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15:眉毛の長い老紳士

 

 デートを終え、王城に戻ると、リンガル子爵様がマリナーレ国王陛下に何やら耳打ちするなり「キャシー嬢、疲れだだろう。今日は大浴場に風呂の準備をさせているから入るといい」と言われ、国王陛下は執務室に向かわれ、この城に滞在中つけてもらった専属護衛と共に部屋に戻るとルーナ、ミアと共に大浴場に向かった。

 いつもなら部屋の風呂に沸かしたお湯を入れて私だけ入るのだが、今日は大浴場が準備されているということで、部屋着に着替えたあと侍女二人も一緒に入りましょうと誘った。

 二人とも大浴場が好きなようで、侍女長の許可ももらって3人で入ることにした。

 ちなみに、大浴場が用意されると、私が入り終わったら王城の女性陣が、そしてその後陛下と側近、男性文官と騎士団の順で入る一大イベントらしい。

 その中でも、トップバッターは王妃と侍女の役割らしく、王妃候補の悪政を敷いという前王妃時代には前王妃と侍女以外入れない決まりで、その後は私が来るまで王妃候補もいなかったため、久々に城の面々が大浴場に入れると楽しみにしているらしい。

 …というか、そういう娯楽も必要だよ前王妃様。

 いくら娘が自分より美人で気に食わないからってさ…ほかの人の楽しみまで奪って何がしたかったんだろうか…。

 私は大きなお風呂に侍女二人とゆっくり入って疲れをいやし、マリナーレのこれからを作るために、陛下の元で気分を新たにしようと決意したのだった。

 

 風呂を上がり、ほとんど補助なしで着られる簡素なドレスを纏い、王城の客間でくつろぐ…ような性格ではないので、侍女二人と護衛に来てもらい、王城の中の図書室へと向かった。

「…」

 部屋に入ると私は言葉を失う。

 何しろアガリスタの王城の図書館など比べ物にならないくらいの本がそこにはおかれていたのだ。

「何かありましたかな、お嬢さん?」

「…あっ!」

 私が入り口で立ち止まっていると、眉毛の立派な老紳士が声をかけてくれた。

「し、失礼いたしました。

 本の多さに言葉を失っておりまして…すぐにどきます」

 考えたらドアをふさいでいたので、すぐに場所をあけた。

「ふぉっふぉっふぉ…そう急がんでもよろしいですよ。

 この老いぼれ、時間はございますからの…それで、どんな本をお探しですかな?」

「…閣下」

 侍女が老紳士に何やら言いたげな顔をしているが、老紳士はそれを制して私の返事を待っている。

「儂以上にこの図書館に詳しいものはおらんで。

 お嬢さんの見たい本、この爺が探して差し上げましょうぞ」

 自称図書館に詳しい老紳士は、優しげな瞳でこちらを見た。

「はい…実は私、この国に嫁ぐことになったのですが、まだこちらにきてから日が浅く、まずはこの国の歴史をきちんと学ぼうと思いまして」

「そうかそうか。

 それは素晴らしい心がけじゃな。

 どれ、こちらに参られい」

 老紳士の後についていくと、かなり奥まった書棚の一番上の段にあった本を指差した。

「アレなんじゃがな。

 これ侍女君、ハシゴを持ってきてくれんか?」

「はっ、ただいま!」

 ルナに老紳士が頼むと、少し離れたところのハシゴを持ってくる。

「助かったぞ。

 さて、この本なんじゃがな…元々は初学者に向けてわかりやすく書かれ、このマリナーレの歴史が一冊でわかると言われた名著なんじゃ」

「…」

 その割にずいぶん取りにくいところにありましたけど!?

「ふぉっふぉっふぉ。

 その割には埃をかぶっていたと思っておるな?

 なぁに、簡単な話、学院の歴史の教科書に選ばれたんじゃ。

 つまり、この国の学院を卒業した貴族家には少なくとも一冊、同じ本が所蔵されておる。

 しかも改訂もされておるからな、少し古い版だから、こんな場所に置いてあるのじゃ。

 ただ、前回の改訂で少し近現代史が追加されたんじゃが、そこが整理されておらなんだ。

 だから前改訂版を見せようと思ってな」

 柔和に微笑む老紳士は、どうやら教えたがり…いや、学院の教授でもやっていたのか、非常に歴史に詳しかった。

 それからしばらく老紳士の歴史講義を聞いていたが、なにしろ話がうまい。

 いつのまにか、ルナとミーアの二人も老紳士の話に聞き入って気づけば図書館に来てから半刻ほど経った頃。

「何をされているのです、叔父上?」

 


 は?


さて老紳士の正体は?

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