表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第4話 「置き忘れたもの」



 水面に映る“私”の口の動きが止まった瞬間、廊下の照明が一斉に点滅した。

 耳鳴りのようなノイズが空間全体に広がる。

 まるで、この場所そのものが私の侵入を拒んでいるようだった。


 足を動かそうとすると、膝までの深さだった水が、急に重くなった。

 動けない。

 視線を落とすと、透明な何かが足首を掴んでいる――指の形をした、水だ。


 咄嗟に身を引くと、足は自由になったが、その水は廊下を這い上がり、壁際の古いパソコンに吸い込まれていった。

 そして、パソコンの画面が勝手に起動する。


 映し出されたのは、病院の“記録映像”だった。

 日付は二ヶ月前。

 そこには、水槽の中で眠る私と、それを見下ろす白衣の男女が映っていた。


『被験体No.12、生命反応安定。記憶複製、完了』

『では、オリジナルを廃棄します』


 次の瞬間、画面の中で“私”のカプセルに液体が満たされ、映像が真っ暗になる。

 だが――暗闇の中で、私の顔だけが浮かび上がった。

 それは画面越しに、私自身へ向かってこう言った。


> 「おまえは、コピーだ」




 心臓が凍るような感覚。

 言葉を否定したくても、頭の奥から奇妙な確信が湧き上がる。

 私には“二ヶ月前以前”の記憶がない。

 それは、作られた存在である証なのか。


 廊下の奥から、カツ、カツ、と足音が近づいてくる。

 暗がりの中、白衣を着た人物が一人。

 顔は影に隠れ、見えない。


「やっと見つけた。……返してもらうよ、“それ”を」


 その声と同時に、スマホの画面が勝手に切り替わる。

 そこには、かつての私――“オリジナル”の姿が映っていた。

 そして、笑っている。


> 『さあ、どっちが本物か……選べ』





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