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愛なんです  作者: 蜜ハチ
4/10

02:総大将です

 

  ♪


  Amazing grace how sweet the sound

  (アメージング グレース なんと美しい響きだろうか)


  That saved a wretch like me.

  (私のようなものでも救ってくださる)  


  I once was lost but now am found,

  (道を踏み外しさまよっていた私を神は救いあげて下さり)


  Was blind but now I see....

  (今まで見えなかった神の恵みを今は見出すことができる)



  ♪...from / Amaizing grace







「アーーメーーー♪」



リトはご機嫌に歌を口ずさみ、目の前の書類を処理していく。

彼女は意外かもしれないが仕事は好きだ、それが魔法を使わない事務であっても。


この城には魔道師は2人しかいない。

元々希少な存在である魔道師は城に1、2人いるかいないかで駐在しており、高い知識を誇る魔道師はその城で相談役としているのだ。


リトは一応優秀な魔道師だ。

魔道師に回ってくる書類も雑務も、それから相談も時には医者のマネごともこなす。

おかげでカジに甘える時間が減るのが悩みだが仕事だからとまだ割り切れる。

時間はないがちょっかいをかけには行くのだが…



「歌なんか歌って――リィ、いい事ありました?」



”リィ”と呼ばれ、リトは顔を上げた。

テキパキと書類をこなしていくリトの目の前に―――天使が、否、ぼんくら師匠が現れた。


白いブラウスに膝丈のパンツ―――少年である。それもすごい美少年の。

金髪のさらさらな髪を肩上までのばし、大きくたれ目がちなハニーフェイスの。

そう、例えるならば天使。―――しかし侮るなかれ―――彼はリトよりも何倍も生きているおっさんである。


彼の正体は”マーリ・J”リトの師匠である。

もう何十年もこの城に住み付いており、その頃からもう既にこの外見であったと古参者は眉をひそめる。

なんともよくわからない生き物だが皆「まぁ魔道師だし…」と考えるのを放棄している。

一部の貴婦人からはその若さの秘訣について聞き出そうと思案している動きもあるが、マーリは言わず知らず、何も教えはしない。


「うん!僕、今朝ね、カジに膝枕してもらったのぉ!」


例のクッキーで眠ったカジの膝にである。


「それは嬉しいことですね!」

「そりゃーもー」


でへへと笑う少女の顔は恋する乙女というよりも、エロ親父の顔であった。

マーリももちろんこの少女の奇行は知っているため何のリアクションも起こさない。

ただ、よかったよかったと見守るだけだ。


「では僕はまた奥で実験してますから―――そちらの業務よろしくお願いしますよ」

「うん!僕がんばる!!」


そして上機嫌で目の前の仕事をこなすリトを尻目にマーリは奥の部屋へと続く扉に入って行った。

背中越しにまた「アーメージーンーグレーース♪」と歌が聞こえる。


彼女は幸せなようだ。

マーリも鼻歌でそれを歌いながら扉を閉めた。








   ♪



   'Twas grace that taught my heart to fear,


   And grace my fears relieved,


   How precious did that grace appear,


   The hour I first believed...



 ♪







結局今回も罠にかかってしまった男は不覚にもそのふとももを蹂躙され、最悪なことに首にキスマークまで残された。

その恥ずかしさに彼は仮眠室で頭から毛布にくるまり出ることができない…。

もういっそのこと誰か穴を掘って埋めてほしい気分だ。


「お前、本当純情な奴だな…その見た目で」

「うるせ…」


ギィはちょろっと出したカジの顔が真っ赤になっているのを見て、溜息をついた。

カジの見た目は”男”といった、体格はいかつく顔は鼻筋が通り堀が深く整ってはいるが目つきのきつい男だ。

なよなよした女男なんぞ、一喝して吹き飛ばしそうな、そんな厳つい男。


―――しかし、彼は以外にも、純情なチェリーボーイだ。


「…そんな、不敬なことできるか…!」


というのが彼の言い分ならしい。顔に似合わずだ。

その原因は彼の今までの生い立ちが関わってくる。



騎士―――とは早い話が”騎馬で戦う兵士”である。

だが、その騎士になるためには精神的・肉体的鍛錬が必要だとされ7歳のころから”小姓”として、先輩騎士の元使いぱしりをしながらその身のふるまいから思想、騎士としての初歩的技術を学んでいく。


