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ヒナ☆レナ♪


 ある麗らかな昼下がりのこと。


 私、小日向雛子は探偵事務所を開設していた。


 ハードボイルドを意識した寂れた雑居ビルの一室にそれはある。


 私は立派なデスクに突っ伏して怠惰な日常を満喫していた。


 「あ゛~びま゛だ~!」


 背中の窓から入る優しい風が、私のゆるふわツインテールを揺らす。


 「暇だ! 暇すぎて死んでしまう!」


 開設して日も浅い事務所に依頼などある訳もなく、オープン当初は遊びに来た友人たちもすっかり来なくなった。


 そんな中、私こだわりの黒電話がけたたましく鳴り響いた。


 「事件の予感!」


 私は喜び勇んで受話器を取ったが、テンパって手が滑り、受話器を落として電話を切ってしまった。


 『ガチャン』


 あまりの情けなさに固まる私。


 「……間違い電話だったんだよ……きっと」


 私はたった今の失態を正当化すべく、自らに言い聞かせた。


 デスクに戻り、また突っ伏す。


 「嗚呼……電話が……」


 先程の失敗が拭い切れず頭の中を駆け巡った。


 手紙を読まずに食べたヤギさんの気持ちが、今なら分かる気がする。


 「マジな依頼なら一回、電話切られたくらいで諦めんなよ! ガッツ見せろよ依頼人!」


 私はボックスティッシュを投げつけ、電話に八つ当たりした。


 「ムキーッ!」


 一暴れして疲れた私は、べったりとデスクに頬を付け、ゆっくり目を閉じる。


 また室内が静寂に包まれた。


 「……サミシイ」


 おでこをデスクにくっつけたまま、私は目から汗を滲ませた。


 泣いてなんかないもん。


 「ちょっと!」

 「※@#¥☆£!」


 背後の窓からの声に驚いた私は、思わず体を跳ねさせた。


 窓の外にはオレンジ色の髪の少女がふわふわと浮いている。


 ココ二階だぞ!?


 「誰?! ってか何で白いレオター」

 「アナタのゴスロリよりマシ。てか何で電話を切るのよ!」


 レオタードのガキが食い気味に私をディスる。


 ピンクのフリフリは私のポリシーだ! それよか、絶対に白のレオタードなんかより私の方が上だ!


 「よっこらしょっと」


 レオタードガールが不躾にも窓から部屋へ入ってきて私を一瞥する。


 「……アナタが探偵?」

 「そうよ!」


 タッ◯の◯ちゃんのコスプレ少女は何とも興味無さげに「ふーん」と言いながら、私の顔をまじまじとオレンジ色の瞳で見つめて吐き捨てる。


 「……何か頭悪そう」

 「帰れぇー!!」


 私が窓を指差して叫ぶのを他所に、バレエの練習中みたいな格好の失礼な少女は部屋の奥へ進み、ポットからお茶を淹れ始める。


 「アナタも飲む?」

 「あ……ココアでお願いします……じゃねーよ!」


 私が怒り心頭に発しているのを全く意に介さず、白レオタードはココアを2つ淹れて、ソファーに座る。


 「どうぞ」

 「……頂きます」


 私は促されるまま、対面に座り、ココアを一口啜ってみる。


 ウマイ!


 こやつ……やりよる。


 私が対面の雑技団の子のような少女を見つめていると、唐突に話し始めた。


 「私はミーシャ。アナタに仕事を頼んであげる」


 頼んであげるだとぉ!


 「宜しくお願いします」


 ここでイチイチ私はキレたりしない。


 だって私は大人だから!


 「ご依頼の内容は?」

 「人探しよ」


 私の質問にミーシャは斜め上を見ながら、髪の毛を指先でクルクルさせながら答える。


 目ぇ見てしゃべれや!


 「どなたをお探しで?」

 「レナ」


 ぷぷーっ!


