪しながら話しかける。話しかけられた男は手元にある資料を読みながら振り返る事なく答える。
「前に25人追加して45人に……あーまた20人まで減ってんな。2回目だってのによ」
言葉とは裏腹に特に残念に思うというよりも気だるそうなだけのようだ。二人がいるのは、机は勿論だが椅子すらも無い部屋だがその床には、部屋のほとんどを占める程大きく描かれた精密で複雑な幾何学模様、俗にいう魔方陣があった。
「仕方ない事だろう。こればっかりはどうにもならないよ。また追加だ」
「そうだな。最近主戦力の子達が殺られることが増えてるしな。ククク……一体何が起きるのやら楽しみだな?」
「そうだな……」
先にこの部屋にいた男は、空気を変えようと話を違う話題に切り替える。
「今回も地球の日本ってとこか?」
「あぁ、日本の子供は他の次元や場所の子供より適応能力が素晴らしからな」
「そうだな……今残っている奴らもほとんどが日本人だったっけか?」
「いやそうでもないぞ。まぁ全体の三割前後は日本の子ではあるがな。残りは二割三割は別次元や地域の子達の集まりだな。まぁ何処の産まれであっても、ほとんどの者が重要な戦力だ」
「あーそーいやなかなか見所のある奴も何人か居たな」
男達は、何気ない会話をしながら地面に描かれた巨大で精密な魔方陣を起動させる。魔方陣に魔力が流し込まれていき暗い部屋に魔方陣が放つ光が満ち始め空間が揺れ始める。一層光が激しくなると次の瞬間、魔方陣が空間に写し出され光が広がりその中から十人の人影が現れる。
「ようこそ、新たな転生者達よ」
この日この瞬間、日本では十人の子供達が同時に人知れず姿を消した。しかしその事に気づく者は誰もいない。そして、人々の記憶からも存在が消えたのだった。
誰も書いたことの無いラノベを書きたい!
それが初めた理由でした。
初めての作品なので暖かい目で読んでもらえると
嬉しいです。
重度のゲーム、ラノベ、アニメ好き。
ヲタク予備軍が、書いた作品です。
楽しんでもらえると喜びます。
最低でも、週1回日曜日に更新出来ると思います。