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4:なんで私が王都に!?

 

「キャシー、大丈夫!?」

「キャシー!!」

「…伯母様、ええ、大丈夫ですわ」

「この度は大変失礼いたしました…」

 子爵家に戻ると、心配していたのだろう、伯母様とレイ、そしてお母様が玄関に出てきてくれた。

 レイは私に抱き着いてきている。

「そ、そちらは…?」

 そして伯母様とお母様は、私が連行されていった際の行政官とは違う騎士が私とともに帰ってきたことに驚いている。

 リンガル子爵はお母様と伯母様に自己紹介した後、ここに来た理由を説明した。

「この度、私が国王陛下からキャシー嬢を王城にご招待するよう仰せつかっておりました。

 しかし、まずこの地の行政官に会ってそれを話したところ、自分が連れてくるからと私が言うことも聞かずに飛び出した次第でして…」

「そういうことでしたか…あの行政官は中央から派遣されたのですが、この地に派遣されたのが左遷だとでも思っているのか、態度を改めなくて困っていたのです」

「…なるほど…わかりました。

 この地は子爵領とは言え、観光資源と水産資源豊富な地…決して左遷などではないと分かりそうなものですが…」

 確かに、バッキローニ子爵領は、領地が狭いだけで、貴重な観光資源と水産資源である湖があるため、重要な地であるらしい。

「…ぜひ、国王陛下には彼の行政官に関して一言お願いいたしますわ。

 ではキャシーが行政官に連行されたのは間違いということですか」

「…連行されたのは間違いではありますが、国王陛下がお呼びであることは確かです。

 ただ国王陛下からは、キャシー嬢を賓客としてもてなすようご指示をいただいております」

「…キャシーを、ですか?

 いったいなぜ…?」

 さすがにお母様もそんな扱いは予想外だったらしい。

「残念ながら私も詳細はお聞きしておりません…キャシー嬢にご登城いただき、国王陛下に謁見していただきたく思っております。

 そのため、私が参上した次第でして…」

「そうですか…キャシー、何か心当たりは?」

「ありません。

 …本来であれば、国王陛下に謁見など、望むこともないでしょう」

 望むべくもないが。

「アガリスタでは高位貴族のご令嬢ですし、お会いする機会もおありだったのでは?」

 リンガル子爵は優しく諭すように私に言う。

 確かにアガリスタ王国では伯爵令嬢だったが、王太子はあまり海外のお客様をもてなすことはなかったので、その婚約者の私もあまり海外の賓客とはお会いしたことはない。

「とにかく、国王陛下からは丁重なご招待をすると伝えられておりますので、お話だけでもお聞きいただきたいと愚考いたしますな」

「こう言われてしまうと、バッキローニ子爵家としては行ってきなさいとしか言えないわ」

 リンガル子爵様の物腰穏やかに、しかも危害は加えないと言っているため、伯母様としても行ってこいとしか言えなくなっていた。

「キャシー、王家にいい思い出はないとはいえ、それはアガリスタの王家で、マリナーレの王家ではないでしょう。

 私がマリナーレ王家を査定する、くらいの気持ちで行ってみたら?」

 さすがのお母様も、リンガル子爵様の態度に信頼できると判断したのか、王家に行かせることを勧めてきた。

 そこで私も観念した。

 しかしその日は一騒動あって遅くなってしまったので、リンガル子爵様他護衛騎士二人は、バッキローニ子爵家で、伯父様やお父様含め歓待して一夜を過ごし、翌朝私を含めて王都に向かうことにした。

 

「キャシー、何かあればすぐに手紙を書くのよ?」

 出発は伯母様とお母様だけが見送りに来てくれた。

「お母様、何ヶ月も行くわけではないのですから…でも、ありがとう」

 そう言って私はお母様と伯母様に別れを告げ、王都に旅立った。

 それから数日をかけ、私はリンガル子爵様他二人と共に王都にたどり着く。

 日暮直前に王都に入り、王城に着いたのは夜になってからだった。

「うわぁ…」

 マリナーレ王国の王城は、アガリスタより大きいが質素な感じのするお城だった。

 よく言えば質素、悪く言えば地味だが、アガリスタの王城のゴテゴテ装飾をした感じがあまり好きではなかった私は、好感がもてた。

「数ヶ月前までは、ゴテゴテで品も何もなかったですよ。

 代替わりして今の陛下になってから質実剛健をモットーに装飾品を最小限にした王城になりましてな」

 それはいい。

 王妃になる教育を受けた私には、城は質素に頑丈が一番いいと思っていた。

 アガリスタの王妃様は質素な方だが、国王陛下や王太子殿下は良くも悪くも王族の矜持(・・・・・)を持つ方で、平民や貴族は王族のために存在していると思っている人。

 片や、王妃様は侯爵家の出身とはいえ、現在の国王陛下と婚約後に伯爵から侯爵を賜った家の出なので、苦労人である。

 王妃様が厳しくも優しく私を見てくれたのは、同じ伯爵家出身の令嬢ということもあり、これからの苦労を少しでも和らげるためだったと、王妃教育がほぼ終了した後のお茶会で申されていた。

 王太子との婚約は正直迷惑だったが、王妃様の王族教育を受けられたのは幸いな話だと思う。

 反面、王太子殿下も国王陛下も私には無関心だったが。

「キャシー嬢、さぁ、お手を」

 そう言ってリンガル子爵様はエスコートの手を差し出した。

 その手を取りながら、馬車から降りる。

 不思議な感覚だが、アガリスタの頃から家族以外からエスコートを受けることは一度もなかった。

 通常、エスコートするのは婚約者、いなければ家族(私の場合は父)くらいなもので、参加必須の夜会では別々に一人で参加していた王太子殿下は、エスコートしなければならない場合でも廊下から会場に行くまでの間、一言も交わさずにただ、「手を取って歩く」だけの行為だけだった。

 お互い政略結婚で、私は身分が低いから殿下をお誘いすることもできず、かと言って殿下を尋ねてデートを強請るなんてマネもしなかった…そしてお互い、それが政略結婚だと思っていたからなんとも思わなかった。

 いや、同世代の子爵令嬢やら男爵令嬢が、高位貴族の婚約者からエスコートされたのデートだのと言っているのを、羨ましくなかったかと言えばそうではない。

 だが、だからといって王太子殿下とそうなりたいかというと、別に彼の方が相手だとそういうことをして欲しいわけでもなく。

 ミシュガン子爵令嬢なんかは、よく私に、婚約者はああしてくれたこうしてくれた、と自慢してきたが、その行為が羨ましいとも全く思わず、「殿下にしていただかないのかしら?」という嫌味(だと思う、彼女の中では)を言われると逆に気持ちが萎えて、「王太子殿下にはしていただいてもな…」と思ってしまうのだから始末が悪い。

 もしかして、王太子殿下は私がいろいろ強請るのを待ってたとか?

 …ダメだ、あの無表情の殿下の顔がちらついたらそれすら多少気持ち悪いとか思ってしまった。

 


行政官亡き後(笑)、バッキローニ子爵領を後に、キャシーは王都へ。

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