表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
3月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/68

第45話:一報_1


 ただひたすら、毎日仕事と家事をこなしていた。今までは夫である弓削蒼飛が隣にいたが、ひとりめの浮気を問い詰め離婚を口にしてからは私ひとりだ。ひとりでも寂しくはない。両親がいるし、サトコに砂苗ちゃんもいる。管理人さんに、会社の人たちだって。


「あらあら、会えて良かったわ!」

「あ、管理人さん。こんばんは」

「こんばんは。遅くまで仕事も大変ね」

「慣れっこです。それに、今はなにかしていないと落ち着かなくて……」

「そうよね、わかるわ。あぁ、えっとね? 今日は前にお話ししてた、マンションの話をしたくて。電話でも良いかなと思ったんだけど、今会ったからどうかしら、良かったら少しお時間くれないかしら?」

「もちろんです!」


 管理人さんは、他にも持っているマンションの一室に空きがあれば、私にすぐ貸してくれると言っていた。時期も時期だし、あまり期待はしていなかったが嬉しい話だ。


「ちょっとウチに寄ってくれる?」

「わかりました」


 私は家には帰らず、そのまま管理人さんの家へと向かった。


「ちょっとね、待っててね。まだまだ外は寒いわね、お茶で良いかしら?」

「ありがとうございます、いただきます」


 通されたリビングには、いくつも写真立てが飾られていた。見覚えのある男性はご主人だ。それに、年の離れた――娘さんと息子さんだろうか。揃ってよい笑顔をしている。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます! ……あのお写真、ご家族ですか?」

「えぇ、そうよ。夫はまだ寝、働いているの。仕事が生きがいみたいなものね」

「すごいですね……」


 複数軒マンション経営をしていたら、働かなくても良さそうなものなのに、と内心思ってしまった。私だったらきっと働かない……いや、落ち着かないからパートはするかもしれないが、ガッツリ仕事をすることはないだろう。


「それでね、これよ、これ」


 管理人さんが渡してくれた紙には、賃貸マンションの一室について書かれていた。部屋の広さから設備、家賃に管理費など。最寄り駅や周囲の環境についても書かれている。


「悪くないと思うのよ、家賃はちょっと下げておくから、良かったら……と思って。時期的には、もうクリーニングも終わってるからすぐにでも入れるわよ? 掲載はいったん保留にしてもらっているの。アナタが入るなら……と思って」

「あ、ありがとうございます……」


(条件がすごく良い……!)


 私が独身時代にこのマンションを見ていたら、きっと入居したいと思っただろう。ただ、家賃が少しばかり予算オーバーしている。……が、少しでも安くしてもらえるなら、オートロックだし駅も近いし、近所に交番もある。なにかあったときに安心だ。


「あ、あの! ぜひ入居させてください! お願いします!」

「そう言ってくれて嬉しいわ。私から直接だから礼金もいらないし。敷金だけ一応、用意してくれる? 一か月ぶんで良いの、きっとそのまま、返すことになるから。私のお節介に付き合ってもらってるもの」

「いえ、そんな! こんなに良い条件で、いいおうちを紹介してもらって……感謝してもし足りないくらいです!」

「そう? うふふ、嬉しいわ。……よかったらまた、一緒にお花にお水あげてね?」

「やります! 行きます!」


(これで家から脱出できる……!)


 まだ離婚はしていないから、借りる時の名義は弓削のままだ。だが、借りる人間はひとりだけ、私だけの家になる。荷物も大手を振って運び込めるし、実家に預けて置いたぶんも移動できる。家電や家具は、私が独身時代に買ってあの家に持って行ったものが多い。というか、家電はすべて私が持って行った。自炊をしていた私は、作り置きや冷食をストックしておきたくて、ひとり暮らしには大きめの冷蔵庫を買っていたし、レンジもお菓子をよく作るから、オーブンレンジを愛用していた。洗濯機も雨や干す気力のない日のことを考えて、容量の大きい洗濯乾燥機にしていた。テレビは型落ちだが大きい物だったし、ソファーもパソコンも、私のモノがたくさんだ。

