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time to believe now 6

三話で触れた『去年五月のゴールデンウィーク明け』に纏わるお話です。

 一月二十四日 月曜日 お昼過ぎ




「――233ページ、開きましたか? 今日は、河盛好蔵の著書を紐解いていきます。えー、彼はファーブル昆虫記の翻訳に携わった事でも有名ですが……」


 五時限目、現文。

 担当は、担任の広瀬川早苗先生。

 現代文学は比較的好きな為、授業に集中するのは容易だ。……と、思っていたのだが、始まって早々から、授業妨害が起こっていた。

 ……俺、限定で。


 ビイイイイイィィィィィ……


 耳鳴りだ。

 授業が始まった途端、耳鳴りも始まった。

 微かな音ではあるが、一度気になりだしたら、授業に気がいかなくなってしまった。耳をほじったり、鼻を塞いで耳抜きなどもやってみたりしたが、治まる気配がない。幻聴ならば度々経験してきたのだが、耳鳴りというのは殆んど覚えが無かった。これが起こり始めたのは、つい今朝方からだ。

 つい今朝方……というと、やはりあの事が思い起こされる。


 ――よく聴いて慣れろ。そうすりゃコントロール出来るようになる。


 不意に、頭の中で男の声が再生された。

 今朝のあの男。

 あの義眼の男に組み付かれた時に言われた言葉。


(慣れればコントロール出来る? というのは、この耳鳴りのコントロールという事なのか? ……どうにも意味が解らない。確かに、あの男に組み付かれた時にもこの耳鳴りが起こったが、男と遭遇する前にも耳鳴りは起きていた。という事は、あの男に何かをされた線は薄い。耳鳴りの原因はもっと他に……)


「……君、因幡君っ。もう……因幡君っ!」


「――ハッ。あ、はい!」


 しまった、指されたのか?

 広瀬川先生はよく当てる先生だし。


「大丈夫ですか? 因幡君。何かぶつぶつ言っていたようですが……」


 当てられた訳ではなく、心配されたようだ。って、ぶつぶつ言ってましたか?

 く……また嫌な噂になってしまう……。


「す、すいません。大丈夫なんで授業を……、……ッ!?」


「因幡君?」


 広瀬川先生に、授業の再開を促そうとしたその時、“それ”が目に入り、俺は息を飲んだ。

 “それ”とは、教卓を挟んで、広瀬川先生の右隣に立つ人物。

 何をするでもなく、ただそこに佇む女子生徒。

 普通なら、板書の為に前へと出て来たクラスメイトだと思うだろう。

 だが違う。

 彼女はクラスメイトではない。

 恐らく、この学校で、彼女の事を知っている人間は居ない筈だ。

 俺を除いて、は。

 そう、俺は知っている。完璧に見覚えがある。その黒髪のおかっぱ頭も、儚げで小柄な体躯も、伏し目がちで淋しそうな面差しも、間違いなく覚えている。何故なら彼女は……


「……あの時の」


「因幡君? 一体どうしたんですか?」


 先生が声を掛けてきているが、それに応じる余裕は無かった。俺の目は、教卓の傍の彼女に、釘付けになってしまっていた。

 幻覚症状。

 俺は今、幻覚を起こしている。

 何故それが幻だと思うのか。それは、前に一度、同じ幻覚を起こしているからだ。今、俺が目にしている女子生徒は、去年の五月、ゴールデンウィーク明けに、放課後のこの教室で、俺の幻覚に表れた少女なのだ。つまり、俺がこの学校で孤立するきっかけとなった幻覚を、再び起こしてしまったという事だ。


「!」


 少女がこちらへと顔を向けた。俺と目が合うと、何故か驚いたような表情を見せた。しかし、彼女はその表情をすぐさま和らげ、嬉しそうに微笑みながら、俺に向かって手を振ってくる。そして、その次の瞬間……


 ビイイイイイイイイイイ……


 ……耳鳴りが急激に強まり、突然、目の前がブラックアウトしたのだった――




 ――気付けばそこは、夕日の差し込む教室。

 そこに居たのは、俺一人だけ。

 つい今まで、そこでは授業が行われていた筈。しかし、そこに居るのは俺一人。広瀬川先生も、クラスメイト達も居ない。俺、たった一人だけだ。

 それは驚くべき事態なのだろうが、俺の頭は酷く冷静だった。射し込む夕日に、情感を覚える余裕があるくらいだ。俺は全く周章狼狽する事もなく、只々ぼんやりと、誰も居ない教室内を眺めていた。


「――あ、あの……。わ、わたしは……」


 不意に声を掛けられる。

 誰も居ないと思われた教室に、突如として現われた女子生徒。俯き加減で、切り揃えられた前髪の下から覗き見るかのような上目使いをする、とても小柄な少女がそこに居た。

 これは覚えがある。

 そう、これは、去年の五月に見た光景。あの時と同じ幻覚だ。これはフラッシュバック……と言っていいのだろうか。


「わたし、あなたが……あなたが居ないと駄目なの。あなたが傍に居ないと何も出来ない。本当にあなたの事が……好きなのっ!」


 やはりそうだ。

 あの日のあの時と、全く同じ科白。

 俺はこれに……そう、確かこう答えたんだ。


「わかってるって。俺だってお前の事が好きさ」


 ……?

