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愛なんです  作者: 蜜ハチ
6/10

04:いきなりのことです

「僕も行く、僕もいくのーーー!」

「だめですだめですーーー」


ぷうっとリトが頬を膨らませる。

シュバイツは無言で両手で挟み込み頬を押すと口からプーと口から空気が抜けた。

二人がこうしてほのぼのと言い争ってる脇では、カジとギイとシュウが優雅に茶を飲んでいた。







―――話を少し戻るとして、つい先ほどの話である。


上司に護衛という任務を与えられたカジとそのとばっちりをうけたギイ(カジ一人では心細いだろうという上司の勝手な判断によるとばっちりである)は、とりあえず明日から護衛につくということで彼のスケジュールを庭先でお茶を飲みながら聞いていた。

この館の庭園はそれは見事な事で有名であり彼の領土にはない鮮やかな花も咲いており、シュウの希望もあってこの庭先へとやってきたのだ。

庭園には軽いテーブルとイスも配置されており、丁度良いから庭先でお茶でも飲みながらということになった。

そこを通りかかった侍女の方が「まあまあ!お客人にお茶も用意してないだなんて!!」とちゃかちゃかとお茶を用意してくれたのである。

この館の人々は本当に働き者で助かる…。

そこまで頭が回らなかった男二人は、侍女の方の働きっぷりに少し感動した。


「―――としますと、御滞在はあと2週間程で明日は午前からクロイツ伯の館へ?」

「ええ、昼食もご一緒にとのことです」


にこにことシュウは侍女自慢の紅茶をミルクをたっぷり入れて召しあがる。

ちょっと意外である。ストレートに飲みそうな面しているというのに…。


「俺達もですかね」

「ええ、元々連れを2人連れていくと言ってありましたから。」


その連れをのしてしまったカジは、顔を逸らしながらお菓子をほおばった。うまい。


「ではお帰りはお昼ころですか?」

「そうですね、夕方前には帰れるでしょう」


シュウは優雅にカップをソーサーの上に置くと、庭を見渡した。

先ほどからちらちらと庭の緑を見ているところを見ると、この人は本当に植物が好きなのだなとカジは思った。




シューベルツ・ローマン・ケロル



お隣の「ベル国」のとある領主であり、同時に学者であり薬師様でもある。

焦げ茶の髪をオールバックに固めた鼻筋のよく通った(上司は犬顔と言ってた…)美丈夫だ。

彼は領主をする傍らで薬の材料である植物や生物を研究しているのだと、紹介をうけた。


だから彼はこの領土や「深森」に生える植物に興味を持ちこの領土へ来たという。

彼はもちろん「深森」へ入ってはいけないと初めから知っていたためその周りだけでも調べたいのだそうだ。

確かに「深森」は人の手が入っていないため彼の言う「材料」は豊富なのだろう、とカジは思う。


―――そう、紹介を受けたカジはとりあえずほっとした。

カジが、シュウが「深森」に興味があるように見えた時に嫌悪したのはてっきり彼が「深森」に住む「魔族」に興味があるからなのかと思ったのだ。