 私は思わず吹き出した。


 「レナって、あのアホ、バカ、マヌケのヘレンケラーも真っ青の三重苦の子でしょ? 腹ペコになったら帰って来るんじゃない?」


 私がエンジェルスマイルで言うと、ミーシャの指先から紫色の細い閃光がほとばしり、私の顔の横を掠めて、後ろの壁に焦げ跡を作った。


 「レナをバカにしていいのはアタシだけ! 今度は外さないわよ?」

 「ずみまぜんでじだ!」


 こ…殺される……。


 あんなにナチュラルに殺意を向けられたのは初めてだよ……。


 そして、さりげないジャイアニズム……。


 「探すにしても手掛かりが無いと……」


 私はすっかりビビってしまい、こんな小娘に敬語を使ってしまった。


 「手掛かりはコレよ」


 ミーシャがおもむろにレオタードの胸元から紙切れを取り出した。


 どっから出してんだよ?


 「拝見します」


 ミーシャが取り出した紙を受け取り、開いて見る。


 半紙くらいのサイズの紙に、赤い文字で『ホーンテッドホテルのこの場所』と書いてあった。


 「レナはホーンテッドホテルにいるみたいですね! これにて事件解決っ! いやぁ、ありがとうございました!」

 「アナタも来るのよ?」


 ミーシャが冷めた瞳で私を見る。


 ファッ!?


 ホーンテッドホテルなんて名前からしてオバケ出るじゃんか!


 絶対にイヤだ!


 「でも、場所は分かったんだから私の出る幕じゃないと思うんですが……」

 「アナタも一緒に来るのよ! 絶対!」


 何だかミーシャの態度が怪しい……。


 「……もしかして、怖いとか?」

 「はぁ? そんな訳ないじゃない! バカじゃないの!」

 「ですよね? じゃあ、行ってらっしゃ~い」


 私が満面の笑みで手を振ると、ミーシャはスッと立ち上がって、私の奥襟を掴みながら出口へと向かう。


 「いやじゃ~! オバケ怖いぃ~!」


 私は床に爪を立てて必死で抵抗するも、無情にも部屋から連れ出された。


 つやつやのフローリングの床には8本の傷跡だけが遺った。





 私はミーシャに強制連行されて、オドロが丘42番地にある『ホーンテッドホテル』に着いてしまった。


 もう外観からヤバい10階立てのホテル。


 当然、営業してるはずがない廃墟だ。


 間違いなく出る!


 何かフラグ立ってる感がハンパないもん!


 「私はアンタと違って人間なのよ! オバケが出たらどうすんのよ!」


 私はミーシャに食ってかかった。


 当然だ。


 私は、ただ可愛いだけが取り柄のか弱いプリティーギャルなんだから。


 「大丈夫よ」


 ミーシャはそう呟いて、地面に何やらヘンテコな図形を描いた。


 「この中に入って願いを言うの。オバケに見つからないようにって」


 へぇ~。


 私が魔方陣(?)の中に入り、ボーッと突っ立っていると、ミーシャが何やら呪文らしきことを唱えた。


 ビカッ!


 すると、地面から眩い光が立ち上ぼり私を包む。


 「さぁ今よ! 願いを言って!」


 ミーシャが叫ぶ。


 私は一つ頷いて叫んだ!


 「世のイケメン達にモテまくりたいっ!」


 私の積年の願いを込めて叫んだ瞬間、ボフッと白い煙が上がって消えた。


 「アナタ、どさくさに何を願ってんのよ! 話聞いてた?」


 眉を釣り上げるミーシャを尻目に、私は満足気に微笑む。


 知るかバカめ! これで私もリア充の仲間入りだ!


 「嬉しそうなトコ悪いけど……その願い無効だからね」


 何……だ…と?


