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time to believe now 5

ようやっと学校シーン。でも、あんまり楽しくなさそうです。

 一月二十四日 月曜日 昼休み前




「――そうして分類されたのが『ホモ・サピエンス』だ。これはラテン語で『考える人』という意味で……」


 四時限目、生物。

 好きでも嫌いでもない教科だ。

 興味のある内容の場合は食い付くように受講するが、興味の薄い内容の場合は作業的に受けてしまう。

 因みに今は後者。


「……というふうに分けられた我々亜種は、さらに優秀という意味で『ホモ・サピエンス・サピエンス』という学名で……」


 この先生は、只々教科書をなぞっていくタイプだ。こちらから質問でもしない限り、教科書以上の知識は授けてくれない。これならいっそ読書の時間にして欲しい、その方が自分のペースで学べる。


「はらへった……」


 思わず呟いてしまった。はっとして周りを見回すが、どうやら気付かれてはいないようだ。

 それにしても、本当に空腹だった。何しろ今日は、朝の内にかなりのエネルギーを消費してしまっている。身体も心もだ。

 身体は遅刻を回避すべく酷使した為。

 心の方は……言わずもがな。

 朝の出来事、あの義眼の男との遭遇は強烈過ぎた。言い訳にしたくはないが、お蔭で今日は授業に身が入らない。頭はどうしても朝の事を考えてしまい、授業内容を隅へと押しやってしまうのだ。この四時限目に至っては、教師の性質も相俟って、ほとんど話を聞けていなかった。但し、ノートを取るのだけは怠れない。あとで見せて貰えるような友人が居ないからだ。……言ってて悲しい。


「……で、人間が他種を圧倒する能力の一つが言語だ。これも、元はと言えば二足歩行からの……」


 ……言語、ね。

 言語は何の為にあるのか。

 それは情報を自分以外の誰かに伝える為。

 人間は基本的に言語化された情報しか理解出来ない。伝えたい事があるならば、言葉にしなければ伝わらないという事だ。

 しかしながら、言葉にしたからと言って必ず伝わるという訳でもない。言葉を伝える側と受け取る側の間には、一定の信頼関係が必要なんだと思う。その信頼が無いとどうなるか。“幻覚の女性”然り、“水沢ひかる”然り、“義眼の男”然り、だ。俺はそれらから受け取った情報を、ほとんど理解出来なかった。言葉を有していながらも、人間というのはこんなにもコミュニケーションが下手なのだ。意思の疎通の難しさというものを、ここのところ頻繁に痛感している。


「はぁ……」


「んんっ! 因幡、ちゃんと聞いているのか?」


「へ? ……あっ」


 しまった、指されたのか?

 いや、この先生はそういうタイプじゃなかった筈だ。


「え、と……なんの話、でしたっけ?」


「今日は珍しくボーっとしてるな。体調が悪いのか?」


「す、すいません。実はその……空腹でして、あはは……」


 苦笑しつつ周りの様子を見る。

 ……無反応。

 失笑でもいいから、何か反応が欲しい。


「昼までもうすぐだろう? 頑張って集中しなさい」


「はい……」


「さて、これらの説が、人類が二足歩行を得た理由として有力だ。しかし、これらの他にも様々な説がある。ときに因幡、お前はそれを知っていたりするか?」


「え?」


 教科書には無い内容。この先生が脱線するなんて珍しい。これは、あれかな……。


「例えば、ラブジョイの社会的戦略説……ですか?」


「ほお、それを知っているか。さすが因幡だな」


「はあ、どうも」


「せっかくだから説明しよう。えー、人類学者オーエン・ラブジョイは……」


 当り前だが、この学校の教師は、俺の事情をある程度知っている。孤立、偏見、中傷と、俺が学校内でどんな状況にあるのかも理解している。その為か、生徒達の俺への印象を変えようと、たまにこうやって、俺に見せ場を作ってくれる先生が居るのだ。

