《巨大龍》を屈服させましょう。
自動精霊に色々言いたいことはあったが、とりあえずは作戦会議だ。
とりあえず、世界と連動しているリアルな地球儀を出して貰う。
【この位置に対象の龍がいます】
光った位置を拡大すると確かにいた。デカい。
大きな翼に頑丈そうな黒い鱗。顔には鋭く光る赤い眼が爛々と輝く。
鋭い牙と爪を喰らえば命は無いだろう。
しかしまあ、この巨体でよく飛べるもんだ。
【龍種は魔素を力に変換して飛びます。翼はその補助のようです】
魔素を力に…つまり魔力か。となると結構知性はあるのだろう。
これだけの巨体、今の人類には荷が重い。
さて、管理者としての初仕事、しますか。
管理空間の便利扉を開けて巨大龍の近くに転移する。
向こうからは見えないので悠々と空を飛んでいる。
とりあえずは声をかけなければ。そもそも言葉が通じるのだろうか。
【自動通訳状態にしてはどうでしょうか】
ああ、あるのねやっぱ。
自動精霊に自動通訳をお願いして龍を追いかける。
数時間の飛行の後、巨大な山脈に腰を下ろした。
地面がクレーターのようになっているところを見ると、どうやら寝床らしい。
暇そうな龍に向かって声をかける。
「おーい、ドラゴンやーい」
『…ドラゴン?我のことか?』
龍が声の居所を探すが、今は不可視モードだ。見えないし触れない。
『…何処にいる?』
姿を見せるのは問題無いが…人型は不味いか。光の球みたいなのでいいか。
姿の設定を念じると、姿が光り輝く球に変わった。
急に現れた光る球体に目を丸くする龍。改めて見ると大きい。
『お前は何だ?』
「あー、私は神だ。この世界で一番強くて偉い」
『…神?そんなちっぽけな姿でこの我より強いというのか?』
「そうそう強い強い。あんまりお前にその辺の物食い散らかされると迷惑だから、大人しくして貰おうと思ってな」
『…ふん。腹が減れば食らうのが生き物よ。そうでなければこの飢えをどうやって満たせばいいのだ?』
ご尤も。まあ、その辺は神様パワーで何とかしよう。
「飢えない身体にするとか…どうだ?」
『……出来るのか?』
「飢えないしそう簡単には死なないように出来るけどね。神様だし」
『ふん。信用できぬな』
「力を見せろってこと?いや、いいけど。死んでも恨まないで貰えると嬉しいなぁ」
『……我はずっと飢えているのだ!木を喰らい、肉を喰らい、父母も、兄弟を、同胞全てを喰らい尽くしても満たせぬこの身をォォォ!!やれるものならやってみるがいいィィィィ!!』
咆哮を上げる龍。その声は何処か悲しそうに思えた。
ここまで大きくなった身体を維持する為に文字通り何もかもを喰らって生きてきたのだろうか。
自分で作った自然の摂理とはいえ、少々切ない。
いや、嘘吐いた。どうでもいい。自分のことじゃないし。
『無限の魔力!同胞の牙をも通さぬ強靭なる鱗!溶岩を浴びようと朽ちぬ生命力!山を砕き地を割る力を持った我に勝てると思うなァァァァ!!』
「ええっと、なんか武器こい!ハンマー的な一発で決まりそうなの!」
【了解。《創造:槌》《概念付与:『広域』『貫通』『破壊』『不可逆』》】
手元(手は無いけど)に1メートル程の槌が出る。
原理は分からないが光になった何かで槌を持ち上げて飛び上がり、龍の尾に叩きつけた。
「よっとぉ!」
『グオオオォォォッッ!?』
槌が龍の尾に当たった瞬間、ふっ飛ばされそうな衝撃波と頭が割れそうな程の轟音が発生し、鱗や肉を物ともせずに龍の尾を球状に削り取った。
何かに喰われたかのように尾を削られた龍は明らかに狼狽していた。
【『貫通』はあらゆる防御を無効化します。また、『破壊』はダメージが発生した範囲内の物質を崩壊させます】
「…ちょっとやり過ぎたかな?」
『き、貴様何をした!?我が鱗が…身体の傷が治らん…!?』
【『不可逆』によって与えられたダメージは概念解除を行わない限り決して元に戻ることはありません】
恐ろしい。呪いか。
「あー、あれ。神の呪い。で、どうする?まだやる?」