 違う、そんな事は言っていない。

 俺はこう言った筈だ。――ごめん、君の気持ちには応えられない。


「本当? 本当にそう思ってくれてるの?」


「ああ、もちろんだ」


 知らない。

 俺は、こんな会話はしていない。


「……じゃあ、なんで?」


「ん? 何がだ」


「……なんで、あの子と毎日会うの? なんで、あの子と遊びに行くの? なんで、あの子と……あの子とキスするの!?」


「ちょ、ま、待てって、なんの話をしてるんだよ?」


「静木さんよ! 佐田高の静木加南子さんの事!」


「あ、あっちゃ~……」


 これは……何なんだろうか。

 この男子生徒は俺ではない?

 なら俺は一体何を見ている?

 ここは何処だ?

 今はいつだ?

 何が一体どうなってるんだ?

 疑問は尽きない。

 尽きる事を知らない。

 ただ一つ、これだけは解る。

 俺は、目の前で繰り広げられている物語の登場人物ではないようだ。


「まあ、落ち着けよ、ことり。なんだ、どっから聞いた?」


「……ッ、そ、それは……」


「お前、もしかして俺を尾行したか? うあー、サイアクー。ストーカーかよ」


「そっ!? そんなっ、だってわたし……省吾君が!」


「好きだからってか? 好きなんだったら信じろよな~。……ハァ、ここまでかぁ」


「え、ここまでって……?」


「バレたんだったら、続けらんねーだろ? あ、もしかして、お前ってそれでもOK?」


「え? 何? 何を言ってるの?」


「だから、俺の本命は可南子なんだ。ことりはキープ……てゆーか息抜き? んで、ことりがそれでもいいってんなら、この関係を続けようぜって話だ。もちろん、可南子には内緒だぜ?」


「…………」


 なんだこの男は?

 心が無いのか?

 どうして悪怯れもせずそんな酷い事が言えるんだ?

 彼女の表情が見えないのか?

 彼女のその悲痛な表情に何も思わないというのか? 


 「わたし……は。わたし……省吾君が……省吾君のお蔭で学校……頑張ってこれたのに。省吾君が居なくなったら……わたしは……」


「だろ? 俺のお蔭で、ことりは学校に馴染めたんだ。俺と離れたら、また昔に逆戻りだぜ? んじゃ、これまで通りだな。今までだって別に不満は無かったろ? お前が可南子の事を気にしなければ、これからも俺達は一緒さ」


「……は、はは……」


 そんな理屈、通る筈がない。通るようなら、そもそも彼女はこんな状況を作らない。

 今、彼女の胸には如何なる感情が芽生えているのか。

 愛憎。

 諦念。

 愁嘆。

 そんな言葉達が頭を過った。


「わた……わたし……ううう……」


 チキチキチキチキチキ……


「おまっ、ことりっ! なんのつもりだっ!?」


 カッターナイフ。

 俺は……この展開が判っていた気がする。

 今の彼女の姿は、俺が去年の五月に目にした光景、そのままだった。彼女はこの後、そのカッターナイフを、自らの首筋へと宛てがうのだろう。


「わ、わたし……うう……わたし、死ぬよ……? このまま……死んでやるっ!」


 まさかこの光景を、もう一度見る事になるとは思わなかった。この、自分の首にカッターナイフを押し当てる女子生徒の姿を。


「はあっ!? 頭おかしいんじゃねえのっ!?」


 そんな事を言っている場合じゃない。

 止めろ。

 彼女を止めるんだ。


「ううう……だって、だって! わたし、また独りぼっち! わたしにはもう誰も居ないんだもん!」


「うわ、マジかよっ! お前、こんなイタい女だったんかっ!?」


 そういうお前は馬鹿なのか?

 どうして彼女を止めないんだ。

 彼女が本気で思い詰めているのが判らないのか?

 とにかく彼女を止めるんだ。

 さあ、早くっ。

 今すぐ彼女を止めろっ。


「く……つ、付き合ってられるかっ! 勝手に死ねぇっ!」


 ガタンッ! タッタッタッタッタッ……


「あ……」


 男は、教室を去ってしまった。

 信じられない言葉を残して。


「あ、あは……あははは……」


 彼女の口からは、小さな笑い声が漏れていた。

 そこには、空虚しか感じられない。


「……うう……ッ……ううう……」


 次いで聴こえてきたのは、嗚咽。

 流れる涙が、拭われる事はない。


「……ッ」


 その時、彼女がナイフを持つ手に、力を入れた気がした。まさか……。


「……あ……ああ……」


 よせっ。

 駄目だっ。

 止めるんだっ。

 お願いだから止めてくれ!


