視線
午後一発目の体育は、グラウンドでのサッカーだった。 赤城零は、クラスの整列の列に、静かに立っていた。
「よーし、前後半に分かれて、簡単なゲーム形式でいくぞー」
教師の声が響く中、ざわざわと生徒たちが動き出す。
「おい赤城、お前フォワードやれよ」
「あはは、どうせすぐバテんだろ?」
けたけた笑いながら、赤城を冷やかしたのは、先ほどの不良2人組、半グレの大森と滝沢、どの部活にも所属していない、いわゆる“自称武闘派”だ。
「おう、今日もこけんなよ、三軍の赤城くーん!」
2人の嘲りに、鶴見銀次がちらりと睨む。
「やめろよ、赤城にそんな言い方すんなよ」
「んだとコラ、なんか文句あんのか、鶴見ぃ?」
ぐっと詰め寄られた鶴見は、一歩下がりながらも引かずに言い返す。
「サッカー部でもねえお前らが、ごたごた言うなよ」
その言葉に、大森が苛立ち気味に鶴見を押し返す。
「ハァ? だったら、どっちが上か見せてやるよ、なあ?」
滝島がニヤリと笑う。
「赤城、ボール持ったら俺らが潰してやっからよ。楽しみにしとけ?」
赤城は、そのやり取りを黙って見ていた。 すでに“敵”の気配を感じ取っていたが、表情は一切崩さなかった。
(……注目されるのは避けたい。だが……)
試合開始。 最初の数分は、わざと走らず、ボールにも絡まなかった。だが、周囲の技術が拙く、プレーが乱れる中、自然と赤城にパスが集まるようになっていった。
そして――
「赤城、センター空いた!」
誰かの声に反応し、赤城が一歩前に出たその瞬間。 滝沢が、足を引っ掛けにくる。わざとらしいファウル。 が、その動きは遅かった。 赤城は身体をわずかに傾けるだけで、軽やかにかわし、瞬時にボールを前に運ぶ。 そのまま、ゴール前に駆け込み――ノーモーションで振り抜いた。
ズドン!! 乾いた音と共に、ゴールネットが揺れた。
「……え?」
滝沢が呆然と口を開く。
「ま、待て、今のほんとに……?」
大森が目を見開いたまま、ボールの飛んでいった方向を指差す。
鶴見銀次も、ポカンと口を開けていた。
「れ、零……? お前……なんだよそのプレー……」
赤城は無言で立っていた。ただ静かに、無駄なく、完璧にプレーしただけだ。
だが、その姿はまるで、“獣”のような迫力に満ちていた。
「いや、ちょ、ちょっと待て! あいつマジで赤城か……?」
大森がうろたえる。いつもは見下していたはず”が、別人のような存在感を放っている。
「チッ……フザけやがって……」
大森が苛立ちを隠せず、ボールを奪いに突っ込もうとする―― が、その前に赤城がふと視線を向けた。 それは、ただの視線ではなかった。 世界を股にかけたトップストライカーの、試合中に発揮される覇気だった。 ギラリと光る目。呼吸を忘れるような圧力。 その瞬間、2人は動けなくなった。
「ッ……!」
滝沢の膝がわずかに震える。
(な、なんなんだこいつ……ただ者じゃねえ……)
「……ッ」
大森も一歩、後ずさった。 鶴見が、信じられないという目で赤城を見る。
(……赤城、いや、誰なんだ…)
一方、グラウンドの外。校舎の上。
屋上。金網にもたれかかって寝ていた男が、ゆっくりと目を開けた。
「……騒がしいな」
青砥煉だった。 ぼんやりと下を見下ろす。サッカーの授業。だが、目に留まったのは一人の選手。 その動き、佇まい、そして放つ異様な“気”。
(……あんな奴、うちのサッカー部にいたか?)
目を細め、じっとその少年を見つめる。 明らかに他とは違う何かを感じ取っていた。
(あいつの動き、明らかに“何か”を知ってる。まるで……プロのような、あいつ何者だ?)
昼下がりのグラウンドに、ひとり静かに立つ赤城零。 その姿に、確かに何人もの視線が吸い寄せられていた。




