47.解放
全てを話し終えた優一は、溜息をつきうなだれた。
その場を包む微妙な空気に余計気がめいる。
(こんな話を聞かされても困るよな)
「少年、煙草吸っていいか?」
「どうぞ」
加納は背広の内ポケットから煙草とライターを取り出すと、ゆっくりと火をつけた。そして半分程吸うと携帯灰皿に押し付け言った。
「お前は優しいな。ユウが懐くのも分かるよ」
「え?」
加納から出た言葉は予想外なものだった。
「俺ならとっくに家を飛び出してるさ。なのにお前はおかしいと思いながらも妹の振りを続けたんだからな」
「そんなに褒められることじゃないですよ。俺はただ妹の振りをしてでも自分の事を見て欲しかったから楽な方に逃げていただけで…………」
「それは違うぞ、少年。逃げたのはお前じゃない。お前の母親だ」
加納は、優一をまっすぐ見つめながらそう強く断言する。
実は加納は煙草を吸いながら自分の中に生まれた怒りを必死に抑えつけていたのだ。
何故なら娘の死を受け入れず、更にそれを息子に重荷として負わせるなんてこと母親として間違っていると思う。
そしてもっと最悪なのがそれを止めようともしない優一の父親だ。
「いいか、お前はお前。それ以外には決してなれないし、ならなくていい。お前が負わなくちゃいけないことがあるとしたらそれは、精一杯生きるという責任だけだ。それは亡くなった妹さんに対しての兄として当然負うべきものだ」
「俺は俺?」
「そうだ。立木 優一という個人として精一杯生きろ。それが何よりの供養だろう?」
顔を上げると自分を優しく見つめる加納と目が合った。
その瞬間、優一の目から大粒の涙が流れ落ち始める。そして叫びにも似た大きな声を上げ泣いた、過去の自分と何より亡くなった妹を思って。
その涙と声が枯れ果てるまで。




