第866番研修世界へようこそ。
扉を開けると、そこは異世界だった。
などと言う程見るからに異世界という程ではなかった。
普通の平原に少し森とか山が見える程度だ。
少し拍子抜けではあるが、まあ、そんなものだろう。
流石に絵に描いたような原始世界が広がっていたらそれはそれで苦情を申し立てるところだった。
【第866番研修世界へようこそ。歓迎致します】
突然の声。何事かとあたりを見回すが、何もいない。
【私は概念なので姿はありません。ですが、常に貴方と一緒にいます】
またもや何処からか声。
これが例の自動精霊か。なるほど、こういう扱いになってるのか。
名前はあるのだろうか?
【はい。私はL66-100型管理用自動精霊10号と申します】
エルロクジュウロクイチマルマルガタカンリヨウジドウセイレイジュウゴウ。
…名前というのだろうか、それは。
【Lは等級を表します。上級であるH、中級であるM、下級であるLの三種あり、私は下級精霊の66-100型、つまり研修者用大規模自動管理機構組込型の10番目になります】
下級で大丈夫なのか些か不安だが、神様製ならそうなんだろう、きっと。
にしても長ったらしい。なんて呼べばいいのか悩む。
【研修者の中には自動精霊に命名をされる方もいます。ご自由に命名ください】
じゃあげろしゃぶかフーミンで。
【申し訳ありませんがその知性に欠けた名称には嫌悪感を覚えます。別の名称を要求します】
凄い暴言を吐かれた。
じゃあ適当に呼ぼう。精霊さんとか精霊とかおいお前とか。呼んだと思われたら返答してくれればいいかな。
というか考えてること筒抜けなのか。
【感情は無いのでお気になさらないでください】
あるようにしか思えないけどまあ、そういうものなんだろう、うん。
さて、現状を確認しよう。
文明らしき物は見当たらない。見えるのは山と森くらいだ。
一番近い街…というか人のいる場所はどっちだ?
【お答えします。当該世界にヒト種族はまだ誕生しておりません】
出鼻を挫かれた気分だ。そうか、そういうこともあるのか。
じゃあどうしようか。ヒト種族とやらが生まれるまで待つしかないのか?
【待つことも可能です。私としては新しい動物か植物を創造することをオススメします】
なるほど。じゃあまずはそうしようか。
どういうのがいいだろうか。
【基本的な設計を伝えて頂ければ後は私が環境に適応した形に致します】
…ええっと、つまり?
【生命力の強さや繁殖力を環境に異常が出ないように調整致します。ご理解頂けたでしょうか?】
ああ、うん。そういうの自動でやってくれるのは嬉しい。楽でいいね。
…じゃあ、そうだな。栄養があってそれなりに美味しい植物とかどうだろう。
見た目もそれなりに綺麗だといいかな。
【了解しました。創造テストします。少々お待ち下さい】
言うが早いか、地面から植物が生え始めた。成長過程を早回しで見ているような気分だ。
その植物は太く硬い蔦が絡み合って茎のようになり、大きく軽そうな葉を広げていった。
中心には赤いピンポン球程度の大きさの実。
高さは30cmくらいだろうか。上から見ると綺麗に広がった葉の真ん中にポツンと赤い実があって実に綺麗だ。
味も見てみよう。
梨のようにシャリシャリとした食感に爽やかな甘味が広がる。美味い。
なるほど、これが創造か。
【ご満足頂けたようですね。これで作成します。よろしいですか?】
お願いしよう。さて、これが人類の糧になればいいんだけれども。
他は何がいいだろうか。美味しい食べ物は大事だが、美味しくする努力を忘れるようではいけない。
栄養価が高いが美味しくない、そんな物もいるだろう。
後は、外敵となり得る獣や、様々な素材となる鉱物?
…今の手際を見ると後は適当に任せてもいいかもしれない。
【特にやりたいことが浮かばないのであれば管理空間の整備を行ってはいかがでしょうか】
管理空間?ああ、あの白い部屋か。そうだな、そうするか。
確かにいきなり生物創れとか言われてもピンと来ない。
適当に精霊とかドラゴンとかがいるようなファンタジー世界には、してみたくはあるけども。
【知識の共有はされているので自動でやっておきましょうか?】
いいのか、そういうの。
それじゃあ人類と文明が生まれるまであの部屋で過ごすとしますか。
…何千年かかるんだろう。
【文明が出来るまで時間加速するので問題はありません。じっくりと作業を行ってください】
うわー、便利だ。駄目になりそう。
【駄目でも管理が出来るように私がいます。安心してください。】
……うん、じゃあ、戻るかな。
などと考えていると目の前に扉が現れた。
例の空間、管理空間に繋がる扉だ。
どうやら帰ろうと思えば扉が出るようだ。
…さて、この世界の文明、どうなるのやら。