 しかし、まるで示し合わせたかの様なやり方は、完全に逆効果。きっとみんなは、俺を教師のご機嫌取りと捉えている事だろう。……まあ、内申書は気になる方ではあるが。


「……うむ、この事から、初期人類は一夫一婦で子育てをしていた可能性も考えられる訳だな」


 何やら、「俺良い事した~」的な顔で授業を続ける教師。ホント、意志の疎通って難しい。


「はらへった……」


 今度は誰かの耳に届く事を願いながら呟く。――ああ、俺もだ。――授業早く終わんないかなぁ。そんな感じの反応が返ってこないかと期待したが、どうやら誰の耳にも届かなかったようだ。


 キーンコーンカーンコーン……


 ついに昼休みへと辿り着いた。俺は待ってましたとばかりに、すぐさま号令をかける。


「起立!」


 ――ガタガタガタガタ……


「礼!」


 ――ありがとうございました……


 クラス委員としての仕事。

 俺が好きな仕事。

 俺の言葉でクラス全員が立ち上がる。

 この時ばかりは誰も俺を無視できない。

 ……本当に情けないな、俺。


「昼メシ、昼メシ」


 バッグから弁当を取り出す。いつも通りの独りの昼食。慣れたくはなかったが、もう慣れている。

 去年の五月頃は、教室から逃げるように、外や学食で食べていたが、今ではもう気を遣うのも疲れた。クラスメイトも、当初は気まずい空気を醸し出していたが、今ではすっかり無関心。俺が教室に居てもギクシャクした感じはしない。……居ないものとされているのかもな。


「――なあなあ、お前、四組の時田と付き合ってるって本当か?」


「おいおい、どこの情報だよ、ソースを言え」


 後ろから聴こえてくる会話。

 実に高校生らしい会話だ。

 混ざりたい……。


「信じらんね~、なんでお前ごときがあんなカワイイ子と」


「だから、誰に聞いたんだっつーの。てゆーか、お前ごときにお前ごときなんて言われる筋合いはねぇ!」


 ふーん、四組の時田さんてカワイイのか。今度見てみるかな。


「なあ、どこまでいってるんだ? もうヤッたのか?」


 さすが男子高校生は露骨だね。ヤッたのか?


「うるせー! お前には何も言わねー!」


「チッ」


 チッ。


「うらやましい奴め。時田って四組じゃ一番カワイイんじゃね?」


 そんなにカワイイのか。やっぱり見てみたいな。


「バーカ。四組じゃ水沢が断トツに決まってんだろっ」


 ……水沢?


「んあ、ああそーか、水沢が居たな。ありゃ四組どころか、学校でトップクラスだわ」


「だろ?」


「なあ、水沢って、水沢ひかる?」


「ッ!」


「い、因幡……」


 つい話に割り込んでしまった。突然振り向いた所為で驚かせてしまったようだ。


「あ、急にゴメン。それで、今言ってた水沢って、下の名前はひかる?」


「そ、そうだけど……何なんだよ」


「あ、えーと、それだけ。……アリガト」


 彼らのやり難そうというか、いっそ迷惑そうな表情に気後れした俺は、あっという間に話を打ち切った。――って、これじゃ駄目だろ。何で話を展開させないんだ。こんなんじゃ改善なんて出来る筈もない。いつまで経ってもこのままだぞ。いいのかそれでっ!? ……などと考えながら、正面に向き直り弁当をつつく。


「……モグモグ、ゴクン。……はぁ」


 クラスメイト達にとって、俺はいわば腫物。ある種の同情心から気を遣ってくれる者も居るが、まず深くは関わってこない。――俺の問題を受け入れるには人生経験が足りない。とは美作先生の言だったか。どうすればいいか判らないからどうもしない、まだ若いクラスの皆はそういうスタンスのようだ。

 そして、それは俺も同じだった。


 ――知っているなら教えて! ママはどこに居るの!?


 水沢の事……俺も、どうすればいいか判らなかったからどうもしなかった。


(……水沢、か)


 どうする?

 会いに行ってみるか?

