25:最後の攻防
キャシー視点に戻ります。
本日18時投稿の1本目
アガリスタ国王陛下到着の報を受け、王城の居室から謁見の間の隣にある控室に私は移動した。
本来、王太子妃もしくは王太子の婚約者が謁見の間で用事がある時に使う部屋だそうだけど、王妃の待機の間はあるものの、「国王陛下の婚約者」というのは特例のような存在なので、王太子の婚約者の部屋をあてがわれた。
そしてそこには、リンガル子爵様、マリア様、ミリエッタ様もすでに到着していた。
リンガル子爵様とミリエッタ様はこちらに顔を向けたのでこちらも会釈をした。
ミリエッタ様は心配そうな顔をこちらに向けているが、私は軽く微笑んだ。
リンガル子爵様はキリっとした顔ですぐに顔を下げる。
マリア様は目を閉じ、何かを思案しているのか時々声を出さずにつぶやいていた。
しばらくするとリンガル子爵様が「…そろそろのようです」とつぶやき、彼を先頭に私、マリア様、ミリエッタ様の順に部屋を出た。
私が入ったのは謁見の間の壇上に近い部屋だったため、アガリスタ国王親子のいる場所とは別の場所を歩くと、アガリスタ国王親子は不思議そうな顔をしていたが、私が座るとそれを見て、さらに怪訝な顔をする。
そう私が座ったのは、王妃席である。
アガリスタの二人以外はそれを受け入れており、ラミル公爵に至っては、「やっとこの場所に座るまともな女性が…」と涙ぐんでいる。
そして、国王陛下が私とは逆の扉から入り、私の隣の国王陛下の席に座る。
「さて皆の者、面を上げなさい」
国王陛下が厳かに開会を宣言した。
「さてアガリスタ国王…よく来たな」
「…マリナーレ国王陛下、これはあんまりな待遇ではありませんか」
アガリスタ国王陛下は不満そうに顔をゆがめる。
確かに今のところ国力がそこまで差が開いているわけではないアガリスタの国王陛下が、マリナーレ国王陛下に見下ろされる場所に居させられるのは彼にとって、屈辱だろう。
「何を言い出すかと思えば…貴殿はなぜこの場にいるかわかっているのか?」
対するマリナーレ国王陛下は呆れと多少の怒気を含んだ威厳ある発言をする。
「貴殿を呼んだのは罪人の引き取りのためだ。
罪人の保護者として呼ばれた自覚はないのか?」
国王という立場に絶対の自信があるアガリスタ国王陛下は、マリナーレ国王陛下の発言に言葉を詰まらせるが、不服そうに席についた。
対して隣にいるアガリスタ王太子の方は、私が王妃席に着いてからずっと下を向いて顔を上げない。
「はっ、罪人とはなんだこの若造。
この子はアガリスタの王太子だぞ。
場所は貴様の国かもしれんが、たかが我が国の令嬢を連れ帰ろうとしただけではないか!
しかも、相手は婚約者だ。
貴様に罪人扱いされる筋合いはないぞ、この反逆者が」
なるほど、アガリスタ国王はアガリスタ王太子殿下が、ミリエッタ様や私に対して起こしたことは、私をアガリスタに連れ帰ろうとしただけと解釈して、逮捕は難癖だと主張するつもりのようですね。
「ほう。
では、自称アガリスタ王太子殿が連行された後、この城で我が婚約者を襲った件だが…」
「あれはただ、キャシー…ノウゼン伯爵令嬢と話がしたかっただけです!
私は、彼女の真価が分かっていなかった!
だから謝罪しようと…」
「謝罪のつもりで短剣を振りまわしたのかね?」
「あれは違う!
俺のものではない!
あの場には俺は何も持っていなかった!」
必死にあの短剣は自分のものではないとアガリスタ王太子殿下は弁明をする。
…しかし、これはマリナーレ国王陛下の計算通りで、アガリスタ王太子殿下の次の発言はマリナーレ国王陛下の思惑通りの言葉だった。
「あんな短剣は見たこともない!
俺は知らない!」
その瞬間、私は頭を抱えた。
ああ、この人には何もわかってもらえていなかったのだと。
「…なるほどな。
あの短剣に貴殿は見覚えがないと、そういうことだな?」
「はい!
