30.瞳に映るもの・前編
「はい、加納さんはこれを捨てて来る!」
床に置かれたゴミの山を見て加納は、眉をしかめる。
「何で俺が……」
「文句ある?」
額に青筋をたてながら食器を洗っているユウにギロリと睨まれた加納は、煙草をくわえながらゴミ捨てに行った。
「ユウちゃん、ゴミ集めたけど……」
「床を拭く」
「はーい」
菜月は雑巾を掴むと回れ右でリビングに戻る。
「玲、テーブル拭いて」
「ああ。……ユウ」
「何?」
「時間いいのか? バイトだろ?」
ガッシャン!
玲の指摘にユウは、洗っていた食器を落とす。
「やばい!」
ユウは急いで洗い終えると自室に駆け手早く着替える。そしてカバンを掴むと玄関へと走る。
「いってきます! ……ブッ」
前を見ていなかった為、部屋に戻ってきた加納と正面衝突した。
「……うぅ」
「悪い悪いって、つーか叩くな」
鼻を打ちつけたユウは、痛みと羞恥心からやつ当たり気味に加納を叩く。
「どいて、バイトに遅れる!」
加納を押しのけて出来たスペースを通り抜けようとした瞬間、加納の腕に抱えこまれる。
「何すんのよ」
「待て待て。玲、菜月! 俺、仕事行くわ。車で送ってやるよ」
「嫌!」
ユウは、即答する。
「何でだよ。車なら余裕だろうが」
「セクハラ男と2人きりで車なんて断固拒否!」
「失礼なやつだな。よっと」
「ちょっ……離せ、この」
加納は、ユウの体を片手で荷物のように肩に抱え上げる。そこから逃れようとユウは暴れたがびくともしない。
(ちっ、くさっても刑事か。この馬鹿力め)
ユウが大人しくなったのを確認すると加納はそのまま歩き出した。
歩きながらも加納は、陽気に話しかけてくる。
「朝帰りとはやるじゃないか、不良娘。さてはコレか?」
「馬鹿じゃない。友達の家に泊まっただけだし」
「友達ね〜」
加納の何か含んだような態度にユウは、腹をたてる。
「何よ、何か言いたいならはっきり言えば?」
「いや、人とは一線引いて付き合うユウに友達ね〜」
「はっ? 私にだって友達くらいいるし」
「地元じゃないのに?」
「ほっといてよ」
「玲にはちゃんと言っておけ。心配してたぞ」
「嘘」
エレベーターに乗り込み、ユウを降ろすと加納は、溜め息をつきつつユウを諭すかのように語る。
「確かに玲は、自分から話すたちじゃない。でもユウの事は、誰よりも大事にしてる。いい加減、心を開け」
「開いてるし。ただ、私は私で玲が私に重ねて見てる誰かじゃない。私を見てないのは、あっち」
ユウから出た言葉に加納は、言葉を失う。
ユウは、気づいている。だから、俺は止めたのに。
その時、エレベーターが1階に到着してドアが開く。
「じゃあね」
加納の一瞬の隙をついたユウは、ドアが開いたと同時に駆け出して行った。
加納はその姿を見送るしか出来なかった。