 期せずして水沢のクラスは判明している。会おうと思えば会えるわけだが……


(……寧ろ、向こうから会いに来る可能性があるか)


 考えてみると、水沢は俺の事をよく知らないようだった。聞きかじった程度と言ったところか。もしかしたら、俺が思っている程、知れ渡っている訳ではないのかも知れない。だとしたら、こんなキッカケでもひょっとしたら……


「……ぐあ」


 情けない考えが浮かび、思わず(うめ)く。

 悩みを聞くフリをして近付く、とかって有り得ない。どこの女誑しだ。彼女は本気で嘆いていた。力になりたいのなら、一切の下心は消さねばならない。

 ……ん? 俺は彼女の力になりたいのか?


(会いに行くべきか、行かざるべきか。う~ん、待っていれば向こうから……駄目だ駄目だ、そんな消極的な事でどうする。そんなんだから今の状況があるんだ。別に失うものなんか無い、会いに行こう)


「……ヨシッ」


 心を決めた俺は、素早く弁当を片付けて教室を出る。


「――うわ、因幡、四組行くんかな……?」


「――水沢ヤバくね……?」


「ぐ……ととっ……」


 教室を出る瞬間に耳に入ったさっきの二人の声に、俺は思わずたたらを踏んでしまった。


「ヤバいって何がだよっ!?」


 と、心の中で(・・・・)叫ぶ俺。

 クラスにおける俺のイメージはこんな感じな訳か。

 予想通りと言えば予想通りではある。


「きゃっ……」


「うわっ」


 教室からよろけながら出て来た俺に、廊下に居た女子生徒がぶつかりそうになる。幸い、お互いに回避行動を取ったので、ぶつかる事は避けられた。


「ちょっと気を付けてよ……」


「んあ、ごめんなさい」


「ん? ……あっ」


「へ?」


「ア、アンタ……土曜の……」


「あ、み、水沢……」


 その女子生徒は水沢ひかるだった。

 四組に行く手間は省けてしまったが、若干心の準備が間に合っていない。


「ああ、え、えーと、あれだ、やっぱそっちから来たか」


「はあ?」


「俺もそっちに行こうと思ってたんだ」


「何、言ってるの?」


「え、何って、土曜日の事だよ。あの時の事、ちゃんと話そうかと……」


「や、ちょっとやめてよっ」


「はい?」


 水沢がキョロキョロしながら、拒絶しているかのような態度を見せる。


「あの時の事は忘れて。私とアンタは何も関係ない。いい?」


 かのような、ではなく拒絶していた。ひどく意外だ。土曜日の時の感じからして、根掘り葉掘り訊かれるものとばかり思っていた。


「で、でも、あんなに話を聞きたがってたじゃないか。こっちも少しだけ頭の整理ができ……」


「いいからっ! ……アンタの事、詳しく聞いたわ。話、当てにならないって事が判った」


「!」


「……悪いとは思うけど、私に関わって欲しくない。じゃ……」


 誰かから俺の話を聞いて、あの事を知ったようだ。いや、知らなかった水沢が特殊だったのかもしれない。でも、だからって、そんな見事なまでに手のひらを返さなくったっていいと思う。慣れているつもりだったが、俺は少しカチンときてしまった。


「ちょっと待てよ、確認だけ……」


「――ひかるーーーっ!」


 水沢を引き留めるべく、彼女の肩に手を置いた瞬間、女子生徒が一人、俺達の間に割り入ってきた。


「ほらひかる、遅いっつの。みんな待ってるから急いで」


「え? あっ、ええ、そうね……」


 その女子生徒は、有無も言わさぬ勢いで水沢の腕を取り、俺から彼女を遠ざけた。


「おいっ、話がまだ終わって……!」


「うっさいわね、こっちは急いでんのよ! さ、ひかる」


「う、うん」


 思えばこの時の俺は、自分で思っている以上に、頭に血が上っていたのだろう。だから、こんな不用意な言葉を放ってしまった。


「確認だけさせてくれ! 水沢、君の母親って夜の仕事してたか!?」


「なっ!?」


 水沢が物凄い勢いで振り返った。そしてその表情は、土曜日のあの時の表情。


「あ……」


 俺は、自分の発言の意味に気付くと同時に、一気に冷静になった。


(夜の仕事? バカか俺は! 何でそんな言い方をした!? 誤解を招くにも程があるだろ! しかもこんな人前で! 本当になんてバカなんだ!)


