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 ぷろろ~ぐ1 次元管理代行業

 気が付けば、俺はだだっ広い空間に突っ立っていた。

 周りには輪郭の無い淡い人影が無数、極彩色に光り輝く地平の先を目指して歩いていた。よくよく見てみれば、人影は地平に近づくほどに形を崩し、ついには小さな炎のように揺らめいては光の中へと溶け込んでいく。

「ここは何処なんだ? それに、みんなは何処を目指してるんだ?」


「ここは地球人の魂が回帰する所、通称魂の座と呼ばれる場所です」


 口を衝いて出た疑問に、背後から届いてきた凜とした声音が答えてくれた。

 慌てて振り返ると――

「辻占い?」

 そこには祭りやイベント会場の片隅にあるような、小さな占いの出店があった。出店の中を覗くと、国籍を感じさせない風変わりな衣装をした美少女が、ちょこんと納まっている。

 見た感じ俺と同じ高校生くらいの――って、やばい!!


 そこまで観察して、ハッとした俺は慌てて自分の顔を腕で隠した。そして目を合わせないように背中を向ける。

「目、隠さなくても大丈夫ですよ。佐月悠利さん」

 名を呼ばれ、恐る恐る彼女へと視線を向ける――と、彼女はニコッと軽やかな笑みを浮かべてみせた。

 信じられないことだが本当に彼女は大丈夫なようだ。この俺の視線に晒されても。


 生まれてこの方、俺の目付きは凄く悪かった。みんな俺と目が合うだけで逃げるのだ。

 中学の時、好きになった女子に告白してみようとすれば、心底怯え震われ泣かれた時には死にたくなったものだ。

 教師は俺と視線は合わせてくれないし、両親ですら一緒にいたくないのか家に居着かない。それほどまでに、俺の視線は人に威圧と恐怖を植え込むらしい。

 だからこそ、そんな俺の視線に晒されても平然としている彼女が気になった。


「貴女は、死神……ですか?」

 魂と聞いて、思い浮かんだのがそれである。

 死神、神、女神――人を越えた超常的な存在ならば、俺の視線に耐えられるのも頷けた。

「神と言う概念に当てはめるには些か語弊がありますけど……それに近しいモノと捉えていただくのが正しいかしら?」

 ごそごそと、彼女は占いブースの奥から何やら取り出した。

 それは一枚の小さな紙片――所謂名刺だ。


 手渡された名刺へと視線を落とせば、


『 次元管理代行業 次元世界リグラグ担当 □□□・□□ 』


 と、顔写真入りで印刷されていた。

「次元管理代行? ロロロ・ロロさん?」

「ロロ……はい、ロロとお呼び下さい、佐月さん」


「次元世界リグラグ担当ってあるけど、地球の神様じゃないってことですか?」

「はい。この度は人材発掘にこちらの次元世界へと訪れました。所謂、スカウトマンですね。今の肩書きは」

「???」

 頭の中で疑問符が踊りだす。神様を語るにはあまりに俗な肩書きだった。

「スカウトマン……ですか」

「はい。私が管理している次元世界リグラグに地球の人の魂をスカウトに来たのです」

 今一度、改めて言い直すロロさんだった。


 その後、スカウトマンことロロさんは簡単に状況を説明してくれた。

 俺達のいる地球とは別に、世界は無数の次元に存在していて、それぞれを管理代行業のオペレーターが管理運営をしているらしい。

 その中で、リグラグと言う次元世界がロロさんの担当世界らしいんだけど……

「今、リグラグは緩やかに終演を迎えようとしています。それを防ぐためにも、新しい息吹を求め成功者である地球の人の魂をスカウトに来たのです」

「地球人が成功者?」

 つい、疑問を挟んでしまう。

「それについてはまず、魂について説明しないとなりませんね」


 コホンとわざとらしくも人らしい仕草で、ロロさんの解説が始まった。

「魂とは根底の部分が繋がっているんです。その繋がってる部分を確か地球の現文明では集合無意識とかと呼んでますね」

 マンガ辺りで見かけたことがあった気がする。確か、哲学か何かの考え方だったと思う。

「私達は魂の源――魂源と呼んでいるんですけどね。

 物質世界に生きている人の魂は、その魂源から汲み上げられた一部なのです」

「汲み上げる?」


「大きなプールを想像してみて下さい。

 そこに小さなコップを沈め逆さまにし持ち上げると、中の水はコップの縁が水面から離れるまで零れることなく持ち上がるじゃないです」

 その説明は、理科の授業でやる圧力の実験そのものだった。

「コップを肉体とすると、その状態が人が生きている状態なのです。そして、肉体の死はコップの破壊であり、中の水はプールに戻っていく――と。

 それが今現在周りで起こってる魂の回帰現象です」

 周りにあるのは、同時間帯に亡くなった死者の魂とのこと。

 そしてそれらが目指している地平の先の極彩色豊かな光が、人の魂源こと集合無意識そのものらしい。


「コップにより分けられた魂は生きている間に色を帯び、その帯びた色を魂源に回帰させているのです」

 長いことそれを繰り返した結果、魂源はあそこまで派手になったのだと彼女は言う。

「生きていると色をね……」

 改めて自分の身体を確認すれば生前と同じ感じの色をしていた――って、意識した途端、俺の表皮の色が変わり、

「…………」

 微妙に言葉を失う色――と言うか、図柄が現れた。

「あらあら、これはまた凄い魂ですね。

 佐月さんは前の色が周りと溶け込むよりも先に新たに魂が汲み上げられたみたいですね。前世の記憶持ちに多い現象なんですけど……これ、相当濃いですよ」

 ロロさんも感心したように俺の身体を見渡す。そこにあったのは、白と黒の二色がマーブル模様だった。


「もしかして、佐月さんの目付きが悪かったのは溶け込んでいなかった前世の色が原因だったかも知れませんね。魂の形質は肉体をも左右しますから」

「俺の前世って何だったんだよ……」

 前世の記憶は持っていないから、なおさら気になった。

「あの視線の力――眼力からして、名だたる武将一千人分くらいの魂が混ざり合った混沌とした色ですね」

 俺の愚痴混じりな疑問にまで、律儀に答えてくれるロロさんだった。

 世が世なら英雄になれたかも知れなかったとフォローしてくれるんだけど、正直トドメを刺された気分だ。


「それで、佐月さん」


 ロロさんは胸の前でポンッと手を叩いては話題を変えてきた。

「折角ですから、転生、してみる気はありませんか?」

 それは魅惑的で蠱惑的な響きを秘めたお誘いであった。

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