 「今の魔方陣は対ゴースト用のだもの。そんな私欲を満たす願いなんて叶いっこないわ。大体、願いなんて言わなくても良かったんだけどね」

 「じゃあ、何で言わせたのよ?!」


 ギリギリと歯を噛み締める私に、ミーシャは嘲笑の眼差しを向けて、


 「聞きたかっただけ♪」


 キィーッ!


 こっ恥ずかしいー!


 私は悔しさと恥ずかしさでその場に蹲った。


 悶死しそうだよぅ……お母さぁん……。


 「さぁ、行くわよ」

 「ちょっと待って!」


 中へ急ぐミーシャを私は制止した。


 「ナニ?」


 不機嫌そうに振り返るミーシャ。


 ナマイキなヤツめ……。


 ちょっと可愛い顔してるからって、それが許されるのは物語の中だけだ。


 「こんなに大きな場所をしらみ潰しに回る気?」


 よく考えたら、紙にはホーンテッドホテルのこの場所とだけ書いていた。


 この場所って何処?


 私は紙をじっと見つめて考える。


 「……はっ!」


 私の頭の中に文殊菩薩が降りてきた。


 「……分かったわよ! レナの居場所が」


 私が不敵に微笑んで見せると、ミーシャは若干ヒイていた。


 本当に失礼なヤツだな、オマエは……。





 一方、その頃――。


 「……で? 我輩は何をすれば良いのだ?」


 蒼髪のスク水幼女が縛られたまま、げにおぞましき化け物を見上げて言う。


 見た感じ条例アウトな画面だ。


 「魔王様はジッとしてればいいんですよ」

 「そんなの我輩つまらんのだ!」


 ロリ爆弾娘は不満そうに頬を膨らませる。


 「魔王たる者、堂々としていてください。下の者に示しがつきませんよ?」


 頭がデカイ化け物が宥めると、スク水魔王は納得したように頷いて、


 「そうだな! 我輩は魔王だから、堂々としてねばな! うむっ! 苦しゅうないぞ!」


 底無しのバカ魔王に唖然とする化け物達。


 「……いろいろ大丈夫なんですか? この童は」


 頭がおケツみたいな化け物が、頭デッカチの化け物に耳打ちする。


 「知らん。所詮、借り物のキャラだ」


 化け物達がウヨウヨしている中に、声が轟いた。


 「バカレナ! また変なことに巻き込まれて!」


 声の主のミーシャが仁王立ちして見下ろすと、


 「ミーシャ! 遅かったのだ!」

 「遅かったじゃないよ! さっさと帰るわよ!」


 頷くレナがスックと立ち上がって縄を解こうともがくが縄は外れない。


 「縄を解くのだ! 我輩は帰るのだ!」

 「やかましいっ! アホガキめ!」


 さっきまで下手に出ていた化け物達の態度が豹変する。


 「なっ……」


 化け物の凶悪な言い種に一瞬たじろぐレナ。


 「早く放してやりなさいよ! このケツアタマ!」


 そこで私が颯爽と登場して、化け物たちを眼下に見下ろしながら、カッコ良く啖呵を切った。


 「何おぅ?」


 下品の極みのようなオケツ頭が、こともあろうに私に向かって光弾を発射してきた。


 「ウォウ……っと!」


 私は華麗に尻餅をつき、光弾をかわした。


 重ねて言うが、決して腰が抜けたのではなく、攻撃を見切って避けたのだ。


 「バカヤロゥ! 危ねぇじゃねぇか! 当たったらどうすんだよ!」


 私は怒り狂い、ミーシャに活躍の場を与える隙もないほどのスピードで、化け物らをばったばったと薙ぎ倒していったことにはならなかった。


 あれ~? おっかしぃ~なぁ~……。


 私は後ろに空いた大穴を見て、武者震いする。