「この……!」


 水沢は、俺を睨みつけながら、一気に間合いを詰めてきた。右手はすでに振りかぶられている。あれを俺へと振るうのだろう。避ける気は毛頭無い。寧ろ、自分から当たりに行きたい心境だった。


 パァァンッ!


 彼女の平手は見事に俺の頬を捉えた。そして、続けざまに怒声を浴びせられる。


「ふざけんな! 何なのよアンタはっ!」


 彼女の怒りは尤もだ、反す言葉も無い。しかし黙っている訳にもいかない。


「ごめん水沢。今のは間違いだ、俺の勘違いだ」


 はっきりと、周りの人達にも聴こえるように言葉を紡ぐ。俺の不用意な発言を、俺自身で否定する為に。


「……っ、当り前よっ!」


「本当にすまない。言葉を間違えてしまった。水沢のお母さんを(おとし)めるつもりはない。ただ、確かめたかっただけなんだ。申し訳ない」


 俺は深々と頭を下げた。


「く……」


「この通りだ。俺も、自分の事とは関係ないと確認できたし、言われた通り、もう水沢には関わらないよ」


「……それって、どういう意味?」


「どういうって、もう君には近付かな……」


「その前よっ」


「その前って……」


「――おいお~い、なにごとだこりゃ~?」


「水沢じゃん。どしたー?」


 水沢に謝罪していると、数人の男子生徒が首を突っ込んできた。俺の知っている顔は無い。四組の生徒だろうか。


「あ、う、ううん、いいの。もう終わったから気にしないで」


 どうやら水沢も冷静さを取り戻したようだ。となると、この話は終了、だな。


「んだよ、男に絡まれてたんか?」


「ううん、別にそういう訳じゃ……」


「そーなのよ! しかもコイツにっ!」


 力強く俺を指差す水沢の友人と(おぼ)しき女子。正直、イラっとくる言い方だった。


「ちょ、ちょっとナツ、もういいから……」


「て、うわっ、コイツ一組のサイコパスじゃんっ。水沢、よく無事だったなぁ」


 ドクンッ


 今……なんて?


「ちょっとやめなよ……」


「サイコパス? へぇぇ、コイツがそーなんか」


「ちょっと、だからやめなって……」


「……サイコ……パ……ス……?」


「あ……い、因幡……君……」


 お前達、その言葉の意味、解った上で、俺に、向けているのか?


「マジやばいよね~」


「ナツ! ヤメなってば……!」


「確か、イナバ……だっけか? 何、お前、水沢に付きまとってんの?」


「いいからっ……! もう行こっ。ほらナツもっ」


「ひかる、こういうのはビシッと言っておいた方がいいって」


「こいつは何しでかすか判んない? 水沢をストーキングするかも」


「…………」


「おいこら、イナバ。なに黙ってんだよ? 水沢に付きまとってんのかって訊いてんだ」


「付きまとってない」


「んじゃ、なんで絡んだんだ」


「絡んでなんかない。話があっただけだ」


「何の話だよ」


「済んだ。もう話は無い」


「だったらもう水沢に用は無いって訳だな?」


「ああ、無い」


「それじゃあ言っておく。今後一切、二度と水沢には近づくな。いいな?」


「分かった」


「ふん。……行こうぜ、水沢」


「…………」


「ひかる? 行かないの?」


「……行こ、ナツ」


「へ? あ、うん……」


 彼、彼女達は去って行く。

 その際、水沢だけは申し訳なさそうに見えた……のは、俺の願望かも知れない。


「……サイコパス、ね」


 俺は小さく呟きながら、自分の教室へと戻った。

 教室に入った瞬間、一瞬だけざわめき、すぐに水を打ったように静まる。そして、俺が席に座ると、昼休みの喧騒が舞い戻ってきた。廊下でのやり取りを聴かれていたようだ。この教室の真ん前なんだから当たり前か。


「ふぅ……サイコパス……か」


 無意識に口を突いて出る言葉。

 かなりのショックだった。

 クラス以外ではそれほど知られていない?

