下界の様子を楽しんでください。
白い部屋、つまりは管理空間で、私は下界の様子を見ながら自動精霊と雑談に花を咲かせていた。
下界を映すのはいわゆるプロジェクターだ。
細かい仕組みは知らないが自動精霊が創ってくれたので使用している。
勿論手元にポテチは欠かせない。味は塩味。
「いやー、ロウ君は一体この後どうするのかなー」
【《冥府の王》の娘ですからね。対応に困るでしょう】
「さー困るなー、ルウちゃんも良い子だしシェオルちゃんも良い子だからなー、両方娶るかなー」
【気になるのであれば未来を見ればいいと思いますが】
「そうすると面白くないからねえ。…あれ、ひょっとしてネタバレ見てから推理小説読む派?」
【推測はしますが結果は見ません。私はそういう規則でできていますから】
「んじゃ、精々ここから高みの見物といきましょうか」
シェオルの処遇に頭を抱えるロウとルウを見て、微笑ましい気持ちになる。
村人達に正直に話すのか、それとも誤魔化して《龍王》に相談するのか。あるいは、誰にも話さずに墓場まで秘めておくか。
正直に話して受け入れられるとは考え難い。いくら信頼ある立場とは言っても相手は《冥府の王》だ。シェオルを追放して見なかったことにしようと考える輩がいないとは限らない。
少ないとはいえ既に80人近い規模の村の統率を取るのは難しいだろう。
《龍王》に相談した場合は、《龍王》の魔法でその場は上手く誤魔化せるだろうが、今度はいつ来るか分からない《冥府の王》に怯えることになる。
ましてや、真実を知られた時の村人達の反発はかなり大きくなるだろう。
「…いやーシェオルちゃん創ったかいあったなぁ。…《冥府の王》も自分の娘が神様が創った『作品』だって知ったら怒るかな?」
【これだけのことをして怒らないと思っているのですか?】
シェオルは《冥府の王》の一部を使って《創造》した新たな生物である。
勿論、《冥府の王》の記憶は操作済みだから完全に自分の娘だと思っているし、《冥府の王》の中ではその娘を神である私に生贄として捧げようとして『冥府に置くことも許さない』と拒否されたことになっている。
そんな娘を冥府に置くわけにも、しかし殺すにも抵抗があった《冥府の王》は悩んだ末に、人間として作り替えた娘を森へと放逐したのだ。
運が良ければヒト種の村か《龍王》の下で幸福に過ごせるだろう、と。
死後は魂を『浄化の炎』で焼いて記憶を消し、再び新たな生命にするだけだ。
娘を失う悲しみはあるだろうが、それもまた娘への愛だ。
彼も《真実の愛》を見つける為の試練だと思って娘に何も告げず放逐したが、実際は彼への私からの試練でもある。
果たして事実を知らされた時彼は自分の娘を愛せるのだろうか?
彼の娘は彼を再び愛せるのだろうか?
真に互いを思う心があるならきっと、良い親子になれるだろう。
「いやー、しかし運が良いなぁ、ヒトに助けられちゃって」
【もしシェオルが村に受け入れられなければ、《冥府の王》が手元に娘を戻す可能性は高いですね】
「可愛い可愛い一人娘だからねえ。ああもう、溺愛しちゃって大変だったからなー。…流石に私の機嫌を損ねたくは無かったみたいだけど、アレは娘を今以上に苦しめるくらいなら私にも逆らうだろうねえ。いやあ良い事だよ、うん」
【端的に言って外道ですね】
「あの子達が《真実の愛》を作り上げてくれるなら罵られたっていいさ。愛は全てを救うんだよ?」
【それは貴方も、ですか?】
「さてねー。…あー、愛されるって良いんだろうなー。愛しあうって幸せなんだろうなー」
何とかしようと今後の事について話し合うロウ達三人を見て、私は決めかねていた計画を実行に移すことにした。
「君たちの愛が試練に打ち勝てるか楽しみでしょうがない。いやー、神様って良いなぁ」
【彼らからすればたまったものじゃないでしょうけどね】
まずは村人達にバラ撒こう。《冥府の王》に敵対する恐怖を。
迫害されるであろうシェオルを果たして《冥府の王》とロウ達はどうするのだろうか?
私はポテチを口へ放り込みながら、引き続き下界の彼らの様子を見ることにした。
次回更新は所用のため未定です。