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9:決意した王妃 <アガリスタ王妃・マリア視点>

さて、能天気な王太子の母は…

 

「王妃様がいなくなれば、国王陛下や王太子の暴走を誰が止めると?」

「あら、暴走、結構じゃない。

 馬鹿親子二人がいなくなれば、メリーのお兄様が王位継承権第一位よ。

 なにしろ、前国王の弟の息子なのだから」

「…」

 つまりメリー、ミリエッタ二人の兄に当たる現ジュレミー公爵は前国王の直系になり、現国王夫妻は一人しか子供がいない事もあって、彼は王位継承権を破棄してこなかったため、王太子に継ぐ王位継承権第2位ということになる。

 そしてメリー、ミリエッタとも思う…あぁ、お兄様の方がバカ王太子よりマシだと。

 メリーは侯爵夫人、ミリエッタは商会長として名を知られるが、兄の当代ジュレミー公爵も貴族として辣腕を発揮しており、本来なら宰相でもおかしくないのに、王太子だった当時の当代国王は彼を異常にライバル視していたため、宰相の座は任されなかった。

 さらにメリーも本来なら公爵令嬢として優秀で、王太子妃候補筆頭だったところ、「あいつの妹など婚約者にしない!」と現国王が騒ぎ、2番目の候補だった侯爵令嬢のマリアに猛烈アピールして婚約者に据えた過去がある。

 その恩もあるのか、現国王は王妃マリアには頭が上がらないのが現状ではある。

 婚約回避だったため、表沙汰にはなっていないが、当時の騒ぎを知る三人は、盛大にため息をついた。

 全く、親子共々救えない、と。

 そんな経緯があったものの、アガリスタ現国王は王妃マリアを大事にするかと思えば、閏は現王太子を身籠もったのを見て数度で終了、民の目の前に現れるときも別々、あまつさえ執務もほったらかしで、愛人を作りこそしなかったが、それは自分のわがままで婚約者を変えた引け目だけでの行動だというから驚き。

 むしろ、身の程知らずの男爵令嬢あたりが身籠もって「私が陛下に愛されているのです!」などと宣ってくれれば、「お相手もいるようだし、私は不用品ですね」とにっこり微笑んでアガリスタ王国を出ようとしたくらいだったが、それは出来なかった。

 王家に嫁ぐのが高位貴族令嬢の最高の幸せ、という王家至上主義 

「うまく噂になったわね、ミリエッタ?」

「全く、お姉様の影響はすごいですわ…」

 ところ変わって、王妃宮。

 いつものように、王妃マリアは、友人でミリエッタ商会の商会長の、ミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢と茶会をしていた。

 今回は、マリアの実家・サンダース侯爵家の夫人、メリーも参加している。

 ちなみにメリーはミリエッタの実の姉である。

「私は別にありのままを茶会や夜会でお話ししただけよ?

 キャシー嬢が身内になるのを私は楽しみにしてたのに、王太子殿下はそれを望まれていなかったのは残念なことだけれど」

 メリーは事もなげに微笑む。

 商会長としていろいろ経験したミリエッタだが、いつからだろう、幼い頃から見慣れたこの姉のこの笑みに、黒いオーラがあるように感じ始めたのは…。

 

 実はこの3人は、予てからキャシーを気に入って、彼女を見ようとしない王太子、さらにそれをよしとする国王をもよく思っていない同志だった。

「例のマリナーレの姫も、王妃教育大変みたいですわね、王妃様?」

「…いやね、キャシーが優秀だっただけよ?

 まぁ、元王女だからと、キャシーと同様に扱えばいいと思っていた私も悪いかもしれないわね」

 実は、気は進まないながら、王妃マリアは、王太子の婚約者である白雪姫に王妃教育をしていた…いや、しようとした。

 しかし、あれもできないこれもできないと泣き始め、しまいには王太子に泣きつく始末。

 さらに王太子も、優しく教えてくれとまで口答えしはじめ、王妃マリアは匙を投げ、子供につくような家庭教師を紹介して、逃げてきてしまった。

 ついでに、子供向けの家庭教師は白雪姫の性格に合うらしく、ようやく勉強を始めたらしいが、はっきり言ってそれでは遅い。

 マリナーレ王国という大国の王女ともあろう者が、恥ずかしくはないのか、と言いたくなったが、それでは単なる嫁いびりだと言われても言い返せない。

 結果、王妃マリアは息子と夫を諦め、新たな道を模索することにした。

 それは、王家至上主義の二人を王の座から降ろし、新たな王を立てることだった。

「で、今日は何のお話しで?」

 恭しくミリエッタが王妃マリアに向き直る。

「そうね…ミリエッタ、あなた、商会の広告塔が欲しくはない?」

「は?」

「単刀直入に言うわ。

 私を雇わない? 化粧品やドレスの広告塔として」

「すいません、単刀直入に言われても意味が分かりかねますが…」

 流石のミリエッタも王妃マリアが何を言っているのか全くわからないと言う顔である。

「私、もう疲れたの、あの親子と付き合っていくのに」

 

「」

 これにはミリエッタのみでなく、彼女の姉でマリアの義妹でもあるメリーも驚いていた。

「王妃様、それは流石に不味くありませんか?

