表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
3月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/68

第50話:イロオイナナ_3


 と、五百蔵さんからは忠告が入ったものの、この日とくにイオロイナナさんが我が家に来ることはなかった。休日だし夜は両親が揃っていたから、突撃されても問題はなかったのだが。『荷物を実家へ運び出し、今は大人しくしているらしい』と、五百蔵さんから週の半ばに連絡が来た。


 これで、二件目の浮気はおおかた片付いたのだろう。私はまだあの人を問い詰めていないし、ナナさんに慰謝料の請求もしていないからあくまでもおおかた、だ。すべてに肩をつける覚悟はできた。グダグダといろいろなことが起こるから、ついここまで引き延ばしてしまった。でも、それももう終わりなのだ。


 私も今週末、弓削蒼飛との関係に終止符を打つ。


 引き延ばした、といっても、三か月くらいの話だ。世間的に見たら、早いスピードだったかもしれない。私の体感は、たくさんの出来事が一気に起こり過ぎて、一日はゆっくりのようで三か月は一瞬だった気もしている。

 この三か月で十歳くらい歳をとった気分だし、人生の中の一大イベントを早送りで進めた気分でもある。まだ終わっていないが、終わりかたが今から楽しみで仕方がない。私はなにも困らない。困るのは、あの人と浮気相手だけ。


「あれ、なんだか今日は機嫌がいいね?」

「え? そうですか?」


 簿長は本当に良く見ている。終わりの日が近づいていると思ったら、少しだけ気分が軽くなったのだ。それが態度や表情に現れていたのだろう。


「うん。なんだかちょっと楽しそう」

「楽しそう……そう言われてみればそうかもしれないです」

「なにかいいことでもあった?」

「このあと起こる予定なんです。だから楽しみで楽しみで。それが出ちゃったのかもしれないですね」

「お、いいねぇ。楽しい予定があると、頑張れるからねぇ」

「そうなんですよ」


 このあと起こる【いいこと】は、もちろん【離婚】だ。今の私にとって、最大級の良い出来事でご褒美でもある。無事に私の荷物は、新しい家へと運ばれた。写真では確認していたが、大家さんと両親とともに内覧へ向かい、父にそのまま書類を書いてもらって無事入居可能となったのだ。念のため、まだ借主の名義は父にしてある。大家さんと管理会社には連絡済みで、無事に離婚したら私を借主にする予定だ。それでいいと大家さんが言ってくれた。

 家電と家具は少しばかり両親の援助を受けたが、今まで住んでいた家から引き取ったものも多い。どうせ私が独身時代に買ったものだし、あの人は帰ってこないから使わない。一応、話し合いにあの部屋はまだ使うから、目立つものはやめた。今までの部屋よりかは当然狭くなったが、それでも私ひとりで住むには十分な広さだ。まだ築年数も浅いし、大家さんが宣言通り家賃をオマケしてくれた。周囲の有用な施設のメモと、安いスーパーの一覧も添えて渡してくれたのだが、これには感謝しかない。


 心機一転、ひとりでやっていく下準備は終わった。

 あとは、離婚すること、そして浮気相手を問い詰めること、そのふたつ。


「そういえば、来月から残業増やしちゃっても良いの? 今まで、できるだけ定時で帰っていたでしょ?」

「はい。ちょっと入用になってしまって。貯金もしたいので、忙しくなる四月からちょうど良いかな? なんて」

「こっちとしては助かるよ。新人の研修準備と、その研修があるからね。人手があるに越したことはないよ」

「準備も今年は一からなんでしたっけ?」

「そうそう。カリキュラムを一新したいって話が出てね。ある程度固まってるから、それをまとめて運用していくんだけど。ちょうど補佐がほしくてね。弓削さんのこと推薦しておいたから、来月から頼むよ」

「わかりました」

「今月の残りは、あっちのリーダーと話しながら、資料確認しておいて。会議も増えると思うし」


 忙しくなるのは構わない。できるだけ、今しなければならないこと以外は考えたくなかったから。そんなに使っていないが、お金もこれからまた必要になってくる。自分で自分を生かしていかなければならない。


