38.抱えるもの
目の前で素直に涙を流すユウの姿を見て、俺はうらやましく思った。
人前で泣くという行為を小さい頃から極端に禁じられていた為か俺は人前で泣くことが出来ない。
泣くということは、その人の内に秘めた本当の姿を見せる行為だと思うから。
だから、何を見ても泣けない俺はどこかおかしいのかもしれない。
母親代わりを務めてくれた乳母の葬式でも泣けなかった、悲しいのに。
「ほら、これ」
優一は、近くにあった紙ナプキンをユウに渡す。少し痛いだろうが、何もないよりはましだろう。
「ありがとう」
ユウは素直に受取り、マスカラに気をつけながら拭いている。
泣いた後も化粧に気を配る姿を見て、女の子だなと思う。
――――――駄目です、坊ちゃま。もう少し柔かい所作でないと。
突然、ふっと脳裏をかすめた声に優一の心臓は早鐘を打つ。
(もう、昔のことだ。昔の……)
強く拳を握りしめて、動悸が治まるのを待っていたが、冷汗が出てくるのが分かる。
どうやら昼間の一件から、敏感になっていたらしい。こんなことくらいで引き金が下りるほどに。
少しづつ、呼吸が早くなっていくのが分かる。
その時、ふわりと優しい感触がした。
視線を上げるとユウが自分の拳を自分の手を優しく包んでいた。
「大丈夫よ、落ち着いて息をして。慌てちゃだめ」
その力強く優しい声に少しづつだが動悸が治まっていくのが分かった。
「はい、これ使って」
ユウから差し出されたのは小さな紙袋。
慣れたように対処するユウに視線で疑問を投げかけると笑って言った。
「私も時々なるのよ。大丈夫、一人じゃないわ。ね?」