「……ああああああああああ……」


 止め――




「――因幡君っ!?」


「……え?」


 あれ? なんだ? 何がどうなって? んん? あの女子生徒は?


「因幡君、保健室に行った方がいいわ」


「は? 保健室?」


 これは……広瀬川先生、だよな?

 えっと、クラスメイト達もみんな居る。

 ……て事は?


「因幡君、貴方、今、意識が無かったんじゃありませんか? 一分は返事しませんでしたよ? 体調が悪いのでは?」


 広瀬川先生が顔を近づけくる。かなり心配そうな表情だ。


「い、いえ、体調は悪くないです。ただ……」


 あんな幻覚の起こし方は初めてだった。

 第三者的立脚点から、見ず知らずの人間達のやり取りを目にする。

 ……これが幻覚?

 寧ろ白昼夢では?

 まさか、新しい症状が……


「……ん? 先生、今、一分って言いました?」


「え? ……ええ、そのくらいは返事がありませんでしたよ? 大丈夫?」


「本当に身体は平気です」


 しかし一分?

 一分だけ?

 あの出来事がたったの一分?


「本当に大丈夫なんですね?」


「あ、はい。すいませんでした、授業を中断させてしまって」


「んんー……。うん、まあ、心配だけど、因幡君がそう言うなら、授業を再開します」


「はい」


 広瀬川先生は、教壇へと戻って行った。……筈なのに、何故だろう。俺の机の側には人の影。


「ッ!?」


 ガタンッ!


 その人影を目の当たりにして、俺は思わず立ち上がり、後ずさった。だが、すぐに隣の机に遮られてしまう。


「ちょ、ちょっと? 因幡君?」


 ザワザワ…… ザワザワ……


 俺の奇行に、クラス全体が動揺を示している。しかし、誰よりも動揺しているのは俺自身だ。何故なら、今、俺の眼前には……


「……やっと、気付いてくれたんだね」


 ……あの女子生徒が居るのだ。


「……ずっと、お礼が言いたかったんだ」


 彼女は、落ち着いた物腰で語りかけてくる。


「……でも、あなたは、あれからずっと、わたしに気付いてくれなくて」


 その言葉は、果たして、俺に向けられたものなのだろうか。


「……この日が来るのを、信じて待ってたんだよ?」


 ただ、幻覚の時と違って、その顔が穏やかな事には安堵を覚えた。


「君は……一体」


「…………。……いつも独りぼっちだったわたしに、あの人は優しくしてくれた。あの人と出会って、わたしの人生は変わったんだって思ってた。でも、違ったみたい。あの人は、わたしが死のうとしても、止めてすらくれなかった。……わたしに初めて優しくしてくれた人。だけど、その優しさはまやかしだったんだ」


「…………」


 さっき、俺が見たあれは、彼女の過去?


「……でも、あなたは違ったね」


「えっ……?」


「……名前も知らないわたしを、あなたは必死に、あんなにも必死に説得してくれた」


「それは……」


 去年の五月の事、か?


「……とっても、とっても嬉しかったんだぁ。人の優しさ、本当の優しさ、知る事ができたの」


「そんな、俺は……」


 彼女は、一体どんな人生を歩んできたのだろうか。そんな当たり前の事を、そこまで喜ぶだなんて。


「……でも、ごめんね?」


「え?」


「……ごめんなさい。あなたは、必死に止めてくれたけど……」


(なんだ? 彼女の表情が急に……)


 先程まではあんなに穏やかだった彼女の表情が、今では悲愴に包まれていた。


「……わたしは、もう……」


 彼女は悲しげな目を俺へと向けながら……


「……すでにここを……」


 ……自分の首に右手を当てた。そして……


「……切り裂いてしまったのっ……!」


 プシャアアアアアアアアアア……!


「ッ!? うわああああああああああーーーーーっ!?」


 ……彼女の首筋から飛び散る、大量の血飛沫。

 あまりの事に、俺は絶叫してしまう。


「い、因幡君っ!?」


 ガヤガヤ…… ガヤガヤ……


 俺の身体には鮮血が降り注ぎ、あっという間に血みどろになってしまった。


「ああああああああああっっっ!?」


「因幡君っ! 落ち着いて、落ち着いて下さいっ!」


 拭っても、

 拭っても、

 拭っても、

 拭っても……どんなに拭ってもっ! 

 何故みんな平気な顔をしているんだっ!?


