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20:キャシーがいない <リンガル子爵視点>

事情があって今回2作上げてます。

2本目。

 

「リンガル、これはどういうことだ?」

「わ、私にも皆目…」

 リンガル子爵の目の前でその手紙を読んだマリナーレ国王、エドワード3世は間違いなく困惑していた。

 差出人は書かれていないが、その人物(・・・・)以外に書いたとは思えない手紙が彼の手元に届いているからだ。

「キャシー・ノウゼン(・・・・)は返してもらう」

 宛先は曲がりなりにも大国・マリナーレ王国の現国王に対し、この不躾な文章をエドワードはもちろん、リンガルも不快な思いで見つめた。

(キャシー嬢を返せ? 何様だこいつ)

 リンガルとて子爵。

 侯爵家や伯爵家の子息から不躾なことを言われたこともある。

 ラミル公爵家で、エドワードの護衛になってからは公爵家の所属という肩書を得たことで、そういうことも減ったが、騎士を目指している間は、侯爵家の三男やら、伯爵家の次男やら、権威主義の連中に散々言われた…この手紙からはそんな権威主義の香りがした。

「…リンガル」

「はっ!」

 そんな懐かしい不快さにぼんやりしていると、不意にマリナーレ国王から声がかかる。

「キャシーは何処に?」

「…そう言えば、数日お会いしていません。

 勉強家でお部屋や図書館で籠っていることも多い方ですし…」

「…まさか…いや…念の為に聞くが、リンガル…」

 嫌な予感をさせたエドワードの顔を見て、自分も血の気が引くのがわかる。

「…すでに、ということは…」

「陛下。

 ここ数日は、祝日と休息日が重なり、王城への出入りはほとんどありません…不審な者の報告もありません…それは保証いたします」

 言い聞かせるようにリンガルは王城に不審者が入った形跡はないと伝える。

 その時。

「陛下!

 先程バッキローニ侯爵から早馬で手紙が!

 代理夫人とキャシー様宛に!」

「なんだと?

 リンガル、バッキローニ侯爵代理夫人は…」

「すぐにお呼びします!」

 言うが早いか、リンガルはバッキローニ侯爵代理夫人、キャシーの母を探しに、彼女が泊まる客室に向かった。

 

「陛下、お呼びですか?」

「ああ、夫人、すまないな呼び立ててしまって」

 キャシーの母、バッキローニ侯爵代理夫人は凛とした雰囲気で陛下の執務室に入った。

 陛下はすぐに本題に入り、無駄な話はしなかった。

 件の相手からの手紙を見せた後、病床のバッキローニ侯爵からの早馬の手紙を手渡す。

 あくまで彼女あてだったため、あけるのは彼女でないとならない。

「…義妹が…!?」

「夫人?」

「はい…領地で茶会を開いていたバッキローニ侯爵夫人が何者かに連れ去られたと…そして、誰かは不明の茶会のお相手も姿が見えないと…」

 夫人は気丈に手紙を要約したが、手が震えていた。

 なんでも、屋敷の裏から悲鳴が聞こえたのを侍女と護衛が確認に行った隙に連れ去られたらしい。

「リンガル…考えたくないが、キャシー嬢は…」

 国王陛下は痛みいるように声を出す。

「…私はここ数日、お姿をお見かけしておりません…」

 最近リンガルも気づいたのだが、キャシー・バッキローニは自室や図書館に籠り、ありとあらゆるジャンルの本を読むことが多く、あまり人目にはつかない。

「キャシーが、領地に…?」

「いや、夫人、早馬でも2日かかるバッキローニ侯爵領に、キャシー一人で…」

 リンガルもマリナーレ国王も、バッキローニ侯爵代理夫人の発言に顔では笑いながらも冷や汗が出るのがわかった。

 やりかねない。

 マリナーレ王国に来てからと言うもの、キャシーは枷が外れたかのように元気で気力に満ち溢れていた。

 普段は自室や図書館で集中して読書をしているが、外に出れば急にアクティブに動き出す彼女は、マリナーレ国王やリンガルも危なっかしい妹をみるようで微笑ましいとは思いながら、今回の不在は不安要素が多い。

 バッキローニ侯爵からの手紙に書かれた正体不明の茶会客、差出人は書かれていないが書いたものが明らかな不穏な手紙。

 

 まさか、キャシー嬢が?

