46.ひびわれた心
「委員長? 何やってんだ?」
店から出た所で突然声をかけられた。
恐る恐るそちらに目をやるとそこには、同級生が立っていた。その顔には、女装をしている自分への好奇心と自分への侮蔑が入り混ざっていた。
「優ちゃん? お友達?」
そう無邪気に尋ねてくる母と同級生の間でどうしていいか分からず優一は固まってしまう。
(どうしよう……、かなりまずい)
突然のことで動揺した優一の体から血の気と体温がさーっと音をたてるように下がっていく。
それでも優一は何とかこの場を打開すべく必死に頭ふる回転させ、とりあえず迎えの車を急いで呼ぶことにした。
「藤井? 急いで車を回して来い!!」
携帯で運転手を呼び出したはいいが、動揺から言葉使いが雑になる。
「優ちゃん、ダメよ。女の子がそんな言葉使いしたら。優君の真似をするのもいいけど、そういった事まで真似したらダメよ?」
「優ちゃん? 女の子? 何言ってんのこの人。委員長は男じゃん、どう見たって」
「堺、後で理由は話すから……」
「何言ってるの? あなたが言う委員長は優君のことかしら? この子は似ているけど双子の優莉と言うのよ」
「は? 双子? 委員長は一人っ子じゃん。ああ、確か死んだ妹がいるのは知ってるけど」
「堺! 頼む、この場はひいてくれ」
「おかしなこと言わないで!! 私の子供達は誰も死んでなんかないわ!!」
「なぁ、委員長。この人大丈夫なわけ? ここおかしいんじゃないか?」
堺は、自分の頭を指差すと変なものを見るように母を見つめている。
「あなたこそ、何なの! おかしいのはあなたでしょうが!!」
だんだんとヒステリックさを増す母の言動に堺も何かを感じとったのか、優一のほうに助けを求めてくる。
そんな堺に優一は、軽く顎を振りその場から去るように促す。
「じゃあ、また明日な。委員長………」
「ああ」
堺は、その場から一目散に逃げ出して行った。
「待ちなさい!」
そんな堺を追いかけようとした母を羽交締めしてその行動を押さえこんだ。
「離して! 離しなさい!!」
じたばたと暴れる母の爪が優一の腕や顔を容赦なく傷つけていく。それは、車が到着して無理やり車に押し込み自宅に着くまで続いた。
そして次の日には、この一件が瞬く間に学校中に広がっていたことは言うまでもない。学校中の人間が自分のをことをおもしろおかしく話すのを見ても優一の心は何も感じなかった。
何故なら、もう何もかもどうでもよかったから。
この一件で完全に母の中から自分の存在が消えた。
それを父から告げられ自分の中で何かが壊れたのだと思う。
そして高校入学を機に家を出た。それからは、一度も家に帰ってなどいない。
だって家には自分の居場所など存在しないのだから。
どうしよう、どんどん展開が暗くなっていく……。