 私の名誉のために強めに言うが、ヴィヴィっている訳ではない。


 「よしっ! ミーシャ! やっておしまい!」


 心が超絶美しく優しい私は、ミーシャに活躍させてやろうと、号令をかける。


 「はぁ?」


 聖母の如き私がせっかく見せ場を与えてあげるって言ってるのに、ミーシャは汚物でも見るかのような侮蔑の目を私に向けている。


 「アンタ魔法使えるじゃん! ビビーってやっつけちゃいなさいよ!」

 「私の魔力であんな大勢をいっぺんに相手にできる訳ないでしょう!?」

 「んなこと知るか! レナはアンタの友達でしょ? アンタが助けなさいよ」

 「私は依頼人よ? 依頼人にそんな態度でいいの? 客なんか来ないよ?」

 「私の仕事は終わったもんねー! べー!」

 「何よ! ババァ!」

 「ア゛ァ゛? オマエ今、何つった?」

 「クソババァっつったんだよ! ババァは耳が遠いのねぇ~カワイソウ」

 「何だとぅ! もっかい言ってみろクソガキ!」

 「何度でも言ってやんよ! ゴスロリババァ!」

 「ンだとぉ表出ろや! ゴルァ!」

 「オォ! やったらぁ」

 「お前ら、いい加減にしろぉ!」


 壮絶な口論の末、分からず屋のミーシャと決闘することになった私は、この期に乗じて逃走を図ろうとするも、狡猾な化け物たちに阻まれてしまった。


 チッ……。


 「お前ら! この娘がどうなってもいいのか?」

 「構わん! 好きにするがいい!」


 どどんっ!!!!!!


 私がスティー〇ン=セ〇ールばりのシブイ声で、クールに吐き捨てると、ビシッと場が締まった。


 キマった……。


 沈黙に支配された場の余韻に浸る私の後頭部を、ラフレシアくらいの大きさのハリセンが振り抜いた。


 ばちこーーーん!!!!


 「おぉぉあぁぁぁ……」


 私が突然襲ってきた痛みに、死にかけの〇空の如く呻いていると、どデカイ闘気を帯びたミーシャが、修羅の形相で私を見下ろしている。


 「何、勝手なこと言ってんのよ!」


 あ……スーパー〇イヤ人の方でしたっけか?


 「そろそろマジメにやらないと、アナタから消すわよ?」


 カワイイ顔して物騒なことをおっしゃるのね……。


 「だって……私、戦闘民族じゃないもん」


 すかさず、非力な女子をアピールする私を、修羅姫ミーシャが憐れみの眼差しで見下す。


 大人をそんな目で見んなよ! 泣くぞ!


 「アナタさぁ……仮にも原作者でしょ? 別にアナタが戦わなくてもいいじゃない!」


 そうだった!


 ……いや、知ってたし!


 私の明晰すぎる(当社比)頭脳に、史上最大の妙案が閃いた。


 スゴいぜ……私。


 「ふぁーっふぁっふぁっふぁっ!」


 私はカッコ良く立ち上がり、ケアばっちりの美しい指で、化け物共を指差してやった。


 「貴様らにチャンスをやろう! 速やかにそのアホ……じゃなかった、バカ……違うか……いや、合ってるっちゃあ合って……」

 「早く言いなさいよ!」


 痺れを切らしたミーシャが私に牙を剥く。


 まったく……最近のガキはカルシウムが足りない。


 「とにかく! その子を放さないと、血の雨が降るわよ?」

 「そんな脅しに乗るかー我々は悪の権化だー!」


 かつてない自己紹介に、かなりヒク私とミーシャ。


 「後悔すんなよ……化け物め」


 私は背中の〇次元ポケットから一冊のノートを取り出した。


 てってれー♪

 (・∀・)ノ■

 秘密のネタちょー!