カジももちろん”小姓”として先輩騎士の元で寝就を共にし、様々な事を学んだ。

その先輩騎士の家は”深森”の近くにある大きな古い屋敷の古い歴史をもつ一族だった。

そこで立ちふるまいから礼儀からとことん骨の髄から叩き込まれたのである。


「まぁ、あの家はほとんど潔癖に近いからな…」

「先輩を悪く言うな!というか他がだれてんだよ、騎士のくせに!!!」


確かにカジの言うことももっともだ。

騎士は忠誠、公正、勇気、武勇、慈愛、寛容、礼節、奉仕などが徳とされてきた。

そして身の潔白―――も、大事で結婚をするまで。己の身も心も妻や主に捧ぐという理念を持つ。

ちなみに貴婦人とは淑やかに、綺麗で潔白が普通であるという考えなのだ。


だが、それはあくまで理想論にすぎない。


「古い家だとそんな事言ってるけど、俺のところは全然だったしな~」


と、ギィは笑う。

ギィの言うとおり千差万別で、男はたまるもんはたまるし女もたまるもんはたまるという意見なのだ。



カジはとりあえずこの首を隠すものを持ってきてほしいとギィに求めた。

無難な所で、包帯だろうか?

ギィは友のために、救急箱を探しに重たい腰を上げた。



コン コン コン



ノックが三回ほど鳴る。客だろうか?


布団から出れそうもない友は置いて、ギィは救急箱を探すのをやめて扉へと向かった。

ノックの鳴った部屋は応接間の部屋のようだ。

仮眠室と応接間の仕切りになっている扉を一応閉めてから、彼は扉を開けた。


「隊長」

「仕事はかどっとるー?」


開口一番に嫌みだ。

狐面した男がニコニコと笑いながら顔をのぞかせる。


彼はダーレイ隊長、おかっぱの黒髪をオールバックに束ねた狐面の男だ。

口調はどこか田舎の訛りが入っていて間の抜けた印象を与える。

―――だが、この間の抜けた口調は彼がキレた瞬間その本領を発揮するのだと、手下一同は知っている…。


ギイはそこで、ダーレン隊長の後ろに領主様とつ身なりのいい御仁が立っているのに気がつく。


それでギイはすぐさまバッと敬礼の格好になるが、領主様は「頭をあげて」とすぐに敬礼を取りやめさせる。


この領地の総大将、「シュバルツ・ラインハルト」様。

背は低めで長い金色の髪を横でひとつに緩く縛っていて、その顔もおっとりとした女顔な為時折女性に間違えられる方だ。

性格は極めて温厚で、彼が怒ったことなんぞ一度も見た事がない。


―――そして。


「隊長、そちらは…」

「あ、そうそう。シュウ様、こちらはうちの隊のギルビア・フローク」


シュウ、と呼ばれた男に軽く頭を下げる。


「ギイ、こちらは今この領地に訪問なさってるシューベルツ・ローマン・ケロル様」


ギ、と顔がこわばった。

―――目の前に立つ、背の高い茶色の髪の御仁は…。




「カジさんはいらっしゃいますか?」




カジがやらかした相手の総大将である。





   ♪


   Through many dangers, toils and snares


   I have already come.


   'Tis grace hath brought me safe thus far,


   And grace will lead me home.



   ♪




リトはご機嫌で仕事をこなす、そうだこれが終わったらカジのところにいってうんと甘えようか。

きっと今頃恥ずかしさに顔を真っ赤にしているだろうから、見ないと損である。


そう、リトはまた筆をとり仕事にメドをつけようと奮起する。


リトは歌を歌う、賛美歌だ。

クリスチャンではないが、よく知ってる歌。






   ♪



   Yes,when this heart and flesh shall fail,

   And mortal life shall cease,

   I shall possess within the vail,

   A life of joy and peace.



   The earth shall soon dissolve like snow,

   The sun forbear to shine;

   But God, Who called me here below,

   Will be forever mine.



   When we've been there ten thousand years,

   Bright shining as the sun,

   We've no less days to sing God's praise

   Than when we'd first begun...



  ♪...




  リトはご機嫌に、思いを馳せる。




 

歌詞引用/Amazing grace


和訳などは他のサイトでご覧くださいまし。

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