 陛下と殿下についていけないのはわかるとしても…王妃様としての職務を放棄して仕事を始めるなど…」

「あら、放棄するわけではないわよ、私に関係なくなるだけで」

「へ?」

 後に王妃マリアは、「あの時のミリエッタとメリーの顔は無かったわね」と笑う。

 商会長になってから、キリリとして隙のない辣腕ぶりを発揮していたミリエッタが、あまりに間抜けな顔をしていたと振り返るくらいの衝撃だったらしい。

「一応私も、令嬢時代はそれなりに美人と言われて、当時の王太子の婚約者にはなったけど、その頃から王家至上主義で平民、果ては貴族すら馬鹿にして見下す陛下には苦労してたわ。

 そしてそんな陛下に帝王学を教えられた息子もそれに匹敵する王家至上主義。

 しかも、同世代の高位貴族家の娘は、一人っ子のノウゼン伯爵家しかいないからと陛下は無理に婚約を結ばせた挙句、努力する彼女を見ようともせずに、馬鹿息子は森の中で拾った(・・・)、どの子の馬の骨とも知らない娘にうつつを抜かす始末。

 それだけならまだしも、例の娘が隣国の王女と分かれば、キャシー嬢を捨て、婚約者を挿げ替える…王家との婚約が結ばれるだけで幸せとか思ってる王家至上主義の国王も含めて、話にならないわよ」

 興奮した王妃マリアはそこまで一気に捲し立てる。

 ミリエッタとメリーはその圧に気圧されながらも、だんだんと王妃マリアが言いたいことが分かってきて、青ざめる。

 そんなことはお構いなしに、王妃マリアは紅茶で喉を湿らせると、先を続けた。

「そして…私としても、キャシー嬢を諦めがついてマリナーレに送り出したあと、一応は気持ちを切り替えて例の娘の王妃教育をしようとしたわ。

 曲がりなりにも王女だもの、キャシー嬢が最初から持っていた知識は省いて、王太子との婚約を早めようと思ったの。

 …もちろん王太子に早く幸せになって欲しいからよ、だけど…」

 そこでわざとらしく肩を落とす。

「その結果が、例の娘には泣かれる、王太子には批判される、陛下も味方にはならない。

 王妃教育がうまくいかず落胆してたところに追い打ちをかけてきたわ。

 そんな連中、相手するだけ無駄だと思い始めて、なぜ孤軍奮闘して王家から人心を離れさせないがために努力しないといけないかと思うと、馬鹿らしくなってきたわ。

 それで、すでに教会と手紙のやり取りをしたわ」

「…教会?」

 ミリエッタはその意味がわからなかったが、既婚者のメリーは話の流れと教会が出てきたことで、さらに青ざめた。

「そうよ。

 はいこれ、教会からの返答」

 

 貴族の政略結婚が多いこの国に於いて、教会は最後の砦になっている。

 というのも、政略結婚の負の面として、双方が同意しなくとも親同士で結婚が成立してしまうことで、どちらか、特に夫人側が虐げられることがある。

 その際、ひどい現状を訴えて認められれば離縁ができるのが、教会の役割の一つだ。

 もし、キャシーと王太子の結婚が成立していたら、遠からず教会の厄介になっていたかもしれない。

 この制度があるおかげで、政略結婚といえど相手は大切にするし、他に心に決めた相手がいればこの制度を利用されるのは不名誉だと婚約解消にも説明がつきやすいと、婚姻を離縁させる制度なのに離婚率の低下に役立つという、思いもよらぬ効果をもたらしている。

 ちなみに、審査は厳しく、あまりに身勝手な理由では離縁は成立しても自責になったりもするので、手軽に利用できる制度でもない。

 幸か不幸か、キャシーは両親ともどもマリナーレ王国にいるため、アガリスタ教会の世話にはならなかったが、今度は王妃マリアが王家に絶望して状況を説明したところ、教会の独立権力による離縁は成立可能と返答がきた。

 今現在物理的に虐げられているわけではないが、王妃としての責務は果たしているにも関わらず、王妃教育を満足に受けられない息子の婚約者とそれをよしとする息子そして夫の横暴だけでは離縁は難しいかと思っていたが、王妃マリアは国王以上に慈善事業に勤しみ、侯爵令嬢時代から庶民にも分け隔てなく接しており、王妃として王家を支えた今までの功績を鑑みて、離縁は成立させると教会が約束した。

 

「王妃様が国を見捨てた…」

 言葉を失う中、思わずミリエッタが呟いた。

 王妃マリアの側は心外、と顔を歪ませた。

「失礼ね、これは正当に認められた権利よ?