 「何をしてんの? いい歳こいて」

 「うるしゃい! 私は永遠の美少女だ!」


 私は冷やかなミーシャの眼光を無視して、ノートを前に突き出す。


 「それで何する気?」


 今日イチの呆れた顔のミーシャ。


 そんな目で私を見んじゃないよ! 私が傷ついたらどうするんだ。


 「奴らを殲滅するのよ」


 ドス黒い笑みを浮かべる私を、ミーシャが普通に生活してたらされることのないドンビキの表情で見つめる。


 「そんなものでどうする気なの?」

 「目には目を……化け物には鬼よ!」


 私は秘密のネタちょーをバッと開いた。


 シーーー……ン


 「アレレ~? おっかしぃぞぉ~?」


 ノートから颯爽と登場するはずのキャラが出てこないじゃんか!


 「出番か?」

 「#*☆$%℃¢!!」


 私のすぐ後ろから声がした。


 私が超A級スナイパーだったらヤバかったぞ!


 私の背後から現れた黒い着物に白袴の美少女剣士が前に出てきた。


 「きゃつらを倒せば良いのか?」


 精悍な顔付きの美少女剣士が、後ろで束ねたポニーテールを靡かせて、私の方に顔を向ける。


 「そうよ! 桃ちゃん! やっちゃって!」

 「容易い仕事だ」


 桃は腰に提げた刀に手を掛ける。


 「哭け……鬼喰(おにはみ)!」


 桃が素早く刀を抜き、鞘に納める。


 キィィイイイイ……ン


 耳を突ん裂く高周波が、脳に五寸釘のように突き刺さる。


 「ぐわぁぁぁああ」

 「ぎぃやぁぁぁああ」


 化け物たちが悶絶しながら、のたうち回る。


 「ぎょえええぇぇ」


 何で私までぇ~!


 「桃ちゃん止めてぇ!」


 私の悲痛の叫びに、桃は術を解いた。


 「どうした? 主様よ」

 「そんな殺人音波は止めなさい……」

 「案ずるな主様よ。悪しき者にしか効かぬ」

 「……いやいや、この子らは魔族だし」

 「私はへーきだけど?」

 「我輩もへーきだぞ!」


 相変わらず空気を読まぬガキが、余計なことを言いやがる。


 黙ってろ! リアル天使の私に効いてんだよ? 私のイメージが壊れちまうだろうが!


 私の正統派の清純なイメージが!


 「桃ちゃんにはアクションを頑張ってもらいたいのよ! 私、原作者! 意味分かるわよね?」

 「……あい分かった」


 桃が刀を抜いて化け物たちの前へ飛び出していくのを見送る私。


 ……ったく! 闘いに手を抜くんじゃないよ!


 桃は懐から赤と茶の勾玉を取り出し、床へ放り投げると、銀髪の狼と山伏コスの白毛の猿が現れた。


 「狗神(いぬがみ)! 白猿(びゃくえん)! 今より悪鬼調伏にかかる!」

 「やれやれ……桃は猿使いが荒いのぅ」

 「不味そうだが喰ろうてやるか……」


 そこからは一方的な展開だった……。


 (詳しい描写は全年齢対象のため、自主規制させて頂きます。


 決して面倒臭いとか、面倒臭い訳ではありません)


 化け物らの断末魔の悲鳴が轟く阿鼻叫喚の地獄絵図を目の当たりにしたレナもミーシャも、言葉を失っていた。


 「鬼やぁ……鬼がおるぅ……」


 我がキャラながらえげつない……。


 「わぁ~♪ ちょーちょきれー」


 凄惨すぎる現場に、どうやらレナのリミッターが崩壊したらしく、何か笑っている。


 「バカレナ! しっかりしな!」


 現実逃避しているレナに喝を入れるべく、ミーシャの愛あるビンタがレナの頬を張り飛ばす。


 ずごぉぉぉおん!


 張り飛ばされたレナが、花びらのように宙を舞い、瓦礫に突き刺さる。


 ミーシャに悪意がないと私は信じたい。


 桃with式神たちによる化け物殺戮ショーもようやく終わり、桃が私の前に舞い降りた。


 「これでいいか? 主様よ」

 「……うん」


 ヤリ過ぎなんて口が裂けても言える雰囲気じゃないやい!