「あああ……! あああああ……!」


「大丈夫っ! 因幡君、大丈夫だからっ! だ、誰か……あっ、ほ、保健委員の人! 彼を保健室へっ!」


「えええっ!? わ、わ、わ、私がっ!? むりむりむりむり! 無理ですぅぅぅ!」


「あう……え、え~と、じ、自習にします! 私が保健室へ連れて行きますので、その間、皆さんは自習していて下さいっ!」


「は、はい……」


「わ、分かりました……」


「さあ、因幡君、保健室へ行きましょう? ほら、こっち……ああ、ほーらっ、こっち……に、来な……さい……!」


 身体が何かに引っ張られた。

 だけどそんなの関係ない。

 だって血が……!

 血がこんなに……!


「うーわ、見るの初めてだけど、あんなんになんのかよ……」


「マジでヤバくない? シャレになってないんですケド……」


「ひくよねぇ、さすがに……」


「私、暴れ出すのかと思って、恐かったぁ……」


「きっつー。因幡、マジきっつー……」


「ガチで異常者なのな……」


 その後の事はよく憶えていない。ただ、保健室に着いた頃には、冷静さを取り戻せていた。後で知った話では、廊下で四苦八苦していた広瀬川先生に、隣のクラスで授業をしていた男性教諭が気付き、二人がかりで、俺を保健室まで引き摺って来たんだそうだ。その男性教諭は、保健室に着いてすぐ教室へと戻ったらしく、すでに居なくなっていた。後で謝罪せねばならないだろう。

 そんな訳で、今、保健室に居るのは、俺と広瀬川先生。

 そして、養護教諭の小池(こいけ)(ひとみ)先生の、三人だ。


「――それでは小池先生、後をお願いしてよろしいですか? 私は授業に戻りますので……」


「はい、分かりました」


「では……」


 ガラガラ……と、保健室の戸を開けて、広瀬川先生は廊下へと出て行った。そんな訳で、今、保健室に居るのは俺と小池瞳先生の二人だ。


「初めまして、かな? 因幡志朗君」


「う……そ、そうですね……」


 徳英に入学して間もなく一年になるが、小池先生と面と向かって話すのは、初めてだったりする。


「私としては、(ようや)くかって感じだよ。君とは深い交流になるって踏んでたんだけどなぁ」


「は、はあ……」


 実は、担任を通して、小池先生から何度かアプローチを受けている。「相談しに来い」って事だったんだろうが、俺には十年来の主治医が居るので、必要性が感じられなかったのだ。


「それで? 因幡君、突然取り乱したって話だけど、何があったのかしら?」


「いえ、問題ないです。ご存知の通り俺は幻覚を起こすので、こんな事もあります」


「それって、問題でしょう?」


「……ええ、まあ、そうなんですが……」


「フゥ、話したくなさそうね。まあ、強要は出来ないし、いいよ。それじゃあ、体調が悪いようなら横になる? それとも、早退した方がいいかな?」


「あ、俺、戻ります。もう大丈夫なんで」


「戻るって……もうっ、無理はしちゃダメ!」


「無理なんて……」


「してるでしょ?」


「…………」


 して……るかも。確かに、今すぐ教室に戻るのは気が引ける。

 ……そうだな、そうするか。

 考えたい事もあるし。


「あの、早退はしたくないんで、今の時間だけ横にならせて下さい」


「そう、分かったわ。じゃあ、私は親御さんに連絡しておくね?」


 ……は?


「ちょっ、やめて下さいっっ!」


「わっ」


「……あ、ご、ごめんなさい、大きな声出して……。その、ウチは母が居ませんし、父は仕事中ですから、今の時間に連絡は取れないんです」


「…………」


「だから、その、別に連絡の必要は無いですから……」


 父さんは、土曜日から今日に至るまで、本部に詰めていた。それは即ち、何か重要な事案が生じたという事に他ならない。そんな時に、余計な事で煩わせたくなかった。


「……あのね、因幡君。こんな時の為に、私は君のお父さんから緊急連絡用の電話番号を戴いてるの」


「え?」


「私だけじゃなくって、担任の広瀬川先生はもちろん、学年主任や教頭先生も、因幡さんご本人から直接、緊急用の電話番号を渡されているんだよ? ご挨拶と共にね」


「父さんが? いつの間に……」


「何かあった時は、すぐに連絡して欲しいって。些細な事でも報せて欲しいって。くれぐれもお願いされちゃってるの」


 知らなかった。父さんがそんな事をしてくれていたなんて。


「連絡しても、いいかな?」


「……すみません、お手数ですがお願いします」


「ふふ。じゃあ、因幡君は横になりなさい。好きなベッド使っていいから」


 小池先生は、俺に横になる事を促してから、自分の机の上に備え付けられている電話に手を伸ばした。俺はブレザーを脱ぎ、とりあえず最寄りのベッドへと入り込む。別に眠気がある訳ではないので、ぼんやりと天井を見ながら、つらつらと考え事を始めた。


