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2:アガリスタ王国からの出立

アガリスタ王国にはあまりいい思い出のなかったノウゼン家。

さっさと隣国へ出立です。

 

 その翌日には屋敷から最小限の旅支度を整え、お父様は国内に残るという希望をした使用人の紹介状を、そしてお母様は国内の友人宛のお手紙を書く作業を最速ですませます。

 私? そもそも同級には女性が少ないし、友人と呼べる人も…あ、ジュレミー公爵家のミリエッタ様にはご挨拶しておこうかしら、彼の方の商会に顔つなぎができれば、子爵家にも利がありそうだし。

 あとは、家族の関係で隣国には行けないと頭を下げてきた私の侍女(男爵家の5女らしい…5女というのは初めて知ったわ)と準備をして、一晩空ける。

 そして元伯爵家は一家3人とそして隣国までついてくることを希望したお母様付きの侍女兼メイドの4人が、これまた隣国まで着いてくることになった執事の運転する馬車で隣国ことマリナーレ王国のバッキローニ子爵領まで移動することにした。

 バッキローニ子爵領は母の実家ということもあり、何度か私も訪問したことがあるが、大きな湖があり、水産資源と観光資源がある、豊かな領地だ。

 お父様は子爵代理、お母様は夫人の実妹ということで子爵家にお世話になるのは問題ない。

 ただ、私は早めに家を出ることを考えなければならないだろう…子爵代理がお父様とはいえ、現在の子爵家当主や伯母である夫人とすれば私はムダ飯ぐらいも甚だしい。

 幸い、アガリスタ王国の王妃教育を終わらせた自負はあるから、子爵家の紹介の家庭教師くらいは出来ると思う。

 そんなことを考えながら馬車から車窓を見ていた。

 

「よくきたわね、みなさん」

「申し訳ありませんなぁ、義姉上。

 一家の夜逃げを助けていただきまして」

 伯母様とお父様がそんなことを言い出した。

 やめて縁起でもない。

「あなた、やめてちょうだい、縁起でもない」

 お母様が同じことを言ってくれた。

「キャシー、大変だったわね。

 自分の家だと思ってくつろいでね」

「ありがとうございます、伯母様」

 伯母様の優しさに、アガリスタ王国で家族以外こんなこと言ってもらえなかったな、と思う。

 

 そして、お母様の侍女から荷物をもらい指定された部屋に向かう。

「キャシー!!」

「えっ…まぁ、レイ、大きくなったわね」

 その途中で、私を呼んだのは、従兄弟のレイ。

 この子爵家の跡取りで、お父様が子爵として育てる予定の弟子でもある。

 御年10歳、生意気盛りの子供だが、私のいうことはよく聞くので、義伯父様も伯母様も私が来ると安心してレイの世話を任せてくる。

「キャシー、これからずっと家にいるんでしょ!

 来てくれて嬉しい!」

「えぇ、しばらくは居るわよ。

 お邪魔するわね」

「じゃまなんかじゃないよ!

 …って、しばらく、なの?」

「そうよ。

 私は子爵代理の娘という居候だもの、いつかは結婚したりして…」

「ダメ!

 いなくなったらだめぇ!」

 そう言うと、レイは私に抱きついてきた。

「キャシー!

 いなくなったらだめだから!

 あ、僕と結婚すればいなくならないんじゃない?」

 なるほど、その手が…ってダメダメ、レイは子爵家の跡取りなんだから。

「…まぁ、あと10年、いやあと5年あなたが心変わりしなければ、伯母様に言ってみれば?」

 苦笑しながら私は曖昧に返事をしたが、レイは「えー、そんなに待たないといけないの?」と不服そうだった。

 

「あら、いいじゃない。

 子爵家の跡取りの嫁として、キャシーなら申し分ないわ。

 むしろ王妃教育まで終わってるんだから、勿体無いくらいだわ」

 尊敬する伯母様の発言で、今回、初めてめまいがしました。

 従兄弟同士の結婚は認められてはいますが、あまり褒められたものでもないですし…ってそうではなくて。

「伯母様、レイの今後を左右することなのですから、安易に婚約者を決めないで下さい。

 私はキズものですから売れ残るはずですから、最後の手段にしてくださいまし」

「そういう慎重なところが嫁として好ましい…」

 と、そんな話をしているときであった。

 バターン!!!

「…何事?」

 玄関から大きな音がしたのが聞こえたので、私と伯母様は玄関に向かいました。

 


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