 とんでもない。情報が少ない分、かなり酷い事になっていそうだ。噂は遠くに伝わるほど形が歪む。もしかしたら、俺の、俺に対する認識は甘いのかもしれない。


「……なにせ、サイコパス……だもんな」


 俺は自分が良識ある人間だと自負している。手前味噌になってるな……言い直そう。俺は、常に良識ある行動を心掛けて生活している。社会規範に添った人間であるという事を周りに示せれば、俺という人間が決して危険ではないと理解して貰える、そう考えたからだ。だから俺は、社会のルールをしっかりと守っている。法に触れるような真似をした事がないのは当たり前、この学校の校則も逸脱した事などない。父親が警官である事も相俟って、俺は公明正大たるべく己を律してきた。

 だが、しかし、それでも、周りは俺を危険視する。

 それは何故か。


 “精神疾患=異常者”


 このパラダイムが、なかなかシフトしてくれない。

 この国は、はっきり言ってメンタル・ケア途上国だと思う。欧米などでは、精神医療は比較的浸透しており、例えば、仕事で失敗をしてしまっただとか、引っ越しで生活環境が変わってしまったなどと、わりと些細な事でも精神科医のケアを受ける事があるらしい。

 この国はどうだろう。「アイツ精神科に掛かっているんだって」「マジで? ヤバくね?」……体験談だ、実際に言われた事がある。

 そして、さっきの廊下でも誰かが言っていた。「何しでかすか判らない」……こんなの偏見もいいとこだ。そんなの、精神疾患は関係ない。

 だってそうだろ?

 他人が何をしでかすかなんて、基本的に判らないじゃないか。精神疾患の有無に関係なく犯罪は起こっているのだから。


「ああ、くそ……!」


 ダンッ!


 イライラするあまり机を叩いてしまった。周りの幾人かがビクッとした気がする。……駄目だ、落ち着けよ俺。そんな態度を取ってもいい事なんて何もない。

 偏見は今に始まった事ではないし、今すぐ解決できる事ではない。

 誰が悪いっていう問題でもないし、誰かに責任を負わせる問題でもない。

 ここで怒りを曝しても立場を悪くするだけだ。幸い、俺にはちゃんと味方がいる、独りで抱え込む必要はない筈さ。……そうだな、とりあえず定期診療にはちゃんと行こう。美作先生に話を聞いて貰いたい。


「……なば君! 因幡君っ!」


「わっ!?」


「『わっ』じゃありません。号令掛けて下さい」


「へ?」


 突然話しかけられてやや混乱する俺。見れば、そこに居たのは、担任の広瀬川(ひろせがわ)早苗(さなえ)先生だった。そして、視線を先生から黒板の上の時計に移すと……


「……うわっ、五時限目始まってる! いつの間に!?」


「『いつの間に』でもありません。号令を掛けなさい」


「あ、き、起立!」


 ――ガタガタガタガタガタ……


「礼!」


 ――お願いしまーす……


「着席!」


 ――ガタガタガタガタガタ……


「はい。では、さっそく教科書の233ページを開いて下さい」


 あっ……と、教科書、広瀬川先生だから現文か。やばいやばい、今日の俺は落ち着きが足りない、ちょっと本気で心を入れ替えよう。午前中は身が入らなかったから、午後だけでもしっかりと受けた方がいい。集中できれば、嫌な事も忘れられるさ。


「すぅぅー……はぁぁー……。よしっ」


 気合を入れ直し、授業に向かう姿勢を整えた時、それは始まった。――いや、終わったとも云える。

 それは、俺の内における、パラダイムシフト。

 そんな俺の人生の転換期は、こんな音と共に訪れた。


 ビイイイイイィィィィィ……

学校での主人公は、基本的に憂うつなので、楽しい話にはなりません。

堅苦しくなり過ぎないように、そのうち、崩れたキャラを登場させる予定です。脇役で、ですが。

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