「……あ、もしもし。わたくし、徳英附属高校の養護教諭で、小池と申します。因幡さんでいらっしゃいますか?」


 今日の事は、去年の五月のあの日の時とは比べものにならない程の禍根を残す事だろう。何しろ、授業中にクラスメイト達の目の前で、醜態を曝してしまったのだから。去年の時はほんの一握りの生徒に目撃されただけで孤立に繋がったというのに、今日はクラス全員に決定的な光景を見せつける形となった。

 正直、これからの事を想像すると、鬱を通り越して絶望的な気持ちになる。俺はこの先この学校でやっていけるのか、と。


「……はい、大丈夫です、もう随分落ち着いてますので。……ええ、念の為にご連絡をと……」


 だけど、さっきの小池先生の話。何やら父さんが、裏で色々と気を回してくれていたようだ。言われて考えてみると、この学校の教師達は、俺に対する理解が深い気がする。生徒達からは敬遠されているが、先生方からはよく声を掛けて貰っていた。これが父さんのお蔭だというのなら、失望するのはまだ早いかも知れない。

 なら今は、自分に起きた事態を把握しよう。そうすれば、次の対処へと繋がる筈。


「……はい……はい……いえっ、こちらこそ至らなくて、申し訳ないです……」


 では、あの時、自分に一体何が起こったのか。

 幻覚症状?

 俺の創り出した幻想、もしくは妄想?

 ……そうなのだろう。

 何故なら、あの女子生徒が見えていたのは、俺だけのようだったからだ。というか、あれが現実なのだとしたら、今頃学校は上へ下への大騒ぎになっている筈だ。俺の身体のどこにも血が付いていない事も証拠。あの夕日の差し込む教室の光景は不思議だったが、その後の事はいつもの幻覚症状の範疇だろう。……水辺以外の場所で、あんなに強烈なのは初めてだったが。


「……はい、ええ、お伝えします。では、お忙しいところ失礼致しました。ご免下さい……」


 なんにせよ、あれが幻覚である事は間違いない。……のだろうか?

 この胸のモヤモヤ感はなんだ?

 何故だか納得いかない気分だった。頭ではなく、心が納得してくれない感じ。幻覚に心を引き摺られているようでは、この先が思いやられるというのに。


「……ふぅ。えっと、因幡君? 起きてるかな?」


「あ、は、はい。寝てません」


 シャッと、目隠し用のカーテンが開かれ、小池先生が顔を見せたので、俺は慌てて上半身を起こした。


「今、ケータイ持ってる?」


「はい? ええ、まあ……」


「少ししたら、お父さんが掛けたいそうだから、電源を入れてて欲しいって」


「父さんが?」


「そう。『このまま代わって頂いて構わない』ってお伝えしたんだけどね? 『学校の回線は公共のものだから、私用では使えない』んですって。真面目な方ね」


「まあ、父は公僕ですからね」


 言いながらケータイを取り出し、電源をONにする。


「君はちゃんと電源を切ってるんだね。偉い、偉い」


 小学生じゃないんだから、そんな事で褒めないで欲しい。


「校内では切るようにと、校則にありますから」


「律儀に切ってる子は初めて見たよ。みんな、大抵はマナーモードだもの」


「そんな事はないんじゃ……切る人は切ってると思いますけど」


「知ってる? ここ数年、授業中に生徒のケータイが鳴らなかった日は、一度も無いそうよ? 毎日、誰かしら必ず、職員室へとやって来るの。没収されたケータイを引き取る為にね。君はそんな経験無いでしょ?」


「まあ、ケータイ鳴りませんからね……」


「電源切ってるものね」


 鳴らしてくれる人間が居ないという見方も出来る。


「ふふ、因幡君は、噂通り、品行方正のようね」


「ど、どこの噂ですか?」


「教師間での噂、よ。君は先生方の間じゃ人気者なんだから」


「へ? な、なんで……?」


「そりゃそうでしょ。授業は真剣に受けてくれる。目上の人に対する態度もしっかりしてる。大変な境遇なのに充分な成績を上げてる。現状に負けずに積極的な行動をしてる。う~ん、なんて健気な子かしら。やっぱ教師って、そういう生徒には弱いのよね~。みんな、因幡君みたいな生徒を夢見て、教師になったんだと思うわ。多かれ少なかれね」


「…………」


 なんだこのホメ殺しは。……そんなの、頑張って装ってるだけだ。信用を得たいが為に。


「……ここの生徒ってさ、進学校なだけあってみんな優秀なんだけどさ、その分、猪口才(ちょこざい)な子も多いんだよね……」


「ちょこ……って、もしもし?」


「それに、なんて言うか……現代っ子? 的な傍若無人さも目に付くんだよね……」


「小池先生……?」


「私が若造な所為か、粗を見つけてはからかってくるんだよね……」


 あれ? 愚痴にシフトしたぞ。


「男子は平気でセクハラ紛いの言葉を掛けてくるしっ! 思春期だからって限度ってモンがあるのっ! 保健の先生がエロいなんて偏見だぁぁぁっ!」


「ぶふっ!?」


 何を言った!? 我が校の男子生徒!