「深森」の長は「魔族」だ。今のところ「魔族」はこの「深森」にしか住んでいない。

知恵を持ち、人を凌駕する力を持つ生物で大きな魔力を保持する。

彼等は森を荒らされるのを嫌がり、また森の生物の番人でもある。


その「魔族」を時折どこかの人間の阿呆はちょっかいを出す。

やれ捕まえて見世物にだの愛玩にだの興味がありだのと―――協定があるにも関わらずだ。


「協定」とは簡単にいえば「両方一切関わらない」という決まりで、きちんと互いの領分を線で分けている。

一応結界が何重にも張ってあり、入れないようになっているが、阿呆は力づくで入ろうとする。

わざわざ入らないように結界を張ってあるというのに全く自分勝手な奴らなのだ。


カジはこのシュウはその阿呆の仲間かと思ったのだが、目的は別でとりあえずは安心したのだ。

だが「深森」に興味があるようで油断はできない。植物や生物を追いかけているうちに中へ入ろうとするかもしれないからだ。




「そんなに私は「深森」に入りそうですか?」

「…疑ってるわけではありませんが、何分たまにそういう輩がいるもので…」


そう、カジがあの館でお世話になってるときもいたのだ。

結界に阻まれて入りやしなかったが…。


「…御気を悪くしたなら謝ります、すみません」

「いや、いいんです、興味がないっていったらウソだから」


ははは、とシュウは笑うがその切り返しもどうなんだとギイはじっとシュウを見つめた。


「―――ここほど生物の種類が豊富な所はめったにありませんからね」


シュウはどことなく、笑みを含めて言う。



「行こうとしたら止めてください、多分止められなかったら走っていきそうです」

「い、いや…!やめて下さいよ、本当に!」

「いや~、本当目の前にあるのにねえ~もったいないですね~」



なんて厄介な男だ、とカジとギイは嫌な予感が止まらなかった。


しかし、彼等は自分たちを見るもっと厄介な存在に気付かなかった…。






「…ふーん、へえ~…」


リトは草場の影からその様子を見ていた。

どうやらあの3人はこれからともに行動するようだという事と、それからあの館へと行くらしい。



「クロイツ伯邸…『番人の館』、ね…」



そう呟いて、目を細めた。そして、ふと頭をよぎるビジョンに彼女は眉をひそめた。


嗚呼、頭が痛い、今、リトは目の前の3人を視界の端に置いておくだけでその頭には別なことが占められている。





――― ゆらゆらりと水面に揺れる空に、泡が浮かぶ。


――― 翻るローブ


――― 彼女の歌声、少年の聖歌      


――― 母はなんと 父はなんて ―――





 空 を 赤 い 尾 ひ れ が ゆ ら ふ ら り 横 切 る





リトは、深呼吸をする、深い呼吸を繰り返す。

ハアハアと音を立てて呼吸を口返す。

そうでなければ肺が息をしようとしないから、深く何度も何度も。


そして目をつぶって頭痛を頭を端に追いやる。

胸が苦しい、嫌な汗が噴き出ていて気持ち悪い。

嗚呼なんだってこんな、名前を聞いただけで、こんな。



(―――彼女は、この頭痛の意味も、原因も知ってる。)