 そういえば、食洗器も後付けで購入したのだが、あの人には『自分で洗えば良いのにもったいない』と言われたっけ。あの人は自分ではやらないくせに、簡単にそんなことを言う。洗うのは私なのだからと、あの人の意見は無視して購入した、自腹で。これも持って行かなければ。


 正直、私の持っていた物は共有で使っていても、私が持って行きたいと思っている。きっと使われた共同口座のお金は全額は帰ってこないだろうし、せめてこれくらいはもらっておかないと割に合わない。


「引っ越し会社は決まってる?」

「まだいつ引っ越すかは決めていないんです。最初に服や雑貨を持ち出して、大きい物はあとで一気に持って行きたいと思ってはいるんですけど……」

「まずは絶対ないと困る物と、手元に置いておきたい物からよね」

「そうなんです。実家に持って行ったものもあるので、ほとんど大物なんですけどね、あの家の残ってるのは。この時期、引っ越し業者も高そうだし、もうどの枠も埋まっていそうですよね、早く連絡入れないと」

「それなんだけど、良かったら私の知り合いのところ使わないかしら? なんでも屋さんだけど、きっと融通してくれると思うわ」

「引っ越しができるなら! 十分です!」

「じゃあこっちも連絡しておくわね。えーっと、そうね、今月いつが空いているか、教えてもらっても良い? ……でも、まだ離婚の話に決着がついたわけじゃないから、難しいかしら……」

「……多分、今週に大きな動きがあると思うんです。だから、来週以降には、いつ動けるかわかると思うので、少し待っていただいても良いですか?」

「もちろん構わないわよ! じゃあ、こういう話がある、っていう連絡だけ、相手には入れておくわね」

「よろしくお願いします」


 私は頭を下げた。マンションの住人、相手は管理人さんという接点しかないのに、ここまで良くしてもらって良いのだろうか。本当に、感謝しかない。


「あんまり引き留めちゃいけないわね? この紙は持って行ってね、入居の手続きは、こちらでできることから進めておくから。書類にだけ目を通して、記入しておいてちょうだい」


 渡されたのは、入居申請の用紙。今のマンションへ入居したときと違うのは、会社を挟んでいないからだろうか。詳しいことはわからないが、とりあえず私は家に帰って一段落してから、父にも頼んで書類を書き込んだ。


 ……もう帰ってこないあの人になんの未練もない。この家にも。婚姻関係にも。


 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ。


「あれ? サトコだ。……そういえば、全然連絡してなかったな……」


 kiccaでメッセージが届く。相手はサトコだった。


『久し振り! 元気してる?』

「うん、元気だよ。サトコは?」

『まぁ、ぼちぼち。なにか、進展あった?』

「うん、まぁ、少しずつね。なかなか一気には進まないね、やっぱり」


 『気安く話さないほうが良い』という父の言葉を思い出し、少し濁す感じで文章にする。


『そりゃあそうだよね。なにか手伝えることあったら言ってね!』

「うん、ありがとう!」

『でも、家に一緒にいると気まずくない? 平気?』

「あー……それね」


 あの人は家に帰ってきていない。私は萌乃さんの家で彼を問い詰めてから、もう顔を合わせていないのだ。そろそろ一か月は経つ。実家に帰ってきたという話は聞いていない。なんとかもっていてくれたGPSも、残念ながら充電が切れてしまっている。


(心配してくれてるんだから、これくらいは良いよね)


「実は、今家に帰ってきてないんだよね、夫。大きいケンカしちゃって」

『そうなの!? 顔併せなくて良いのはラッキーかもしれないけど。連絡とってる?』

「全然。こっちから送ってもいないし、向こうからも来ない」

『なんか離婚秒読みみたい』

「そうかもしれない。私も気持ちが落ち着かなくて。また連絡するよ」

『うん、わかった! 頑張ってね!』


 なにも伝えられないのは歯がゆいが、探偵の調査結果をいったん待ってから連絡をいれることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