「女子は女子で年が近い所為もあってか普通にタメ口だしっ! そのくせ陰でオバサン呼ばわりしてるの知ってんのよっ!? つーか二十代で上がってたまるかぁぁぁっ!」


「ぐあっ!?」


 女子の陰口ってそんなに辛辣なの!?


「くそっ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって! 死なすぞガキ共ぉぉぉぉぉーーー!」


 誰この人!? 小池先生はどこ行った!?


「せ、先生、抑えて……抑えて下さい! そのガキ共の一人がここに居ますっ!」


「――ハッ」


 正気に……戻った、か?


「…………」


「…………」


 嫌な沈黙が入る。


「……なんちゃって」


「遅いかと」


 どうやらかなり明け透けな先生のようだ。まあ、裏表が無いって事だし、俺としては好感が持てるな。

 だが、なるほど。パニックを起こした人間はああ見える訳か……。参考になったかもしれない。


「む~、だってさ、だってさ……」


 今度はいじけだした。

 なんだろう、初見では威厳も感じたんだが……。

 これは、フォローを入れた方がいいのか?


「……えっと、小池先生? そんなの気にしてもしょうがないですよ」


 我ながら、自分を棚に上げた発言だった。俺は常に、周りにどう思われるかを気にしてる。


「その話だと、先生の魅力が原因とも取れますし」


「えっ!?」


「男子は、間違いなく、先生の気を引こうとしているんだろうし、女子の方は……(ひが)み?」


「あ、あら~……?」


 男子の方は自信がある。女子もそれに伴って……だと思うんだが。「男子に人気のある先生が鼻に付く」って感じで。


「それって、私が、綺麗って事? ……とか言ってみたり……」


「ええ」


「ッッ!?」


 こうして見ると、随分と若い先生だ。新任なのだろうか。見た目が、女子生徒達とそう大差が無い為、他の先生方よりも近しい感じを覚える。白衣を着ていなければ、教員にすら見えないかもしれない。これでは、生徒達が馴れ馴れしくしてしまうのも解る気がする。恐らくは、髪型の所為で幼く見えるのだろう。両サイドのおさげを前面へと垂らし、前髪は切り揃えている。これで三つ編みだったら、古き良き女学生といった風貌だ。

 でもなんだろうこの感じは。どこか安心感を与えてくれるような……。ああ、そうか。美作先生。あの人の感じに近い。なるほど、養護教諭なのだから、カウンセラーとしての側面があっても不思議じゃない。とすると、先程のはっちゃけぶりも、この人なりのテクニックだったりするのかもしれないな。実際、俺の沈んだ気持ちが、払拭されているように思える。


「……君、すごいね。その歳で、臆面もなく、そんな事を言えるなんてさ……」


「はい?」


「……おべっかや下心があるような感じが全然しなかった。落ちそうだったよ……」


「落ちる?」


「あ、ん、んんっ。……あー、なんかもう大丈夫そうだね?」


「はい。先生のお蔭です。助かりました」


「え?」


「? なんです?」


「私、何かしたっけ?」


「…………」


 小池先生は、本気で意外そうな顔をしていた。もしかして、今までの全部、天然だったのだろうか。そういえば「よく生徒にからかわれている」というような主旨の発言があったな。

 つまりは、そういう事なのか?


「……えっと、まあとにかく、後二年はここに通う訳ですし、またお世話になる事もあると思うんで、これからもよろしくお願いします」


「あれま、ほぼ一年間、ここを避けてた子とは思えないね」


「いえ、別に避けてた訳じゃ……ただ、必要性を感じなかっただけです。けど、小池先生が信頼出来る方だと解ったので、これからは頼らせて頂こうと思ったんです。……いいでしょうか?」


「ッッッッッ!?」


「あれ?」


 今、この人、跳ねなかった?


「……そう……そうなのね……その素直さで先生方を落としてきたのね……よく……解ったよ……」


「こ、小池先生?」


 先生の様子が明らかにおかしい。俺は何か地雷を踏んだのだろうか。


「す、すいません、何か、お気に障りましたか?」


「ううん、何も。ただ……君がちょっと可愛かっただけ。……じゅる」


「!?」


 ズザザザザザ…… ガタンッ


 俺の身体が、反射的に、後方へと回避行動を取った。

 しかし、そこはベッドの上。

 すぐに背中がヘッドボードへとぶつかり、それ以上の行動が不能となってしまう。


「おーい、どうしたー、なんで離れたー?」


 判らない。身体が勝手に動いたのだ。


「いえ、お気になさらず……」


「んんんー?」


 小池先生が、ゆっくりと近付いて来る。それに合わせるように俺も後ずさったが、もちろんこれ以上は下がれない。

 というか、自分の行動が理解できない。

 何をやってるんだ、俺は。


「……因幡……くん?」


 いや、俺の行動は間違っていない。

 先生の目を見て、それを確信した。

 ……逃げよう。

 ここは逃げた方がいい気がする。タイミングを見計らって……


 ――ピリリリリリ…… ピリリリリリ……


「……わっ!? あ、ケータイ……」


 突然、右手にずっと持っていたケータイが鳴りだした。表示は『父』。流石は父さんだ。いつも俺を救ってくれる。


「あの……父から電話です」


「チッ……。そう、じゃあ私は少し席を外すから、ゆっくり話すとイイヨ。何かあったら、職員室に居るから」


 今、舌打ちしなかった?


