36.仮面
食事を終えた優一は、自分と目を合わせようとしないユウを見て溜息をつく。気まずい雰囲気の中、互いに無言で飲み物を飲む。
(そろそろ、帰るか)
壁にかかった時計を見るともう真夜中近かった。店の中には自分たちをふくめ数人の客しかいない。
「ユウ、帰るだろう? 送っていく」
さすがにこの時間、女を一人で歩かせるわけにはいかない。
「帰るなら帰れば? 私は、帰らないし」
「は? 帰らないって」
「ほっといてよ」
そう言うとユウはプイっと顔をそむけ、再び黙り込む。
(なんだ、都合が悪いと黙りこむのは家系か?)
貝のように黙りこむユウを見て、優一は頭をかく。
俺にどうしろと………。
「優君、明日学校でしょ。早く帰りなさいよ」
「ああ、いいんだよ。謹慎中だから」
他人事のように言うと数秒してやっと意味を理解したのか、ユウは叫ぶ。
「はぁ? 何してるわけ?」
「仕方ないだろう。クラスメイトを殴って数日の謹慎ですんだんだ。やっぱり日頃から優等生づらしてて正解だったな」
ひらきなおりともとれる優一の言葉にユウは呆れたようだ。
「原因は?」
「最初は白木に突っかかってきて浩一がきれかけた、そしてそれを止めたら矛先がこっちにきた。そんでそいつが俺の逆鱗に触れる発言をした、以上」
「以上って、でもよっぽどのこと言われたのね。普段、厳重に被ってるんでしょ? 優等生の仮面」
「まぁな。でも、意外だな。そういうの嫌なタイプかと思ってた」
ユウならよくも騙してたわねと怒ってもよさそうなのに。
「同じだからよ」
「同じ?」
それまで俺と目を合わせなかったユウと目が合う。その目は今まで見せたことのない暗い光を宿らせたもの。
「私も厳重に被っていたから。養父母に恥をかかせない為に、誰からも好かれる優等生の仮面をね」
「恥?」
「そうよ。だって問題を起こしたらいつ施設に戻されるかなんて分からないじゃない。せっかくの安定した生活の場を失いたくなんかないし」
優一は、ユウの言葉に唖然としてしまう。
そして同時に、やっと白木 優華という少女と真正面に対じしたのかもしれないと思った。