『…負けを認めよう。…流石の我も久方振りに恐怖を感じたぞ、これは』
物分かりが良くて助かった。
とりあえず傷を治してあげたいが、どうすればいいのだろうか。
『不可逆』の傷は大きかったようで、流れだした血が湖のようになってしまっている。
【では、傷を治します。《概念解除:『不可逆』》】
解除された途端、肉が盛り上がって尾に空いた大穴を埋めて行く。
早回しの映像を見ているかのようだった。流石に、言うだけのことはある。
この巨体に数秒で鱗まで生え揃う再生力。
人類には荷が重い。重すぎる。
「呪いは解いた。後はその飢えの治療かな」
『…本当に、我が飢えを止められるのか?』
「神様嘘吐かない。いや、ちょっとは吐くかも。吐いたらごめん」
『……頼む。我が飢えを止めてくれ』
とは言ってもどうすればいいのやら。
介入制限である1メートルを遥かに超えるこの巨大龍の飢えをどうやって満たせばいいのか。
食料を出し続けるにしても限度がある。
【お答えします。巨大龍の飢えは体内魔素が異常な濃度になっているからだと推測されます。適度に魔力を消費しないと理性の無い魔物のような状態になるのでしょう。食事によって症状が治まるのは消化と吸収に大量に魔力が消費されるからです】
つまり、それを何とかすればいいと。
思いつかないから精霊、任せた。
【…龍から大地へと魔素を循環させる機構を作りましょう。それなら介入制限内で済みます】
「よし、龍よ。お前の飢えはその魔力にあるようだ。お前の有り余る魔力の素…魔素をこの大地へと還す」
『おお!そのような事が可能なのか!』
【ではこの地に創ります。《創造:魔素循環機構》《対象:巨大龍種》】
龍の足元のクレーターの中心が光り輝く。
自動精霊が気遣ってエフェクトを発生させたようだ。
こういうのあると神様っぽいからなぁ。
「龍よ、この場所にさえいれば飢えることは無くなる。ゆっくりと満たされた生活を送るといい」
『…我が飢えが満たされていくのを感じる…!…おお、神よ!これまでの無礼、深くお詫び申し上げる!』
「こっちも必要だからやっただけだし、気にしなくていい。敬う必要も無い」
『だが…ううむ…』
「じゃあそうだねえ……お前を《龍王》に任ずる。《龍王:グラン》だ」
この地にたった一匹残った巨大龍。同族をも喰らい尽くした悲しき龍の王。
彼(もしくは彼女)なら、きっとこの後の数千年を任せられることだろう。
『《龍王》…グラン…我を王に任ずると?』
「そう、この山とこの森一帯をお前に任せる。私に代わってこの地に必要以上の争いを持ち込ませないようにしろ」
『うむ。決してこの地を荒らさせはせぬ。我が糧となった多くの同胞に誓ってな』
「お前以外にも知性ある者がいればこの地での争いは厳禁だと伝えるように」
『…それでも争う者はいるだろう?』
「その時は仕方ない。3回警告して破るようなら喰って結構」
『分かった。神よ、この《龍王》グラン、この身朽ち果てるまでこの地を守ろう!』
凄まじい咆哮が山と森に響き渡る。
生身の人間だったら気絶してた。後色んな物垂れ流してた。
神様並の耐性というのは精神的な耐性も含むようで、普通なら驚くようなことでも冷静でいられるようだ。
逆に言えば、驚きや喜びが薄く感じるということなのだけど。
「では私は長い眠りにつく。運が良ければ、また会うこともある…はず」
『また会う日を楽しみにするぞ、神よ』
龍王に別れを告げ、管理空間への扉を開ける。
そのまま身体の感覚を光球から人型へ戻して畳に寝転がった。
「疲れた!体じゃなくて気分が疲れた!」
【最初の仕事にしては上出来です。殆ど私がやったのでなければ、ですが】
それを言われると辛いが、それで助かってるのだから文句は言うまい。
実際、世界介入に関してはまだまだ未熟。
文明が発達するまでしばし練習に励む必要がありそうだ。
【では満足するまで練習をどうぞ。これより下界の時間を加速します】
幸い時間は山程ある。それも人間の一生の数十倍程も。
さて、この世界の文明はどうなるのだろうか?