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愛なんです  作者: 蜜ハチ
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06:男三人はむさいんだそうです

彼女はむき出しの裸足で、川の底を歩く。

足元の丸い石、冷たい感触、重力がかからない軽い足取りは酷く遅い。



吐いた泡がぽこぽこと静かに音を響かせながら頭の上へと浮かんでいく。

水中にいるからなのか、形容しにくい静かに低く響く音が耳に響く。


沈殿する水の少しの流れに短い髪が中に浮かんで揺らぐのが視界の端でちらちらと見える。

着ているローブも、水を含んで膨らみ、膨らむ裾が魚のヒレのようにそよぐ。

目を瞬けばその度に睫毛から空気が膨らんだ。


彼女はそれを見つけて、歩みをとめた。

目の前には大きな青白い魚がたたずんでいる。


長い尾ひれが水中でふわふわと浮かんで、時折揺らいでは彼女のローブの裾のようにそよいでいた。

神秘的な光景だ。薄暗い青の中に浮かぶ白い魚は淡く白く発光していて、ゆらゆらとひれが揺れている。


大きな黒い眼が、彼女を見つめている。

静かだ、彼女は不意に思った。泡となる息の音が聞こえているが尚、彼女は思った。



「…なんなの」



リトの言葉も、息と同じく泡となりごぼごぼと浮かんでいく。

不思議だった、息を吸っていないのに息が吐ける。

魚は見ているだけで何のリアクションも起こさない、だからリトはしびれを切らす。



「言ってよ、なんなの?僕にごようじ?」



魚はじっとみつめるばかりで、瞬きのひとつもしやしない。



「なんだよ、お前気持ち悪いよ」



ひれが揺らぐ、魚の鱗が光っていた。ひれが光を透かす。


「……言ってよ…」


リルが瞬きをする。目の前の魚はたたずむばかりで途方に暮れる。



「僕が、悪いの?」



その問いにも、魚は答えない。






リトは目を開いた、静かに神経が頭を動かす。

揺らぐ視界もなければ泡ぶく息も見えない、見えるのは見知った自分の寝室の白い天井だ。

朝らしく鳥がピチピチ鳴いて、ベッドの横の窓から淡い青のカーテン越しに日光が透ける。


数度瞬きをして、彼女は上体を起こした。

白い部屋に少ない(ウッド)のシンプルな家具。扉脇の机の上は書類でごちゃついていた、彼女が眠ったそのままだ。

離れがたい毛布から抜け出して、少しひんやりするフローリングの床に裸足で降りる。


少し体を伸ばした、まだ少し眠くてあくびをする。

それからカーテンを開けて―――ベッド脇の小さなテーブルの上に置かれたそれにほほ笑む。



「―――今日、会えないんだっけかあ…」



テーブル上の、硝子(ガラス)の枠にはまったこちらを見ない姿見の男にリルは呟いた。







♪...




「どちらの歌です?」

「私の国の歌です、国内じゃ有名なんですがこっちじゃそうでもないんですね」

「いやいや、こいつが(うと)いだけで俺知ってますよ。Ms.counter(ミス・カウンター)でしょう?」

「…あんまりな、その、若い歌はちょっと」

「おや、そうなんですか。それにしてもこちらの国のカラクリはすごいですね~、蓄音器もこんなに小さくなるもんなんですねえ。すぐ買っちゃいましたよ」

「カラクリが得意と言うか、魔法が発達してるだけなんですがね」

「え、これ魔法がかかってるんですか」

「確か。これ、カラクリに魔法をかけて小型化した奴なんですよ、な、カジ?」

「俺知らない…」



カタコト揺れる馬車の中で男3人、彼等はシュウの手の中の木の材質で貝を模したそれを見つめている。


貝の中では魚やら海藻やらに囲まれた人魚のオマージュがはめ込まれている。

この蓄音器からはどこかの民族楽風の曲が流れている。

歌う声は女のものだ。優しい声がハープや笛に乗せられて流れる。



「さすが御伽(おとぎ)の国のタベ(クニ)ですねえ…いやあ、知らなかった」



シュウは手の中の貝をしげしげと見やる。

そして、大きな感嘆の息を吐いて二人に顔を上げた。



「便利ですね、魔法って。羨ましい限りです」

「う~ん、でも庶民はやっぱり手が出ませんから。ほら、魔法の媒体になる石がごっつい高いでしょう」

「ああ、そういえばこの蓄音器も…」



そう言ってまた手の中の貝をみやる。

言われてみれば、人魚が腰かけている白く丸い石がほんのりと光っているのに気がつく。

きっとこの石がその媒体石なのだろう。

また三人が目の前の貝を見つめる、優しい歌、カジは海の匂いのする異国の歌に目をつぶった。



今日はクロイツ伯邸、別名「番人の館」へと参る為に三人で馬車に仲良く座っていた。

リトは結局、主人とカジの強い希望によりお留守番となった。

だから男三人むさくるしくカタコト馬車に揺られている。


馬車にのり、世間話をしているとそういえば面白いものを買ったとシュウがこの貝を取り出したのだ。

普通蓄音器といえば小さなテーブル位大きなものだから、さぞかしシュウはこの小ささに驚いたであろう。

ほくほく顔でそれを取り出しているシュウの少し意外な一面にカジは少し親近感が湧いた。

例の『乗馬』だの『深森へ行きたくなる』という発言をされていたので、シュウは少し壁を感じていたのだ。



「そうなんです、幸いあの森のおかげでうちの国はその石が他国に比べて多いじゃないですか」

「そういえばそんな事を聞いたことがありますが、森のおかげ?」

「そう、あの森には魔力が満ちてましてね。その森から流れてくる魔力を含んだ水の川に住む貝がその石を体内で生産するんですよ」

「ほう…あ、だからこの国は魔法が発達してるんですね・・・羨ましい」



そう言って心底残念がる。

手の中の人魚は、相変わらず笑顔で歌を歌う。



タベ(クニ)は周りの国から「御伽(オトギ)の国」とも呼ばれている。


それは古い絵本に出てくるような古い森や自然が残り、今だに古い慣習が残っている事と―――発達した魔法技術によるものだ。

タベ国は『深森』のような古く魔力に満ちた森を幾つか保有しており、その恩恵の為か強い魔力を含む媒体石が採れる事で有名だ。


―――よく間違うことなのだが、魔道師とは魔力を持った人間というわけではない。

魔道師とはその媒体石に含まれる魔力を使い、四元素に従い魔法を使う人々の事である。

なので魔道師はよく手足にアクセサリーをじゃらじゃらと付けている。

ちなみにリトは「重いし、金属アレルギーなのさ」と言いあまり媒介石をじゃらじゃらとは付けていない。

良くて麻の紐のペンダントか、布のひもの足輪位だ。


魔力は生物には蓄積しない。これが基本である。

しかし例外がある、それが「魔族」だ。

彼等は体の中に魔力を保有し、それを指先一つで操るという。

だから少ない魔族と数が多く優位であるはずの人の戦は長引いたのだ。


―――その魔族が、住むのが「深森」。

人が立ち入れない、(いにしえ)の森。



程なくして、馬車は到着する。

「深森」の番人の一族の館に。




久しぶりに見た館は、カジの思い出の館と合致する。

花に満ち「深森」から下りる川の流れる庭を持つレンガ造りの広い洋館。



カジは神様に祈る、どうかこの人が好奇心で走りだして面倒になりませんように、と。








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