 馬鹿な夫、馬鹿な息子、馬鹿な嫁、それから逃げるのが何が悪いの」

 それも確かなのだが、言い換えれば、王家の良心がいなくなると言って過言ではない。

に支配され、それを息子にも伝播させた結果、女性の扱いを全く知らない愚かな国王親子は、自分には手に負えないと思ったところに、王太子(バカ息子)にお似合いの姫が来たので、王妃としては彼女に玉座を指して「さぁ、どうぞ」とばかりに、国一番の女性の座を譲りたいところだ。

「全く、陛下に甲斐性がないばかりに、私も随分歳をとってしまったわ」

 まだ何も言えない他二人に構わず、王妃マリアは紅茶を啜る。

「しかし、なぜ今なのですか?

 すでにこの国はあなたなしで回らないくらいあなたの存在は大きいというのに」

「だからよ。

 私がいないと回らないようにして、離縁を成立させて侯爵家に戻ったところで、国民に王家の惨状をバラせば国民を味方につけた王位継承権第2位の公爵に地位を渡しやすくなると思っていたの。

 そうしたら、マリナーレから吉報が届いたわ」

 そう言って王妃マリアは、一枚の手紙を差し出した。

 国王にはマリナーレの新国王から手紙がいっているはずだが、王妃マリアには新国王ではなくキャシーの方から手紙が来ていた。

 その手紙を見て王妃マリアは今回の行動を起こしたのだった。

 そう、マリナーレ新国王とキャシーの婚約報告である。

 メリーとミリエッタも手紙を見せてもらい、ミリエッタが見知ったキャシーの筆跡と確認する。

「マリナーレ王国はこないだまで、例の姫の母である前王妃が悪政を引いていたのだけれど、それで貴族が一念発起して、前王妃からすると前妻にあたる初代正妃の子である第一王子を探し当てて、クーデターで王妃を辺境に追いやって即位したらしいわ。

 前王妃はなんとかアガリスタに辿り着いて、例の娘に助けを求めたけど、あの娘は今までの復讐とばかりに言葉巧みに焼けた鉄靴を履かせて、婚約パーティーの見せ者にする行為に出たわ。

 私は婚約を認めたくなくて義務として挨拶だけにして、書類仕事があるからと早々に場を辞したけれど…最後まで居なくてよかったわ。

 そんな趣味の悪い余興、見たくもない」

「…」

 ちなみに、その王太子の婚約パーティー、ミリエッタはパートナーがいないため招待すらされておらず、メリーは招待されていたが、キャシーを押し退けた女と捨てた男の婚約式なぞ行くものか、と王妃の弟である夫の侯爵を困らせつつ、最終的には不参加をきめた。

 一方、ミリエッタの兄夫婦である公爵夫妻が参加していたが、この余興に気分を害して早めに辞したと聞いている。

 どうやら趣味の悪い王家至上主義の派閥以外はこの余興を酷評しているらしい。

「…あの、王妃様」

 もはや絶句して何も言えないメリーに対して、商会長としていくつかの修羅場を経験して精神的に強いミリエッタがふと疑問に思うことを聞いた。

「その…例の余興の発案は、王太子殿下か、国王陛下で?」

「馬鹿おっしゃい。

 そんな趣味の悪い余興を考えつくほどまで教育を間違えてはいないわ」

 そこでミリエッタ、そしてメリーも何かに気づく。

 つまり、あの余興は…。

「残酷な方ですね、いくら虐げられていたとはいえ、肉親(・・)を…」

「そうね。

 王太子は例の姫が楽しそうに見ているだけで満足気だったというけど…いえ、やはりそれにしても趣味が悪いわね、二人とも…いえ、三人ともかしら?

 例の姫だけでなく、自分の息子、さらにそんな息子をいつまでも王太子としている夫、アガリスタ国王まで趣味が悪いと王妃マリアは吐き捨てた。

「まぁ、離縁は成立するし、馬鹿親子に引導を渡してくるとしますか」

 そう言って、王妃マリアは不敵に笑った。

 


こちらもバカ息子に愛想をつかした模様(笑。

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