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祈唄  作者:
第2章:岐路
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20.真偽・2

 「はっきりさせましょう」


 そう宣言するなり菜月は、外へと出て行った。残された三人は、どうすればいいのか分からずそのまま取り残される。すると、出て行ったはずの菜月が戻ってきた。


 「何してるの? 早く来なさいよ」

 「あ、あぁ…………行くぞ。お前ら」

 「うっ、うん」

 「………………」


 前を歩く菜月を追いかけながら加納は、内心驚いていた。

 元々、彼女とはサークルが一緒で飲み会でたまに姿を見かけるだけの関係。彼女は、どこかひょうひょうとしていて、他の女子とは違った空気感を持っている人物だった。あまり自分からは、他人と交流を持たないタイプ、でも心を許した相手に対してはどこまでも真摯で誠実。そのせいか、男女共に友人は多いらしい。


 「で、どこに行くんだ?」

 「私の家」

 「萩原の?」


 (斎条の妊娠の真偽を明らかにするんじゃなかったのか?)


 そう思った瞬間、急に立ち止った菜月がこちらを見た。


 「私の家、婦人科の病院なの。両親が経営してて母も医師だから。それなら安心でしょ?」

 「…………本当?」

 「ここら辺って男の医師が多いのよね。あとは近くの大学病院に行くしかないし。さぁ、行くわよ」

 「うん」


 それまで強張った表情の多かった斎条がホッとした笑みを見せた。女性の医師がいるいないがそんなに大事なのだろうか。


 「加納君。これはデリケートな問題なの。婦人科の診察なんてこの年代じゃ、受けてない子が多いの。そんな人にとっては医師が女性か否かはかなり大きな問題なの。分かった?」

 「はい」


 そんな細かいところまで気を配る彼女が以外だった。話を聞いている最中、斎条に向ける視線はかなりきついものだったから。それなのに対応は極め細かい。面白い人間だと思った。



 結局のところ斎条は、妊娠していなかった。これには、正直拍子ぬけしたし自分がかなり熱くなりすぎていた事にやっと気がついた。その上、診察に同行した菜月によると斎条は、佐藤にずっと片思いしていて大分思いつめていたらしい。それでつい嘘を言ってしまったというのが真実だった。

 そうなると、隣に立つ男に謝罪するべきかどうか悩む。


 「さぁ、これではっきりしたわね。とりあえず、してなくて良かったと言うべきかしら」

 「ごめんなさい。お騒がせしました」

 「違うでしょ? 謝るのは、彼にたいしてでしょう? そもそもしてもいないのに子供なんか出来るわけないんだから」

 「…………佐藤君。ごめんなさい」

 「あぁ。でも、これだけは言っておく。俺は誰とも付き合わない。これからも。だから他の奴探せ」

 「…………分かったわ。加納君も、ごめんなさい」

 「あぁ。俺も悪かったな、佐藤」

 「気にするな。人としてお前のとった行動は悪くない」

 「さぁ、これで解決ね。じゃあ、解散。私はもう一度学校に戻るから」


 パンパンと手を叩いて解散を促した途端に、病院の出口へと向かい出した菜月に加納は声をかける。


 「これから行くのか?」

 「えぇ、これから。言ったでしょ? レポート用の資料が必要なのよ」

 「萩原さん。必要なのって加賀教授の講義?」


 加賀教授というのは、とても厳しくレポートに必要な資料は授業で配るのみという学生泣かせの教授だった。運悪く同じ講義を取っている友人がいなかったせいでとても困っている。だからこそ、どうしても図書館に行く必要があるのだ。



 「そうよ。一度風邪で休んだせいで、資料が足りないの」

 「私その講義取ってるから、貸そうか?」


 斎条の言葉を聞くなり菜月は、顔を輝かせながら駆け寄った。


 「いいの? ありがとう!」

 「ううん。迷惑かけたしそのお礼」

 「やった~」

 「お嬢さん、騒ぐなら外へ出てください」

 「ご、ごめんなさい」


 誰よりも落ち着いて見える菜月の子供っぽさにますますおもしろいと思った。



  

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