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愛なんです  作者: 蜜ハチ
7/10

05:シットはお座りのことです

リトは今、不幸である。


目の前に好きな人がいる、それなのに駆けつけられない。不幸だ。



「出させませんよ」

「僕、なんて不幸なんだろ…」



リトは悲しみにこれ見よがしに涙を見せた。

けれどシュバイツはその涙に揺らがずに、彼女のローブを掴み、これでも足りないとばかりに足にロープを結んでいる。

シュウは隣の国から来たお偉い様だ、うまく互いに良い関係を保てれば良い事があるはずだ。

―――そのお偉い様の前に、敬語の使えない魔道師を出して「バカな館…」と思われるわけにはいかない。

…正直言うと見栄もある。


彼女は今不幸だ。

幸福となるには彼の元へ駆けつけ共にティータイムとしゃれこみながら、口説くことである。

何が悲しくて縛りつけられようか。

そして結局明日のデートは本人にではなく、目の前の上司(?)に却下されてしまった

その代りに、彼女の懐にはカジの姿見(シュバイツの対リト向けの最終手段である)が収まっているのだが…なんて不幸だ。







「…では、その手はずで行きましょうか」

「ええ、よろしくお願いします」



お茶も飲んで、お菓子がきれた頃に話は丸く収まった。

明日の朝にシュウと共に館の馬車で、クロイツ伯邸へと向かうことになった。

それぞれが立ち上がり、泊っている部屋まで送ろうと申し出るとシュウは首を振った。



「私はこれから少し町に降りるので」

「あ、それでしたら護衛につきますよ」

「いえ―――隊長さんがご案内してくださるとのことですから」

「た、隊長が?」



二人の頭にはへらへらと笑う狐面の男がよぎった、仕事はできるがさぼり癖のあるどこか人を食った人を…。



「ええ、私がこの国の市場を見たいと言いましたらね、案内をかってくださったんです」

「はあ…ん」



そして二人の頭にはまたも狐面と―――カジの姉がパッと浮かんだ。



「―――…シュウさん、きっととある飯屋に行くと思います」

「そして隊長は店の姉ちゃんに手を出すと思いますが…」

「距離をとってください」

「巻きこまれますから」



―――シュウは、分かったんだか分かってないのかよく分からない曖昧な笑みを浮かべて待ち合わせ場所である門へと向かって行った。


カジとギイはお片づけである。

侍女を呼べばやってくれるんだろうが、自分らのお茶も用意してくれたというのに片づけをしてくれと言うまで図々しくはない。

カチャカチャと用意されていたトレイにティーセットを並べていく。

お茶もお菓子もすべて平らげたため片付けは簡単だ。



「どう思う?カジ」

「…好奇心旺盛で若干怖いな」

「森に行きそうだよな」



カジは小さくため息をついた。

なんだか面倒なことになりそうだからだ。

深森には結界がはってあり入ることはできない、しかし結界避けの札を用意されたら話は変わる。

そんな(やわ)な結界ではないが何が起こるかわからない。

相手はお偉い様でお金も持ってるだろうから、高級な結界避けも買えるだろうし…



「やぶられたらやぶられたらで怖いんだけど…」



「深森」と人間との間の不可侵の約束。

それでも誰かしらが入ることはあるかもしれないと二つの領域は互いに思った。

だから定めたのだ。


「両方一切関わらない」




しかし、もし侵した者がいるのなら―――


それは『誰であろう何であろうとと侵された側の自由にしてもいい』という『裏の協定』。




だから地元民は入る事はしない、魔族の恐ろしさを知っているから。

その『自由』とは、死をも入っているのだから―――。



「隣の国のお偉い様が死んだら―――面倒だよなあ」

「面倒どころか…まずいな、一筆書かせないと」



ギイはそう言い、顔をしかめているカジに笑って見せた。

カジは「深森」が関わると神経質な部分がより一層神経質になる。

だからギイは笑って見せるのだ、あまり心配するなと。



「…はは、そうだな。一筆は必要だな」

「そうそう、て言ってもあの館で書かせられるんだろうけど」