「……新入社員、楽しみですね。どんな子たちが入ってくるんだろう……」


 新入社員と口に出して、真っ先に頭に浮かんだのは萌乃さんだった。彼女は入社一年目で上司と浮気したことになるが、結局、これからどうしていくのだろう。


「弓削さん入社式出るんだっけ?」

「いえ、そういう話はまだ聞いていませんね。……あ、でも、新人研修担当するなら、顔合わせもかねて出席することになるのかな……?」

「可能性は高いよね。こっちの仕事はセーブして、新人教育のほうに注力してね」

「はい」

「……明るくなったみたいで良かったよ。このあいだはくらーい顔してたからね」

「あはは、すみません。嫌なことが重なっていて。でも、もう解決しますから」

「そうなの? そりゃあ良かった。頑張ってね」

「ありがとうございます」


 就業時間中に余計なことを考えてしまい、気が付いたらもう定時を三十分ほど超えていた。とくに予定もないし、のんびり帰ろうと思っていた矢先、砂苗ちゃんからkiccaが送られてきていることに気が付いた。


(なんだろ?)


 通知で見切れているメッセージの文字は【写真を受信しました】。そしてその上に『ねぇ、今日って会社休みだったのかなぁ?』とメッセージが続いている。


(私は仕事だけどな?)


 要領を得ないまま、帰る準備をして席を立ち、あいさつを済ませてメッセージを開いた。


「んあ!?」


 思わず素っ頓狂な声が出る。エレベータホールに誰もいなかったのは幸いだ。こんな変な声、知り合いじゃなくても聞かれたら恥ずかしい。


(これ、ナナさんじゃない……?)


 この顔は見覚えがある。五百蔵さんの奥さん……いや、元奥さんのナナさんだ。隣に写っているのは驚くこともないが弓削蒼飛である。


(え? まだ会って……? あぁ、そっか、五百蔵さんはあの人との結婚をナナさんにチラつかせてたから、ナナさん的にはあの人がいないと困るんだ……)


 そしてもう一枚の写真には――。


「ごめん、仕事今終わったところ。これって、今日撮った写真なんだよね?」


 急いで返信を打つ。待機していたのかたまたまスマホを見ていたのか、砂苗ちゃんからすぐに既読が付き、返信が送られてきた。


『うん。一枚目はわかると思うけど、ウチのマンションだよね……』

「あの人、もしかして今日帰ってきたってこと……?」

『うーん。私はゴミ出しに行ったんだけど。郵便物見て、うっすら外が騒がしいな……? って思って郵便受けの反対側へ行ってみたら、まさかの御主人と女性が』

「あ、この人浮気相手」

『やっぱり!? 実はそうかなと思って写真撮ったんだよね。隠れてこっそり撮ったけど、気が付いてなかったからズームしちゃった』


 驚くほど鮮明に取れた写真には、間違いなくあの人とナナさんが写っていた。


「すごいね、メチャクチャハッキリ写ってる」

『私もビックリした! で、こっちの人なんだけど』

「あぁ、こっちも浮気相手」

『わーんやっぱり!』

「え、これいつどこで撮ったの?」

『ちょっと遠い、大きめの手芸センターあるでしょ? 布とかパーツとか、階にわかれてそればっかり売ってる』

「あー、もしかしてクラフトルームってお店?」

『そうそう、それ! 今日そこに午後行ってきて、さっき帰ってきたんだけど。その帰りの駅でね、ちょっと』

「遭遇したんだ」


 先ほどのナナさんと写った写真で、あの人は険しい顔をしていた。が、こちらは打って変わって笑顔だ。


「時間が時間だったから、もしかしてご主人お休みだったのかなって、仕事」

「そうかもしれない。……GPSの電池切れちゃったから、動向はもう追いかけられなかったんだなね」

『探偵さんは?』

「一応今週はまだ依頼してる。でも、逐一報告が来るわけじゃないから……」

『それはそっか。……証拠になりそう?』

「うん、ごく最近会ってた証拠になるから、助かるよ」

『良かった! もし、シオちゃんのいないときに帰ってくるようだったら、遭遇したら連絡入れるね!』

「ありがとう!」


 久し振りに、あの人の顔を見た気がする。どうしてこんなふうに笑えるのかは相変わらずわからないが、私のなかに不思議ともう怒りという感情はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