「あ、はい、お気遣いありがとうございます」


 コツコツコツコツ…… ガラガラ


 そうして小池先生は、保健室から去って行った。


「……フゥー。……変な空気だった……」


 多分、「――なんちゃって」とか言ったオチがあったのだろうが、俺にあの空気を耐えるのは無理だ。……どうも俺は、年上に遊ばれるきらいがあるな。


 ピリリリリリ…… ピリリリリリ……


「あっと、やばっ……」


 ……ピッ


「もしもし、ごめん父さん、待たせた?」


「ああ志朗。大丈夫、平気だよ。それで、今は電話しても?」


「ああ、うん。養護の先生の許可があるから」


 あったよな?

 はっきりそうとは言ってなかったけど。


「じゃあまず、具合の方はどうなのかな?」


「何も問題なし。俺の事よりも父さんの事だよ。電話なんかしてていいの? 土曜日から立て込んでるんだろ?」


「僕の方も問題は無いよ。ちゃんと、時間を作ってから電話してるからね。それに、仕事も一段落してるから、予定通り今日は帰れるんだ。……って、僕の事よりも志朗の事だよ。先生のお話では、授業中にパニックを起こしたとか」


「そんな大袈裟なものじゃないよ、大した事ない、こっちは大丈夫。それより、俺の所為で父さんの仕事に……」


「志朗」


「う……」


 父さんの強い呼びかけに、思わず口を(つぐ)む。怒鳴った訳でもないのにこの迫力。伊達に刑事はやっていない。


「いつも言っているだろう? 僕に親の責務を果たさせてくれ、と。志朗、君は親を頼らなさ過ぎる。それは、決して正しいとは言えない。もう何度も言っているが、君の抱えている問題は、家族の問題。君が解決したいと思っているのと同じだけ、僕も解決したいと思っている。それは誰あろう、僕自身の為なんだ。解るね?」


「解ってはいるんだけど……」


 どうしても、父さんを煩わせる事には罪悪感を覚えてしまう。それだけは、これだけは、どうしようもなかった。俺の……いや、俺と母さんの(ごう)だから。


「長々と話しても、いつもの繰り返しになるね。なら、こうしようか。今すぐ、何か一つ、父さんを頼りなさい」


「は?」


「なんでもいいよ。例えば、『今すぐ迎えに来い』とかね」


「え、だって、仕事中だろ? そんな迷惑は……」


「その迷惑を掛けなさいと言っているんだ。君が僕の手を煩わせることが出来たなら、今日の所は良しとしよう」


「ええと? 出来なかったら?」


「話、終わらないよ?」


「…………」


 迷惑が掛けられないのなら、話は終わらない。仕事中である父さんにそれは迷惑だ。というか、現在進行で迷惑が掛かっている。急いで迷惑を掛けて、今のこの迷惑を終わらせねば……って、ややこしいわっ!


「何か浮かんだかい?」


「えー、帰りに納豆を買って……」


「了解。けど、それは僕にとって迷惑にならないね。僕も食べる訳だから」


「く……」


 駄目だ。こんなんじゃ話が長引くだけ。でも、恣意的に迷惑を掛けるなんて、良心の呵責が凄いんですけど。


「…………」


 一つ。

 一つだけ、思いついた事があった。

 でも、これは……。


「どうした志朗。ちょっとやそっとじゃ迷惑だなんて思わないよ? 思い切って……」


「……あのさ」


「ん……」


 俺の声のトーンが変わったのに気付いたのだろう。父さんは聞き取りモードに入ったようだ。


「その、実は……」


「うん」


「し、調べて貰いたい事が……」


「へえ、驚いたね。それはつまり、警官としての僕を頼るという事かな?」


「ご、ごめんなさい」


「いや、勘違いしてはいけない。志朗がそんな事を言うだなんて、よっぽどだ。これは、是が非でも聞かなくちゃあいけないな。志朗、話してみなさい」


「…………」


 本当にいいのか?

