嫉妬①
臆病な少年
僕は自分が臆病なことを分かってる。でも、だからといって「臆病者め!」と罵られてムカっとしないわけじゃない。
自分でわかっている短所も人から指摘されると厭な気分になるものだ。
それは夏休みに母に宿題を終えているかを確認されるような、そんな感覚だ。
などということを僕は考えている。
「お前は相変わらずのビビリだな、拓也」
慎吾の言葉が僕の耳に届く。僕はやはりムカッとする。だけどそれをそっと心にしまう。
園田拓也。僕の名前だ。
水沢慎吾は中学時代からの知り合いだ。
高校は別だけど、今でもたまに会う。慎吾が僕を呼び出すからだ。
高校生になってからというもの、僕らの関係は歪な変化を遂げてしまった。
「ごめんよ慎吾」
ごめんよ。
これは僕の口癖だ。やめたくても、やめられない。それが癖ってやつなのだろう。
ごめんよ。
その言葉が口から出るたびに、僕は自分にがっかりする。
僕は悪くないのに。そう思っているのに。それでも僕の口は勝手に言葉を紡ぐ。
それが嫌で仕方ない。自分が嫌いで仕方ない。自分の口から飛び出すごめんよを聞くたびに、僕は自分のことがだんだん嫌いになっていく。
慎吾は「いいか拓也」ともう一度僕の名前を呼ぶとニヤニヤと嗤いながら、僕に言う。
「簡単な話なんだよ。俺は金が欲しいんだ。だけどほら、お前は親友だろ拓也。そんな親友のお前から金を巻き上げるなんて真似俺はやりたくないんだ。なあ、だから」
盗もう。
そう言うことらしい。具体的に言えば、スリを働くと言うことだ。
「だ、ダメだよ慎吾…そういう、そんなのは、ダメなんだ」
つっかえながらも僕は慎吾に言う。それは僕の勇気を振り絞っての発言だった。
だけど慎吾は僕のそんな言葉なんて聞いちゃいない。
「大丈夫さ、できるよ俺らなら」
そう、一方的に告げると駅前に向かって歩き出す。
ああ、と僕は思った。
僕はこれからもこうやって流されて生きて行くのだろう。