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正夢

作者:
掲載日:2025/12/12

正夢

プロット


 これがそうであるならどれだけよかっただろう。

「ああ……クソっ!」

気づいてしまった。気づかない方が幸せだったのかもしれない。けれど、全てには終わりがあるしそれは失敗を意味しない。全てはまた始まるのだ。

「凛?どうしたの?」

「母さん、ありがとう。ほんとに、ありがとう。」

不思議がる母親を横目に庭に走る。

「レオ、元気でな。」

何年一緒にいたのか数えきれないほどの時間を共にしてくれた愛犬に最後の挨拶をする。引き止めるように吠える相棒を後ろ手に、二階に駆け上がる。

「……父さん、祥子。」

視界が滲む。

「ごめん、俺……ごめん。」

「凛?どうした、大丈夫か?」

「にいちゃんなんで泣いてる?」

「ごめん……今までほんっとにありがとう!」

堰を切ったように止まらぬ涙と、嗚咽混じりに吐き出す言葉が俺の全てだった。

「俺!ちゃんと、やるから……ありがとう、ありがと……」

もうひた隠すこともしない。なぜ涙が出るのかはわからない。けれど、涙と言葉が止まることはなかった。

 そして全てには終わりがくる。

『夢かどうかわかる方法、教えてあげる』

母は俺を優しく包み込み、妹は頭を撫でてくれた。父は暖かく見守り、相棒はどこまでも寄り添ってくれた。

俺は自分の腕を軽くつまんで、本能の疑心と自身の確信を得る。そうして全てを終わらせるために、魔法の言葉を口にした。

「これは、夢だよね。」

頷くでも、答えるでもなく、ただ微笑む。全てが明るく照らされるような錯覚に陥って涙に溺れ、意識が遠のく――





























 


 目を開けると涙は少しも溢れていなかった。夢は夢で、現実は現実なのだ。ただ、夢を見抜いたのは初めてだった。あのまま気づかなければ、もう少しあの明るい世界にいれたのだろう。それがいいか悪いかは別として、不利益はなかったはずだ。この体験をしたからといって、妹と相棒が戻ってくるわけではないし、両親とうまくいくとも限らない。全ては終わりへ向かっているが、まだ俺はその途中なのだ。緩やかに死んでいくとしても、その道中は生きている。何を迷うことがあろうか、俺たちはまだ死んですらないのだ。

起き上がって朝日を浴びる。すっきりとはしていない。自分の中のモヤは取れないけれど、これが俺であり全てだった。夢が現実になってほしいとも思わない。だがそういう現実もあり得たかもしれないと思うとなんとも言えない。

 今では鮮明には思い出せないけれど、この体験を忘れてはいけないと必死に刻みつける俺もまた現実で、これを読むあなたにも現実があるはずだ。覚えていてほしい、寒さに耐えながら登校するあなたも、眠気を堪えながら通勤するあなたも、ふと気になってこのページだけ開いたあなたも。今、何かに悩み、苦しみ、叫ぶあなたも。全ては始まるけれど、いつか終わるのである。それが急激にせよ、緩やかにせよ、始まれば終わる。

 

 もし、終わりが見えないと嘆くのなら、私のところに、全てを話に来てほしい。その準備が私にはあるし、それを、望んでいるのは他でもない、私である。『あなたが』何を感じたのか、何を体験したのか。嘘であってもそれがあなたなのだろう。

 現実ではないなにかを、正夢だと信じて――

 

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