 もし、俺の考えている通りの結果だったらどうする。今までの事、全てがひっくり返ってしまうぞ。


「志朗、何も恐れる事はない。僕はいつでも君を信じている」


 電話越しだというのに、父さんは、的確に俺の表情を読んでいるようだ。いつもの事ながら頭が下がる。……そうだな、どんな結果になっても、きっと良くも悪くも、何も変わりはしないだろう。


「父さん」


「うん?」


「この学校……徳英でさ、過去に、女子生徒が亡くなるような事件があったどうかを、調べて欲しいんだ」


「…………」


「もしもし? 父さん?」


「ん、ああ、すまない。想像外の内容だったから、少し考えてしまったよ。それが志朗にどう関わるのか、とね。まあ、それは君に直接問えばいい話だし、まずはその頼みを聞くとしよう」


「調べてくれるの?」


「その前に一つ確認。それは、学校内部での事件限定かい? それとも、徳英の生徒が巻き込まれた事件全般を知りたいのかな?」


 それは、徳英の生徒が亡くなったというような事件が、いくつもあるという事だろうか。それはそれで気になるが、今は前者の事が知りたい。


「学校内、教室で起きた事件だよ」


「教室……ね。そうか、なら、調べるまでもないね」


「え? それって……」


 どっちの意味合いが?

 無かったから調べる必要が無い?

 それとも……。

 心が逸った。この後すぐ聞ける事なのに。


「……父さんが徳英を卒業した直ぐ後、女子生徒が一人、亡くなっている」


 ドクン


「そ、そ、それって……自殺?」


「そう……だね」


「カッターで首を切ったの!?」


「…………」


「父さんっ! 答えてくれっ!」


「誰かに聞いたのかい?」


 それは、つまり、肯定。

 それは、つまり、俺が見たあれは……。


「志朗、どんな経緯で知ったか知らないけど、それはもう随分と昔の話だ。君に関係ある事じゃ……」


「その人の名前はっ!」


「……ッ」


「その人の名前は……『ことり』?」


「……そうだ」


「く、黒髪のボブで伏し目がちな背の低い女の子っ!?」


「…………」


「父さんっ!」


「……ああ、その通りだよ」


「そっ……そう、なんだ……」


 もう、充分だった。

 これはもう、認める他ない。


「……『葉山ことりさん』。学年で、僕の二つ下だったね。彼女は学校の教室で自殺をしてしまった。首吊りではなくて、首を切るという、より凄惨な死に方だったからね。当時は随分と報道されたものだったよ」


 分かってる。

 父さん、俺は見たんだ。

 彼女の首から血の吹き出す、その瞬間を。


「動機は明確になっていないが、誰もがいじめを原因と考えた。もちろん学校は否定していたよ、遺書も無かったしね」


 それも分かっている。

 彼女は、発作的に、衝動的に、自分の首を切ったんだ。いじめではないが、心を酷く傷付けられた所為で。


「志朗の知りたかった事だったかい?」


「……そう……だね」


「ふむ。……さっきも言った通り、それは僕が徳英を卒業した直ぐ後の事だ。つまり、志朗が生まれた年の事なんだよ。その年の五月」


「ッ! ゴールデンウィーク明け!?」


「それも知っているんだね。決して、志朗の知り得ない事ではないけれど、君がこの事件の事を知っているのはやや不自然に思える。ひょっとして、都市伝説のような形になって伝わっているのかい?」


「違う……けど……」


 言われてみて、そういう噂があったかどうか記憶を辿ってみたが、全く聞き覚えは無かった。仮にあったとしても、俺自身は全く知らなかった事だ。


「……ろう? もしもし、志朗?」


「あ、ご、ごめん、何?」


「……何やら、随分と参っているようだね。話は打ち切った方が良さそうだ。志朗、やはり今日は迎えに行くよ」


「え? あ、違う違う、憔悴してるんじゃないんだ。考え事をしてたから、反応が鈍ってたんだよ。俺は大丈夫だから」


「無理しているようにしか思えないんだけど?」


「いや、今は無理のしどころなんだ」


 そう、これを乗り切れば、何かがカチリと嵌りこむ気がする。俺のこの先の人生に関わる重要な何かが。


「なるほど、面白い言い方だね。無理をしている自覚があるのなら、もう少しだけ様子を見ようかな」


「ありがとう、父さん。それと、今日は帰って来るんだよね?」


「ん? ああ、そうだよ」


「なら、今夜は、俺の話に付き合ってくれないかな?」


「ふむ、それはもちろん構わないが、改まった話なのかな?」

 

「うん、ちょっと一度、真剣に考えてみたい事があって……それに付き合って欲しいんだ」


「それは?」


「えっと、かなり言い難い事なんだけど、笑わないでくれる?」


「真剣な話を笑ったりはしないよ。言ってみなさい」


「“幽霊が存在するか否か”について」


「……なんだって?」


 その日の夜、我が家の家族会議は踊った。

『父さん』は主要キャラクターですが、情報は小出しにしていきます。先生方は……メインにするかサブにするか悩んでるとこです。

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