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掲載日:2026/01/13

短編です

 深夜二時、残業を終え帰路につく私の目のまえで、なぜか踏切が鳴りだして、バーが下がっていく。ほとんど寝不足状態だったから、最初はおかしいとすら思わず足を止めてしまったけど、よく考えると深夜二時を越えて電車が走っている姿を今の今まで見たことがない。

 線路の間に、ぼんやりと何かが見えてきた。あぁ、私歩きながら夢でも見てるんだろうか。なぜかそのぼんやりしたものから目が離せなかった。

 ぼんやりとしたものは、次第に形を帯びて行く。

 エプロンをして、花束を抱える人の姿が見えた。

「・・・?なにこれ・・・」

 女性は、にこやかに接客をして、奇抜な色や形の花をかき集めたオリジナリティあふれる花束を作って客に見せ、少し文句を言われている様に見えた。

「いや、その色とその色は少し離しておかないと、全体がぼやけるでしょ」

 鼻で笑ってそう呟くと、ふわっとその情景は消えてしまった。それが消えると、踏切のバーも持ち上がって急にあたりが静かになった。

 電車が走り去っていく様子もない。

 疲れすぎて幻覚でも見たのだろう。今日は早く帰って、少しでも長く寝よう。


 翌日、同じ時間、私はまた不思議な情景を見た。今度はアイドルのような姿の女性が立っていた。ふわふわの可愛い黄色のドレスを着た、二つ結びが印象的な高校生くらいに見えたその女性が、なんとなく記憶の中の若かりし頃の自分に見えたような気がした。

「・・・・アイドルって、時間制限付きだよねぇ・・・・」

 乾いた笑いを浮かべると、昨日同様その情景も消えていった。


 翌日、また同じ時間に、情景を見た。

 今日は人影が二人いた。

「ん?・・・あれって・・・多田君?」

 男性の顔に見覚えがあった。大学四年間から就職して間もない頃まで付き合っていた元彼の多田君そっくりだった。多田君は、女性に優しく微笑みかけていて、その女性の腕には、小さな赤ちゃんが抱かれていた。草原のような場所を歩く二人。幸せそうな風景。

 気づかないふりをしていたけど、どうやらこの女性は私の様だ。写真や鏡で見る顔とそう変わらない。

 そんな、私と、元彼の仲睦まじい姿。ちょっと見ているのはつらい。

 もう多田君とどうして別れてしまったのかもよく覚えていないけれど、何か大きな喧嘩をしたとか、そう言うことではなかった気がする。

 ただ、私が、今のキャリアを手放せなかったのが原因の一つである事は、記憶に残っている。多分多田君のような優しい彼氏には今後二度と出会えないだろうなと思うと、少し胸の奥がチクリとした。

「なによ・・・別にもう未練なんてないわよ」

 そう言うと、情景はふわりと消えていった。

 三十代後半、独身女。確かに女の人が手に入れるはずの幸せは手に入れられていないけど、残業でかなり疲れて、何なら辞めてやろうかなんて思っているけれど、それなりに今、私は幸せなんだからね。


 翌日、また同じ時間。まただ。また変なものが見える。

 今日そこに見えたのは、海外を旅する私。見た目は今の私と変わらない様に見えた。

 TVで見るような、文化の全く異なる町を、バックパッカーのような身軽な姿で歩く私はとても、とても魅力的にみえた。そう言えば最近、国内旅行だって行っていない。そもそも旅行に行ったのは、いつが最後だっただろう。

 忙しさに押しつぶされかけて、忘れていた。行きたかった国や町。

 今日はなかなか、その情景から目が離せなかった。ずっと憧れていた自然豊かな自由の国。そんな憧れなんてすっかり忘れていた。次第に私はその海外の町に行きたくなった。

 縋るように手を伸ばし、踏切の音が響く線路に私は足を踏み入れていた。



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