 仕事を終えた桃が、出てきた出入口に消えていく。


 てか、私がノート出した意味ないじゃん。


 ぶっ飛ばされた勢いで、縄が解けたレナが、自力で瓦礫から頭を抜いて降りてくる。


 「ミーシャー! 我輩、恐かったのだぁ~」


 レナがミーシャに飛び付くと、ミーシャは優しくレナの頭を撫でた。


 アンタら、絵面がマジでヤバイんだよ? マニアには堪らんシチュかも知らんが、アニメ化したら当局が動き出すよ?


 後れ馳せながら、私も二人の下へ行ってやる。


 お礼ならいくらでも受け付けてやるぞ?


 「雛子ねーちゃん!」


 レナが私に飛び付いて来るのをヒラリとかわすと、レナは顔面スライディングで後ろへ滑っていく。


 「痛いのだ! 雛子ねーちゃん!」


 レナが擦りむいて赤くなった顔で、私に抗議するのを無視してミーシャが私に問う。


 「しかし、よく分かったわね」

 「私にかかりゃ、こんくらいは、のりしお前よ! ふぁっふぁっふぁっ」

 「のりしおウマイのだ」


 私とレナが肩を組んで、ラインダンスをしているのを華麗にスルーして、ミーシャがさらに問う。


 「アナタ、どうして分かったの?」

 「教えな~い♪ 自分で考えな!」


 そう言った途端、殺し屋の目で紫色に光る指先を私に向けるミーシャ。


 機転を利かせた私は、レナを抱えて、目の前に突き出す。


 「ひ、雛子ねーちゃん! ミーシャの雷は我輩でもヤバイのだ!」


 レナ……忘れないよ……あなたが私の盾になってくれたこと……。


 「私の雷は思い通りに曲がるわよ?」


 なにぃ!? ならば私も奥の手だ……。


 「サイズよ!」


 私の奥の手、いのちだいじに!


 人間、諦めることも大事だよね!


 「紙のサイズは半紙と同じだった。つまり、B4の用紙と同じ」

 「なるほどね。だから、この地下4階だって分かったのね」

 「そゆこと!」

 「雛子ねーちゃんスゴいのだ!」

 「それほどでもあるよ! ありまくるよ!」


 褒められると伸びる子、それが私。


 「……ちょ、レナ! 私に『あなたは一体何者なの?』って言ってみ」

 「雛子ねーちゃんは雛子ねーちゃんなのだ!」

 「いいから!」


 だから空気読めや! アホめ!


 「レナ、言ってやりな。終わんないから」


 ミーシャに言われ、しぶしぶレナが口を開く。


 「アナタハイッタイナニモノナノ?」


 死んだ目をして、棒読みなのが癪に障るが仕方あるまい。


 「……小日向雛子……探偵よ!」


 私がキメ顔で言うと、場の空気が一瞬で氷河期に突入する。


 「くだらな……」


 オマエその目で見んなって言ってんだろ? レナ、オマエまで! ホントに泣くぞ? いい大人が!


 だって言ってみたかったんだもん。


 付き合い悪ぃぞ! オマエら!


 そんなんじゃ大人の世界は生き抜けないぞ!


 「さぁ、帰ろう! ここは寒いわ」

 「うむっ! そうだな! 何だか体の芯まで冷えたのだ」


 寒いのは、オマエらの格好のせいで、私のせいじゃ絶対にないからな!


 先に歩き出す二人の後を私はトボトボついていく。


 「報酬の話しよーよ! おいっ! 話聞けよオマエら!」


 慌てて追い掛ける私の背後で、何モノかが蠢く音がした。




 <魔王レナ編へ続く>





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― 新着の感想 ―
[一言] とにかく面白かった! さらにボケとツッコミと次から次に繰り広げられて読んでて面白かったです! さらにテンポも良いのでスピード感があり笑いの波が押し寄せて笑ってしまいました!笑 シリーズ化して…
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