「だな―――絶対か「カジーーーーーー!!!!!!」」




カジは目を見開く――――そしてゆっくりと振り向く。



その前に尻に何かまさぐる感触がして――――彼は絶叫する。


―――そしてバチコーンというキレのいい音が庭に響いた。






「お前…!!!お、女の子がしちゃいけないって、何度…!!あああああぁあ…」

「ギイ…僕、頭痛い…よ」

「ごめん、驚いたから、本当に驚いたから力加減ができなかったんだ…」



カジは地面に尻もちをつきつつ、自分の手で尻をざかざかと撫でていた。

尻にまだあのリトが撫でまわしこねくり回した感覚が残っているからだ―――なんて不憫なことだろうか。


そしてその目の前、ギイの足もとでリトは頭を抱えていた。

ギイの手元には割れた木のお盆…もとい武器が両手で握られている。

また何かしでかしようモノならばその武器はまた火を吹きそうだ。



「痛いけど…えへへ、お尻…」

「!!」

「リトちゃん…いい笑顔でお尻なんて言わない方が可愛いよ…あんたは」



にぎにぎとしている手がなんだか嫌で、ギイは武器を手離してその手を握った。

本当にもったいないと心の中で嘆く。

カジはすっかりおびえて、無意識だろうがテーブルの後ろにずりずりと逃げている。

そうか、そこまで恐ろしいかカジよ…。



「やっぱり筋肉質で…それでいて柔らかくて…はふう」

「!!!!!!」

「うん、やめよっか、ね、俺も寒気走ってきた」

「あらそう?でも僕まだいい足りな」

「やめよっか」



ぷーと頬を膨らませて抗議するリトは可愛いのだが…本当に、惜しい。

ちなみにシュバイツはというと、もう客人も街へ行ったことであるし―――いつもの事なのでさっさと館へと帰った。

意外とそこはクールである。



「あ、ねえねえ、二人とも『番人の館』へ行くんでしょ?」

「え、リトちゃん聞いてたの」

「リト、お前盗み聞きはダメだって言ってるだろうが」



少し立ち直りつつあるカジがテーブルに近づいていた足をとめた。

何度もこの猛勢を喰らっているせいか、立ち直りが早い。落ち込むのは深いが。

カジは頭に汗をかきつつも、リトを見て説教を言う。

リトは説教だというのに嬉しそうにニコニコしている。



「だって偶然聞いちゃったんだもん~」



決して偶然ではない。



「なら…まあ仕方ないか」



イマイチ脇の甘い男である。

ギイはそんな男を横目に見つつ、にこにこと笑うリトの手を握る力を強めた。



「でね、僕も「「駄目」」」



最後まで言わずともわかるのは付き合いの深さ故か。

それとも彼女の行動がワンパターンなせいなのか。

わあーーーーん!!!!!とワッと彼女が泣きだした。



「ひどいよう、ひどいよう!僕カジといたいのお!それって悪いことなの?!」

「いちゃ悪いことは無…くもないけど、俺達は仕事で行くんだ!」

「そうそう、リトちゃんカジから離れないでしょ?」

「離れてどうすんの」

「仕事すんだよ」



そしてまたわあわあと泣く。



「駄目、おあづけ!シィット!ゴーホーム!」

「いやお前それは酷いから、リトはペットか!」

「これ位言わなきゃ!リトちゃんだぞ!?」

「うわーーーん!!!!」



今度はメエメエと泣くリトを見て、少し良心が痛みつつも…カジはつい納得してしまう。

リトは眉をハの字にしてジッとカジを見つめ、目を潤ませる。

彼女は知っていた、人の良いカジがこの顔と表情と視線に弱い事を…。

う、とカジが息をのむ。胸が良心がじくじくと痛んでいる…だが、そのリトの後ろでギイが目を光らせた。



「…お、おあづけ」

「あーーーん!!!!」



リトの泣き声が庭に響いた。作戦失敗。嘘泣きが本気泣きになりそうである。

…そのあと、良心を痛めたカジの「いーこいーこ」でリトはすぐに機嫌がなおるのだけれども。

そしてまた調子にのってカジの胸板に抱きつこうとするが・・・隣のギイに襟を掴まれこれまた作戦失敗。


とりあえず尻を撫でれたことで、よしとするリトであった。









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