だから―――







「僕も付いていきたいなあ…」



そうこうしているうちにすっかり落ち着いたリトはふと思った。


そういえばリトはガイと外へ出かけた事が無かった。

それはあの師匠があまりにも研究に没頭するため、その分仕事を処理しなければいけないので遊びに行く暇が無かったのだ。

今回も、多分駄目だろうが…デート、はしてみたいお年頃なわけで。いや、お年頃じゃなくてもデートしたい訳である。


カジとデート…リトは想像する。


一緒にアイス食べたり…遊んだり…手をむすんだり?キ、キスしたり??それからホテルへしけこみゃ、そりゃもうかんぺき―――



「そして僕とカジはああぁぁ!ベッドインンン??!!キャーーー!くんずほぐれ」

「く、口から出てますリトさああああん!!!」


がッと口を手でふさぐ、それ以上はこの手の持ち主は聞きたくなかったからだ…。



「あ、おひゃかたしゃま」

「―――どうも…」



ニコ、と微笑むその御仁は―――館の主人であるシュバイツ様だ。

パッと手を離したがその手にはべっとりとよだれが…シュバイツ様は、笑顔を頑張って崩さずにハンカチで拭きとる。

なんてもったいない子なんだろうか…シュバイツ様はほとほとため息が出る。

気を取り直して、リトに微笑みかける。


「ところでリトさん、カジさんウォッチングですか?」

「うん!そーなのー!」


―――シュバイツにとっては冗談だったのだが…。


「僕ね、カジとデートしたことないんだ」

「へえ…そりゃ意外…て、ああ、リトさんお忙しいですもんね」


そういえばリトはカジが絡むと何かが壊れて迷走するが、普段は真面目な子なのである。

仕事だってきちんと丁寧にこなすし、師匠の分もやらされているというのに一度も嫌味を吐いた事もない。

それに普段の行動だって、目上の人に敬語ができないという点を除けば、いたって普通なのだ。



「それは悲しい事ですね」

「うん…でも僕お仕事好きだから、我慢するんだ」



リトは笑って見せるが、その内心しょんぼりと落ち込んでいるのがシュバイツには透けて見えた。

リトのカジ好き加減はシュバイツも知っている。

きっとこの世からカジがいなくなったとしてもどうにかしてこの世によみがえらせるんだろうなという位愛してるのを知っている。

―――ちょっとしたホラーだ…。


話はずれてしまったが、シュバイツはそんなリトが可哀想で仕方無くなった。

あんなに大好きで大好きなのに自分の館の仕事を優先して頑張っている子に何もできないだなんて…そんなの、可愛そうではないか。


こうしてる間にも、リトはじっとカジを見つめる。ズキ、と両親の心が痛む―――。





「―――いいですよ、一日くらいなら大丈夫です」



リトが、その言葉に驚いて振り向き目をこれでもか、という位に開いた。


「僕が君の師匠を説得してあげますから」


そう、自分が説得すれば、まぁ…どうにかなるであろう。


「でも、あの研究はとっても大事だから・・・」

「1日、2日位どうってことないでしょう―――僕はその研究とやらの事は知りませんが」


パチッとウインクすると、見て分かるほどにリトの顔に喜びがじわじわと浮き上がる。


「…いいの?」

「ええ」

「ほんと?」

「ええ」

「ほんとにほんと?」

「ほんとですとも」


目をキラキラとさせるリトを見ていると、シュバイツも幸せに感じる。

まるで目の前に餌を置かれた犬のように目がキラキラと光り、見えない尻尾が全力で振られている―――


そしてそんなリトにシュバイツは、無言でポン、と肩に手を置いた。




「でも、あのお仕事に付いてっちゃだめですよ」

「…………ん、えー…」



パタ、と例のしっぽが止まった。


「どうしても?」

「どうしても」

「どうして」

「あの邸宅に行くからです」


シュバイツは、言う。


―――そう、彼も彼女の頭痛の理由を知っている。



庭に、強い風がひとつ吹いた。リトは彼を見つめる。風に、どこから来たのか葉が運ばれる。

そして青臭香りを運ぶ。

二人は無言だ、互いに何を言うべきかを思考していた。

それは難しい問題で、何を言わないべきか、触れないべきかを考えていた―――口を開いたのは、りとだ。



「―――知ってるよ」

「…じゃあどうしていくんです?」

「行っちゃだめなの?」

「私は、…あなたが心配なのです」


そう言って眉尻をひそめた。シュバイツの言葉には、嘘がない事をリトも知っている。



「なんでだろうね…なんだか、行かなきゃいけない気がする」



そういって、リトはごめんなさいと謝った。

何に対しても謝罪なのか―――シュバイツは、無言で頭垂れた。



「―――わかりました」



そうして、シュバイツは弱弱しくほほ笑んで、リトにそう言った。

リトもほほ笑んで見せた。精一杯のありがとうだ。








「―――でも、お仕事について行っちゃだめです」

「!!なんて!?」

「だってリトさん敬語ができないですから―――お客様の前にお出しできないんです、できます?敬語」

「や、やりやんす・・・?」

「…それに、カジさんがいたらあなた暴走するでしょう」


また日を改めて、あの館にはあの師匠とでも行ってください。

デートも日を改めて下さいと、シュバイツは言う。もっともである。もっともであるが―――



「やだやだやだ!!僕はカジと行くの!!」

「だめですだめですだめですーーーー!!!」



―――こうして、二人は周りから見たらほのぼのと喧嘩をしたのだった。




少しずつ秘密をばらまいてます。・・・わかりやすすぎですかね?

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