2.優一
あの頃の自分を思い出すと苦笑するしかない。あの頃は、ただひたすら優秀な人間であることを証明し、周囲の人間からもそう思われることが当たり前という顔をしていた。
理由は、簡単で両親の期待を裏切ってはいけないと思っていた。特に母からの期待。あの子の分も立派に生きなければいけない、あなたにはその義務があるのだからと。 子供の頃は、その言葉を疑問にも思わずそうあるべきだと思っていた。
でも成長するにつれてその言葉は、自分を縛りつける鎖になった。
「立木、すまないがこのプリントを皆に配っておいてくれ」
「分かりました」
担任から紙束を受け取ると職員室を後にした。 その後ろで教師達の声が聞こえる。
「立木はまたトップでしたな」
「我が校始まって以来の優秀さじゃないか」
「生徒会も上手くまとめあげているし、真面目な子で。皆、立木のようだと助かるんですけど」
(バカな奴ら)
上辺だけしか見ていない教師達を冷めた目でみる。廊下に出るとこの間の校内模試の結果が張り出されていた。トップには、立木 優一。自分の名前がある。
「だから、どうした」 優一は一人呟き、教室へと向かった。
優一は、この春高校3年になった。彼の通う慶修館学院は、県内でも有数の進学校であり、また上流階級と言われる家の子供が多く通っていることでも有名である。
その中でも優一の家は江戸時代から続く旧家であり県内外に総合病院をいくつも持つ。その家の長男として家の期待を一身に背負っている。
彼は、母親譲りの薄い茶色の髪にキレイな顔だちの上、長身。そのせいか女子からは、王子と呼ばれている。
男子からは、その人当たりの良さから反発を受けることはない。そんな平凡な毎日に退屈を覚えながらもそれにあらがうということはなかった。
(反抗するだけ時間の無駄だ)
そんな優一の毎日に変化をもたらしたきっかけは、担任からの依頼というか命令だった。
クラスメート・白木 杏奈の追試験の勉強をみろという、めんどくさいものだ。
(やっかいごとを押しつけやがって)