 

 重苦しい雰囲気の中、そんな空気が漂う。

 頭では分かっている、二日前の朝に城にいたキャシー嬢が早馬で二日かかるバッキローニ侯爵領にいるわけがないと。

 最悪の事態を連想させる不穏な手紙に、まさかとは思いつつ、そう考えてしまう。

 しかし、そんな空気を壊したのは、二人の後ろから聞こえた、ある声だった。

 

「あら、国王陛下に、リンガル様…難しい顔していかがしました?」

 

 その声に下を向いていた全員が顔を上げる。

「キャシー嬢!」

「あ、はい、キャシー・バッキローニでございますが…」

 その瞬間、全員が腰が砕けた。

 

 とりあえずキャシーはこの数日城の自室とされている客室(実は後々この部屋が代々王太子妃の住む部屋というのはキャシーにはふせられている)に籠ってマリナーレの歴史とこれからについて考えていたことで、二日ぶりに部屋から出て今度は図書室にこもっていて今まで国王をはじめとした面々の前に出なかったため誰にも見られていなかっただけだった。

 無理はするなと小言は言われたものの、キャシーが無事ならと国王も側近たちも胸をなでおろした。

「となると…バッキローニ侯爵はいったい誰と…仕方ない、リンガル、君が行って確認してくれないか。

 これは誘拐事件だ…君が指揮して解決してくれ」

「…わかりました」

 そういってリンガルは、近衛兵団の一部を連れ、バッキローニ侯爵領で姿を消したバッキローニ侯爵夫人を探すために向かうこととなった。

 

  リンガルはずっと考えていた。

 この不快な感じは、一体なんなのか。

 バッキローニ侯爵夫人と共に姿を消した客人…キャシー嬢ではないのは幸いだが、その人物に関して嫌な予感を拭いきれなかった。

 リンガルは何人かの騎馬隊を率いて三日、バッキローニ侯爵夫人が行方不明になってから五日目のことだった。

「騎士様、よくいらっしゃいました…」

 バッキローニ侯爵領の領事館でリンガルを迎えたのは、キャシーの父、元ノウゼン伯爵だったバッキローニ侯爵代理だった。

 義兄のバッキローニ侯爵は病により侯爵邸から出られず、行政官がキャシーへの暴行のついでに領地で横領まで発覚し、彼の実家の伯爵家は子爵に降格、本人は家から廃籍され平民にされた上で牢に入っているため、現在は侯爵代理が領事館を引き継いでいた。

「バッキローニ侯爵代理とお見受けする。

 陛下よりバッキローニ侯爵夫人が行方不明の件、調査依頼を受けて参った。

 貴殿の情報を提供いただけるか」

「もちろんでございます。

 義姉が行方不明になったのは数日前、侯爵邸裏手で異音がしたのを護衛と侍女が確認に行った隙に、茶会中の客人諸共連れ去られたと護衛からは報告を受けました」

「茶会中だったのか。

 ふむ、その裏手での異音は…」

「ただのクラッカーでした。

 近所の子供が遊んでいたようです」

「クラッカー…なんだそれは?」

 リンガルは聞いたことのないものが出てきて面食らう。

「東国から伝えられたバクチクなる音の出る粉を、安全に使用できるようアガリスタで改良された音を出すおもちゃでございます。

 なんでも東国ではバクチクを新年の祝いに派手にならすとかで、アガリスタでも年越しに鳴らす風習にしようとおもちゃの商会が売り出しはじめたものです」

「…アガリスタにある、音の出るおもちゃか…」

「はい…ですので、私に何か恨みでもあるアガリスタの連中がやらかしたのかと思いましたが、身代金の要求もなく…元々元気のない義兄はさらに窶れ…どうしたらいいやら…」

 困り果てて、娘が滞在している王城に義兄名義で連絡をしたらしい。

「侯爵代理、これは重要な情報だ。

 そして犯人の目星はついた。

 …ところで侯爵代理、茶会を開いていた相手がわかるか?」

「はい…護衛も連れずにきていたので調査に時間がかかりましたが、分かりました」

 そしておずおずとキャシーの父の侯爵代理は答えた。


「ミリエッタ商会長のミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢様です」

 

 思わず口にしていた紅茶を吹き出しそうになったリンガルはすんでのところで飲み込んだ。

 


作中に爆竹が出てきますが、完全に時代は後にならないと発明されないのですが、そこはご都合主義といことで…。

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