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21:崩壊への足音<アガリスタ国王視点>

 

「バ、バカな!?

 仮にも一国の王太子だぞ!?

 抗議せねば!」

 ミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢が、マリナーレ近衛騎士団の国王付き騎士、パーシィ・リンガル子爵に救出され、数日。

 誘拐の首謀者たるアガリスタ王太子は、暴れてはいたもののマリナーレ近衛騎士団に取り押さえられ、現在、マリナーレ王城の貴族牢に囚われているとの連絡が父であるアガリスタ国王の元に今し方入った。

 国王にしてみれば、たかだか(・・・・)臣下の公爵令嬢に軽い怪我をさせた程度で、一国の王太子を牢に入れるのは通りが通らないと言いたいらしい。

 しかし相手は、アガリスタ王国より国力は上の隣国・マリナーレ王国。

 しかも最近まで圧政を引いていた魔女である王妃が倒され、新たにクーデターど即位した国王から直々の手紙で、しかも問題のバカ息子(王太子)が連れてきた姫の腹違いの兄にあたる人物とはいえ、全く知己のない存在。

 さらに、王太子が捨てた伯爵令嬢をいつのまにか婚約者にした曰くもあり、アガリスタ王国自体にいい印象を抱いていないと言う文面である。

 元々いい印象もないのに、聡明な伯爵家を見捨てるわ、自国の公爵令嬢に怪我をさせるわ、挙句牢に入れても反省の色がない王太子に、どんな教育をしているのかとそんなことまで指摘され、アガリスタ国王ははらわたが煮え繰り返る。

「なぜこんなことを言われねばならん!

 最近即位したばかりの若造め!」

 最も、国王以外でここにいる重臣たちが思っていることは一つ、さもありなん、と。

 重臣の中には、怪我をさせられたミリエッタ令嬢の実家・ジュレミー公爵家や、そんな身勝手な国王をさっさと切り捨てた王妃の実家であるサンダース侯爵家に縁のあるも、さらに安定した穀倉地帯を安定して運営していたノウゼン伯爵家に助けられていた者まで、王家への反感は貴族家どころか平民にまで広がりを見せている。

 しかも王妃がいなくなったのをこれ幸いと、王家派、貴族は関係なくイエスマンを重用しはじめていた矢先で、忠臣が何か言っても重用された連中が忠臣側を諌めるというあり得ない行動に出ており、アガリスタ王家はもはや政を担う機能が失われつつあった。

 そんな中で元から王家原理主義者である現国王と、そんな国王に甘やかされて育った王太子は、貴族家の支持を失いつつあり、国民も見放してきていた。

 そんなこととはつゆ知らず、役に立たない婚約者と結婚させるために元婚約者を実務担当の側妃にさせるため連れ戻そうとマリナーレ王国に向かった王太子が、隣国で拘束されたと聞いたアガリスタ国王は、その理由が天敵とも言えるジュレミー公爵家の令嬢、しかも貴族令嬢なのに商売に手を出して潤っている、気に食わない次女の方をたがだか(・・・・)誘拐したくらいだと聞いて、隣国はアガリスタ王家を軽視していると的外れな理由で立腹しているのだから、始末に悪い。

「王太子は、すぐに返すよう連絡しろ!

 自国の貴族家の娘に怪我をさせたくらいで、王族を拘束するなど!」

 そういきり立っている国王はことの重大さが分かっていなかった。

 確かにミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢が王太子に誘拐され怪我を負わされたのは事実だが、彼女はあくまでアガリスタ国民。

 王太子に何かされても王太子は大した罪には問われないかもしれない。

 しかし拘束の理由は、ミリエッタとともに連れ去られたキャシーの伯母であるバッキローニ侯爵夫人の略取の方であり、こちらはマリナーレ王国の貴族家を襲ったことになる。

 なにしろ、バッキローニ侯爵夫人は名実ともにマリナーレ国民であり、彼女を同時に連れ去ったことで有無を言わさず王太子が拘束されたが、王家が罰されることはないと信じ切っているアガリスタ国王には分かっていない。

 最も、もし今回の誘拐劇がミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢だけであってもアガリスタ王家の者がマリナーレ王国で罪に問われることを犯したのだから、拘束はされただろう。

 しかし、それならまだ、アガリスタ王国に処罰を任せることもあり得たし、そのくらいならマリナーレ王国としてもアガリスタ王太子を入国禁止にするくらいで納得したはずだ。

 大事になったのは、やはりバッキローニ侯爵夫人の連れ去りだというのは間違いない。

「陛下、マリナーレ王国からまた書簡が!」

「くっ…まだ何かあるのか…忌々しい若造め…」

 すでにもたらされた手紙だけでアガリスタ国王はどうマリナーレ国王をやり込めるか考え始めていたら、今度は早馬で手紙がもたらされたようだ。

 しかしその手紙を読むと流石のアガリスタ国王も真っ青になった。

 その手紙にはこう書いてあった。

 

 アガリスタ王太子が、マリナーレ国王の婚約者を殺そうとした、と。

 


男尊女卑の上に、選民思想が激しすぎる国王。

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