開演
肌寒い冬の夜、
蝋燭の灯りが部屋を照らす。
そのか細い灯りを頼りに女は筆を進める。
「……よし、これで完成」
二十を越えているであろう年齢の女は涙を流しながら、出来上がったばかりの書物に視線を向けている。
女は大切な思い出を思い出し、涙が止まらなくなる。
みんなと過ごしたあの日々、
もう戻ってこない大切な時間。
私の憧れていた人はもう戻ってこない。
幼かった私にはわからなかったが、もしかしたらあれは私の初恋だったのかも知れない。
「出来たのか? お主の最後の作品とやらわ?」
家の入口に一匹の犬がいた。 昔を思い出して泣きじゃくっていたから気付かなかったが、どうやらもう朝になっているようだ。
私は明るく笑顔に答える。
泣くのはもうやめだ。
あの人は私の笑顔をひまわりのようだと、
よく笑って言ってたっけ。
「うん、 出来たよ」
そうかと犬は頷く。
「あいつも喜ぶだろうよ、 お主がこんなに立派に成長して」
私はあれから小説家になった。
時代も戦国の時代から大江戸時代へと変わった。
天下が統一し日本がひとつにまとまり平和になった。
「作品のタイトルはどんなのにしたのだ?」
ふと犬=ペス太郎が聞いてきたので私は答える。
「タイトルは……」
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著者; 真田千登世
タイトル【真田影丸シリーズ】
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これが私の小説家としての最後の作品になるだろう。
私の憧れたあの人と、
私の大好きだった仲間達との大切な物語