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祈唄  作者:
第2章:岐路
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4.墓参り<中編>

 「こんなもんか…………」

 持ってきた花束を二つに分け、それぞれ左右バランスよく花を配置する。そして汚れてはいないか、墓石の周辺を見渡す。

 確かに竹内の言った通り、雑草などは無いし、墓石に汚れはないようだ。

 「あとはロウソクと線香か」

 竹内から持たされた小さな手さげ袋には、お参り用の品が全て揃っている。その中からロウソクを取り出し、ライターで火をつけ一本づつ灯篭に立てていく。

 そして同じように火を着けた線香をニ本立てると墓に手を合わせる。その時だった、ふと脳裏にある夏の日の記憶がよみがえったのは。それはまだ幼い自分と祖父との思い出。


 亡くなった祖父は、父と同じで寡黙でどこか近寄りがたかった。あまり構われた記憶はない。それでも強烈に印象に残っている記憶がある。

 あれはお盆も過ぎた頃、あの日はその年一番の夏日で茹だるような暑さに皆へとへとになっていた。もちろん、暑さに弱い優一も家から出ることなく一日を部屋で過ごしていた。

 「優一、おじい様を知らないかい?」

 そう尋ねてきたのは、祖母でその時優一は居間でおやつを待っていた。

 「知りません。おじい様がいらっしゃらないんですか?」

 「ええ。竹内、お前は見ていないかい?」

 「旦那さまでしたら、墓地の方へ行かたようですが」

 「…………そう」

 竹内の言葉にほんの一瞬だけ眉をしかめた祖母はそのまま居間から去って行く。そのあっさりとした態度に優一は、首をかしげた。

 (いつもなら、追いかけて行くのに)

 「坊ちゃん。旦那さまを追いかけていただけませんか?」

 「僕が?」

 竹内は頷くと優一に帽子を差し出す。その有無を言わさない態度に優一は溜息をつく。

 「分かったよ」

 優一は渋々と差し出された帽子を手に取り、祖父のあとを追った。

 墓地に行くまでに追いつくかと思っていたがそれは甘い考えだった。結局、祖父を見つけたのは墓の前。この暑い中、祖父は一人で墓の前に佇んでいる。

 「おじい様」

 大きな声で呼ぶと祖父はゆっくりと振り返った。

 「優一か。どうした?」

 「おばあ様が探してました。竹内がそれを伝えるようにと」

 「そうか」

 優一の言葉に返事をしたものの祖父は、その場から動こうとしない。あとを追いかけるように言われた手前一人で家に戻るわけにもいかず、祖父の隣で待つことしか出来ない。

 「優一。私は家や家族を守る為にただがむしゃらに走り続けてきた」

 「?」

 突然、話始めた祖父に内心驚きつつも優一は黙ってその先を待つ。いつも無口な祖父が自ら語り出すなどとてもめずらしいことだった。

 「その過程で良い事も悪い事もしてきた。その事を恥じてきたことはない、必要であったからした、それだけの事。しかし、ただ一つだけ後悔している事がある」

 「それは何ですか?」

 「ただ一度、友を見捨てた。そしてその結果…………」

 そう言うと祖父は再び口を閉ざしてしまう。その間、祖父の視線は一度も墓から逸らされることなかった。

 「優一、もしこれと思った友人が出来たのならその友人を裏切ってはいかん。もし、結果的に自分が裏切られることになってもだ」

 「…………はい」

 その言葉は幼い自分の胸にとても響いた。

 昔、祖父に何があってそしてその結果何を失ってしまったのかは、今でも知らない。その後、祖父がそれを口にすることはなかったから。

 友人を裏切ってはならない。自分には一生関係のない台詞だと思っていたけれど、今の自分には分かる気がする。信頼出来る友人が出来た今ならば。


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