45.過去
「………………は?」
妹の振りをして女装していた、その言葉に加納は言葉を失ってしまう。
優一は、当然の反応だと思いながら苦笑する。
「俺、実は双子だったんですよ」
「だったって事は、妹さんは……」
「生まれた時に亡くなったそうです。それからおかしくなっちゃったんです、母親」
おかしくなってしまったという表現からするに精神的に病んだということが予測された。
「気づいた時には、女の子の格好したりしてておかしいなとは思ったけどそれをすることで何とか母親の正気を保つことが出来てたんです」
物心ついた時には、妹を演じることが当たり前になっていた。小さい頃からだったので別に普通のことだと思っていた。
けど、どんどんと大きくなるにつれて、自分の家の異質さに気が付き始める。
自我が成長すれば、当然こんなことやりたくなくなる。でも、妹の振りをするとあの人は嬉しそうに抱きしめてくれた。
もちろん、毎日こんなことをしていた訳ではない。
妹の振りをするのは、母の精神が不安定な時だけ。まともな時は、ちゃんと妹の死を認識していて、妹の分も生きなければならないと厳しく躾られた。
こんなことは長くは続かない、そんなことくらい自分も周囲の人間もよく分かっていた。
そして、中3になった辺りからどんどんと背が伸び始める。元々、両親も長身だったためそれは仕方のないことだったのかもしれない。
多分、背ぐらいだったらなんとか誤魔化せただろう。でも、普通男女の体つきの差はこの頃から出るわけで、女の子の丸い体の線を男の自分が出せるはずもない。
これからどうするか真剣に考えていた時、事態は急変する。
母親と食事に出た先で同級生と遭遇するという最悪な事態が起きたのだ。