見たこともありません!」
「…なるほど、よくわかりましたわ、アガリスタ王太子殿下」
「…キャシー…?」
その瞬間私は諦めたようにアガリスタ王太子殿下に初めて軽蔑の目を向けた。
「殿下。
あの懐刀は、私のものです。
あれは私の覚悟を示したもので、ノウゼン伯爵家に代々伝わる、娘に婚約者ができたときに渡され、相手の不貞を掴んだ際に『婚約者のまま自害する』か『離縁する婚約者かを相手に選ばせるという習わしのために使われるものです。
幸い、元婚約者のあなたは離縁を選ばれましたので使用せずに済んでいたもので、そのままマリナーレ国王陛下の婚約者となった今も忍ばせているものですわ。
もちろん、婚約者として過ごした時はわずかですが、あなたにもお見せし、覚悟を示したつもりですが…」
そこで私は、ミリエッタ様を女だから馬鹿にしてきた男たちを見返したときにするような凍った視線を精一杯真似てアガリスタ王太子殿下を見返しました。
「その覚悟が、お分かりにならなかったようですわね?」
「ひっ…」
アガリスタでは互いに無関心だったが、あえば従順だった婚約者から向けられた軽蔑のこもった冷たい視線にアガリスタ王太子は喉を鳴らした。
「無礼だぞ、貴様!」
「黙れ、無礼者は貴殿だ!
貴殿は罪人の保護者としてこの場にいると何度言えばわかる!?」
「…くっ」
アガリスタ王太子が首を垂れる横で、正論を言われて臍を噛むアガリスタ国王。
「…覚えて…なかった…」
その横でアガリスタ王太子がそうつぶやいたのがなぜか耳に届く。
「それにだな…」
そしてそれにあきれたようにマリナーレの国王陛下がつぶやく。
「王太子の罪は、貴国のジュレミー公爵令嬢の誘拐だけではない。
バッキローニ侯爵夫人誘拐が、こちらの国としては一番大きな罪になる。
…ジュレミー公爵令嬢だけであれば貴国の貴族だ…貴国での裁きに任せられたが、バッキローニ侯爵夫人が巻き込まれてはマリナーレとしても黙っておれん。
それで貴殿を呼び出したのだが…。
まさか…私に無礼を働いてくれるとはな…さて…」
…とマリナーレ国王陛下が、アガリスタ国王に何かを言おうとしたその時。
「国王陛下!
お知らせがあります!!」
謁見の間の扉が開かれ、陛下の腹心・リンガル子爵様が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「…なんだリンガル。
取り込み中であるぞ」
「隣国の宰相閣下から、陛下宛の早馬の報です!
クーデターが発生しました!」
「なんだと!?」
話しかけられたマリナーレ国王陛下ではなく、アガリスタ国王が声を上げた。
「王城は王家辣言派はクーデター側に下り、王家追従派は捕らえられて、王家の代理が無血開城を宣言しました!」
ちょっと何言ってるかわかんないですね。
まぁ、私もアガリスタの元王太子妃候補だから、前半はわかる。
王家辣言派、つまるところ「王家に基本はついて行くけど、ダメなところはダメだしするよ」な貴族家が王家から離反して中立派と合流したら、アガリスタ貴族の7割に達して、貴族派穏健派は中立派と懇意だからここもあわせて8割、これがクーデターを起こして、軍部も協力してるのかしら。
で、1割5分の王家追従派は抵抗して捕まり、残る5分の貴族派強行派は静観、という構図で、王城が制圧されたと。
クーデター起こしたのは、中立派のサンダース侯爵と王家辣言派のジュレミー公爵のようね。
まぁ、この期に及んで、伝令に噛み付いてる国王よりは、ステキなオジサマで愛妻家のジュレミー公爵が元首になった方がいいわね。
閑話休題。
さて私がわからないと言ったのは、最後の王家の代理が無血開城を宣言したという部分。
王家の代理?
アガリスタ王太子は罪人扱いでさらにマリナーレにいるし、その保護者としてアガリスタ国王もいる…まぁ国王がアガリスタにいれば代理なんてたてないだろう。
さらに、王妃様はアガリスタ国王と離縁しているし、言ってしまえばマリナーレに拠点があるミリエッタ商会の顧問としてマリナーレに…どころか、私を心配してこの場にいる。
宰相はサンダース侯爵だから、クーデター側だし、騎士団長も同じ。
今の国王は一人っ子で兄弟姉妹はいないから王弟、王妹というセンもない…先代国王陛下には弟がいたが、その息子は誰あろうジュレミー公爵。
そこまで考え、思いつく。
「契約上」、準王族にあたる人物…そう、王太子の婚約者、白雪姫様だ。
「姫が…」
アガリスタ王太子は、代理と言われてピンと来たようで、自身の婚約者を思い出したようだ。
一応彼女は公式に「王太子の婚約者」であり、現状アガリスタに
代理などいない、とアガリスタ国王は自分だと喚き始めたが、対して蒼白な顔でずっと聞いていたアガリスタ王太子は、まもなく崩れ落ちた。
続いてエピローグも同時投稿。




