第7話『選択の果て』
第7話 「選択の果て」
暗闇の異空間で、私の周囲にうねる影のような気配が広がる。
心臓が早鐘を打つ。
ここは、記憶の断片と科学の残滓、そして怪異が交差する場所――
オリジナルの姿は見えない。
しかし、声だけは頭の中で響く。
> 「君はどちらを選ぶ? コピーとして生きるか、オリジナルとして消えるか」
コピー……オリジナル……。
どちらが本物で、どちらが偽物か。
答えはもう、外から与えられるものではない。
自分自身で決めるしかない。
水面のような闇に手を差し入れると、冷たい感触が指先に伝わった。
そこに映るのは、私の姿。
しかし目は、オリジナルの目と交じり合い、二つの存在が同時に揺れている。
心の奥底で、叫びが湧き上がる。
――私は生きたい。
たとえ科学実験の産物だろうと、記憶が部分的に欠けていようと、この体と意識は私自身だ。
影が激しく渦を巻き、水面に映る“オリジナル”の姿が揺らぐ。
私は深く息を吸い、決意を込めて声を出した。
「私は、私である!」
その瞬間、異空間が大きく揺れ、光と水の渦に包まれる。
揺らめく水面に吸い込まれそうになるが、意識は確かに私のものだった。
光が消えたとき、私は元の廃病院の地下に立っていた。
オリジナルの姿も、影も、水も、どこにもいない。
静寂だけが広がる。
しかし、胸の奥に、確かな生の感触がある。
それは、記憶が欠落していることも、過去が曖昧なことも関係ない。
私はここにいて、生きている。
廊下を歩くと、壁の古いパネルに貼られた落書きが、風に吹かれてひらりと落ちた。
そこにはこう書かれていた。
> 「選べば、未来は自分のものになる」
私の唇がわずかに動く。
「そうだ……これからは、自分の足で歩く」
異空間、コピー、怪異、科学の実験――すべてを経て、私はようやく、自分の存在を受け入れた。